交錯する双子の運命
「・・・って本当!?大丈夫!?」
時刻は午後十時頃、帰宅して扉を開けようとした時、何やら母さんのいつもの数倍以上に大きい話し声が聞こえて来た。
「ただいま。どうしたのお母さん?外まで声聞こえてたよ」
茜が言うと、母さんは青ざめた顔で声を震わせながら言った。
「る、瑠奈ちゃんから、お義父さん家が土砂崩れに遭ってお義父さんたちが行方不明だって・・・」
聞いた途端に俺の頭は全力で動き始め、数秒である否定したい一つの『事実』を弾き出した。
「でも、もし、遺伝が関係するなら・・・」
「どうしたの?」
茜の問いにも答えない。ただ、おそらく顔色は俺の今までの人生16年で最も悪かっただろう。
「ちょっと電話貸して」
無言で頷いた母さんの手から受話器を奪い取った俺は受話器に向かって
「瑠奈、『本当に』土砂崩れなんだな。黒い男を見たりしなかったんだな?」
受話器の向こう側から何で知ってるの?とか、どうして?等の好奇心に満ちた呟きが聞こえる。俺は続けた。
「見たなら後で携帯に電話してくれ。・・・大事な話がある」
瑠奈が何か言う前に俺は通話を切って部屋へ急ぎ足で向かった。
「霊示?」
母さんの不思議そうな声にも今は答えられない。当たってしまっていた。外れて欲しかった。彼女の日常を守るために。けれどそれを嘲笑うみたいに当たっていた。
俺の双子の妹・・・神山瑠奈も
俺と同じ能力者だという推理が。
瑠奈は驚いていた。兄が黒い男の出現を言い当てたことに。ちなみに今居るのは病院で、大声を出したのはしっかり怒られた。
「お兄ちゃん・・・どうして?」
疑問は尽きない。だが、兄の言葉は正しいということは分かる。双子は何かと通じ合うものだ。そして、考えても無駄だと判断して思考を切り上げた瑠奈は、
「まあ、とりあえずシャワー浴びよう」
こんな時に、と思うかもしれないが、瑠奈の体は汗と砂だらけで、女性だけでなく老若男女共通で不快だ、と言うレベルだ。
個室のシャワー室に瑠奈は入る。今の時間は午後十時で、誰も利用しておらずとても静かで、お湯の流れる音だけが響く。
「ふんふんふーん♪」
あまり発達しているとは言えない体のラインに沿ってお湯が流れる。汚れが落ちる心地よい感覚に瑠奈は歌ってしまうくらい喜ぶ。体を流した瑠奈は体を拭くと宍戸に見られたのではない新しい下着を身に付け、買わせた『二着』の内の一着である水色のブラウスにジーンズの動きやすい格好に着替える。するとやはり思った。
「うう、私ってやっぱりスタイル悪いのかなあ?貧乳なのかなあ?」
言葉にする度虚しくなっていく。かなり哀れだ。
「・・・そろそろかけよう」
心が自滅で折れたので霊示に電話をかけると、2コールで電話に出た。
「もしもし、お兄ちゃん。教えてよ本当のこと」
「分かった。ただ、フィクションみたいだし俺も正直よく分からないからな」
「いいよ」
霊示の話は瑠奈にとっては衝撃的でも一応納得できる話だった。そこに瑠奈は疑問を時々挟む。端から見ると、とても理解力の高い双子の会話だろう。ただ、内容が内容だが。
「じゃあ、明日お兄ちゃんの方に行くね。ていうかそっちに住ませて」
「今は住むのは無理だろ。それはまた今度な。でも、来るだけなら大丈夫だ。母さんに伝えとくから」
「うんっ!」
瑠奈はとても上機嫌『そうに』答える。霊示も対応に困った『ように』話を続けた。
電話を切った直後、兄のために隠していたが電話を切って耐え切れなくなってしまった瑠奈は思わず泣き出してしまった。
「うっ、ヒック、うあ、うあああああああん!早く、行きたいよぉ、誰か、おじいちゃん、おばあちゃん、どこなの!?ううううっ」
少女の泣く声が夜の病院に響き渡った。
◇◇◇◇◇
ここは何処だろうか。おそらく日本の何処かだということを表す日本地図以外場所を示す物のない静かでシックな書斎に男は居た。
夜の黒が空を侵略する。そんな比喩を男は思い付き、同時にこれからに相応しいと思った。その男、ハイパーボリアの魔術師エイボンの子孫、黒崎・E・ゼロは。
ゼロは手元の二冊の本を見て笑う。その片方の本の名はアル・アジフ。考古学者の雛岸光一を殺害して手に入れた魔導書。もう片方は彼の先祖の魔術師エイボンが書き残した魔導書、エイボンの書。どちらも原典であり、魔術で保護されている。
ゼロは笑う。あの人の顔を思い浮かべながら。
彼の机の上のリストには英語で何か書かれている。和訳するとこうだ。
『神の力』の能力者
右目・不明
左目・神山瑠奈
右腕・神山霊示
左腕・黒崎・E・ゼロ
右足・メアリー・ブラッド(回収済み)
左足・リリス・アルハザード(行方不明)
敵対者の内能力者
・雛岸桜 『重力』
・神山霊示 『神の右腕』
・神山瑠奈 『神の左目』
など
右足の欄には赤い線で撃墜マークが描かれている。
「どうするのだ」
暗闇から突然声がした。ゼロは大して驚きもせず
「とりあえずあの双子を殺すかな」
そう軽く言った。不敵な笑みをその顔に浮かべて。