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神殺しの英雄伝  作者: シュモクザメ
Out of the Earth
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襲撃者と潜入者と(中)

 家が謎の襲撃に()った少女、神山瑠奈は、走りながら気付いた。

「やばっ!私の命の次に大事なもの(ハイスペックのゲーマー向けノートPC)を持ち出さなきゃ!」

・・・なんか混乱していた。かなりアホに見えるが、これでも本気なのだ。本当に命の次に大切なのだ。兄、つまり霊示との孤児院時代の大切な思い出のデータが詰まっているから。取りに戻ろうと瑠奈は折角逃げてきた道を走って戻り、家に辿り着き、

「間に合った!」

と声を上げて喜んでパソコンを回収した。

 だが、現実は無慈悲である。爆音が瑠奈の耳に届き、それが近くのマンションが崩れた音だと気付くのに一秒。そしてその直後に瑠奈は破壊の波に呑み込まれた。メキメキと建物が悲鳴を上げる。しかしその破壊の中、瑠奈は目撃した。黒いフードの男が、自分を、より正確には左目をじっと見つめていたことを。だが、それに反応するより兄への気持ちの方が勝り、

「・・・お兄ちゃん、ごめんね」

それだけ言って瑠奈は意識を手放した。兄に思いが届くと願いながら。


 同日 警察署

 青山一は困惑していた。理由は単純。今回の事件の被害者、神山霊示の過去を調べたからだ。

「なんなんだよ・・・あれ」

青山はあのファイルの内容を思い返す。

『神山霊示 1998年生まれ 

六歳の時、火事で両親が死亡。その後、生き残った妹と共に孤児院で十二歳まで生活した。

そして妹は祖父母に預けられ、自身は父親の弟夫婦に引き取られる。なお、両親の死亡以前の記憶は事件のショックが原因で無い。(妹も同様)』

残酷過ぎる、と青山は呟く。

「家族との記憶を奪られるなんて・・・理不尽にも限度があるだろ・・・クソッ、なんで警察は助けられないんだよッ」

青山は思う。刑事として、いや一人の『人間』としてあの少年を救いたいと。結局、彼はどこまでも正義を貫こうとしていた。


 同日

「すげえよ時太!」

 俺はそうはしゃいでいた。まあ、許されるだろう。親友が拳銃で正確に射撃を行ったのだから。すると、陽子が不思議そうな顔で尋ねた。

「ねえ、どこで訓練したの?日本じゃ銃なんて触れない・・・よね?」

最後が疑問形なのは確証が持てなかったからか。すると時太は平然と

「モデルガンでも結構リアルだと安全装置なんかもあるから。ただ反動制御なんかは・・・」

「ああもう分かったから、取り合えず潜入作戦考えよう!」

話が長くなりそうだったから俺は無理矢理話を切った。すると俺の言いたいことに気付いたのか、真面目な表情になった時太は説明を始める。

「よし、作戦は・・・」

作戦会議は数分で終わり、トラックが速度を緩め、そして止まった。

「さあ、こっちから探りに出るぞ!」

俺はそう言って役割通りに外へ出た。

「さあ、楽しいショーを見せてやる」

そう独り言を呟いて俺は武器、Aが持っていたスタンガンを構える。作戦が始まった。


◇◇◇◇◇


 霊示たちを襲った彼らはアジトで休んでいた。

「お嬢」

「ん、なんだ?」

お嬢と呼ばれた黒髪のポニーテールの女性、と言うより少女と言った方がよさそうな女が反応した。

「本当のことを彼らに言わなくてよろしいのですか?」

「・・・いや、まだいい。まだ明かすべきではない」

少女は少しだけ悩んだ後、きっぱりと言った。

「・・・それがお嬢の考えならば」

 巨漢の質問をした男はそう言って奥へ引っ込んだ。他の男女も散り散りになっていく。誰も居なくなった部屋で少女は扉の方を向いて呟いた。

「さて、そこの『神の右腕』、いい加減出てこい」

「お見通しって訳か?」

俺は堂々と扉を開けて部屋に入る。

「チッ、鬱陶(うっとう)しい男だ。で、用件は何だ?潜入までして何がしたい?」

俺は微笑んで言葉を紡ぐ。但し心の中では怯えているのだが。

「俺の力の効力とテメェらの目的を聞くことだ」

すると少女は微笑んで

「嫌だ」

「言え」

「嫌だ」

「言え」

「嫌だ」

「言え」

・・・・このまま五分位続いたので割愛するが俺も少女も完全に息切れしていた。

「ハァ、ハァ、いい加、減、言え」

「・・やる、な、貴様、も、だが、嫌、だ」

そんな結構ショボい争いをしていると扉が開き、

「やあ、二人とも楽しんでる?」

あの黒い男が現れた。途端に俺と少女は戦いの構えを取る。俺はケンカで身に付けたどんな格闘技とも違う構えで、少女は有り得ないことに背負っていたリュックからロングソード(勿論銃刀法違反)を取り出して構えた。

「おいおい物騒だな。別に君たちを殺しに来た訳じゃあない。ただ話しに来たんだ」

勿論二人とも気を抜かず構えを続ける。男はそれを嘲笑って

「話しは聞こうよ。僕は暴力反対だよ」

どの口が、と少女は吐き捨てた。

「ああ、誰かと思ったら雛岸(ひなぎし)の娘さんか。随分大きくなったね」

「うるさい!私は雛岸桜(ひなぎしさくら)!ちゃんと名前位知れ人殺し!」

少女、いや桜は男を睨み付け続けている。すると男はやけに暢気(のんき)に言う。

「さて、霊示君が飽きている様だから話を進めるよ」

完全に見透かされている。俺は思わず唾を飲み込んだ。桜からなんかジト目で睨まれた。

「まず、霊示君の力だけど名前は『神の右腕』。あらゆる魔の存在の運命を砕く。この力は病院で僕のナイフの魔力を喰った時点で右腕に完全覚醒した。ちなみにその時に魔力を喰う力は消えたよ。そして僕が欲しい存在でもある」

「神の、右腕?そんな名前なのか」

「さあて、疑問も解消できただろうしこれで殺し合えるかな」

「「ッ!?」」

 俺と桜が同時に反応した。

 だが、手遅れだった。男の口が何かを言う様に動いた、と認識した次の瞬間には極太の白い光の帯が迫っていた。

 ヤバい、これは死ぬ。

 そう直感したが、諦め切れず俺は全力で光を殴り付けた。するとあろうことか光がガシャン、と音を立てて『砕けた』。俺と桜の顔は驚愕に染まり、男は舌打ちしたが、生き残る為にと思考を戻して拳を握り武器を取る。

「協力しろ。コイツを殺して逃げるぞ」

桜が言う。

「殺しはナシだけど分かったよ」

片や神の右腕を持つ男子高校生と剣士の少女、片や黒い魔術師。生き残りを賭けた戦いが始まった。

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