『大阪ストリート』
男の人が差し出した紙には『M1グランプリ』
と書いてあった。
「M1グランプリって、あのM1グランプリですか!!?」
章大が物凄くテンションの上がった声でそう聞いた。
すると男の人が首を大きく頷いて話し始めた。
「俺はとにかくお笑いが好きでね、特に漫才が。君たちのネタは四、五回見せてもらったんだけど、どのネタも本当に素晴らしかったよ。それで昨日たまたまネットで『M1グランプリ』のエントリー受付開始の広告を見たんだ。見た瞬間僕はもう君たちにエントリーしてもらいたくてね、それで今日は君たちに会いに来たんだよ。」
俺は話しが急すぎて、始めは意味がわからなかった。でも時間が経つにつれてだんだん理解が出来てきた。
結論から言うと、俺達にチャンスが来たと言う事だろう。M1グランプリに出て、もし決勝まで残る事が出来たら俺達はもう全国区だ!!
ふと章大の方を見てみると、もう決勝に進出したかのように跳び跳ねて喜んでいる。
やはり考えていた事は同じだったようだ。
しかし、俺は一つ気になる事があった。
「すみません。一つ聞いてもいいですか?」
「いいよ。どうしたんだい?」
「M1ってどこか事務所とかに入ってなくても出れるんですか?」
「なんだ(笑)そんな事か。大丈夫だよ。M1の参加条件はプロ、アマ問わずコンビ結成10年以内だから、君たち二人は大丈夫だよ。」
「はぁ~良かったー」
俺が安堵の表情を浮かべていたら、男の人がこう続けた。
「僕はね、君たちアマチュアの漫才師がプロの漫才師達を倒すところが見てみたいんだ!!君たちの漫才を見ていたら、本当に倒せるかもって思ったんだ!!正直、プロの漫才師がいる中で決勝まで行く事は物凄く難しい。でもやってみる価値はある。M1に出てくれるかい?」
「もちろん!!!!」
章大と俺は二人同時に言葉発した。
「よかった。じゃあ頑張ってね。君たちには本当に期待してるから。僕は一ファンとして君たちの事を応援してるから!じゃあ、また。」
そう言って男の人は帰ろうとしたので、俺はせめて名前だけは知ろうと思い急いで、「すみません!!お名前を聞いてもいいですか?!!」と叫んだ。
すると男の人は振り返り、少し目線を上にやりながら、「名前かぁ~、、、じゃあ松本で。」
そう言い残してまた振り返って帰って行った。
「な~んか不思議な人やったな~」
章大は遠くを見つめながらそう呟いた。
俺も同感だった。松本さんには、何か不思議な何かがあった。
「まぁ、でも俺らには新しい目標が出来たしとりあえず突っ走ろか~~!!」
「新しい目標って何?」
「そんなもん決まってるやんけ!!M1優勝しかないやろ!!」
得意の章大のポジティブ思考である。
「お前、そんな簡単に言うなよ(笑)てか、M1にエントリーするからには、コンビ名決めなあかんやん。どーする?」
「うーん、、、。俺らの売りは大阪出身のストリート漫才師やから、『大阪ストリート』どう?」
「死ぬほどダサいコンビ名やけど大丈夫?、、」
「、、、せめて泣くほどダサいにして(笑)」
「死ぬほどダサくても、泣くほどダサくても俺が決めたらそれでいいの!!俺たちのコンビ名は『大阪ストリート』で決まり!!パチパチパチパチ、、、」
章大がこう言えばもう何を言っても覆らない、、。
こうして俺たちのコンビ名は『大阪ストリート』に決まった。と言うより決まってしまった。