オルノス
短いですがご覧下さい。
レイはその後アガインを一人で倒した。本当にすごいと思う。レイ本人も教官も「共鳴」のおかげだ、と言っていたけれど。例えそうだとしても私はレイを尊敬する。
ところでアヤノとリサ、そしてユウヤは死んでいない。天才シランのおかげである。私はシランも尊敬する。あの時はすぐ死んじゃう! みたいなことを言っていたけれど、治療室からはちゃちゃっと終わらせたわ、なんて笑顔を浮かべて出てきた。もう尊敬が止まらない。
そんな二人は今私の隣に座ってる。ここはヘリの中。過去から現実へと意識を戻したばっかりである。
私は先程まで大事で重い過去を見ていた。思い出していた。でも今は現実に戻ったわけだからいつまでも泣いていられない。私は戦闘服に涙をぽたぽたと落とす。その涙をシランがハンカチで拭いてくれる。優しい。つくづく思わされる。
「ほら、オルノスに着いたわよ。降りて」
いつの間にかヘリはオルノスに着いていた。自動扉が目に映る。オルノスの入り口である。超強化ガラスらしく、アガインの攻撃は一回なら耐えられるとか。
っとここでオルノスはどこにあるでしょうかクイズの正解をお知らせします。正解は地上。あの時にもうすでに建っていたのだ。一つ作っている途中の塔があった。シティ―タワー。高さ五百メートルの塔。製造中止期間だったらしく、その時はシートがかかっていて見た目は全然分からなかった。でも実際はシティ―タワーなんてダサい名前の建物では無くオルノスだった、これが真実。ニュースでは「シティータワー建設済み。未だ姿現さず」とか「国、一切シティ―タワーに触れず。謎深まる」とかユウヤの言った通り変な報道のされ方をしていた。
難問だと思う。地下から、ってのも頑張ったほうだと思うのだけれど。私の空っぽな頭からすれば、ね?
自動扉が開く。ウィーン、とよく聞く音を出しながら。
自動扉を通るとそこはロビー。清掃担当の作業員がたくさん。まともに掃除をしてる人なんか殆どいなくて、おしゃべりする声がうるさい。騒々しかった。うるさいと思うけれどこの空気嫌いじゃない。むしろ好き。おしゃべりは楽しいと思う。
「あれ? レイは?」
「もう先に行ったわよ。ふらふらし過ぎよ。レイのように立派になってちょうだい」
「そんな・・・・・・」
それを言われては終わりだ。レイと比べたら私なんかはごみ以下。クズ? カス? クソ? 全部当てはまると思う。レイはもう宝石とか。接触してはダメだと思う。宝石が臭くなったり、腐るから。でも接触くらいはさすがに許してしまう。私だって一応人間。誰かと一緒に何かしたい気持ちくらい芽生える。
「更衣室、に行けばいいの?」
「そうよ。その後会議室においで。反省会よ」
反省会。戦闘を一から振り返るのだ。必ず一個は課題が出てくる。それをみんなで消化する。例えば私の行動が勝手すぎた、とかレイが転んだ、とか。課題はいつも私たち戦闘者の物ではない。シランやルネ、サガンの物となる時もある。
「また!? 何回やるつもり?」
正直面倒くさかった。眠くなるだけだし。
「何回ってねー! 反省は何回でもするものよ! じゃないといつか死ぬわよ?」
シランは軽々しく死ぬ、なんて言ったけれど、相当重い言葉だと思う。私の仕事には常に「死」がついて回る。一歩でも踏み外せばさよなら。闇へと落ちていく。怖いでしょ? でも楽しいの。だから続けられるの。高い場所で綱渡りをする人もそう。楽しいからとか目立ちたいからとか何らかの目的があるやっている。リスクはありありだけど楽しいから良い。もう決断してしまったのだから引き返すことなんてできないし、今更させてくれない。
「すいませんでした」
私がそう言い放つとシランはエレベーターで上階へと行った。
会話をする人がいなくなり、私は数秒自動扉の前に立ち尽くす。その間ずっと自動扉は開いていたらしく、作業員に注意された。ごめんなさい。口でも心でも謝った。
「アンちゅあーん」
変態作業員ケンが私の名を呼ぶ。うるさい。あんな奴に名前なんて呼ばれたくない。
「うるさい!」
私はケンに叫んだ。ケンはモップに寄っかかりながら笑っている。
「私の名前、呼ばないでって言ったよね!?」
私は詰め寄る。ケンは一歩後ずさるとグーにした両手を顎に当ててかわいい子ぶる。モップはカンカン音を立てて倒れた。気持ち悪いの一言。うっ、気持ち悪い。嗚咽してしまった。
「アンちゃん!? 大丈夫?」
ケンは下を向いて嗚咽している私を見て慌てた様子。背中をスリスリしてくる。ケンの手の温かさを感じる。何か少し湿ってる?
「止めてっ! キモイ! 何で私が嗚咽したと思う!?」
私は両手を後ろに振り、ケンのスリスリから脱出。思いっきり気持ちを伝える。こういう時はもじもじしていてはダメ。嫌だったら嫌と断る、出ないと決着がつかない。相手から離れていくなんて絶対に無いから。
「戦闘が終わって気分が悪かったからでしょ?」
ちょっぴり予想外。いつもならいいから、とか言って話題を強引に変えるのに。「いつも」ってのはもうこれで五回目だから。本当に懲りない奴である。ある意味感心する。
「正解。戦闘から帰ってケンを見た私は、嗚咽したの。分かるよね? 私が嗚咽したのはケンのせいなの!」
ビシッと言ってやった。さすがのケンでもへこむだろう。なんてのは浅かった。へこむどころか元気になってる。
「ごめんー。じゃぁ、僕がマッサージでもしてあげよう。さぁ、寝て」
否待って。いろいろおかしい。まずなんでへこんでないの? 話聞いてた? そしてそこからなぜマッサージになる? そして寝て、ってどういうこと? ここロビーですけど。
「は!? 何言ってんの? だーれーかー。ケンさんが仕事してませーん」
「おいケン、仕事しろよ」
近くにいた若いそこそこイケメンな作業員が注意してくれる。
「ケンさん、仕事をしてください。シラン教官に言いますよ?」
イケメン作業員の後ろから金髪のこれまた若い超イケメン登場。どこかで見たことがあるような・・・・・・。
「アン戦闘員、お疲れ様です。覚えてますか? 指令室担当のシンです」
言われて思い出した。指令室担当の人か。指令室担当の作業員は超が付くほど優秀。頭が良くて運動もできちゃう。
オルノスには優秀な百人の作業員がいる。それらを技術型、裁縫型、清掃型、指令型、商業型の五つに分類する。五つの型についてはケン問題が終わってから言おう。
「へ!? それだけはっ!」
ケンがおどけているのを初めてみた。思わず笑ってしまう。シランを使えばいいのだな。勉強になった。
「じゃぁ、掃除しよっか」
「もちろんです」
ケンは清掃場所へと走って戻っていった。人って変わろうと思えば変われるのかもね。
「ありがとう、シン」
「いえいえ、お気になさらず。それでは」
そう言ってシンもどこかへ歩いて行った。かっこいい。別に好きではないけれど。だって・・・・・・。
私はロビーで一人顔を赤らめていた。
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オルノスに入って一年。未だにオルノスの構造が分かっていない。だから今も地図を見て更衣室を探している。
地図には地下一階から三階までの構造とオルノス周辺の施設が書いてある。周辺の施設と言ってもエナジータワーだけ。略してエナター。エナターとはオルノスの東西南北に建っている。計四つ。役割は電気の貯蓄。エナターは細長い三角形。オルノスが五百メートルなのでエナターは二百メートルくらいだろうか。
地下一階は武器製造室や重傷者治療室および保管室がある。アヤノとリサ、ユウヤはそこで治療を受け、今も寝込んでいる。たまに行くけれど顔は青ざめていてる。でも三人共笑顔は絶やさない。シランがあと一週間で、とか言ってたので今日行こうと思う。
一階はここ、ロビーである。食堂や休憩所、売店があり、よく作業員の姿が見られる。
二階は宿泊施設となっている。戦闘員、作業員はここを利用する。宿泊施設の他には更衣室がある。更衣室は二階、覚えておこう。
そして三階。三階はシランに外部に漏らさないでね、と散々言われて立ち入った記憶がある。そう、三階の存在は秘密。そんな三階には教官室、司令官室、オルノス長室、会議室がある。この地図には荷物置き場としか書かれていない。
急にだけれど三階に行くには大変だ。まずエレベーターに乗る。そして電話の絵が描かれたボタンを押す。後は「シークレットコード、0812」と言うだけ。エレベーターは勝手に上がっていき、付くのは三階。これは戦闘員とお偉いさんたちしか知らず、私たちが外部に漏らすことは許されない。ちなみに「0812」は岩型アガインが出現した日。同時にネーディリアに初めてアガインが出現した日。丁度一年前である。
緊急時にはエレベーターは私たち三階に行ける人しか利用できないこととなっている。混雑防止らしい。
「アップルパイはいかがですかー? 作り立てでーす」
売店から聞こえてきた。アップルパイ。あのサクッ、としたパイにとろーり甘いリンゴ。何回か食べたことがあるけれどおいしすぎだった。この前は一気に五個食べたっけ。まぁ、そのせいで体重が激増したけれど。だから今は食べたくても食べれない。私の口は確実にアップルパイを欲しがっている。でもここで口にアップルパイを入れてしまったら? 考えるだけでぞっとした。
「お腹減った」
お腹をなでるとアップルパイよこせー、と言っているかのようにお腹が鳴る。でも我慢。ダイエットてのはこんなもの。きつくなきゃダイエットじゃない。待ってろ、お腹。もうちょっとでサラダ、食わせてやる。
私はそれでも尚アップルパイを欲しがるお腹をなでながら更衣室を目指した。
オルノスの構造について理解してもらえたでしょうか。教官はシラン、と名前が明かされておりますが、司令官とオルノス長がまだです。これから明かしていきます。シランに続き個性的な二人ですのでご期待ください。学校生活もありますが、投稿頑張っていきたいと思います。
最後に。読んでくださった方に史上最大級の感謝を。