表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼月の交響曲  作者: 由希
第一章 総ての始まり
10/134

第十話 届かぬ掌

「……悪い事ぁ言わねえ。持ってる金目のモン、全部出しな」


 盗賊達の中でも一際体格のいい男が一歩前に出て、こちらに剣を突き付ける。途端、小さな悲鳴が幾つも上がった。


「騒ぐんじゃあねえ! 言う事さえ聞きゃあ命までは取らねえよ!」


 男が怒鳴り付けると、悲鳴がピタリと止む。それを確認すると、男は言葉を続けた。


「いいか、俺達も鬼じゃあねえ。大人しく出すモン出せば、テメェらの命は保証してやる。ただし、もし抵抗するなら……」


 その言葉に、傍らの盗賊が剣を振るい、近くの枝を切り落とす。ひっ、と、ひきつった悲鳴が微かに聞こえたのが解った。男は大仰に僕らを見回すと、剣を突き付けたまま言った。


「……それにしても奇妙な連中だな。神父に農夫に餓鬼に、後は女ばかり。誰一人旅装もしてねえ。新手の奴隷商か?」

「わ……我々は、村を焼かれ、山を下りてきました」


 震える声で、神父様が言葉を紡ぐ。掌は祈るように、アンジェラ神のシンボルを固く握り締めている。


「食べるものも着るものも皆失い、誰もこの身一つの状態です。金目のものなど、あろう筈がありません」

「……」


 男の目がもう一度、じっくりと品定めをするように僕らを見る。その目が……アロアの前で、止まった。


「なら、そのシスターの餓鬼。そいつを置いていけ。それで勘弁してやる」

「なっ……!?」


 神父様が、驚愕の声を上げた。僕も、大声を上げかけて慌ててそれを抑える。

 皆の無事の為にアロア一人を犠牲にするなんて……そんなの……!


「……解ったわ」


 けれど。アロアはそう言って、ゆっくりと前に進み出た。制止しようとした手は寸前で空を切り、何もない空間を掴む。


「アロア!」

「あなた達と行くわ。だから皆には手を出さないで」

「……ふん、物分かりのいい餓鬼だ。いいだろう。他の奴らは見逃してやる」

「いけません、アロア!」

「神父様、皆をお願いします。リト……元気でね。あなたの記憶が戻るよう、祈ってる」


 男が、前に出たアロアの腕を掴む。僕はそれを止めようと、全身の力を奮い立たせ駆け出そうとした。


「大人しくしてろ、この餓鬼!」


 けれどそれより早く、背後にいた盗賊が僕の頭を強く殴り付けた。僕の体は呆気なく地面に沈み、限界を迎えた意識が遠のいていく。


「リト! リトーーーーー!」


 アロアの悲痛な叫びを遠くに聞きながら、そこで、僕の意識は途切れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ