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新入部員と新人マスター

「今日放課後、一緒に行っても良いですかね?」


 朝一番に慧流乃にそう言われて、深聡はコクリと頷いた……頷いてしまった。

 今、目の前では濃紺の髪を揺らした少女が鼻歌にスキップでもしそうな勢いで、上機嫌で歩いている。

 深聡も決して背の高い方では無いが、この少女は輪をかけて低い。

 身長の事もそうであるが、何と言うか、精神的な物も含めて、全体的に“幼い”感じかする。

 だからだろうか? 警戒心が薄い……と言うか、無邪気……と感じるのは……


「……ふぅ……」

「? 大丈夫ですかぁ?」


 深聡の溜め息に、少女が振り返って尋ねて来る。

 悪い娘では無い……それは分かる……だが……


(苦手な……タイプですね……)


 深聡は、そう思う。

 正直に言えば、深聡は人付き合いがあまり得意ではない。

 いわゆる、当たり障りのない対応と言う物は出来る……しかし、親しい付き合いと言うと、どうしたら良いか分からなくなるのだ。

 誤解を恐れず言えば、深聡には自分が美少女でああるという自覚がある。

 それは、今まで生きてきた経験からも明らかであったし、その事での自惚れはない。

 その事をふまえた上で、他者が自分の美貌目当てで近づいてくる事にも有る程度の理解があった。

 羨望、嫉妬、その為に巻き込まれた不要ないざこざも、それなりに……ある。


 …………それこそ、去年の事だって、原因はそこにあったのだし…………


 そもそも、当たり障りのない対応と言うのは、その為の処世術なのだ。

 世の中“自己表現をハッキリ行えるお人好し”を悪し様に語れる人間は、存外少ないのである。

 だからこそか、逆に深聡は、自身の深層を他人に晒す事が苦手になっていた。

 慧流乃と言う人物が、表裏のない素直な少女である事は、短い付き合いではあるが、理解出来ている。

 これだけ“見ているだけで、考えている事が手に取る様に分かる人物”というのも珍しいと思う……もっとも、少々中身は幼い様に思うが……


(自分とは正反対の性格ですね……)


 そう思う。

 正反対……だからこそ、自分はこの少女が苦手なのかも知れない……

 もう一度言おう。悪い子ではないとは思っている、しかし、苦手なタイプなのだ。

 だからこそ……


(どうやらこの娘は、このまま現代遊戯研究部に入るつもりかも知れません……)


 そう思って、少々気が重くなったとしても、仕方ない事なのかもしれない。







 部室の前に着いた時、まだ誰もそこには居なかった。

 当然、鍵など開いている訳も無く、二人は廊下で待たされる事になったのだが………


「……………………」


(……何か……話をした方が良いのでしょうか……?)


 慧流乃の方は大して気にしていない様子であったが、チラリと隣でスマホを弄る彼女を見て、深聡はそう思った。

 正直、彼女が積極的に、この部に入る理由を想像する事が出来なかったのだ。

 若干、アガリ症で、運動神経こそ壊滅的ではあるが、性格が前向きで明るい彼女は、その様相も相まってクラスのマスコットとしての地位を確立していた。

 今まで、部活に入る事も無く、ゲームが趣味だと聞いた事もない……

 その彼女が、何故突然、部に入ろうと思ったのか?

 それに……彼女を連れて来たのは“あの”御門 公士である。

 また自分の時と同じ様に(・・・・・・・・・)、余計な事を仕出かしたのでは無いか……? と言う、不安がどうしても拭えないのだ。

 彼が行動した結果、彼女が現代遊戯研究部(この部)に興味を持ったのであれば、そのこと自体は悪い事ではない。

 深聡自身も、今は(・・)、この部でTRPGに興じる事が好きだから、活動を続けて居る。

 しかし、元はと言えば………深聡の頬に朱色が差す。


(ああっ、もうっ! 人をイライラさせる事が好きな男ですね! まったく!)


 全くの冤罪なのだが、深聡的には、そう言う結論で落ち着いた。






「あ、御門先輩! おはようごじゃ……います……」


 部室に公士が着いた開扉一番、そんな声が響いた。


「……おはよう、氷上さん………」

「あ、オージ来たね?」

「遅いですよ? 公士君!」

「……まだ、一望も渚さんも来てないよね?」


 部室内を見回し、公士は深聡にそう言った。部室の中では紗雪、深聡、慧流乃の3人が机を付き合わせて談笑をしている所……にみえた。


「オージ! オージ! これ見て!!」


 やけに明るい感じで、紗雪が公士に何かの用紙を見せてくる。


「………氷上さんの入部届け?」

「そう!」

「はい! 御門先輩! これで、慧流乃も御門先輩の後輩です!!」

「そう、これからよろしく!」


 微笑んで、右手を慧流乃の方に向かって差し出す。慧流乃は両手で公士の手を掴むと、ぶんぶんと大きく振り回した。


「よし! じゃぁ! おね~ちゃんは早速、これ、先生に届けてくるから!!」


 言うが早いか、紗雪は部室から飛び出していく。紗雪の姿が完全に見えなくなるのと、一望と百合恵が部室に入ってくるのは、丁度、同じタイミングだった。


「え? 何? 紗雪先輩?」

「部長……何か嬉しそうだったねぇ?」

「おはよう………二人一緒?」

「うん、そこで会ってね」

「あ、氷上……ちゃん? おはよ~」


 部室内に慧流乃の姿を見つけ、百合恵が挨拶をする……と、何かに気が付いた様にニコっと笑う。そんな百合恵を一望は一瞬不思議そうに見ていたが、すぐに慧流乃を見る。


「もしかして、入部したの?」

「はい!!」


 慧流乃はハッキリと、そう答えた。






「えーと、じゃ、経験値は1人32点……だね……」


 付き合わせた机で、前回の経験値の計算をし、合計点を出す。

 席順はいつも不順の為、基本的には昨日とは違っているのだが、昨日と同じ場所に座っている人物がいる。

 深聡はチラリとその人物を見た。

 昨日と同じ、GM……公士の隣で足をプラプラとさせている少女を……

 理屈は分かる、前回のシナリオに参加していた訳ではないのだから、今行っているアフタープレイに、自分達と同じように参加する事は確かに出来ないだろう。

 それに、新入部員としてTRPGを理解する為には、GMに聞くのが早いのも確かな事だ。

 しかし……何か割り切れない感じがするのもまた、確かであった。


「じゃ、どうしようか?」

「え?」


 計算が終わり経験値が出た後、紗雪が公士に、そう切り出した。


「1人、増えたでしょ? このまま新規でキャラ増やす? それとも………」

「あー。そうだね……どうしようか……」


 公士が慧流乃を見る。慧流乃は暫くキョトンとしていたが、じっと見られている事に落ち着きを無くし、キョロキョロと周りに視線を泳がす。


(まだレベル差が無い内だったら、平気かも知れないけど……)


 公士は考える。当たり前の事だが、キャラクターにレベルの差はなくとも、プレイヤーとしての経験、特に[WEOZ]と言うシステムやその世界観に対するに対する理解度は、圧倒的に慧流乃は低い。

 今回はただでさえ、4人でのパーティーを前提として、キャラクターを作っている。そう言った場合、5人目として作られるメンバーは、他のキャラクターの能力を補う様に作るか、完全なる狂言回しとして振る舞うかのどちらかしかない。

 しかし、どちらにしても、プレイヤーの方に相応の能力が無ければ難しいのは確かである。


「新規で作って貰おうかな?」

「あれ? もしかして新しいサプリ、買ったの?」

「あー、それは今日、見てこようかと……」

「えー!! それも有っての、新規かと思ったのに……」


 公士の返答に文句を言う一望。


「……!!」

「?」


 その時、百合恵が何かを思い付いた様に、自分の鞄に駆け寄り、何かを出して来た。


「おや? ユリユリ…」

「あら?」

「ああ、ルールブック、買ったんだね渚さん」


 皆の声に「エヘヘ」とはにかむ百合恵。


「それでね? 公士くん!」

「?」

「あの、わたし……GMをやってみたいんだけど……駄目かな?」

「いや、そんな事は無いよ? むしろ大歓迎だよ!」

「お? ユリユリ、GMデビューかね?」


 少し浮かれぎみの百合恵に深聡が言う。


「……あの、渚先輩……失礼ですが、死霊やゾンビ等の(エネミー)は、お使いになれますか?」


 その言葉に、百合恵の動きがピタリと止まり、次いでギギギギギと音がしそうな動きで、深聡を見る。

 そして……


「ダ、ダイジョウブ、ガンバルヨォ?」


 と、青い顔で口から魂をハミ出させながら、涙目で言った。

 それを見た部員達は……


(((((あ、無理だな)))))


 と、そう思った。







「別に、死霊系のモンスターを必ず使わなければ成らないて、ルールがある訳じゃ無いしね」

「だ、だよね? だよね?」


 公士の言葉に、コクコクと頷く百合恵。


(ホントに苦手なんだなぁ)


 結局、プレイヤーの適性人数が4人であった事もあって、GM百合恵、サブGM公士、プレイヤー紗雪、一望、深聡、慧流乃の4人で、サプリメント付属のサンプルシナリオを行う事になった。

 ルールブック付属のサンプルシナリオの方は、公士がGMの時にプレイをしていた為、サプリを使う事にしたのだが、公士としては、同じシナリオで別のGMだった場合に、どれほど進行が変わるか見たかった為に、ルールブック付属のサンプルシナリオをやって貰いたいと思ったのだが………

 それは、同じシナリオでGMをして、腕の違いを比べられる事を嫌がった百合恵と「知ってるシナリオではでは面白くない!」と言う、主に紗雪の意見で却下されたのだ。

 ともあれ、取りあえずは新規でプレイヤーを作らなくては成らない。

 だが、4人のプレイヤーの内、慧流乃は全くの初心者である。

 ただ、昨日、実際にプレイの様子を見ていて、ゲーム中どのように振る舞えば良いかは、大体理解しているという。ならば、ここは、システムの…特に【判定】のおさらいと、世界観について、説明をすれば良いだろう……と言う事で公士と紗雪の意見が一致した。


「じゃ、世界観……と言うか、ゲーム観? の辺りから説明しようか……渚さん、良い?」

「ふぇ? わ……わたし?」

「ユリユリ……GMやるんだよね? なら、おさらいみたいなつもりで……さ、ね?」

「は、はい!」


 百合恵に目の前は真っ白になっていた。今まで、このメンバーの中で発言する時に、緊張をする事など……まぁ、初めのプレイの数回程度は有ったが、最近は慣れもあり、緊張したという記憶もない。

 確かに、今日は1名、馴染みのない相手はいるが、改めて人の目の前で話す……となった時、こんなに緊張するとは思っても見なかった。


「百合恵? 大丈夫?」

「ふあい?」

「渚先輩……風原部長も仰っておりましたが、確認のつもりで……」

「う、うん!」


 そんな百合恵の様子を慧流乃も心配そうに見る。


『後輩を不安がらせちゃ駄目だよねえ……』


 そうは思えども、簡単に治まる物でもない。百合恵は数度、深呼吸をする。


「渚さん、もうちょっとゆっくり吸って、長ーく吐いてみようか……」


 公士の言葉に追従する……と、先程より落ち着いた気がした。


「公士くん! ありがとう!!」


 百合恵は公士にお礼を言うと、ルールブックを読み始めた。


「エリュドナと呼ばれる世界がある、この世界は10柱の神々、大地の神[デュレイド]、大海の神[セリュネ]、森林の神[フォモル]、火山の神[アグルガニ]、雷の神………………」


……………………………………………………………………………………


「…………………そうして、勇者達と神々の力により、魔界へと続く通路の数々は封印され、世界には平穏が戻りました。ただ、この封印のとき、その核となった10柱の神々はこの世界から居なくなり、魔界側から封印を行った半数の勇者のは、そのまま魔界に取り残されてしまったのですが………」


 慧流乃がフムフムと頷く。


「えーとぉ、ここまでが、この世界の成り立ちかな? で、この封印なんだけど、決して完璧では無かったんだって」

「そうなんでし……すか?」

「……うん。その、封印の僅かな綻びから出てくる、魔界の住人とかがいて、そう言った魔界の住人が“魔人”、封印から漏れだした“障気”が、凝り固まって生まれるのが“魔物”、その障気によって変質した、動植物が“魔獣”。で、そう言った封印は、地海空に無数にあって、その周辺は“障気溜まり”が出来ていて、そう言った敵の数が多くなっているの」

「はぁ~」

「で、プレイヤーは、その勇者達の子孫となって、封印の強化を依頼されたり、敵を退けたりするのがゲームの目的かな?」

「子孫なんですか?」

「そう、ただ、何代も時を重ねているから、かな~り血は薄まっているそうなんだどねぇ。でも、まだプレイヤー達は、神々の使っていた【神具】の力の一部を借り受けて使う事が出来るそうで……それが【神呪】なんだよ」

「え? 呪いなんですか?」

「う~ん、実は【神呪】は、魔王や、力のある魔人も使う事が出来るんだけど……」


 百合恵が、公士をチラリと見る。当然だが、ルールブックに、呼び方の由来など書いてはいない……公士は少し考えると、こう言った。


「まぁ、呪い(のろい)……というか(しゅ)呪い(まじない)と捉えて、神々の持っていた道具の力を引っ張り出す技術を持っている、と思った方が良いかな? 特にPCは、勇者の血が混じっているから、本能的に習得してる……みたいな……」

「成る程……」


 どうやら、納得してくれたらしい。ホッとして、百合恵が説明を再開する。


「え~っと、じゃぁ【判定】のやり方かな?」

【えと、【上方ロール】……でしたっけ……」

「そう! PCの【能力値】に、2個のダイスの出目を足して、その合計が【難易度】の数字以上だったら成功! それで、この時【判定】に関係有る【スキル】を持っていたら、その【スキル】のレベルも【達成値】……【能力値】と出目の合計に足せるの!」


 百合恵が嬉しそうに言う。


「で、もう一つが【対抗ロール】……どちらかって言うと、振り合いって言う方が多いかな?」

「そうだね」

「振り合い……ですか?」

「うん! だいたい、敵との戦闘で行うかなぁ……お互いにダイスを振って【達成値】を比べ合うの……で、大きい方が勝ち」

「引き分けだとどうなるんですか?」


 慧流乃が尋ねる。


「え~と、“受動側有利”だっけ?」

「うん、戦闘なら防御側が必ず勝つね」

「成る程……」

「え~と、後は……」

「後は、プレイしながらの方が分かり易いと思うよ?」

「うん、そうだねぇ!」

「わかりましゅ……ました」

「………」


 一瞬の沈黙の後、百合恵が宣言する。


「じゃぁ、キャラクターメイク……しましょうか……?」


「「「「はーい」」」」

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