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神殺しの英雄伝  作者: シュモクザメ
Out of the Earth
20/29

姉と神様

三月は忙しく、四月も環境が一変して生活リズムが崩壊したりして時間がかかってしまいました。ただ、伏線はもう準備しきってあるので、あとは回収だけです。

 そこには、ゼロが立っていた。その体は間違いなくボロボロで、本来立っていることすら困難なはずなのに。

「・・・俺を、殺しに来たのか?」

 俺は問う。

「さて、どうだろうね」

 ゼロは懐に手を入れて、何かを取り出そうとしている。何であってももう構わないけれども。そして、引き抜かれたその手にはバタフライナイフが握られている。

ああ、それでいい。それでいいんだ。

「殺したければ好きにしてくれて構わない」

 俺はそう絞り出した。

 そう。俺は死ねばいいんだ。奪ったものを返すのは当たり前のことだろう。たとえそこに俺の意思などなかったとしても。なのに、なぜか俺の体は震えている。生きたいと渇望している。こんなところでは死にたくないともがいている。

「おいおい、よしてくれよ。僕はそんな震える君を殺しに来た訳じゃない。君が真実を知ったのは分かるけれど、もう過ぎたことだから気にしなくていい」

 ゼロは、呆れたとでも言わんばかりにため息をついた。そして、俺が理解できずに固まっていると、理由を聞かせてくれた。

「そもそも、僕の目的は君を殺すことではないんだよ」

「じゃあ、何なんだ・・・?」

「それは、僕の口から言えることではないかな。と、長居しすぎたな。もう来たか」

「?」

 かなり抑えられ、僅かにしか聞こえないが、俺にははっきりと『足音』であると理解できた。俺とゼロは同時に振り返る。そこにいたのは銃を構えた数人の男女。

「霊示・・・君がなぜそいつと一緒に!?」

 その声に俺は驚いた。だってそれは慣れ親しんだ親友の声だから。

「時太!?お前こそ何でそんな物騒なモン向けてんだよ!?」

「それはそこにいるクソ野郎を殺すためだよ」

 時太は淡々と告げる。その間も構えられた拳銃は的確にゼロの頭に狙いを定めたままだ。

「へえ、あのナイフ持ったひょろっちい野郎がサクラとトキタの復讐相手なのね。あんなのが本当に強いのかしら?まあ、あたしは金の分の仕事はするけど」

 金髪で巨乳な少女が拳銃を構え、胸を揺らしながら言う。普段なら思いっ切り興奮すると思うけど、恐怖の方が遥かに強いので、普段通りはまあ無理だろう。

「待って。私が首をねる」

 聞こえたのは夏の戦いの中で出会った少女の、冷たくて硬質な声。迫ってくる気配は、この不運な夏休みでも一、二を争うほど恐ろしい。

「やめろ!そんな方法!」

 俺は彼女を説得しようと一歩前へと進み出る。しかし、銃口を突き付けられて威嚇される。友達であったことが嘘のようだ。その姿は俺に『処刑人』というイメージを与えた。

「うるさいわね。あなたにも関係あるのよ?」

「おい、どういうことだ?」

 俺は思わず聞き返した。途端に桜は呆れた様子になる。

「まさか、知らなかったの?」

「だから何をだよ!」

 処刑人のような表情で彼女は告げた。


「あなたの家族を殺したのもこいつよ」


「え?」

 思わず間抜けな声が漏れた。その瞬間、俺の心の奥底で何かが目を覚ました。

 ありえない速度で右手がゼロの襟を掴んだ。

「っ!?」

 ゼロは驚愕した。まあ、当然だろう。だって、俺はこんな動きをしたことはないからな。俺だってこんな動きはできないと思っていたし。だが、実際やってみると案外できるものなんだ。

 って、そんな訳ねえよ!

 ありえない。

 俺は訓練などしていない素人だ。

「ぐうっ!」

 背中から叩き付けられてゼロは苦悶の声を漏らした。

「おい、それは本当か!?」

 俺はゼロに問う。それにゼロは口を皮肉っぽく歪めて言う。

「残念だったね。それだけは間違いだよ。僕はってない」

「嘘よ!そんな男に騙されないで!」

 桜はそう声を張り上げる。だが、俺はそれが嘘ではないことを確信していた。少なくとも、嘘をついている人間の表情ではない。それがわかって力を緩める。

「信じてもらえて何よりだよ」

 ゼロはやはり皮肉っぽく笑う。

「霊示!そいつに惑わされないで!」

「君は同じことしか言えないのか?」

 ゼロの挑発に耐え切れずに桜は抜刀した。

「やめろ!」

 最悪の事態だけは防がなければいけない。俺は二人の間に進み出る。


その時、足音がした。

その場にいた全員がそちらを振り向く。まるでさっきのことを繰り返しているみたいだ。ただ、そこにはいてはいけない人物が立っていた。


「姉ちゃん・・・?」


 茜が立っていた。

「なんで・・・」

 俺は言葉を最後まで続けられなかった。気が付いたときにはすでに茜が懐に飛び込んできていた。

「ごめんね」

 か細い声を聞いた直後、視界が反転した。投げられたということにすぐには気付けなかった。茜から・・姉とも呼べる人から攻撃されるなんて微塵も考えていなかった。叩き付けられた痛みに思わずうめく。

「うぐっ・・・」

「ごめんね」

 茜が何かを俺の首筋に当てた。注射器だ。

「何なんだよそれ・・・答えてくれよ姉ちゃんっ!」

「ごめんね霊示。でも、あたしはこうしなきゃいけないんだ。大丈夫。絶対に死なせないから」

 ものすごく辛そうで、それでいて決意を固めたような眼。それは俺の不安を加速させた。茜が遠くへ行ってしまうような気がして。

「大丈夫。『今度は』絶対に守って見せるから」

「今度は・・・?どういう意味だ・・・?」

 痛みが走る。茜が注射器を俺に刺した。薬剤が注入されて、俺の意識は遠のいていく。茜を引き留めなければ。その思いで手を伸ばす。

 でも、届かなかった。届く前に、俺の意識は消えていた。


 再度、ごめんねと声が聞こえた気がした。


◇◇◇◇◇


 朝の光と微かに残った体温を感じて私は目を覚ました。

 思い出す。私は学校から帰ってすぐにお兄ちゃんのお見舞いに行って、そのまま眠ってしまったのだ。いや、それは重要じゃない。問題は目の前にある。お兄ちゃんがいない。目が覚めてトイレに行った、というような感じではなくて、もっとこう、長い時間がたっているように感じる。私が考えを巡らせていると、病室の扉が開き、銀髪の、日本人とは思えない女の子が現れた。年は私と変わらないくらい。しかも、私なんかよりも明らかにおっぱいが大きくて、(万に一つもないけれど)お兄ちゃんがこの子に夢中だったら、と思って警戒する。しかし彼女は私の心情を知ってか知らずか、私に声をかけてきた。

「あら、ようやく起きたの?あなたはねぼすけさんね」

「誰?」

 デジャヴを感じる、美しい女性の声。この声は・・・

「こっちの世界では初めまして、ね。私はあなたの力の根源たる正真正銘の神よ」

「は?ごめん、ちょっとよくわかんなかった」

「へ?私は神・・・」

「イタい!イタいよ!こっちの世界とか神様とか、全体的にイタいよ!中二病は治してから来てよ!」

「はあっ!?」

「だから初対面でそんな発言されたら誰でもドン引きするって」

「事実よ!?あなたは神を何だと思ってるの!?」

「ネットで見たことあるよ。ニコニコ動画とかで」

「それじゃない!」

「あとは・・・私たちを助けてくれなかった嘘つき」

「・・・」

 少女は押し黙る。キリシタンとかだったらちょっとまずかったかも。でも、それが私が神に対して抱いている印象だ。だって、もしも神様がいるならお父さんとお母さんを助けてくれたはずだよ?私とお兄ちゃんが思い出まで失わずに済んだはずだよ?

 私はあの事件のことをはっきり覚えている。お兄ちゃんはさらにだ。目の前でお父さんが死んでいるから仕方ないのだろうけれど、毎晩その夢を見ているのか、うなされている。10年もの間お兄ちゃんは幻肢痛ファントムペインに苦しみ続けているのに。神様うそつきはお兄ちゃんを助けてくれなかった。

 その点でいえば私だって罪がある。私はたまたまお風呂場にいて、お風呂に入るために服を脱ごうとしていた。その時火事が起きて、私は玄関まで逃げたところで意識を失って、目が覚めたら病院のベッドの上だった。私は何も見ていなくて、両親の顔すら覚えていない。でも、忘れてしまえたのは、見なかったことは幸せなんだと思う。だってお兄ちゃんはいつでもお父さんが焼けていく夢を見てしまうから。

「ごめんなさい」

 少女はぽつりと呟いた。私はその態度に思わず動揺してしまい、いや、とかその、とか意味を成さない言葉しか発することができない。少女は涙を流して語り始める。その光景はまるで童話の中のような非現実めいたものだ。まあ、病室なんていうファンタジー糞喰らえの空間だけど。おっと、あんまりにも汚い言葉を使いすぎるとお兄ちゃんに怒られちゃう。

「・・・私は失敗した。自らの義務を果たせなかった。世界が滅ばないように準備した安全装置は意味を失い、人々の魂に宿った。私は失敗した。世界は終わらされてしまう。ラグナロクやカリ・ユガを人類は乗り越えられなくなってしまった」

「終末論・・・」

 彼女が語っているのは北欧やインドの神話に記された世界の終末。神々の戦争による、『神々の争い故の滅び』と『信仰が失われた故の滅び』。ただ、生き残る存在は存在した・・・はず。でも、彼女ははっきりと『乗り越えられない』と言った。つまり世界はリセットされてしまうのかな。

 そして、さっきはとぼけていたけれど、私は彼女が本物だと確信している。だって、似ているんだもの。

 あの時のお兄ちゃんから感じた気配と。

「ただ、彼はただ終わらせるつもりではないの」

「彼って、その破壊神のこと?」

 彼女はうなずいた。

「彼は自分が新しい管理者になろうとしているの。今度は正真正銘、永遠の世界を作るために。でも、私は認めない。死なない世界なんて」

「・・・そうだね。私も、永遠に変わらないのは嫌だよ。だって、それは死んでいるのと何も変わらない」

 私の言葉に、彼女は満足したようだった。そして、彼女は最後に私に告げる。

「終末を止めるためにあなたたち兄妹きょうだい並行世界パラレルワールドから呼ばれた。だから、あなたたちには方法がある」

「教えて」

 彼女は寂しげに息を吐いて言葉を紡いだ。


「アナザー・セフィロトを起動させなさい」

「あなざーせふぃろと?」

「もう一つのセフィロトの樹ってことよ。セフィロトの樹っていうのは、エデンの園にあった知恵の実と生命の実がなっていた樹のこと。人は知恵の実を食べた。だから足りない生命の実を手に入れて新たな神を作り出すの。それが終末を止める方法。そのためのもう一本のセフィロトの樹があるのよ。それも、すぐ近くに」

「どこなの!?」

「それは・・・」

「どうしたの?」

「・・・あの現場よ」

「?」

「あの火事があった現場。十年前、あなたたちの両親が奪われた、ね」


 私は、呼吸が止まりそうになった。それと同時に、桜ちゃんからの連絡が来た。そこには、お兄ちゃんが茜お姉ちゃんに襲われた、と書かれていた。

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