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ロマンス満喫中少女  作者: キラオっち
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第一章   忘れる訳もない大事で重い過去

投稿が遅くなりました。申し訳ありません。これからも学校生活がありますのでこつこつ書いていきたいと思います。どうぞお楽しみください。

 「さーて。授業を始めるぞ。座れー」

 いつも一緒にいる仲良し二人。野土川里紗と山崎綾乃。安田に三人での楽しいお話の時間を強制終了させられ、いらつきながら席に着く。

 三人で顔を合わせ、にっこり笑う。

 実につまらない安田の社会の授業が始まった。

 さっきまで女子ならば、日焼け止めを肌に塗りたくるレベルの晴れ具合だったが、空が急に真っ暗になる。

 もちろん皆気になって空を見る。

皆雨雲だと思ったらしい。

 「えー。今日傘持ってきてないぜー」

 「たぶんみんなそうだよ。今日の天気予報、百パーセント晴れって言ってたし。騙されたー」

 「うるさいぞ。授業に集中しろ」

 だってつまんないもーん、と言い返したい気持ちを抑え、嫌々板書を写す。

 さっきからどうしても授業に集中できない。足がムズムズしている。動きたがっているのだ。

 何となく空を眺めた。制服と同じほど黒い雲があるのに雨が全く降らない。別に雨が降ることを期待しているわけではない。むしろ傘を持ってきていないので降ってほしくないのだ。

 でも降らないのはおかしい。ふとそう思ってしまうくらい雲が黒いのだ。皆も安田も気になっていたらしい。

 「何かやたらと黒い雲だな」

 安田は少しと言うか普通におかしい。

 ふざけるなー、と言っておきながら、歴史上の人物でダジャレを言ったり。評判は良いはずもなく、裏ではおかしい安田と言うことで安岡、だなんて呼ばれてる。

 すると雲の一部に穴が開き、その穴から太陽の光が射し込んでくる。例えるならば、神様降臨!、という感じ。

 たぶん皆この現象に驚いていると思う。

 私も驚いたけれど、どこかロマンを感じた。わかりやすく言えばかっこいいってこと。

 これから何が起こるのだろう。考えるほど興味が出てくる。

 太陽の光がより強くなる。穴から出てきたのは・・・・・・、岩。ゴツゴツした岩。そりゃ皆目を丸くするわ!

 皆だって少しは神様とか女神が出てくるのを期待していたはずだから。

 「岩!? 期待外れすぎだろ!」

 「それな! 女神じゃねーのかよ」

 皆以外と冷静。こういう時はやたらとパニックになる人が一人は出るもの。ほら。言ってる傍から。

 「俺逃げる。嫌な予感がすんだよ!」

 恐怖ってのは不思議なことに伝染する。

 「そうだよ! 先生逃げましょう!」 

 さっきまで期待外れとか言ってた人が今はこの様。やっぱり伝染してる。

 私は恐怖なんて感情は一切無くて、興味でいっぱい。もう体からドバドバ溢れ出てる。

 私はアヤノを見て、かっこよくない?、と口パクで問う。アヤノは同感、と口パクで返してくれる。リサにも問うてみたけどうんうん、と首を縦に数回振ってくれる。やっぱりこの二人とは考え方が合う。

 安田は駆け足で廊下を見に行く。再び黒板の前に戻ってくると、

 「放送が流れていたようです。グラウンドへ移動します。静かに並びなさい」

と、言った。私のクラスはうるさかったので放送を聞き逃していたらしい。

 廊下に出るとそこにはもうA、B、Ⅽ組が並んでいて、私たちⅮ組が皆を待たせていたかのような空気が漂っていた。

                                #                

今グラウンドには全学年が並んでいる。わたしとリサ、アヤノの三人は並んで座る。身長がほとんど同じなのだ。だからすぐお話が出来る。

 「私、あの岩の所に行きたい!」

 「しー! 声が大きいよ。行くのはいいけどどうやって?」

 リサは声量を極限まで小さくして言う。

 「簡単だよ。ここから走っていくんだ」

 私にはそれくらいしか思い付かなかった。見つからない保証は無い。

 「ふふふふ。じゃ、行こうか?」

 アヤノは早くいきたいのか立ち膝である。岩の所へ行くのは危険かもしれない。でももうこの興奮、興味は止まらない。行くしかない。先生に止められるとか、岩に殺されるとかは考えない。

 意のままに動く。そんな言葉が今の私たちににぴったりかもしれない。

 「せーの」

 私たち三人は走り出した。先生や皆からの視線なんて全く気にせずともかく走った。

 校門は閉まっていた。でも今日は幸い警備員がいない。乗り越えればいい話だ。

 すると予想通り背後から誰かが追い駆けてくる音がする。小石が靴底と擦れてから蹴られ、地を転がっていく音だ。

 先生だと分かっているけれど確認しておきたい。何で人間ってこうも確信を得たがるのだろう。小一の問題でも近くに答えがあると、解いた後に答えをチラ見してしまう。小一の問題なんて呼吸のように出来るのに。

 走りながら後ろを向くと、そこには二人の少年。一人は眼鏡をかけている。

 「ねぇ、後ろにいるのってさー。玲と悠弥じゃない?」

 二人とは中学一、二年生で同じクラスだった。アヤノとリサとは中学三年間一緒。つまり中学一、二年では五人全員同じクラスだったのだ。でも一度も話したことがない。

 「え!? 何で!? 二人も気になるのかなー、あの岩」

 アヤノは後ろを振り返って速度ダウンした私に走りを合わせながら言う。

 「っていうかさ、あの岩に名前とかってあるの?」

 「無いと思うよ。さっき現れたばっかだし」

 いつの間にか商店街まで来ていた。興奮しているせいか、全く疲れていない。

 でもアヤノとリサはちょっと疲れたらしく、その場に立ち止る。その間にレイとユウヤが三人に追いつく。

 「二人もあの岩に興味を持ったの?」

 私は笑顔で問うた。仲間がいると思うと嬉しいのだ。

 「もちろん。もっと近づきましょうよ」

 ユウヤは笑顔で言う。同じく興奮しているらしい。

 「もしかして・・・・・・、怪我でもした?」 

 「全然! さっ、行こ」

 一瞬心がピクッ、とした。何かが芽生えたような感じだ。でも今はそんなことはどうでもいい。早く岩の元へ。

 再び走る。今思ったけれど、レイって優しい。眼鏡のレンズの奥に隠されている目は鋭い。でもさっき改めてみたら軟らかそうな目だった。

 商店街からは悲鳴と共にたくさんの人が逃げてくる。

 隣の四人はどうかわからないけれど、少なくとも私はそんな人たちの姿が理解出来なかった。

 何であんなにもかっこいいロマンの塊のような岩から逃げているのか。なぜ悲鳴を上げる必要があるのか。

 でも残念なことに私のこの考えは逃げている人たちにとっては蟻のように小さく、馬鹿げているのだ。

 時々私たちに馬鹿じゃないの? 、と冷たい視線を飛ばしてくる人もいる。

 ここに来てやっと自分がどんなに馬鹿な行動をとっていたか身に染みて感じた。

 「アン! 何暗い顔しちゃってんのよ! 岩が待ってるよ」

 そんな私に笑顔で話しかけてくれたのはアヤノだった。今リサは私を元気付けるかのように背中を軽く叩いてくれる。

 きっと二人は分かっていたんだ。私が何を考えていたかを。

 大親友の二人のおかげで自身を取り戻せた。私たちは何も馬鹿げたことなんてしていない。ただ自分の興味を満たすためだけに行動しているのだ。

 楽しければいい。大人たちからの冷たい視線なんて気にしない。

 岩に近づくほど逃げてくる人の人数が減っていく。

 すると一台の車が歩道を走ってくる。高そうなスポーツカーなのに所々ぶつけているせいで中古車にしか見えない。でも私たちは逆車線の歩道を走っているので、避難する必要は無い。

 「やっぱりあの岩かっけー!」

 アヤノは興奮のあまり両手を上に挙げながら叫ぶ。私はいつもと変わらない明るさを目にし、笑う。

 「テンションが高い・・・・・・」

 レイはそう呟き唖然していた。分からなくもない。レイはアヤノのような天真爛漫キャラとはほど遠い。冷静や沈着といった言葉が似合うだろう。

 すると先程の車がキーッ、と止まると車の向きを変え、私たちの走っている歩道を進んでくる。何ともワイルドである。

 「みんな! 危ない!」

 私たちは全速力で走る。だって死にたくないから。

 背後からはブンブン車のエンジン音が聞こえ、余計私たちに恐怖を与える。エンジン音がすごく近く感じる。

 「きゃっ!」

 もう少しで角を曲がれる、と確信を持った時だった。リサの悲鳴が人の少ない商店街に響く。転んだのだ。その時私はリサが車に轢かれて死んでしまうと悟ってしまった。全くの不本意。

 大親友の死を悟るなんて私は最低最悪だ。助けなきゃ。リサにこの事実を伝えて謝るためにも。一緒にあの岩の所に行くためにも。

 「リサ!」

 私は迫りくる車になんか恐れず、リサの前に立ち両手を大きく広げる。いつの間にか隣にはアヤノがいた。そりゃそうだ。大親友を見殺しになんか絶対に出来ない。

 私は車が自分から五メートルほどの近さまで来ると、さすがに怖くなって目を瞑ってしまう。あぁ、最後に二人の顔見ておけば良かった。

キーッ、とタイヤが地面に擦れる音がする。

 あれ? タイヤの音が聞こえたってことは生きてる!? ゆっくり目を開ける。最初はモヤモヤしていた視界がだんだんくっきりしていく。お腹に何か当たっている。少し暖かい。車だ。あと数センチでも止まるのが遅かったら死んでいたかもしれない。背後を急いで振り向くとしゃがみ込んで泣いているリサに、宥めにかかるアヤノの姿。良かった。三人とも生きてる。

 「リサ、アヤノ・・・・・・、生きてて良かった!」

 二人に抱き付く。とても温かい。すると私の頬に冷たい何かが落ちてくる。リサの涙だった。 

 「泣かないでよ。私もっ、泣いちゃ・・・・・・」

 やめてほしい。釣られてしまうから。ほら、涙がドバドバと出てきた。

 「ごめんね、リサ。私、リサが死んじゃうんじゃないかって考えちゃたの。大親友の死を考えるなんてほんと最低最悪だよね」

 私も正直に謝ることにする。

 「ごめんね、リサ。実は私もそう考えっちゃったの。ほんとごめん」

 リサは涙を拭うとこう言った。

 「全然。謝るのは私のほうだよ。二人は私の私の命の恩人なんだから。二人がいなきゃ私今頃死んでる・・・・・・。私を守ってくれて本当にありがとう」 

 また泣けてきた。こんなにもお互いを思い合える人間になんてそう出会えないと思う。

 「さっ、立とう。地面は汚いしさ。ほら岩が待ってる」

 「なんて素敵な友情なの! 感動したわ」

 車から一人の女性が降りてくる。高い身長に長い脚。鋭いようで優しい目。ロングヘアーに少し隠れた小さな顔。そしてやたらと似合う白衣。本来なら見惚れていたいのだが、この女性が運転手だと思うと睨まずにはいられなかった。

「何が素敵よ! あなたはさっきまで私たちの友情をぶち壊そうとしてたくせに!」

 私は吐き捨てるように言った。

 「ごめんなさいね。ブレーキがちょっとおかしくなってしまって。私はあなたたちの友情なんてぶち壊そうとなんてしてませんよ。なぜここにいるのか聞きたかっただけよ」

 「私たちはあの岩の所に行きたいの! あなたになんて関係ない!」 

 何がブレーキがちょっとおかしくなってしまってだ。それで死人が出ていたらどうするつもりだったのだろう。無責任にもほどがある。況して大人なんだからもっと反省の意を見せてほしい。でないと私とアヤノの決死の行動が女性への見世物になってしまう。

 「行こっ」 

 すると女性は拍手をし始める。この女性大丈夫なのだろうか。ちょっと不気味に思えてきた。

 「アガインの所に行きたいの? なぜ? 好奇心? それとも興味?」

 それとも、と言っているけれどさほど意味は変わらない気がする。

 「どっちもよ! あなたは何がしたいの!?」

 はっきりと聞いてみた。すると女性はニッコリ笑う。

 「あなたたちの興味を満たしてあげたいの。どう? オルノスに入ってアガイン退治でもしてみないかしら」

 オルノス? アガイン? 聞いたこともない語だ。

 「すみません。オルノスとアガインとは何でしょうか」

 レイが問う。当然の質問だと思う。

「オルノスはアガイン対策組織のこと。。アガインとはあの岩のこと。ロマンの塊だか何だか知らないけど悪い奴らなのよ。ほら、攻撃が始まった」

 アガインと言うらしい岩は高速で回りだすと、細長い長方形になる。岩のような見た目は変わらない。

 「おぉ、長方形になった。かっこいい」

 私に口からぽろっ、と感想が漏れた時だった。

 「伏せなさい。死ぬわよ!」

 急に女性が大きな声で命令してくる。本当は逆らいたいところだけれど、死ぬ、という言葉の圧力には勝てなかった。

 伏せた。すると頭上を高速な何かが空を切って進んで行くのが分かった。少し臭かったし、温かいというよりかは熱かった。

 学校のある方向から悲鳴が聞こえた。一人のものではない。たくさんの人のだ。私はゆっくり立ち上がる。

「二人とも大丈夫? 何があったの?」

 まだ全く状況を理解出来ていない。二人も同じようで首を横に振るばかりだった。でも一人何が起きたか理解している者がいた。レイである。

 「今のはレーザー攻撃ですか? 少し腐臭がしたので腐食性があるはずです。学校のみんなは・・・・・・」

 レイはゆっくり女性を見やった。その目はとても見開いていて、嫌な予感をそそるものであった。

 「・・・・・・。言わなきゃ駄目かしら?」

 「早く言って! 変にもったいぶらないでよ!」

 さっきから苛々してばっかだ。怒ると皺が増えるとかよく言うけれど、その言葉が本当ならば私の顔にはたくさんの皺ができているだろう。

 「死んだ、と思うわ。でもまだ完璧にそうと言い切れるわけじゃない。でも・・・・・・」

 女性は白衣を大胆に翻すと私たちに背を向ける。人が死んだかもしれない、と言ってしまった自分に後悔でもしているのだろうか。

 「だからっ!」

 「アン! 静かに。話してくれますよね?」

 レイに怒鳴られて黙り込む私。さすがにうるさかったみたいだ。

 「そうだわ! あなたたちにアガイン退治をお願いしようかしら」

 女性は振り向くと顔を輝かせながら話す。先程まで女性が持っていた重い空気はどこかに飛んでいったようである。

 「急に何!? 退治ってどんなことをするの?」

 「いい質問ねー」

 女性は待ってましたと私を指差す。何だろう。女性にすごく振り回されている気がする。

 「武器を使ってアガインを、殺すの」

 女性は人差し指を立て、ポンポンッ、と振って見せる。そのまま車の二列目のドアを開ける。すると彼女の手にはロマンがプンプン漂ってる武器が握られていた。

 「ほら、取りに来て。えーと、あなたはこれで・・・・・・」

 そんなこんなで私は退治の準備完了。服装は最悪。スピードスケート選手が着ているような、ピチピチの体の輪郭丸分かりな服装である。もっと分かりやすく言うならば、モビルスーツ。ゲームとかでよくあるやつだ。打って変わって武器は最高。細長い拳銃といった感じだろうか。武器と聞けばゴツゴツしていて重量感があると思うかもしれないが、この武器は全然違う。めっちゃ軽い。そしてスリム。物に当てて言う言葉じゃないかもしれないけれど、スタイルが良い。

 「軽い。何これ? 中空洞のおもちゃじゃない?」

 私が武器を持っての初感想だった。女性は私の感想に微笑んでから説明を続けた。

 「見て分かる通り武器には種類があるわ。んー。一人一人名前を言ってちょうだい」

 レイを初めに全員名前を言っていく。

 「えーと。アンのがキャノンでレイのがサンダーキャノンね。そしてアヤノだっけ? がファイヤーキャノン。リサのがギガキャノンで最後にユウヤのがチャージキャノンよ」

 女性は言い切ったといった感じでドヤ顔を見せてくる。

 「このスーツというか何というか・・・・・・。ピチピチ過ぎません?」

 ずっと思っていたことである。男子はまだしも女子もこの格好って。どうせ「戦闘服」とか言うかっこいいネーミングがされているのだろう。でも今はネーミングなんて関係ない。私のデブな腹がみんなに見られてる。その事実が耐え切れないのだ。アヤノとリサはいいよ。アヤノは水泳をやっていてからこういう格好には慣れているはず。リサも体操をやっていたから同じだろう。でも私は違う。ピアノではこんな格好にならない。逆になってたら変態扱い確定。

 「女子には厳しいかもね。でもその戦闘服はすごいのよ。衝撃吸収力が高いからあの建物の屋上からここに着地するなんて朝飯前。我慢してもらうしかないわ。でもアガインといざ戦えば気になんてならないはずよ」

 そんなものなのかー、と納得してしまった。戦いを楽しめばいいのだ。

 「今アガインと戦えば、と言いましたが退治=戦闘なのですか?」

 レイは眼鏡を人差し指で軽く押し上げながら問う。

 「すごいわね、レイ。その通りよ。でもその前に一つ確認したいことがあるの」

 「またもったいぶる気ですか?」

 こう言ってあげないと女性はいくらでももったいぶる気がしてならなかった。

 「急かさないで。あなたたちにとっては大事な決断よ。人生が変わるもの」

 「「「え?」」」

 女子三人から一斉に驚きの声が漏れる。人生が変わるってどういうこと? もう家族や友達に会えなくなってずっと退治をするってこと? 何か危険な手術をさせられるの? まとめる能力ゼロな私の頭で考えてもきりがない。女性を再び急かそうと思ったが女性が口をゆっくり開き始めたので止めた。

 「オルノスに入るかどうか決めてもらいたいの。もう一度言うけどオルノスとはアガイン対策組織のこと。メンバーはアガインから人類を守るため常に必死よ。もしあなたたちが入ると決めたら役割はアガインから人類を守ること。もちろん命を懸けて。理由は何でもいい。あなたたちには家族がいるでしょう。ゆっくり慎重に決めなさい。アガインが待ってくれるかは微妙だけど」

 私は思わずアガインを見る。何も変わった様子はない。今になって実感が湧いてきた。さっきのレーザーだかビームだかで人が死んだのだ。女性は断言していなかったけれどあのつらそうな顔は人が死んでしまった、と言っているようなものだった。

 「オルノスに入れば家族や今学校にいる友達とは会えなくなるの?」

 私は呟くように問うた。女性はもったいぶらずに答えてくれた。

 「そうかもしれないわ。でもしっかりオルノスが別の都市で保護するから会えないことはない」

 女性は力強く言い切った。何とも曖昧な表現を使うものである。

 「じゃあ会おうと思えば会えるのよね?」

 「せめてお別れくらいしたいよ」

 リサが今にも泣きだしそうな声で呟く。

 「でも時間が無いと思うわよ。戦闘前後には必ず会議を行うつもりだし戦闘には相当な頭と体を使うはず。十分に休まないと体が持たない」

 そんなに大変なのか。何か軽く考えすぎてたみたいだ。五人で毎回かっこいいアガインを倒して生活する、なんて叶いそうにない。

 「僕は入ります」 

 そう断言したのはレイだった。決断が早すぎる。レイの目を見る限り「迷い」なんて言う邪魔な言葉は無かった。

 「早いわね」 

 女性は感心した様子でレイを見やる。無理だ。決められない。今学校にいる友達と会えなくなるのは嫌だし、口喧嘩しかした覚えのない家族もいざ会えなくなるよ、と言われると悲しい。でもアガインと戦いたい。オルノスに入ればアガインに詳しくなれるのは当然だろう。

 「分かんないよ」

 「私とリサは入ります」

 私の悩みの声を打ち消すかのようにアヤノとリサが断言する。

 「僕も入る」

 ユウヤまでも入るのか。後は私一人。入るか入らないか。家族や友達とアガインか。何度天秤にかけても結果は同じ。どちらにも傾かない。

 「家族かー」 

 言葉にすれば分かるかもしれないと思い、呟いてみる。そういえば昨日、お母さんと口喧嘩したっけ。どこの高校に進むかで。私が必至に思いを伝えた結果お母さんはこう言った気がする。「もう分かった。あなたの人生はあなたのもの。自分の好きなことをやり切ってみなさい。お母さんは応援する」って。そうだ!私の人生は私のもの。お母さんは好きなことをやり切る私を応援してくれる。じゃあ迷う必要なんてないじゃん。天秤はアガイン側に傾いた。

 「私も入る。アガインと戦う。あのかっこいい奴らと戦って生きていくの!」

 「いい覚悟だよ。僕も何だか分かってきた。アガインのかっこよさ」

 私はレイ向かって微笑む。レイも微笑んでくれた。何か嬉しい。私と同じ考え方の人が増えて。

 「あれれー? 何かラブラブな感じ?」

 アヤノが煽ってくる。やめてほしい。何か変に照れるから。顔とか耳たぶ赤くなっってないかな? 変なところを気にすることしかできなくなった。レイと目を合わせるのもちょっと躊躇した。 

 「ラブラブだなんて・・・・・・。ところであなたのお名前を教えてもらっていいですか? これからお世話になると思いますので」

 あからさまに話を変えるレイ。レイの頬が赤く火照っているように見えるのは気のせいだろうか。

 「椎名白蘭。シラン教官とでも呼んでちょうだい。まー、タメ口でもいいわ。その代りしっかり戦闘をすること」

 教官? シランには似合わない敬称だと思う。

 「教官の仕事って?」

 アヤノが大きな声で問う。さすがアヤノ。いきなりタメ口。普通こういう時ってタメ口でもいいよ、と言われてても躊躇するもの。私だって心ではシランと呼び捨てにしてるけど、いざ口に出すとなるとさんやら教官やら敬称をつけるだろう。私がアヤノを羨ましく思う理由の一つだ。

 「あなたたちの指導役。学校でいうに先生ね。スパルタ教育で毎日十時間訓練とかはやらないから安心して。目立つ仕事と言えば戦闘の指揮くらいね」

 シランは自分のオルノス内での役割を説明してくれたけど、一つ疑問が浮かんだ。オルノスっていう対アガイン組織はどこにあるのかだ。ネーディリア内には無いと思う。周りを見ればわかる。ぼろい建物ばかりが目に映り込むんでくる。都市=高い建物いっぱい、みたいなイメージがあるかもしれない。というかある。まさに都市だなって感じのとこ。でもネーディリアは地味。都市感はあまりない。

 「教官。ところでオルノスってどこにある、の?」

 ちょっとタメ口を躊躇してしまった。そのせいで語尾までちゃんと伝わったか心配だ。次こそは思い切ってタメ口で話してみよう。

 「やっときたわね、その質問。ヒントを言ってあげる。オルノスはネーディリア内にもう建っているわ。さぁ、見つけてみて」

 シランは両手を広げて楽し気に微笑んでみせる。

 「見つけた。ニュースでの報道の仕方が変だったからもしかしたらと思って。そしたらビンゴ。断言できるよ」

 早過ぎでしょ! ユウヤは本好きだから謎解きとか得意なのかもしれない。推理小説を読んでるうちに推理力が・・・・・・、みたいな。私は本が苦手。あんなに馬鹿みたいにたくさんの小さな文字が並んでるんだもん。一ページ目開いただけで目眩がする。読み進んでいくと面白いのは知ってるんだけど・・・・・・。体が持たないよね。黙って椅子に座ってると体が動きたい動きたいってうずうずし出すのだ。

 今はオルノス探しに集中しよう。報道に仕方が変だったってどういうことだろうか。残念なことに私はニュースを全く見ない。よってユウヤの発言は全くヒントにならない。

 「早いわねユウヤ。今の発言は十分なヒントじゃないかしら」

 シランは楽しそうに笑う。

まずオルノスとはどんな形の建物なのだろうか。さっきも言った通り周りを見てもぼろい建物ばかり。新しい建物なんて一つもない。週に五回は通学路として利用している場所だ。一つや二つ建物が増えたら絶対に気付くだろう。もし私の目が節穴でなければオルノスは地上に無いのだろう。空中はさすがにないだろう。残すは地下?

 もしかしてシランがスイッチを押すと道路が開いてオルノス登場、みたいな? 製作していることがあまり世間に広まらないようにニュースでの報道を変にしたのかも。

 勝手な想像が意見として固まった。

 「教官、分かった。地下でしょ! オルノスは地下にあるんだ。教官がスイッチを押すと道路が・・・・・・」

 「ふふふ!」

 シランは大声で笑いだした。何と失礼な。せっかく固めた意見を笑うなんて酷いし恥ずかしい。

 「なっ、何!? 笑わないで! 最後まで意見を聞いてよ!」

 私は怒鳴る。顔が真っ赤になっているのが分かる。だって頬が溶けるんじゃないかってくらい熱いから。

 「アン、ふざけてる?」

 レイは私に半笑いで問うてくる。

 「ふざけてない! 結構真面目に考えたんだから。みんな笑ってるってことはこの意見間違ってるの?」

 みんなというのは私以外の五人。気付けばリサやアヤノまでも笑ったいた。

 「どうかしら」

 シランはまた笑う。パチンッ。鞭を地面に叩きつけた時のような音がした。何かが切れた。堪忍袋の緒って言うんだっけ。我慢の限界が来た。ここに来てまたもったいぶるか。

 「もったいぶるな! 早く答えを教えてくれればいいじゃん! アガインと戦わせてよ!」

 堪忍袋から苛々がドバドバと出てくる。頬の熱が耳たぶまで伝わったのか耳たぶも熱い。私はいつの間にか両手を強く握っていた。爪が手のひらに当たって痛いけど握るのは止められない。止めたら苛々が行動として表れてしまうだろう。意外と堪忍袋の緒が切れても苛々は我慢できる。って思ったのも束の間。

 バッチンッ。さっきの何倍もの大きさの音がする。何が切れたのかは分からない。でも我慢が出来なくなってしまったのは確か。気付けば私はシラン向けて走っていた。左手は強く握られ、拳は確実にシランの顔面を狙っていた。

 「うぉーーーーっ!」

 左手をシランの顔面に向けて突き出す。シランは急に真顔になると両手で私の左手を楽そうに掴む。すると腰をよじられおんぶのようなことをされる。怒りに身を任せても駄目だなー、と反省しようとすると・・・・・・。

 「あうばばばばっ!」

 シランは私の左手を強く引くと腰を勢い良く上げ、私の体を地面目掛けて叩き付けようとする。柔道でよく見るあれ。体育で何回かやったけど畳ですらめっちゃ痛い。じゃあ地面では?  

 「「アン!」」

 アヤノとリサが私の名を呼んだ気がする。これが最後に聞く二人の声なのか。今までありがとう。

 バスッ。制服が地面に叩きつけられ鈍い音がする。体も地面に叩きつけられ・・・・・・、てない。全然体が痛くない。死に際だから痛みを感じないとか? でもアヤノとリサの「おぉ・・・・・・」とかいう声がはっきり聞こえる。死んでない?

 「目を開けていいわよ。死んでないから安心しなさい。あなたの意見を笑った挙句に合ってるかどうかもったいぶったのは謝るわ。でも怒りに身を任せるなんて戦闘中はNGよ。何をするか予想できないもの。まっ、アガインに対する愛とか興味とかがたくさんあることが分かってよかった。さすが『選ばれし者』ね」

 「選ばれし者」って私が? 否、それはない。運動神経ゼロの学力皆無の女子感消滅危機の私だ。普通以下の中学三年生である。他四人なら分かるけど。別に謙遜してるわけじゃない。本当に心の底からこう思うよ。

 というか! なぜ体が痛くないのだろうか。目を開けて確認してみる。

 シランは右手で私の左手を掴み、左手で私の背中を支えていた。シランの細いきれいな左手一つのおかげで私は死や痛みから逃れられたのだ。地面に付いているのは踵だけ。敏速とかいう靴を履いているので全然痛くなかったのだ。

 「『選ばれし者』? そんなことを言って機嫌でも取るつもりですか?」

 私はシランの左手を右手で振り払うようにすると、軽く尻もちをついてから立ち上がる。感謝なんてしない。素直じゃねーな、とか思うかもしれないが、私は謝る必要がないと思う。だってもっとシランが私を増しな方法で止めればよかったのだ。だって・・・・・・。これ以上言わないことにしよう。何だか気付いてきてしまった。自分の言ってることがおかしいと。

 「ん? そんなつもり微塵も無いわよ。でもね一応目的はあったのよ」

 シランは不自然な笑い方をした。無理やり頬を上げるような。もしかしたら私のさっきの発言で胸を痛めているのかもしれない。でも最低最悪で素直じゃない私はごめんなさいの一言も言えず、捻くれた返答しかできなかった。

 「私の我慢強さを見るっていう目的? ふざけないで」

 もう取り返しがつかなくなってしまった。ふざけないでなんて私が浴びせられるべき言葉だ。誰か助けて。こんな私にチャンスを下さい。

 「そんな暗い顔してどうしかした? アヤノとリサに言われたんだけど教官に謝りたい?」

 謝りたい? なんて話しかけられ方すっごく恥ずかしかったけど、助けが来ないよりはいい。さすがアヤノとリサ。私の顔を見ただけで分かるんだ。この借り、いつかしっかり返さなきゃ。話しかけてくれたレイにも感謝。

 「え? まっ、そう、だけど・・・・・・。そのー、タイミングが掴めないっていうか素直になれないっていうか・・・・・・、ね?」

 何がね? だよ!もうほんと馬鹿だ。同情を求めてどうするというのか。自分で解決するって意思が見られないよね。ってそれ私なんですけど・・・・・・。

 「分かるよ。でも今謝らないと後悔する。きっとね。聞くは一時の恥、聞かぬは末代の恥、っていうことわざ知ってる?」

 急に難しいワードが出てきてたじろいでしまう。聞くってのはその時だけ恥ずかしい、けど聞かないってのは一生そのままにしておくことだから、大きな恥となって後の世に響くよ。みたいな意味だっけ? 私は軽く頷くとレイは話しを続けた。

 「僕はこのことわざすごく正しいこと言ってると思う。アンは今どっちの恥を味わいたいの? もちろん聞くは一時の恥のほうだよね。さっ、謝ろう。そしてアガインに対する愛っていうか興味をぶつけよう」

 レイは綿あめのようなフワホワした笑顔を私に向ける。私の心はそれこそ口に入った綿あめのように優しくゆっくり溶けていく。レイに心を奪われました。何て恥ずかしくて言えないし、そもそもこんな私がレイを好きになっていいわけがないので、今はこのことに触れないようにしよう。はいっ! 謝るのに集中。

 まずは深呼吸でもしよう。酸素がたくさん入って来る。フンッ、と勢いよく二酸化炭素を出すと、両手で頬を叩く。よし謝ろう。そしてアガインに対する思いをぶつけよう。

 「教官」

 「何かしら?」

 シランはなぜかニコニコしていた。私が謝るのを知っていたように思えた。やっと謝る気になったのね、とか思ってそう。

 「あのー・・・・・・」

 「何よ。私にはあんなにももったいぶるなと言っていたのに。ふふっ」

 シランはまた笑う。何かを楽しんでいるようだ。

 「ごめんなさいっ!」

 私は思いっきり頭を下げる。両手で戦闘服を強く握る。やっと言えた。

 「え!? なんて言ったの? あなたたち聞き取れた? ふふっ」

 私は顔を上げる。後ろを振り向いてみんなのリアクションを確認する。聞き取れた? ってどういうこと? 完璧に言えたと思うんですけど? でもみんなは当然のように首を横に振った。どっちなのだろうか。ううん、聞き取れましたよ、なのか、いいえ、聞き取れませんでした、なのか。

 「アン何て言ったの? みんな聞き取れていないみたいよ」

 「マジ!?」

 私は口を大きく開けてみんなに問う。リサは首を縦に振ると、「ごめにじゃん!」。こう発言した。全く何を言ったのか聞き取れない。ごめにじゃん、って受け狙いですか? そうリサを小馬鹿にしていると、リサから天罰が・・・・・・。

 「今の、さっきアンが言ったことの真似。まったく聞き取れなかったよ?」

 私はみんなの笑い声に包まれる。レイとユウヤは口を手で被い、控えめに笑う。気でも使ってくれているのだろうか。アヤノとリサとシランはお構いなしにただただ大声で笑う。私たちしかいない商店街ではやたらと響く。

 「謝りたいんでしょ、私に。アンは思ってることが直ぐ顔に出てるわよ。そんな考え込まないの。大雑把そうだけど案外繊細ね。物事を深く考えすぎ。さっ、行ってらっしゃい」

 女神ですか!? みんなシランさんに一日一回は礼拝をしましょう。ここまで絶対私が悪いってのに。っていうか行ってらっしゃいとはどこへ?

 「え!? どこに?」

 「決まってるじゃない。アガインの所よ。戦闘開始! 自由に戦って御覧なさい」

 シランは柔道技をやられた時に飛んで行ったキャノンを取って来てくれる。急過ぎませんか?

 「何今更躊躇してんのよ。さっきまで戦わせろ戦わせろうるさかったくせに。ねー?」

 シランはレイに話を振る。レイはにっこり笑って振りを流す。うまい! 

 「さっ、みんな。戦闘開始、です」

                               #

 全く武器の使い方を教わらず勢いでここまで来てしまった。ここまでと言っても百メートルくらい走っただけだけど。アガインはまだ遠い。それにしても大きい。私たちがアリだったらアガインはカブトムシ、的な? でも今は一つ違う点がある。それはアリがカブトムシに勝つこと。塵も積もれば山となるのと同じで、そこそこ大きなアリが五匹集まればカブトムシには頑張れば勝てる。

 「どうする? 弾は貰ったから撃ってみようか?」

 「そうだね」

 「弾はここから入れるっぽい」

 ユウヤは武器のある部分を指差しながら呟くように言う。どんな弾を入れようか迷う。弾にはそれぞれ文字が書かれている。「拡」や「爆」。「拡ネ」とかいう似ているのもある。「爆」が一番かっこよさそうなので早速セットする。

 「じゃあ、せーので・・・・・・。はへ?」

 四人が発砲した。せーので撃とう、と言おうとしたのだがせーの、に反応してしまったようだ。ドラマとかで聞く発砲音と同じのもあれば、ロケット花火のようにピューッ、と音をたてるものもあった。私は一テンポ遅れて撃ったが、「爆」という弾はボギャンッ、とものすごい轟音をたてた。もちろん驚いたのだけれど、その後がすごかった。前から何かが私を襲ったのだ。両手は吊ったようになり、腹にはパンチでもされたかのような衝撃が来た。思わず武器を手放す。痛い! 両手をプラプラさせてみるけどズキズキは飛んで行かない。みんなもこんな感じなんでしょうね? 

 「アン、どうしたの? 手でも痛いの?」

 アヤノが問うてくる。こんなにも手を痛めているのは私だけのようだ。もしかしてさっきのことで天罰が・・・・・・? 

 「あああ。聞こえる? ごめんなさいね、武器の使い方教えて無かったわ。でももう弾を撃てたのでしょう? 襟の所に小型無線が入ってるわ。そこに向かって話して。普通通り話してれば大丈夫だと思うけど。無線はみんな繋がってるわ。一度に話せるのは一人だけ。同時に話すとグジャグジャよ」

 早速無線を使って質問をしてみる。

 「教官。やたらと手が痛いんですけど・・・・・・」

 「アンは何て書いてる弾を撃ったのかしら?」

 「『爆』ってやつ。爆発の爆って書いてた」

 無線からはシランの笑い声が聞こえてくる。何かもう笑われ慣れてしまった。で、今回は何がおかしいの?

 「ふふふ。最初から爆発弾を撃ったの? ふふふ。説明するわ。弾を撃った後には反動というのが生まれるの。反動は弾を作ってる時点で最小限に抑えられているのだけど・・・・・・。特に爆発弾の反動がすごいのよ。初心者で女子なあなたには厳し過ぎるわ」

 「だからか。まだちょっとズキズキするし」

 「ふふふ。続けるわよ。さっき言った通り弾を撃てば反動が生まれる。でも反動は慣れ。一年後には爆発弾なんてどうってことないわよ」

 ん? 聞き捨てならない言葉が・・・・・・。一年後には、ってそんなに来るの? アガインってのは。別にアガインと戦うのが嫌では無い。むしろ好き。ただ先が長いなー、と思ったのだ。一年後。想像が出来ない。戦闘中かもしれないし、みんなや教官とお話ししているのかもしれない。不謹慎だが、誰か戦闘で死んでいるかもしれない。その誰かが自分かもしれない。本当に想像出来ない。良く考えると未来ってのは怖いものだ。全く予想できないのだから。ほんのちょっとした行動が未来を変えるのだ。そんなこと言ってたら生きてられないけどね。あっ、これが教官の言ってたことか。物事を深く考えすぎ。人生なんて深く考えずに、軽く考えて楽しく生きよう。こんな感じにでも考えればいいかな。

 「遂にアガインが反撃に移るわよ。アガインからの攻撃は前転とかで躱して。戦闘服を着ているから運動神経良い悪いは関係ないわよ。そうよね、アン!」

 え!? シランすごい! シランは今絶対私の顔を見ていない。なのになぜ私の考えてることが分かるの? ため息をついたからだろうか。でも運動神経は関係ないことが分かったのでもういい。もっと掘り下げてしまいそうだから。

 アガインは淡い光を放つと、ゆっくり人型になっていった。表面は依然ツタやコケで覆われていて岩感は全く消えていない。ゴーレムっぽいと言おうと思ったが、スリムすぎる気がして言うのを止めた。

 人型になったアガインは右足を一歩分引き、今にも走り出してきそうな状態だ。ってか走ってくるんでしょ? 予想出来てしまった。それにしても人型に変形するシーンはかっこよかった。夕日のような優しいオレンジ色の光。眩しいのではなく、淡いってのがいいよね。

 「みんな、歩道に行って。アガインはたぶん車道を走ってくるから。早く行けたら、弾でもセットしておこう。ちょっとした時間も有効活用」

 そう言って私は笑って見せる。何か久しぶりに笑った気がする。そんなことより歩道に逃げなきゃ。

 アガインは右足に体重を乗せるように状態を低くすると、走ってくる。否、違う。飛んでくる。何言ってんの? って思うでしょ。でも事実。アガインは右足で地面を強く蹴ると、地面すれすれな高さで飛んできたのだ。あっという間だった。アガインが車道と私たちの目の前を通り過ぎて行き、学校に突進していったのは。悲鳴は一秒たりとも商店街には響かなかった。悲鳴を上げていたのかもしれないけれど、アガインが空を切って進む音と校舎が崩れる音で掻き消されたのかもしれない。

 「え? 学校とみんなが・・・・・・」

 私は無意識に震える右手で学校を指差していた。その右手は心から溢れ出る悲しみと後悔によって、私の頭を何度も叩いていた。

 守れなかった。学校にいるたくさんの友達を。私はもうオルノスに入った。命を懸けてアガインから人類を守らなければならないのだ。でも私は友達を見殺しにしてしまった。何がアガインかっこいいだよ。戦闘に集中しろよ! 人類を守るんだろ! 自分にひたすら言い聞かせた。

 「ぎゃーーーーっ!」

 私は両手で頭を抱えると奇声を上げ、その場にひれ伏す。涙が止まらない。悲しみが止まらない。後悔がしきれない。やるせない気持ちばかりが一向に増えていく。死にそう。ってか死にたい。私になんて人類を守る資格なんてないんだ。

 気付くと私はキャノンの銃口を首に向けていた。爆発弾がセットされている。トリガーを引けば私の空っぽな頭なんて簡単に吹っ飛ぶ。死ねば楽になる。

 「ふふふ」

 この期に及んでシランはまだ私を笑うか。しかも嘲笑い。笑われ慣れてたけど、ここで笑われると何か苛々する。

 「何なの!? あんたはまだ私を笑う気!?」

 「アン! 早まるな!」

 私がトリガーに手をかけるとレイが叫んだ。

 「あなたここまで来て逃げる気? 天国か地獄にでも逃げる気? 馬鹿ね。ふふふ」

 「うるさいっ! 逃げてなんかない! 私にはもう人類を守る資格なんてないの!」

 「だから! それが逃げてるっていうの! 決めたんでしょ、人類を守るって! なんで逃げるの? 現実から顔を背けるんじゃないよ!」

 何か私怒られてる。逃げてる、か。もし逃げてるとしたらどうすればいいのだろう。死ぬ以外の形で責任を取れと? 

 「じゃあ! 私は・・・・・・、どうすれば・・・・・・」

 私は死ぬことはさすがにダメと思い、キャノンを手放す。キャノンは鈍い音を立てて地面に落下する。実際は怖かっただけなんだけれど。まだ私は自分にすら素直になれていなかったのだ。

 「そんなの簡単よ。あなた以外みんな分かってる」

 「その通りです」

 レイは微笑みながら私に歩み寄って来る。レイの普段は鋭い眼が微笑んだことによってか、とても軟らかそうで優しく見えた。レイの目はゆっくりと私を癒していく。完全に見惚れていた。

 「さっ、武器を持って。一人でも多くの人を守ろう。それが僕たちの選んだ道。続けなければいけないことなんだよ。もし死ぬとしたら自殺なんかじゃなくて、戦死だ」

 レイは最後にニッコリ笑うと、キャノンを拾って私に差し出す。

 「ありがと。よし、行こうみんな! 一人でも多くの人を守ろう!」

 私は涙を拭うとみんなを鼓舞する。さっきまであんな感じだった私が言えるセリフじゃないかもだけど。

 私たちはアガインの所に行こうと走ってきた道を走って戻る。すごい。足の回転がおかしいくらいに早い。これも戦闘服のおかげだろう。

 校門まで来た。アガインは校庭にうつ伏せ状態だった。頭部は生徒玄関に入り込んでいた。相当な衝撃が学校を襲ったに違いない。一階から三階まで窓ガラスはすべて割れていた。三階からは廊下が覗いていた。生徒玄関なんてただの瓦礫の山。幸い校庭ではまだ暴れまわって無いようで、みんなは校庭の端に集まっていた。

 「まだ誰も死んでない! 良かったー」

 「アンがあそこで死んでたらまさに無駄死にだったな」

 レイはからかうように言った。もちろん笑顔で。

 「アン、良かったね」

 「良かった良かった」

 私はアヤノとリサが何を言いたいのかあまり理解できなかった。良かったとだけ言われても・・・・・・。無駄死にしなくて良かったね、なのかラブラブなレイにからかわれて良かったね、なのか。一番目であることを願う。でも二人の笑顔を見るとどっちのことを言っているのかすぐに分かった。まずラブラブじゃないし。

 「何それ」

 私は目を細めて二人を睨む。二人はそんな私を見て分かっちゃった? と口パクする。本当に止めてほしい。この誤報がシランに耳に入ったら・・・・・・? 考えただけでぞっとする。

 「学校にみんなには姿を見せないでね。オルノスってのは国家秘密なんだから」

 国家秘密。そんな言葉が私にのしかかる。重すぎる。国家秘密ってこんな私が知っていいのだろうか。それに軽々しく教えてきたシランはどうかしてる。

 「「「「「え!?」」」」」

 全員一斉に驚きの声を漏らす。当然だ。

 「では、どうやってアガインと戦えば・・・・・・」

 ユウヤはぼそりと呟いた。

 「んー。何か弾とかで気を引いてみるとかかしら。任せるわ」

 「考えるのも面倒くさいからそれにしよう」

 私は無理やり決定する。悩んでる暇なんかないのだ。早くみんなを恐怖から引きずり出さなければ。

 「爆発弾!」

 私は自殺するためにセットしていた爆発弾を撃つ。ピューッ、と音を立てて飛んでいく。アガインの尻に命中。

 「プッ。どこにあててるのやら」

 レイは軽く吹き出していた。笑い方がかわいい。そして目を細めたのも。こんなにも大人っぽいレイの違う一面が見れて何か嬉しい。

 「アン!」

 「狙っただろー」

 アヤノとリサからお叱りを受ける。さすがに反省します。

 轟音。アガインのお尻が爆発する。どうやら爆発弾は着弾してから爆発するまで少し時間がかかるらしい。

 狙い通りアガインは立ち上がると私たちに向き直し、右足を引く。また飛んでくる気だろう。

 「飛んでくる。校門横に回避」

 ユウヤは珍しくしっかりとした力強い感じで話した。しかも指示が早い。さらにさらに無駄な言葉が一つも無い。司令塔に向いているのかもしれない。

 私は校門の横へ走ると、レイがいた。学校を正面から見た時の左側にアヤノとリサとユウヤがいる。右側には私とレイ。二人だと変に緊張する。こんなの私じゃないと思う。私は今までかっこいいやかわいいと思った男子には難なく話しかけられた。今はまるで別人。次の行動どうする? とも聞けない。そういえば今まで私からレイに話しかけたことはあっただろうか。あっても少ない気がする。

 「次の行動どうする?」

 私が聞こうとしていたことを聞かれて驚いてしまう。

 私が口を開きかけた瞬間、アガインが校門をものすごい勢いで飛んで行った。空を切る音が大きい。そのせいで私の意見はアガインと同じく飛んでいった。

 レイは絶対聞き取れなかったはずなのに聞き返しもしない。気を使っているのだろうか。

 「教官! 三人は!」

 レイが私の横を駆けて行く。教官に対して叫んでいた。そんなに酷いことでもあったのだろうか。

 「三人は今エネルギー量が急低下中。このままだと・・・・・・」

 エネルギー量が急低下中ってあまり良いことじゃないんじゃ・・・・・・。嫌な予感が生まれる。三人はアガインに傷を負わされたのではないか。どうかは分からない。まだ怖くて振り向いてもないし教官もここに来てもったいぶってる。

 「何があった・・・・・・、の?」

 私は怖さを振り払って振り返る。そこには髪を乱し、地面に倒れているアヤノとリサの姿。そしてレイに体を支えられているユウヤ。三人とも死ぬの? そんなの嫌だ! 絶対に嫌!

 「教官! もったいぶらないで! 三人は大丈夫なの?」

 「死亡率、六十パーセント・・・・・・。あと三十分以内に治療をしなければ三人とはさよならよ」

 六十パーセント。あまりにも高すぎる確率が胸に重くのしかかる。でもオルノスってすごい組織でしょ? 医者なんて余るほどいるんじゃ。

 「オルノスに医者は?」

 「私だけよ。私は今そっちに向かってる。アン、あなたは三人を連れてきて。今来た道を戻って」

 シランはやけに冷静だった。悲しいからだろう。私だって悲しい。レイがユウヤの名前を何度も叫んでいる。私は三人を運ばなきゃ。

 「レイ、私は三人を教官のところへ連れていく。レイ一人にアガインお願いできる?」

 「分かった。頼むよ」

 レイの声は掠れていたがしっかりとしていた。目はいつになく力強く、私に頼んだぞ、と言っているようであった。レイにはアガインを倒せる自信があるのだろうか。

 「運ぶものは・・・・・・」

 「引きずっていいわよ。戦闘服を着てるから」

 私は返事などせずに三人の手を六本まとめて持った。三人はとても苦しそうだった。常に唸っており、戦闘服の所々は紫色に染まっていた。

 「三人の見た目に変わりはない?」

 私は必死に三人を引きずりながら答える。

 「え? 戦闘服が所々紫色なくらいかな」

 「それは・・・・・・。急がなきゃ。軽く説明するわ」

 「三人が食らったのはたぶん腐食性のあるビームね。腐食性の腐は腐るっていう字。三人の体は今もどんどん腐っているの。一分一秒無駄にはできないわ。一センチでも多く引きずってちょうだい。ふふふ」

 こんな状況でもシランは笑った。やっぱりシランはすごい。医者でもあるんでしょ? 頭いいんだろうなー。なんて考えてられてる私もすごかったりする?

 「うおーーーーーーっ」

 誰の声だろうか。何というかすごく怒っているような声だ。

 黒い影が私の目の前を高速で通り過ぎる。少し黄色もある。誰かが分かると、私は驚きを隠せず声を上げてしまう。

 レイだ。目を見て分かった。さっきまで力強かった目は鋭くなっていて、血走っていった。あんなにも優しく静かな感じからは想像もできない姿だ。

 その時レイは全力でアガインに向かっていた。彼の心には怒りしかなく、早くアガインにその怒りをぶつけたい一心であった。

 彼は「共鳴」という現象を起こしていた。「共鳴」とはある感情が最高に達すると起こる。その時のレイであれば「怒り」である。効果は身体能力の大幅アップに、弾の弾速、威力アップなど数々ある。

 「絶対に殺す。アガイン!」

 無線からそんな声が聞こえてきた。本当にレイなのだろうか? レイの口から殺すだなんて。信じられない。人は誰しも怒るとこうなるのだろうか? 

 「車、見えたかしら? 引きずるのは止めて三人を荷台に運ぶ準備をしてて」

 今気づいたがキャノンが無い。置いてきてしまったようだ。

 車が見えた。

 「三人共、聞こえる? 今教官が来たから大丈夫。アガインは私とレイで倒すから安心して」

 聞こえているか分からないが、少しでも三人を安心させたかったので言った。一番安心してるのは私かもしれないけれど。校門から何メートルだろうか。相当頑張ったと思う。そんな私よりも三人のほうが何倍も頑張っていたけれど。

 車が止まった。今回はしっかりと間を開けている。

 「さっ、荷台に乗せて。早く」

 戦闘服のおかげで三人の体は軽く感じられた。一分ほどで乗せることができた。

 涙がポロリ。地面に落ちた。私泣いてる? 何で? もうシランがいるから大丈夫なのに。

 「教官、お願い。三人を死なせないでね」

 私は涙でびちょびちょ、泣いててくしゃくしゃな顔でシランにお願いした。

 「もちろんよ。泣かないの。ほら、私も泣けてきちゃったじゃない」

 シランは涙目になりながら笑った。無理に笑ったに違いない。私を安心させるためだろう。

 私は猛スピードで商店街を進むシランの車を眺め、もう一度泣いた。

                                               

 

 

 

 

 


 

いかがだったでしょうか。アンたちに何があったのか、じっくり書かせてもらいました。少し雑な切り方ですがご了承ください。これからも投稿していきますのでよろしくお願いします。

 最後に。読んでくださった方に史上最大級の感謝を。

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