目覚める左目
解説回。書くの難しい。
桜が語り始める。
「まず、霊示の持つ神の右腕という存在について触れられている文献についてよ」
「そんなのあるのかよ。ていうか急に口調変わったなオイ」
「ある。それは『アル・アジフ』という魔道書。あと、この口調が素でさっきまでのは部隊のメンバーが居たからしてたの。さっきまでのがよかった?」
「別に素のままでいい。だが、一つ言いたい」
俺は一度区切って堂々と言い切った。
「ある、あじふ?何それおいしいの?」
それを聞いた桜はあからさまに呆れた表情になって時太に話を振った。
「あなたは知ってる?」
「あれ、俺無視?」
時太が頷く。
「ああ、一応。確かアラビア語の本でネクロノミコンって名前が一般的だったかな。でも、それって実在しないはずだろ?クトゥルフ神話はフィクションだし」
よかった。フィクションだった・・・と俺が安堵していると、
「でも、実は実在するのよ」
根底から覆す爆弾発言が投下された。
「嘘だろ・・・」
時太が驚愕の表情で言う。俺は意味が分からず尋ねる。
「え、時太が言ってるのが正しいんじゃないのか?」
「いいえ、違う。あなたの力は実在する原典に記されているの。その話を要約すると、『神の右腕は運命を否定し、運命を破壊する。そしてあらゆる魔を殺す人の身に余る力』と書かれているの。そしてパパはこれを解読したからあいつに殺された・・・」
皆が黙る。それは話せる雰囲気ではなかったからだろう。それは家族を失ったことだから。それに気付いた茜の気遣いから出てきた案によって、改めて俺たちは自己紹介をすることになった。
「ええと、雛岸桜といいます。高一です。一応は『重力』っていう能力持ってます」
あのとんでもない動きは能力だったのかと考えると俺は合点がいった。他はとんでもなく驚いていたが。
俺たちも一通り自己紹介をして、少し打ち解けることができたのかな、と俺は思う。とりあえず家に帰る方法は桜曰く近くの駅から電車でいいらしいので連絡先を交換してから俺たちは駅へ向かった。
「あ、そうそう、魔術の使い方教えるから連絡するね」
・・・果てしなく不安になった。
◇◇◇◇◇
「うう、痛い・・・」
瑠奈は奇跡的に途中で破壊の波から抜け出したのだが、ようやく目覚めた。自分の格好を軽く確認すると、とんでもないことになっていた。顔は大量の砂などが付着しているが、これは拭えばどうにでもなる。
もっと酷いのがワンピースの状態である。左の袖が肩までバッサリ無くなっていて、さらにスカート部分は大きくスリットが入っているみたいで、太股の付け根付近まで見えてしまっていてしゃがんだり座ったりしたら完全に見えてはいけないものまで見えてしまう。
「ああああああっ!?どうしよう絶対アウトだよコレ絶対見えるよ!」
今の瑠奈の姿は完全に男と出会った瞬間即ジ・エンドである。
「うううう服う、どこかないぃ?」
瑠奈は悲しみながら何気無く右の目蓋を拭おうとして、右目を手で隠す形になった。その時、視界が一変した。視界が真っ赤に染まり、さらに人型の白いシルエットや建物と思わしき黒い影まで見えた。しかも、それはまるで上から見下ろしている様な視点だった。見える建物の形から考えて家から大体100m地点までの場所が見渡せた。
「なんなの、なによコレ・・・幻覚?」
だが、右目を隠すことをやめると元の視界が戻ってきた。瑠奈はまだ知るよしも無いが、この目は『魔力映しの左目』と呼ばれる目で、またの名を『神の左目』という特殊能力なのだ。
「病院行った方がいいのかな?それとも警察呼んだ方がいいのかな?」
まあ、病院か、と瑠奈が考えていると、突如緑色のTシャツの少年が駆け寄って来た。
「大丈夫か!?すごい土砂崩れだったけど怪我は?」
「なによ、宍戸、驚かさないでよ」
瑠奈は実は結構ビビリなので飛び跳ねかけたのを無理矢理抑えたのだが、それを隠して不機嫌そうに言った直後、宍戸が顔を赤くして自分の下半身をガン見しているのに気が付き、自分の下半身を見て意味を理解した。そして顔を真っ赤にしてブチ切れた。
「なに見てんのよぉぉぉ!」
ドゴォ!という音が似合いそうな程強い一撃が放たれ、宍戸の鳩尾にクリティカルヒットして一撃で膝を着かせた。
「ゴフッ、悪かったからもう一度殴ろうとするのはお願いやめて!次は死ぬってマジで!でもいくらなんでもこの角度だと見えるんだよし」
「死ね!」
メキャリと豪快な音を立てて乙女の拳が宍戸の顔面にめり込む。重罪を働いた少年は笑顔のまま吹っ飛んだ。
「新しい服買いなさい」
「嫌だ。なんて嘘ですもうやめて下さい買いますから!」
威圧で宍戸の否定を肯定に変えさせて瑠奈は服を手に入れに向かった。
「さあ、覚悟しなさいよ」
兄に似た笑みをその顔に浮かべながら。
今回は解説ばかりだけど次回はもうちょっと物語が進むはず・・・です。