死霊術師リリス・アルハザード
今回は時間かかったし長くなったしで色々大変でした。テスト許すまじ
「ほう、ここまで辿り着くか、ガキ」
リリスの物言いにイラッときた俺はリリスを睨み、言い放つ。
「うるせぇから黙れクソババア」
この一言はかなり効いた(女性なら大体キレると霊示は思ってる)。リリスは無言で右手を俺に向けた。ただ、よく見るとこめかみがヒクヒクと動いている。とても嫌な予感がする。
「死ね」
リリスの手から緑の光が現れた。その光の色は緑。それも、非常に毒々しい緑だった。その光は膨張する。まるで空を喰らうかのように。そして『それ』は現れた。
「さあ、愚かなガキを殺せ」
リリスの平坦な声に応えるかのように現れた怪物は鳴く。
テケリ・リ!と奇怪な声で。
同じ時、瑠奈と桜も危機を迎えていた。
「きゃあっ!」
ゾンビに追いかけられているが、瑠奈には戦う力はない。剣道の経験はあるが、逆に言えばそれだけだ。だから瑠奈はただひたすら逃げる。
「もう無理っ!」
泣きそうになりながら瑠奈はヤケクソ気味に叫ぶ。助けを求めたいのは山々だ。しかし、助けられる者はいない。兄である霊示はゾンビより遥かにキモい怪物と戦っているし、桜は一騎討千の勢いで数えることが馬鹿らしい程のゾンビと戦っている。
「お兄ちゃんも桜ちゃんも私に構っている暇なんかない。私がやらなきゃ」
そう頭では分かっているが、しかしどうするかと訊かれると答えられない。瑠奈は無力感を噛み締め(ついでに涙目になり)ながら逃げるしかできなかった。
桜は追い詰められていた。確かに対ゾンビには最も強い装備だが、数が数だ。それに、早くしなければいけないのも事実だった。
(不味いわね・・・確かに死霊の対策はしてあるけれど、数が多いわね。ここは本気を出す場面かしら?)
桜はゾンビの首を切り飛ばして血に染まった剣を鞘にしまう。すると不思議なことに剣と鞘は消えた。
「さあ、現れなさい!『八重桜』!」
その言葉に呼応して、一振りの日本刀が姿を現した。桜は洗練された動作でそれを引き抜く。その刀身はとても美しかった。その輝きは透き通るような美しい銀の光を放ち、ゾンビたちに恐れを抱かせる。
「さあ、いくわよ」
桜の反撃が始まった。
ゾンビたちはその美しい刃に何もできずに首を飛ばされる。不思議なことに刀は汚れない。その光景はまるで光が死者の群れを正しき場所へ還すが如く、神話の光景のようだった。
そして桜の反撃とは俺の状況は真逆だった。
「うおっ!?」
俺はとにかく一か所に留まらないようひたすら走り続けていた。多分だが見た目的にこいつは殴ればどうとでもなるだろう。ただ一つ問題なのが、こいつを殴れないことだった。
「クソッ!ちょっと速過ぎだろ!?」
怪物は見た目よりも遥かに素早く動けて、それでいて通り道にいたゾンビたちが滅茶苦茶に潰れて草と血で赤と緑のコントラストを作ってしまう程に力も強かった。
「ふふふふふふ、私を罵ったことを後悔しろクソガキ!」
追い詰められる俺の様子に気分をよくしたのか、リリスは歓喜の声で笑う。
「んなことは御免だよ年増!」
「誰が年増だクソガキ!」
正直ちょっと煽りすぎた気がしないでもないが、とにかく今はあいつの集中を乱す必要がある。そうでないと瑠奈がヤバい。そして本人が目の前にいるので非常に言い難いのだが、リリスはどう見ても三十代中盤か、頑張って三十代前半くらいだ。と、思考が逸れてた。今潰されかけたぞ。
「無様に滅べぇっ!」
リリスの余りにも直球すぎる罵倒というか殺害宣言に俺は息切れで状況がヤバくなることを承知で、大声を上げる。
「テメエみたいな年増より怪物女子高生とかに追いかけられた方がまだマシだわこの野郎!ていうかあんまタイプじゃねえんだよ!俺は熟女派じゃねえんだよこのババア!」
『熟女』や『ババア』というワードが相当効いたのかリリスの攻撃はハイペースになるが、狙いが甘くなる。やはり煽るのは正解だったようだ。
「Kihahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahahaha!」
リリスは正に狂人のものとしか思えない訳の分からない笑い声を上げ俺に怪物を差し向けた。さらに怪物の動きが俊敏になっているように感じる。
「Ahahahahahahahahahahahahahahahahahaha!!!」
「チッ!こいつ完全にイカレてやがる!」
俺は吐き捨てる。正直、逃げられるなら逃げたい。こんな地獄みたいな光景なんか見たくない。それでも、なぜかリリスと戦う、いや、その言葉を聞くことをやめられなかった。まるで何かに縛られているかのように、俺はリリスから逃げられなかった。
そして転機は突然に訪れる。
「Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaッ!」
リリスの声が少しずつ変わっているかのように俺は感じた。いや、実際に変わっている。より正確には低く、まるで獣のようになり始めているのだ。
「おいっ!?お前まさかあの平田とかいう奴と同じ!?」
肯定の言葉は返ってこない。そこで俺はとんでもないことをしでかしていた。
「テケリ・リ!」
「しまっ!?」
もう遅かった。怪物を放置してしまったのは俺のミスだ。そうだ、俺にも訪れたのだ。全ての生物に共通して起こる現象、すなわち『死』が。
俺は怪物に成す術もなく潰されて殺される『はず』だった。
もうだめだと思い俺は反射的に目を閉じた。しかし、思っていたような痛みは訪れなかった。不審に思い、俺はそっと目を開けた。そこには異常としか言いようのない光景が広がっていた。それこそ例えるなら『時の止まった世界』としか形容できないものだった。
「あら、あなたが今死を受け入れてしまっては私が困るのだけれど」
聞き慣れない、しかし何故か懐かしくもある少女の声。
その声の主はすぐに分かった。それは目の前に突如現れた少女のものだ。少女の見た目は不思議だった。真っ白な髪と肌に、そこだけがすごく目立つ真っ赤な瞳。確かこういうのをアルビノとか言うんだっけか。それにしても整った顔立ちにバランスの非常に良い体付き。彼女からはなぜか懐かしい感じがしたが、こんな美少女と出会った覚えはない。俺の周りの女の子も美少女が多いと思うがな。
「アンタは誰なんだ?それにこの世界は一体?」
俺は当然の疑問を口にする。少女はミステリアスな笑みをその美しい顔に浮かべ、優しく語るように告げる。
「さあ、誰でしょう?でも、貴方達は一度は会ったことがあるわ。それにこの世界を貴方は見たことがある」
いまいち要領を得ないが一つだけ確信を持って言えることがある。この少女は、異常に強い。おそらく俺が出会った誰よりも。それに俺を助けたのも彼女だ。
「いいもの見せてあげる」
少女は突然俺の額にそのしなやかな指で触れる。すると幾つもの映像が俺の頭の中に直接流れ込んできた。その映像に映っているのは多分リリス。なぜこんなものを?と俺が思っているとあの黒い男が現れた。途端に怒りで我を忘れそうになるが何とかこらえる。感情の制御はある程度なら俺にはできた。男はリリスの首に迷わずナイフを突き立てた。リリスの顔が苦痛に歪む。俺は思わず唇を噛み締めていた。男はリリスの首になにかを埋め込んだ。そしてリリスは再び動き出した。あまりにもな光景に吐き気が込み上げて来る。これで分かった。
リリスも被害者なのだ。俺にはそれを解放する義務があるのだ。この身に宿る力で。
「いい加減戦う覚悟は決まった?」
少女はそう切り出した。
「ああ、もういいさ。やってやるよ」
俺はそう強く宣言した。
「後は頑張ってね」
少女が消えて全ての物体が動き始める。俺はまず怪物に潰されることを回避することをやめた。今しかないと思った。迷わず拳を真上に突き出した。すると、それは狙い通りに怪物を捉えて、その奇妙な体を無慈悲に砕いた。
「今解放してやるよ、被害者」
俺はリリスに向かって全力で真正面から突っ込みパンチを繰り出した。当然それは避けられたが、左腕でアッパーのように打ち出された拳を避けるためリリスはのけ反る。そうなったら後は簡単だ。俺はリリスにタックルをしかけて地面に押し倒す。そしてとうとうマウントポジションを取った。
「これで終わりだ」
俺は拳をリリスの首に叩き込んだ。丁度何かを埋め込まれたあたりに。バキン!と砕けるような音がして、とうとうリリスは動かなくなった。
「なんでだよ・・・」
俺はこれが勝利だなどと思えなくて、思わず呟いていた。
結果は覆らないのに。
今回まででバトル回を一旦区切りがいいところまで持って行けたので次回は多分解説回とかになります。