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神殺しの英雄伝  作者: シュモクザメ
Out of the Earth
21/29

戦争前夜

 その日、世界の裏側では、臨戦態勢への移行が始まっていた。なお、ここでいう裏側とは、地理的な意味ではなく、もう一つの社会とでもいうべきものなのでご注意を。


◇◇◇◇◇


 イギリスに拠点を置くある魔術結社の魔術師たちはそのボスの話を聞いていた。

 ボスである金髪碧眼の少女は高らかに宣言する。

「諸君、私たちも日本へ向かうぞ!新たな時代を作るために!星の双子に加勢するために!」

「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!」」」」」

 彼らは死地へと進む。英雄の仲間となるために。新たな世界を見るために。


◇◇◇◇◇


 アメリカ軍の機密の一つである特殊部隊、『対魔術部隊』は司令官の演説を聞き終え、輸送船の中で装備の点検を行っていた。

「ついに、か」

 中年の男が拳銃を分解しながらぽつりと呟いた。血気盛んな青年たちは「頑張ろう!」などと声を掛け合っている。彼らの表情は、恐怖と期待がごちゃまぜになったようだ。男も自分の中の高まりを自覚していた。

「楽しませてもらうぞ。ジャパニーズども」

彼は獰猛に笑う。期待を抱いて。


◇◇◇◇◇


 バチカン市国はサン・ピエトロ大聖堂。そこでは魔導議会と呼ばれる組織の長たる十二人のうち、『黒魔術』をつかさどるヨハネスを除く十一人は話し合いを進めていた。

「まずは事実かどうかを確かめるために調査団を送らねばいかんだろう!」

 まるでファンタジーの世界のような、常識の通じない空間で白人の老人、『教皇』が声を荒げる。が、東洋系の美女、『パールヴァティー』は拒絶するかのように首を振る。何故という問いに、彼女は極めて冷静に答える。

「あなたはその危険な役割を日本に近く、それでいてかつてイギリスの植民地であって、魔術での制御が効きやすいわたしの勢力に行わせるつもりなのでしょう。それだけは許しません。わたしのかわいい信者たちが危険にさらされるなどあってはなりません」

「しかし、それでは時間が・・・他の勢力、例えば我々拝火教などでは他の勢力に先をこされてしまいます!」

 と、ペルシャ系の青年が応ずる。きっとこの議論は延々と続くであろう。それを嫌ってか、日本人の弱冠十八歳の少女である『巫女』が切り出した。

「はいはい。もうあたしたち『神道』がやればいいんでしょう?直接言える関係じゃないからってめんどいなあ。ていうか、もうやったよ。あんたらとあたしは違うからね。そして、紛れもない事実だよ。アナザー・セフィロトは確かにあった。きっとクソッタレの破壊神サマが管理者を潰そうとしてるよ・・・世界ごと、ね」

 動揺が広がる。最後に、『預言者』はこう締めくくった。

「それでは、他の勢力には手出しをさせないようにしましょう。我々魔導議会が権力を保ち続けるために」

 これに殆どの者は同意の意思を表した。

 唯一、巫女を除いて。


◇◇◇◇◇


 日本、東京都。

「ごめんね、お母さん。ちょっと帰れないかも。でも、大丈夫だよ。あたしはあたしの意思でそこに立つから」

 茜は伝言を残して、ある場所へと向かう。そこは、彼女が家族を守るために必要なことを助けてくれた人物の拠点だ。東京西部のとある神社。そこに、彼女はあることを確認しに行った。

 そこは大きめの神社で、祭っているのは天照大神あまてらすおおみかみだ。もっとも、伊勢神宮などよりもはるかに寂れているが。そこでは、巫女や神主たちが大幣などをせわしなく準備している。彼女はその光景に満足して、少し笑った。


◇◇◇◇◇


 妹である少女は泣いていた。姉と兄の悲しすぎる運命に。

 戦士である少女は悔やんでいた。少年に絶望を背負わせてしまったことを。

 語り手である少女は記していた。少年の軌跡を。彼の喜びと悲しみを。

 神である少女は戒めを解いていた。ディストピアを創らせないために。

 姉である少女は悲しみを心にしまい込んだ。弟や妹を守るため。



 そして、少年はもう一度立ち上がる。大切な人たちを救うために。



「俺は、神にはならない。瑠奈も神にしない。姉ちゃんも助ける。だから、あんたの助けがほしい」

 少年は神に尋ねる。彼女は寂しそうに笑って、答えた。

「ええ、分かったわ。あなたの理想郷ユートピアはそこには存在しないのね。それなら、やはりアナザー・セフィロトにたどり着きなさい。最後の手段であるけれど、神殺しという手が残っているわ。あなたたちと私の力で、彼を、破壊神を殺すのよ。ただ・・・」

 言葉に詰まった彼女の様子から、少年は全てを察して皮肉げに笑った。

「わかった。それでみんなが救われるなら、俺は神様たちと心中してやるよ。幸いにもあんたはかわいいからな。死後も美少女と関われるなら儲けものだよ」

 その強がりに込められた義務感と責任の十字架、そして当たり前の恐怖に彼女は気付いていないかのように振る舞う。そうでなければ彼は折れてしまう。それでも、本当にやらねばならぬのか。

「本当に、いいの?あなたには逃げるという選択肢だってある。この際、私があなたとその大切な人たちを異世界に逃がすっていうのも構わないのよ。それでも、あなたは自分が犠牲になる道を選ぶの?」

 彼女は彼に生きてほしいと願っている。平穏を望んでも構わないと思っている。

「いや、だめだ。それじゃあ何も変わらない。俺はこの世界が嫌いだけど、大好きだ。それに、あいつらに罪を背負わせたくないんだよ」

 その声に、彼女は悲しいものを感じた。おそらく、彼はどれだけ怖くても前に進み続けるのであろう。それはまさに英雄のそれだ。ただ、悲しい覚悟だけがそこにある。後の者たちは彼をたたえるのであろう。彼の本当の気持ちなど考えずに。


 英雄とは、悲しい存在である。本当の意思は理解されず、どこかの誰かのために利用され続けるのだから。彼ら彼女らは世界のための『生贄』である。世界があり続けるために、死後の尊厳すら犯されるのだ。


 彼はおそらくそうなるのだろう。世界を救った英雄として、死後も利用され続けるのだろう。彼女は願う。彼に安らかな終わりを。


◇◇◇◇◇


 ゼロは一人、『それ』を見上げていた。

「大きいなあ。これが本当に先生が破壊神と共に作り上げたものなのか。霊示くんと瑠奈ちゃんはどう壊すんだろうかなあ。楽しみだ」


 彼が見上げているのは、この世にあってはならぬ存在だ。その名はアナザー・セフィロトツリー。天空へと続く、尋常ならざる石の塔だ。その頂点は地球の大気圏を越えているだろう。そこで彼は待っていることを、戦いに参加する誰もが知っていた。


 地球を滅ぼす破壊神が地球の外側で待っていることを。

時間がかかった割に非常に短くて申し訳ございません。色々事情があるので、こうなってしまうこともあるのです。次回もおそらく遅くなります。本当に申し訳ございません。

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