7 身体強化
今日は体育館でエリナと剣の練習をする予定になっている。
「エリナ、強くなりたい?」
準備運動をしているエリナに聞いてみる。
「当たり前だろう。そのためにこうやって練習をしているんだ」
「それはどんな方法を使ってでも?」
「ああ、もちろんだ」
「それじゃ、身体強化覚えてみる?」
「身体強化?」
「魔術で体を強化をして強くなる方法だよ」
「魔術・・・・・それは剣で強くなるのでなく、魔術で強くなるってことか」
「僕から言えば両方かな。片方が欠けても中途半端な強さになるから」
「私は魔術が苦手だ。先日の障害物競走でも分かるだろ。いろいろハンデを貰わないとレースにもならない」
ナズナが言うにはエリナの魔力操作は十分に上手いと聞いた。
魔力の流れを見ることができるナズナ談なので正しいのだろう。
ただ、周りにいる人が凄すぎるため自分の実力に気づかないらしい。
だから、エリナは魔術に関しては自分のことを大したことがないと認識している節がある。
それが間違いであることに気づいていない。
そもそも魔術の力を比べる相手を間違っているのだから。
「大丈夫だよ。エリナは魔力操作は十分に上手いから覚えられるよ」
「だが」
「はっきり言えば、このままじゃ絶対に僕に勝てないよ。僕は身体強化を使っているから」
「そうなのか」
「使わないとエリナには勝てないからね」
「だが、剣士である私が魔術に頼るのは」
やっぱり、剣一筋で生きてきたエリナにとって魔術は頼りたくないのだろう
「なら、剣が素人のイリス姫に負けてでもそんなこと言えるかな」
「ついに妾の出番か」
入り口で出番を待っていたイリスが木剣を持って現れる。
「イリス様」
「たく、出番が無いかと思ったぞ」
イリスには外で待ってもらっていた。
僕が呼ぶと同時に出てきてもらう予定だった。
でも、呼ぶ前に出てきたってことは話をずーと聞いていたみたいだ。
「どうしてここに」
「シンクに頼まれのう。エリナと戦うために来たのじゃ。シンクは学園最強の名はいらないみたいだから、妾が貰うとするのじゃ」
「イリス様、冗談はよしてください」
「冗談ではないぞ。妾はシンクに身体強化の魔術を教わったからな」
「イリス姫は一度襲われていますからね。身を守れるように教えてあげたんですよ」
「イリス様、本当ですか」
「初めは覚えるのは少し苦労したけど。一度、感覚で分かれば簡単だったのじゃ」
木剣とはいえ小さいイリスには重いはずだけど、軽々と振っている。
「では、身体強化の強さを味わってもらうためにエリナにはイリス姫と試合をしてもらいます」
「私にイリス様に剣を向けろと言うのか」
「妾は構わないぞ」
「ですが」
「なら、妾の剣を防いでみろ。攻撃をしたくないのじゃろ。それなら、学園最強でも出来るじゃろ」
そこまで言われたエリナは、
「分かりました。そこまで言うならやります」
「ああ、イリス姫。手加減はして下さいね」
「もちろんじゃ、分かっておる」
「私のことを馬鹿にするのもいい加減にしてください。手加減なんて必要ありません」
「シンク、エリナはそんなことを言っているがどうする」
「止めてあげてください。死んでしまいます」
「確かにそうじゃな。エリナ、手加減されたくなければ、妾の剣を全てかわすのじゃぞ。そしたら、本気を出してやる」
「分かりました。その剣を全てかわしてみせます」
二人がお互いに木剣を握って対峙する。
「では、いくぞ」
イリスが駆ける。
一瞬で間合いが詰まる。
身体強化のおかげで速度が上がっている。
イリスの小さい体がエリナの目の前に移動し、木剣を突き出す。
「うっ」
とっさにエリナは剣を弾く。
「重い」
でも、イリス姫の攻撃は一度ではない。
エリナが得意とする三連激を放つ。
「一度やってみたかったのじゃ」
イリスはエリナのプライドを壊しにかかる。
「そんな」
「言っておくがこんなもんじゃないぞ。これでも手加減しておるぞ」
「ちなみにエリナが身体強化を覚えれば10連撃を繰り出すことができますよ」
「言っておくが妾より弱い護衛はいらないぞ」
イリスの鋭い剣がエリナの剣を弾き飛ばす。
「これが身体強化ですか」
「そうじゃ、これによって力は増し、速度も上がる」
あと動体視力も上がる。
だから、エリナに攻撃されても今のイリスならかわすことは出来る。
エリナは落ちた剣を拾う。
「申し訳ありませんが、もう一度お願いします」
エリナは剣を強く握り締める。
今までの自分が得た技術を確かめるように真剣にイリスと向き合う。
「怪我は許せよ」
イリスは剣を構える。
待ち構えるエリナ。
イリスがゆっくりと間合いを詰め真正面から鋭い踏み込みから剣が振り落とされる。
それを受け止めるエリナ。だが、身体強化をしたイリス姫の剣を受け止めることは出来ず。後方に吹き飛ばされる結果になる。
「やりすぎたのじゃ」
「・・・・これが身体強化」
どうにか立ち上がるエリナ。
「まさか、イリス様に負けるとは」
「これで身体強化の強さが分かってくれた?」
「ああ、これほど強いとは思わなかった」
「だから、イリス姫を守るエリナには覚えて欲しかったんだよ」
「でも、いいのか。この魔術すごいぞ」
「イリス姫に言ったけど、誰にも言わないことを条件で教えた。だから、エリナも誰にも言わないで欲しい。もし、この魔術が広まれば危険な気がするんだ。過ぎた力は身を滅ぼす。力を手に入れれば人は力を使いたくなる。だから、二人には身を守るために使って欲しいんだ」
「そうだな。そうかもしれない。約束するよ。イリス様を守るために使うと。と言ってもまだ、覚えていない私じゃ、イリス様より弱いんだけどな」
「覚えれば、誰よりも強くなれるよ。剣の技術はエリナが一番なんだから」
僕はエリナに身体強化を教えることになった。
この作品に過度の期待はしないでください・・・
暇つぶし程度にお願いします。




