第十一話 揺るがぬ決意
――次に目が覚めた時、僕は見知らぬベッドの上にいた。
「リトちゃん! 目が覚めたのかい!?」
ダナンさんの奥さんが、横から心配そうに顔を覗き込んでくる。体を起こそうとすると、後頭部が鈍く痛んだ。
けれどもその痛みこそが、意識を失う前に一体何があったのかを強く思い出させた。
「おばさん、アロアは!? アロアはどうなったんですか!?」
痛みを無視して勢い良く起き上がり問い掛けると、途端に奥さんの表情が曇った。その表情に、僕は嫌が応にでも察する。
「……連れて、行かれたんですね」
「ごめんね……あたしら皆、疲れと怖さで止めるなんて出来なかった……アロアちゃんにはいつも世話になってたのに……リトちゃん、ごめんね……本当にごめんね……!」
遂には泣き出した奥さんを、責めようなんて気は起きなかった。何も出来なかったのは僕も同じだ。
アロアならあんな時、迷わず自分を犠牲にする事を選ぶ。その事に、僕は気付いていたのに。それなのに、止められなかった。
「……僕は、どのくらい気を失ってたんですか?」
「……約一日くらいかね。もうすぐ今日の日暮れだよ」
「……」
視線を下げ、自分の腕を見る。鈍い銀色に輝く腕輪。どうやら盗賊には、これはさして価値のないものに映ったらしい。価値があると思われていたなら、きっと奴らは僕の手を切り取ってでもこれを奪おうとしただろう。
でも、そうされてないなら、この腕輪があるなら……僕に出来る事は、まだある!
「……盗賊達のアジトって、どこにあるか解りますか?」
「町の人達の話じゃ、山の中腹のどこかって話だけど……まさかリトちゃん!?」
「はい。アロアを……助けに行きます」
僕の言葉に、奥さんが目を見開く。そして、僕の肩を強く掴んで言った。
「何馬鹿な事を言ってるんだい! そりゃね、恐ろしい魔物を倒せるくらいあんたは強いよ。でも相手が一体何人いると思ってるんだい!」
「解ってます。それでも……行かなきゃならないんです」
「それにね、今日の昼に冒険者が盗賊退治に出発したって話だよ。その人達に任せればいいじゃないか!」
「……行かせてやれ」
不意に、そんな声が響く。二人で声のした方に振り返ると、いつの間にかダナンさんが部屋の入口に立っていた。
「何を言い出すんだい、あんた!」
「男には、大切なものの為に戦わにゃならん時がある。リト坊にとっちゃ、今がその時なのさ」
「そりゃリトちゃんがアロアちゃんを大切に思ってるのはあたしも感じるよ、だけどさ……!」
「リト坊。アロアちゃんを助けに行く代わりに二つ、約束をしろ。一つは飯をちゃんと食ってから行く事。いくらお前さんが強くたって、腹が減ってちゃ満足にゃ戦えんだろう。それからもう一つ、アロアちゃんを助けられても助けられなくても、必ず生きて帰れ。……守れるか?」
「……はい!」
真剣な表情のダナンさんに、大きく頷き返す。一ヶ月前に村に来たばかりの僕の事をこんなにも思ってくれる二人に報いるには、そうするべきだと思ったのだ。
――必ず、帰ってくる。アロアを連れて!
そう決意を新たに、僕は拳を固く握り締めた。