辿り着いた答え
予定よりも1000文字くらい長くなってしまいました(普段は短めを何度もって感じですしね)。切るタイミングが無くてこうなってしまいました。
同じ頃。青山は怜人とSの二人と調査結果の確認をしていた。場所は怜人の経営する探偵事務所だ。
「やっぱりあの双子は」
「ああ、間違いないだろうな」
そんな、と青山は何かを堪えるように声を絞り出す。普段ならとても美味しいはずの、怜人の姪の翔子の淹れてくれたコーヒーの味もまともに感じられない。
「どれくらい苦い現実であるかは分かっています。しかし、そこで立ち止まってはそこで終わりです」
Sは言う。
しかし、そうはいっても苦々しげな表情は隠せていない。
青山は、どうすることも出来なくても、それでも思う。
嗚呼、神よ。もしも貴方がいるのなら。どうか我らをお許しください。
子供たちに悉くを押し付けた我々、卑しき大人たちを。
◇◇◇◇◇
さて、もう一度おさらいしよう、と怜人は一人考える。
おかしかったのは、以下の通りだ。
«その1»
なぜ、あの事件は起きたのか。
これは、事故だと断じられた10年前の火事について。この件に関しては、黙殺されていた目撃情報があった。怜人の友人の新聞記者に手伝ってもらい、入手した。それによると、不審な『黒いフードの少年』が目撃されていたとのこと。少年は10歳前後に見えたという。
この情報が黙殺されていたという点から辿り着いた結論はこうだ。
犯人はその少年である。しかし、少年は政府のバカ共にとって重要であった。よって隠蔽された。
ふざけていやがる。怜人はそう思うが、そういったことは後回しにする。
«その2»
なぜ、神山霊示と神山瑠奈の二人が親類に引き取られずに孤児院に入れられたか。
これは、Sの協力で政府と孤児院のサーバを漁ってもらった情報。S曰く、「このセキュリティソフトは私が作ったものがベースですので片手間で十分ですよ」と言っていた。
そして、本当に片手間で手に入れた。
そこに、俺が聞き込みで手に入れた孤児院や親族周辺の情報を組み合わせて考える。
それによると、孤児院には圧力が掛けられていて、なおかつ親類が忙しくなったり、突然病気が『悪化』したりしていて、誰も引き取れなくなってしまい孤児院に入らざるを得なかった。そこから辿り着ける。
政府にとってあの双子は恐ろしく重要な存在だった(今もそうである可能性は高いが)。よって、『管理』するべく孤児院を利用した。
クソッタレ共が。怜人の内にあるのは嫌悪。手早く終わらせるため、思考を急ぐ。
«その3»
なぜ、あの双子なのか。
ここだけは、情報が不足していて判断がつかない。
そのため、自分なりの推測を考えてみる。それだと、幾つか選択肢は浮かんでくる。そこから、最も見込みのありそうなものを考える。すると、こんな感じだ。
あの二人なのは、彼らが特別な『何か』を持っていて、大人共はそれが欲しかった。だから、黒い少年や双子を利用した。
結論を言おう。
大人たちが悪いのだ。子供たちを寄って集って苦しめた、大人が悪いのだ。
「・・・許せないな」
知らない内に声になっていた。
「当然だろう」
青山はその意味を理解して呟いた。Sも頷いている。
「それじゃあ、最後の仕上げだ」
怜人は静かに、それでも力強く言う。
三人の男たちは最後に必要な情報のため、ある場所へと移動した。
◇◇◇◇◇
場所は神奈川県横須賀市の・・・
「横須賀東高校。神山霊示がついこの前まで通っていた高校で、そして、『ある人物』のいる場所」
怜人が呟いた。
「どこにでもありそうな学校ですよね」
Sもそう漏らす。
「許可は取ってあるし行こう」
延々と感想を垂れ流していそうな二人を放置しておく訳にもいかず、青山が二人を奥へと案内する。
「しかし、どうして青山さんはそんなに構造が分かっているのですか?」
Sがふと疑問を口にする。
青山は一瞬のためらいをを見せたが、仕方なくといった感じで告げた。
「ここは、俺の母校なんだよ」
「はあ、まあそうだろうと思ったよ」
初めから気付いていたような素振りを怜人は見せる。
「と、そろそろか」
怜人は『理科室』というプレートの扉を開けた。
「やあ、久し振りだね」
そこにいたのは、奇妙な男だった。男は黒人で、形容しがたい魅力を周囲に振り撒いている。ただ、その目に宿っている狂気に満ちた光が男の有害さを物語っていた。
「やっと会えたな、Barker」
怜人の言葉に青山は目を見開いた。謎のハッカー、『Barker』。神出鬼没、正体不明の存在。それが、こいつなのか。
いや、それよりも遥かにおかしいことがある。
なぜ、怜人はこいつがBarkerだと分かった?
疑問を消化しきれていない青山の困惑した表情を見て、男は愉しげに笑う。
怜人の態度は揺るがない。
「そろそろ、ちゃんと説明してもらおうか、Barker。いや、ニャルラトテップと呼ぶべきか?」
「ほう、気になるな。なぜ知っている?」
男は興味津々に尋ねる。
「簡単なことだ。お前が消した記憶には分かりやすい思い出し方があったからな」
「まず、記憶がないならそもそも気付けないと思うが」
「それこそ幸運だったよ。青山から持ち込まれた依頼の結果手に入れた『神山兄妹に関わる情報』がトリガーだったからな」
そして、怜人は告げた。
「とっとと白状しやがれ。約束通りに真実を用意しただろう」
それは決定的だった。男は手を叩きながら笑いだす。
「最高だよ!あの断片から真実にたどり着けるなんて!・・・君はやはりそこに行き着くのか。それでは、気付けていない二人を含めて記憶を甦らせよう」
そして、情報の洪水が脳に流れ込んだ。
◇◇◇◇◇
~七月一日~
降り止まぬ土砂降りの雨はまるで泣いているようだ。
青山はそう感じる。普段ならばそんな詩的なことなど鼻で笑う青山だが、そんな感想を抱かずにはいられなかった。
ここまで悲しみに暮れるのはいつ振りだろうか。いや、むしろあったのだろうか。
今朝のことを思い出すと、自然に涙が溢れた。
一昨日、兄が死んだ。
兄は警察官だった。でも、大学を出てから直接なった自分とは違う。兄は自分よりも遥かに頭はよかったのに、高卒で警察官になる道を選んだのだ。理由は語ってくれなかったが、青山は正義感の強かった兄のことだ、と納得していたことを覚えている。あの人には自分だけでなく怜人や、まだ本名で自己紹介していた頃のSも随分と世話になった。多くの人から尊敬されていた。
だからこそ、だろうか。兄は死んだ。死因は失血によるショック死。刃物を持った男に追いかけられていた少女をかばって、さらに男を投げ飛ばして気絶させたときに男に刺された。
兄の死因を聞いたとき、思わずこの人らしいな、と思ってしまった。
「・・・本当に、満足していたんだろうなあ」
「さて、どうだろうね。笑顔を見られなかったのが残念、なんて思っているのかもよ」
それもまたあの人らしいがな、と隣に現れた怜人は言った。不思議と、本当にそんな気がする。
「二人とも、そろそろ帰りますよ」
Sが車の辺りからそう声を掛けてきた。
「ああ、そうだな」
青山もそちらへ向かった。
「やあ、青山一くん」
そして、背後から声を掛けられた。
即座に振り向いた先にいたのは黒人の男。
「何の用だ、と思っているだろうね。まあ、そうカリカリしないで。君たちに頼みがあってきたんだ」
「頼み?」
怜人がそう声を上げると、男はその質問を待っていたとでも言わんばかりに話し始めた。
「本当に簡単な話だよ」
なぜかこいつの話からは不思議なものを感じる。青山は自然と身構えていた。
「何だ」
青山はそう尋ねる。ただ、何かに突き動かされるように。
「それは、だね・・・」
そして、決定的な一言を告げた。
「君のお兄さんの真実を暴くことだ。黒にまみれた、ね」
思考が追い付かない。
真実ってなんだ?あれが全てではないのか?黒にまみれた?
でも、彼は待たない。
「猶予をあげよう。八月三十一日までにすべてを暴けば、君たちの願いを叶えよう。ただ、この話に関わる記憶は消させてもらうけれどね」
「意味が分かりません。あなたが願いを叶える?記憶を消す?そんな話を鵜呑みにする方がおかしいですよ」
Sがそう言うと、男は微笑んで告げた。
「信じられないなら、確かめてみるといい」
そして、指をパチン、と鳴らした。不思議と意識が遠のく。最後に、彼は語った。
「トリガーは『神山兄妹に関わる情報』、そして我が名はニャルラトテップ。答え合わせは、この名が分かってから、ね。それじゃあ待ってるよ。Barkerとしてね」
それを最後に、三人は意識を失った。
◇◇◇◇◇
今のは何だ。
情報の洪水に、思わず青山はうめいた。ようやくすべてがつながった。怜人が探していた情報はもとからこいつに関わっていた。
「・・・理解し難いですね」
Sがそう漏らした。
「これはゲームだよ?なんで楽しまない?そんな理由はどこにもないじゃないか」
ニャルラトテップは人のものとは思えない笑顔を作る。その醜悪さ、そして抗うことのできない魅力に青山は純粋な恐怖を感じた。
「おい、クソ野郎」
怜人の言葉は辛辣だ。この状況下でもそんな態度を取れるのは流石と言うべきか。
「おや、どうしたのだね?探偵君」
「お前、俺以外に『あの記憶』を渡していないだろ」
「ほう、よく気付けるね。何故かなあ」
「簡単だ。こいつらが『あの記憶』を受け取っていたらただでは済まない。そうだろう?」
「まあ、正解者の君への報酬だしね」
「じゃあ、これは」
「ああ、真実だよ」
真実?あの記憶?青山とSの頭は疑問で埋め尽くされる。
「まさか・・・」
怜人はうめく。
「そう思うのも無理はない。じゃあ、ここらでネタばらしといこうかな」
ニャルラトテップは演説でもするように語り始める。
「まず、この世界について言っておこう。この世界は、虚構の現実なんだ。おっと、よく分からないとでも言いたげだね。でも、きっと聞けば分かるよ。さて、君たちは当然ながら普通の人間だ。でも、僕の遊び相手としてはうってつけだったんだ。そんな訳で、君たちをこの平行世界に連れてきたんだ。あの七月一日に意識を失ったときにね」
ふざけるな。そう言いたくてもなぜか言葉が出てこない。まるで体は真実を知っているかのように。
「そして、あの双子もあなたたちの世界の存在だった。でも、連れてこられたんだ。10年前にね。青山君のお兄さんはそれに気づいてた。でも失敗して死んじゃったんだ。だから、君たちに頼んだんだよ」
怜人だけは静かに続きを促す。
「そして、ここまで言えば分かるよね?」
「ああ、勿論」
「終わったゲームは電源を切らなきゃね。それじゃあ、さようなら」
「お、おいっ!」
青山は声を上げるが、意識は遠のいてゆく。
無慈悲な声が響いた。
「記憶を保っていられるなんて思わない方がいいよ?」
そして、三人は意識を失った。




