刑事は苦悩し探偵は笑う
後書きは懺悔室
青山は悩んでいた。あの少年の過去を他の人に教えてよいのだろうか、と。理由はたくさんある。事件との関係はあまり無さそうだから、とか可哀想だから、とか青山が思っているのは事実だが、明らかに上の態度がおかしいのだ。
明らかに圧力をかけてこの事件や神山霊示に関する記録を消そうとしている。だから青山は今、本当に信頼できる人物と会う約束をしていた。
「遅れてすまないな、ちょっと依頼があってな」
声を掛けてきたのが約束していた信頼の置ける人物。ただ、彼には少し問題があった。
「いや、構わないよ。そして改めて、久しぶりだな怜人」
「おう、久しぶりだな一」
男は軽薄そうに笑う。男は身長の割に細身で、どこかぼんやりとした感じだ。
「んで、刑事の青山が探偵の俺なんぞになんてご用件で?」
彼の名は柴崎怜人。天才心理学者になれる道を捨てて探偵になった変人だ。(もっとも、本人はとても満足しているが)
「実は、お前にどうしても頼みたいことがあるんだ」
「なるほど。警察に頼らないから内部関連か?俺は警察関係者じゃないし知らんぞ」
完全に推理された。まあ、彼と関わるのならこれくらい慣れているが。
「そうなんだ。だが、少しオカルトっぽいし、何より上が圧力をかけてる。お前、『こういうの』好きだろ?」
「ああ、堪らないね。よし、乗った!」
そう。これが彼の一番の『悪癖』。物事の判断に、何よりも『好奇心』を重視するのだ。
「ありがとう。だが、どう調べるかだな・・・」
怜人は心配いらないと言う。理由を聞いてもただ一言、
「知り合いのツテをちょっと借りるだけさ」
と笑って答えるだけ。誰に?などと聞いてもお前には関係ないと返す。埒があかないので青山が怒っていい加減にしろ、と言うと、怜人は最後に
「上が蓋をしたい理由は分からなくもない。ただ、証拠が問題だからなるべく集めてこい」
結構な無茶を要求して立ち去った。
・・・当然代金は青山が支払わされた。
「さて、誰から訪ねるかなっと」
怜人はポケットから取り出したスマートフォンをいじる。
「まあ、とりあえずこいつからだな」
怜人は電話を掛けるのではなく、なぜか歩き始めた。
しばらく歩くと、とある一軒家にたどり着いた。そこを怜人は堂々と入っていく。そして扉の前に立つと、インターホンを鳴らした。
「どちら様ですか?」
中から男の声が返ってくる。
「ああ、俺だ。怜人だ。情報収集の手伝いが欲しくて来た」
「ああ、そうですか。では、今開けます」
ガチャッという音がして、扉が開く。そこから出てきたのは、細身で肌が不健康に白く、目の下に隈のある男だ。
「悪いな、S」
「いえいえ、本当に悪気の無さそうな胡散臭い笑顔で言われましても」
彼の名はS。本名では無いが彼を知る者からはそう呼ばれている、多くの者では顔や本名を知ることすら叶わぬ天才ハッカーだ。
「それで、どのような情報が欲しいのですか?今なら友人価格で請け負いますよ」
「その友人価格が安かった試し無いんだけどな」
怜人は苦笑する。
「それで、本当にどんな情報が?」
「警察の内部情報。オカルトチックなものと『神山霊示』っていうワードに引っ掛かるヤツを全部」
「神山・・・誰ですかそれ?」
「多分だけど警察が、いや、この日本という一国家が隠したい子供」
「分かりました。それでは明日メールで結果をお送りします」
「了解」
怜人はそう言って立ち去った。
怜人はさらに聞き込みを続ける。高校生やドライバー、記者や医者、果てはエリート自衛官までありとあらゆる人々に聞き込みを行い、自宅兼事務所に帰ったときには午後十一時を過ぎていた。
「はあ、疲れた」
「お疲れ様です」
そう言ってコーヒーを淹れる少女は高校生くらいの、綺麗なロングヘアーで背は平均くらい。大和撫子という言葉がピッタリな少女だ。
「はあ、兄さんのところに帰らなくていいのか?翔子」
「ええ、お父さんは世界中を飛び回ってますので。あ、妹はもう寝てますよ叔父さん」
「ならいい。まあ、早くお前も寝ろよ。俺やSみたいな生活はオススメしない」
「分かりました」
少女は部屋に引っ込んでいった。コーヒーは絶妙な苦みといい香りといい、とてもスーパーで買ってきた豆とは思えない味と香りだ。そのコーヒーを楽しみながら怜人は徹夜で情報をまとめるのだった。
怜人との話が終わった後、青山は警察署に戻ってきていた。そして書類を探していたとき、突如背後から課長に声を掛けられた。
「おい、青山」
「は、はいっ!ど、どういったご用件で」
「・・・少し話がある」
不思議に思いつつも青山は後からついていく。ここだ、という声にその扉を見ると、『署長室』とプレートがある。
「署長が話したいことがあるそうだ。入れ」
大人しく青山は入っていく。入ると即座に扉が閉まり、署長からはただならぬ感じがする。
「どういったご用事ですか?」
青山が尋ねると、初老の署長はとても辛そうな顔をした後、言葉を発した。
「君には、知る権利がある。いや、知らなければいけない。あの少年についての全てを」
「あの、少年?」
青山は神山霊示を思い浮かべる。
「ああ、この国の、この世界の最も深い場所に密接に彼は関わってしまっているのだ。それも生まれながらにな」
青山は驚愕し、同時に少し納得した。元々、あの隠し方はただの子供にしてはおかしかったのだ。
「それでは、魔術というものを君は信じるか?」
「いえ、まったく信じていませんがそれが?」
「それは隠されているだけで実在するのだよ。そして、魔術を使う者、つまり魔術師にとって彼は天敵だ。いや、むしろあらゆるオカルトの天敵とも言えるだろう。いいか、青山巡査。本当にここが引き返せる最後の場所だ。ここから先は聞いたらもう戻れない。今引き返せば日常に居られる。それでも聞くのか?」
青山は暫く返事を返すことが出来なかった。署長がもし嘘を言っていたとしたら、きっと署長は有名俳優かどこかの国のスパイだ。そう思える程署長の表情は真剣で、同時にどこか申し訳なさそうだった。知らぬ間に口が乾いていた。その口で、青山は続けた。
「はい、お願いします」
この時から、『刑事』青山一は普通ではなくなってしまう、という事も覚悟の上だ。署長は物凄く申し訳なさそうな表情で、続けた。
「あの少年は、人であって人でないのだ」
署長の告白が静かに、それでも深く響いた。
まず色々と謝罪を。十話は本当にシリアスブレイクだけですみませんでした!ですが、あれは仕方ないのです。夏休みをほとんど勉強で食われてなにも夏らしいイベントが無かったので、せめて小説だけでも・・・と思ってしまったのです!次からはちゃんとします!