戦う覚悟と知る覚悟と
バトルシーンまで繋がらない
青山が衝撃の事実を知る覚悟を決めたのと同時刻のYビーチでは、ついに遊びをやめていた。なお、美幸が現れてから三十分が経過していた時である。
「さて、そろそろ組分けしましょうか。私も魔術はあんまり得意じゃないし。もう仕事もしたから」
桜があまりにもな発言をしたので、俺は呆れながら言い返した。
「おい、仕事って、まさか瑠奈と二人で俺を地面に拘束して周囲の殺意を集めたことじゃないよな?」
すると何故か清々しい顔をして桜は言った。
「あら?ちゃんと仕事はしたわ。貴方に組み付いている間に瑠奈と貴方の力を調べたから」
流石にこれには驚いた。俺を見世物にして楽しんでいたのかと思いきやしっかり仕事はしていたのだ。嗚呼、俺はとんでもない誤解をしていたのかもしれない。予想より桜は真面目だった・・・
「まあ、楽しかったけどね」
なんて幻想くらい抱かせてくださいマジで。
「それじゃあえっと、鳶久君と陽子ちゃんは美幸のところに行って。霊示と瑠奈は私の方で」
言われた通りに俺たちは別れる。
「さて、それじゃあ、『展開』」
途端に俺たちの見ていた景色が切り替わった。
そこは闘技場のような場所だった。直径は100m位あるだろうか。地面は芝生。しかも、ーひょっとしたら天然芝かもしれない。
「どう?転移の魔術の感想は?」
少し困るが、俺は答える。
「いや、ちょっと言葉が出てこない」
「はは、お兄ちゃんと同じ」
瑠奈も続くと、桜は少し不機嫌そうに、
「もっと反応が欲しいわね。私の使える唯一派手な魔術なんだから。それと、神の右腕は伝承の通りね。打撃でないと基本的に意味がない」
「え、そうなのか?」
俺は少しキョトンとして尋ねた。
「そうよ。まあ、弱い魔力なら貴方の体に触れたら消えるけどね」
「へえ」
自分の力には本当に何度も驚かされる。ふと、俺はあることが気になった。瑠奈の方を見ると、同じことを考えたのか、深く考えている様な顔をしていた。まあ、あいつは頭はいいから特に心配することはない。俺は意を決して尋ねた。
「なあ、一つ聞きたい」
「なに?私が答えられる範囲ならいいわよ?」
桜は不思議そうに尋ねる。俺は口の中がカラカラになっていることを感じつつ、言った。
「俺は、いや、『俺たち』は何だ?神の右腕、左目っていうのはどういう意味だ?」
「そうね・・・敢えて言うなら、魂が普通ではない者、かしら。神の右腕、そして左目は・・・」
苦しくも同じ時、青山も同じことを聞いていた。
「人ではない魂、そして、神の右腕と左目は・・・」
二人の、『闇』に深く関わる者たちは同じ時、同じことを告げた。
「「それは、文字通り神の体の一部だ。それも、世界で唯一人間から神になった者の」」
「「「はあっ!?」」」
お互いこの時はまだ知らないが、青山と俺たちの上げた声は完全に一致していたそうだ。
「え?じゃあ、俺たちって神様なの?」
俺は思わず尋ねる。瑠奈はポカンとしていた。
「うーん・・・神の魂を半分宿した人間・・・かしら?」
桜は歯切れが悪そうに答えた。それから、突如表情を切り替えて叫んだ。
「気を付けて!何か凄い大きな魔力が来るっ!」
「私が探すよ!」
瑠奈が右目を手で覆う。そしてすぐに言った。
「北から来るっ・・・」
俺と桜は頷き合ってから北を向き、俺はケンカの構えを取り、桜は転移で剣を呼び寄せた。
そして、そいつは現れた。
「見つけたぞ。雛岸の娘」
そこにいたのは、背が高く、百人いれば百人が美しいと言うような妖艶な金髪碧眼の大人の女性だった。だが、その言動は異常だった。
「罰せられし者共よ。汝らの血は主に捧げられた。さあ、その眠りを終え、主が為の不死の兵士として立ち上がれ!」
それは美しく、そして中毒性のある歌だった。だが、妙に嫌な感じのする歌でもあった。
「お兄ちゃん、桜!そいつ、何かする気だよ!」
瑠奈が危険だと知らせてくれる。神の左目による情報だから間違いないと判断して俺たちはすぐさま距離を取る。勿論、いざとこう時に備えて構えは解かない。
「やっぱり便利ね。その目」
桜は呟く。神の左目。それは、『左目』だけで認識した物体の魔力の量や流れを見ることができる。分かりやすく例えるのであれば、魔力に対するレーダーとでも言うべきだろうか。瑠奈はその力の使い方に関しては何故か自然と分かった・・・らしい。疑問形なのは、本人もよく分からないらしいからだ。だが、今はその力がここにあることが重要だ。
「瑠奈、予備動作とか何でもいいから分かったら教えてくれ」
俺はそう指示を出す。すると瑠奈は了解であります、などとおどけて敬礼した。
その直後、メキリという音がして地割れが始まる。
「クソっ!足場がっ」
俺は二人の手を引いてその場から遠ざかろうとする。だが、
「お兄ちゃん!何か出てくる!」
瑠奈は何かに気付き、そして桜が何故か剣を構えた。
「おいっ!何してる!?逃げるぞ!」
すると桜は何故か笑っていた。その表情は何処か怒りを含んでいるような気がした。そして俺たちに告げた。
「何言ってるの?ちょうどいいじゃない。練習に」
「「はあっ!?」」
俺と瑠奈は同調して叫んだ。言ってることが滅茶苦茶過ぎる。第一、まだ敵が何なのか分からないのだ。その事を言うと桜は満足げに笑うと、
「正体なんて死霊以外有り得ないでしょ」
と言い、更に言葉を続けた。
「さあ、あのクソビッチをぶち殺すわよ!」
「殺しちゃ駄目だよ」
瑠奈が呆れて呟いた。
「じゃあ、○す」
「伏せても遅ぇよ」
俺もジト目で返した。だが、そんな事など無視して桜は大声で叫んだ。
「さあ、来なさい!死霊術師のリリス・アルハザード!」
そして、戦いは始まる。両者は構え、剣を抜き、呪歌を歌う。
何処かの誰かの思惑通りとも知らずに。
本格的に数を増やすアンデッドの動きは予想通りというか何というか・・・遅い。ベタだけどとにかく遅い。でも、数が数だ。その軍勢はジワジワと闘技場を侵食していく。しかし、そこに一筋の線が通った。
「でやあっ!」
桜が剣を横凪ぎに振ると、その後から光の筋がついてくる。そしてその筋に触れたアンデッドたちは即座に消えていった。すると、その光景を見たリリスが忌々しげに吐き捨てた。
「チッ、その剣、聖なる力を付与されているのかっ」
「そうよ。おめでとう」
桜は余裕の笑顔でリリスを煽る。
「じゃあ、あのガキ共から殺すっ!」
リリスの軍勢が俺と瑠奈の方に放たれる。だがその時、俺はもう行動を初めていた。
「うおおおおおおおおおっ!」
叫びながらリリスの方へ全力疾走。途中のアンデッドは邪魔になったので殴っておく。殴られたアンデッドは砕けて動かなくなった。俺は構わず走る。そして、十体程を破壊した時、とうとうリリスの下に辿り着いた。
今回は戦いの前段階みたいな感じです。次回は水着のままの戦闘なんていうとんでもないシーンをぶっこむことになりそうです。