PMC『Eaters』
いつもより投稿スピードは少し早目だけどいつもより短めです。理由としては、ここ以外だと切りづらいからです。
同日 横須賀港
照りつける夏の日射しに、時太はすっかりうんざりしていた。携帯で気象に関するニュースの欄を調べると本日は最高気温36度になるとのこと。現在の気温は32度だからこれから更に暑くなるのだろう。
桜もそれは同じようだ。時太の携帯の画面を覗いて肩を落としたのがその証拠だ。
「まだ、彼らは来ないのか?」
時太は尋ねるが桜はただ首を横に振るだけ。そしてまた無言の時間が始まる。そんな中、桜の頭は壊れかけていた。
(もういい加減に来てもいいんじゃないかなそろそろ熱中症でぶっ倒れそうなんだけど来ないとか死にたいのかあの野郎どもそういえばアイス食べたい)
「桜、思考が駄々漏れだよ。もう分かったから、僕がアイス奢るから三途の川のほとりから帰って来て」
「分かったわ」
「早っ!?」
「アイスでしょ行きましょそうしましょ」
「君は本当に大丈夫なのか・・・?」
不安ばかり(というより『しか』ないが)二人は手近なコンビニに入っていく。
◇◇◇◇◇
夏の風物詩といえば?とでも聞けば多種多様な答えが返ってくる。例えば海、例えば山、例えば花火、例えばかき氷、例えば夏祭り、例えば・・・
それらが異なる理由は簡単だ。一つの事象は観測する者によって印象が変わってくるからである。例えば、緑一色の絵の具があるとしよう。その色を見たときにあなたが感じる印象はどうだろうか。きっと、ある程度は似ていても人によって違うはずだ。まったく違う印象を持つ者もいるのだろう。
さて、何故こんな話をしたかというと・・・
要するに、人によって感じ方が違うのだ。それは即ち、時に相容れない印象を持つことも考えられるのだ。
よって、
「何ソレ!?そんな暑苦しいホットコーヒーなんて夏に飲む頭が理解不能だわ!」
「僕の勝手だろうそんなこと」
「こっちまで暑くなるのよ!」
「それに冷たいものだけだと体を壊すし」
「だからといってこの猛暑日に飲むの!?」
桜と時太の不毛な争いがコンビニの店先で繰り広げられている。周囲の人間はこれを痴話喧嘩として解釈しているが、本人たちにとっては絶対に自分の主張を通したいという、意地の問題だった。が、当然のことを確認しておくと、ここはコンビニの店先だ。そして『そいつ』はやって来た。
「お客様」
野太い男の声に二人は振り向く。そこには『店員』という名札の付いたエプロンの、身長190cm以上の巨漢が立っていた。
「長時間の居座りはご遠慮ください」
あまりにも完璧で、それ故に偽りだと分かる笑みを浮かべる店員は尋常ではない威圧感を放っていて、二人の背筋に寒気が走った。
「ご、ごめんなさいっ!」
「すみませんでした!」
桜と時太はあり得ないほど綺麗な直角のお辞儀で謝罪する。
その姿に満足したのか、店員は戻っていった。
◇◇◇◇◇
「遅い」
「「「すみませんでした!」」」
桜の怒りは凄まじいものだった。遅れて来た三人の男女をとりあえず土下座させ、さらに数十分の説教を行った後、ようやく自己紹介を始めた。
「俺は、藤崎林太郎っていう。戦闘スタイルは格闘術、それもマーシャルアーツ。年は17だ。よろしく。俺は違法行為はしたことないからな」
と、茶髪の少年改め林太郎が名乗る。彼は割と普通な感じだ。続いて、金髪の女性が名乗る。
「あたしは、マリーナ・ヴォレル。皆からはマリって呼ばれてる。獲物はコルト・ガバメントよ。年は18ね」
いきなりの恐ろしい自己紹介に時太は若干不吉な予感がしてきた。
「最後に、俺は遠藤与一だ。一応は諜報員をやっている。年は25で、一応この中では最年長になるな」
最後に名乗ったのは黒髪で身長180cmはある男。
「他にはメンバーはいるんですか?」
「ああ、いるよ。合計で10人がね。君を入れて11人だ」
時太は桜に自己紹介すべきか尋ねる。桜は当然でしょ、と鼻で笑った。少し不快だが、その気持ちを抑えて時太も話し始める。
「どうも、はじめまして。僕は鳶久時太といいます」
この時、少年もうひとつの裏の戦いに足を踏み入れた。
◇◇◇◇◇
同日 日本国内某所にて
これは、どこかの誰かと魔術師のお話。
ああ、君か。よく来たな。
遠路遙々お疲れ様。調子はどうだい?
「・・・」
まあ、それもそうか。とうとう全てを捨てるんだからね。
怖くてもしょうがないよ。でも、安心してくれていいから。
僕は失敗しないさ。
「・・・!」
そのくらいなら分かっている。君がどんな思いでここに来たのか、も。
でも、違うんだ。僕はどうしても戦う必要があるんだ。
「・・・!」
違うんだよ。僕は奪い返さなきゃいけないんだよ。
当然、後に残るのは悲劇だけだろう。
でも、それでも、なんだ。僕に与えられるはずだった全てを奪った彼に。存在さえ奪った彼に復讐しなきゃいけない。
「・・・」
そう言ってくれて嬉しいよ。それに、そんなことを言っても君もついて来てしまうんだろうな。
でも、本当に言わせてもらうよ。
ありがとう。
◇◇◇◇◇
同日 東京都A市にて
俺は不思議な光景を突如目にした。
「・・・今のは・・・」
「?お兄ちゃん、どうかした?」
「いや、何でもない」
今のは何だったのだろうか。少なくとも俺にはあんな光景を見た経験はない。でも、ただの幻覚にしては妙にリアリティがあった。
本当にあれは何なのだろう。考えても答えは出てこない。
と、今はそんなことを考えるよりも大切なことがあったな。
「瑠奈、さっきの話、本当なのか?」
「うん、間違いないよ」
「だとしたら、すごいぞ、瑠奈」
「褒めるなら頭撫でてほしいな」
「はあ、分かった」
俺は言われた通りに瑠奈の頭を撫でる。すると、瑠奈はだらしない笑顔を浮かべてこちらにもたれかかってきた。
「おい、ちゃんと座れ」
「断固拒否」
「おい」
まあ、今回は許すか。こいつがいたから分かった訳だし、と俺は妹に甘い自分に言い訳する。
「でも、自分で見つけてなんだけどこれってヤバいよね?」
「まあ、だろうな」
俺は瑠奈がつい一時間ほど前に見つけた『それ』を見た。『それ』は、
血がべっとりと付いた携帯電話だった。