2 出会い
今から1ヶ月前、学園の入学テストが行われた。
まず、学力テスト。
語学、算術 歴史などのテストになる。
すべて答えられるが目立つことはしたくない。
この学園には貴族やお金持ちが沢山通っている。
平民に負けたからといって嫌がらせをしてくる者もいる。
それだけならいいが、お城で働いている父さんに迷惑が掛かったら大変だ。
机に座り、周りを見渡して見る。
年齢はバラバラ。僕よりも小さい子も入れば大きい子もいる。
みんな入学するために頑張っているんだろうな。
僕だって一生懸命に勉強はした。
でも、目立つことはしたくない。
テスト用紙が配られる。
初めは語学。
これがこの世界に来て一番苦労した分野だった。
でも、赤ん坊のときから目覚めていた僕は一生懸命に覚えた。
それからは簡単なものだった。
このテストも小学校高学年程度の問題。
白紙の紙に答えを記入していく。
全部で20問。
点数が同じなら1問5点。
80点ぐらいでいいかな。
4箇所ほど空欄にする。
それを同様に算術のテスト、歴史のテストを行う。
ちなみに全て80点だとおかしいので。算術は85点。歴史は75点にしておいた。
平均80点。
これなら合格ラインには届いているだろう。
席を立って部屋から出て行こうとすると、腕を掴まれる。
「ちょいまち」
僕と同じ黒髪の女の子が僕の腕を掴んでいた。
「なに」
「なぜ、テストで手を抜くんだい」
ばれた。どうして。
「なんのことですか」
「答えを記入した問題はスラスラと記入していただろう。でも、答えを書かなかった場所は考えもせずにいただろ」
「それは考えても分からなかったからです」
「嘘や。同じような問題なのに、一方は簡単に答え、一方は考えもしない。これは意図的に答えを書かなかったことになる」
この人、ずーと僕のことを見ていたのか。
「それが本当だとして、あなたに迷惑がかかるのでしょうか」
「うちは剣、魔法は苦手や。だから、この分野では一番を目指している。なのに目の前で手を抜かれるとむかつくんや」
「でも、一番なら問題は」
「うちが一番取ってもあんたの心の中で馬鹿にされていると思うと喜べない」
「僕、そんなこと思わないよ」
「うちの気持ちの問題や」
どうやっても逃がしてくれそうもない。
このことが学園に知られたらどうなるんだろう。
別にカンニングをしたわけじゃないから、テストが減点になることはないと思うけど。面倒なことは起きそうだ。
「それで、僕にどうしてほしいのですか。テストは終わりましたよ。まさか、再テストをさせるわけじゃないでしょう」
「うちが学力テストで一番を取り、あんたが学園に入学できたら、うちの言うことを聞いてもらう」
目標は学園に入学すること。
できれば目立たずに入学すること。
だから、入学さえ出来ればいい。
「わかった。でも、僕が出来ることだよ」
「それでいいよ。うちはクレア、あんたは」
「シンク」
「シンクね。覚えておくよ」
女の子は部屋から出て行く。
二度会うことは無いことを願って僕も部屋を出た。
翌日、午前中に剣術のテスト、午後に魔術のテストが行われる。
それぞれのテストは個人の適性を計るものであって一つが0点でも他の点数がよければ合格が出来る。
昨日の学力テストのこともある。
もし学園にばらされて何かしらの減点されるかもしれない。
だから、この剣術のテストも合格点を目指すことにする。
剣術のテストは学園の先生と試合を行う。
それで、先生が点数を付けるらしい。
なんとアバウトなテストだろうか。
とりあえず、自分よりに先にテストをする生徒の技術を見る。
どのくらいが合格ラインなのか見定める。
いくつかのテストの試合を見て分かった。
30%ぐらいの力でいいかな。
先生と試合が始まる。
先生の剣を受けつつ、攻撃をする。
剣の速度はいつもよりも遅めで、力もあまり込めずに剣を振る。
「よし、合格だ」
これで、学力テストで減点されても剣術で合格が出来る。
そう思っていたときが僕にもありました。
「おい、お前」
声がした方を見ると燃えるほどに赤い髪の女の子がいた。
「えーと、なんですか」
「お前、今の試合、手を抜いていただろう」
デジャブ?
「なんのことでしょうか。僕は一生懸命にやりましたよ」
「いや、お前はあの試験官に勝てたのに手を抜いた。わたしには分かる。お前の剣筋はもっと重く鋭いはずだ。でも、お前は手を抜いた」
「試験官の人は強いですよ。僕が勝てるわけがないじゃないですか」
「なら、お前は私の目が節穴だと言うのだな」
「そうなんじゃないですか。僕なんかを強いとか」
「この学園最強と呼ばれる私の目が節穴だと」
「学園最強・・・・・・・」
「そうだ。私この学園でもらっている異名だ。その私の目が節穴だと言うんだな」
「それは」
うわー、なんか、凄い人に目を付けられちゃったよ。
しかし、3回も節穴かと聞かれたよ。
「剣を合わせれば分かる。私と死合をしよう」
「なんか、字が違う」
「貴様が私と試合をしなければ、貴様の剣術のテストを0点にするぞ」
「どうして」
「テストとはその人物の実力を測るもの。それを手を抜くなら0点だ」
「あなたにその権利があるのですか」
「一応、貴様が合格すれば同じ学年になるが、私はこの学園の中等部からの上がり者だ。そして、このテストの審査する許可をもらっている」
「・・・・・・・」
無言で見つめ合う。
「わかりました。あなたと試合をすれば、今回のことは目を瞑ってくれるってことですか」
僕と赤毛の女性と試合をした。
結果を言えば僕が勝った。
「こんな強い者がいるとはな。しかも年下で。私もまだまだだな」
「これで僕のことは黙っていてくれるんですか」
「うーん、どうするかな」
「試合をすれば黙ってくれるって」
「わかった。黙っててあげよう。でも、無事に入学が出来たら、私の頼みを聞いてもらおう」
「わかりました。僕で出来ることなら」
「私はエリナ。よろしく頼む」
「僕はシンクです」
それがエリナとの出会いだった。
それから、午後の魔術のテストを受けるために走った。
ギリギリ間に合うことが出来た。
学力テスト、剣術テストも不安を残す結果になってしまった。
今度の魔術テストは上手に手を抜かないと。
テスト内容は得意の魔法を使うことだ。
攻撃魔法なら的に当てて、威力、命中率が評価になる。
その他にも強化魔法、回復魔法。防御魔法といろいろとある。
とりあえず、先に試験を受けている者の実力を見て合格ラインを確認する。
ふむふむ、なるほど、あのぐらいで、よし分かった。
自分の番になる。
手に炎の玉を作り出す。
これぐらいの大きさでいいかな。
魔力の強さはこのぐらいで。
よし、先ほど合格をした生徒より少し強い魔法が完成した。
狙うのは的の中心から少しだけずらす。
魔法が放たれ予想通りの場所に命中する。
予想通りに試験官から合格をもらう。
そして、テストの場所から離れると声を掛けられる。
「そこのあなた待って下さい」
振り向くと銀髪の綺麗な女の子がいた。
「あのう、なぜ、あなたは試験で手を抜いたのですか」
え~と、またこのパターン?
「先ほどの試験ですか。あれが僕の本気ですよ」
「魔力の流れが違う。あなたは魔力を沢山持っている。そして、魔力が綺麗に流れていた。あんなに綺麗な魔力の流れ初めて見た」
「誉めてくれるのは嬉しいですがあの魔術が僕の最大ですよ」
「それは嘘、途中で魔力を止めていた。あのまま流せばもっと大きな魔術になっていた。わたしより、魔力の流れが綺麗。魔術の力も凄いはず。なのになぜ、手を抜いたのですか。教えてくれなければ先生に報告します」
どうやらこの人は魔力の流れが見えるらしい。
そんなことが出来る人いたんだ。
なら、嘘を付いても仕方ないので諦めて本当のことを話すことにする。
優しそうな人みたいだから、本当のことを言えば見逃してくれそうだ。
「目立ちたくなかったからだよ」
「そうなのですか」
「同い年に魔術の天才がいるらしいんだよ。それも貴族様らしいから目を付けられたく無いんだよ。平民の僕が目を付けられたら家族に迷惑が掛かるから」
「どうして、その貴族に目を掛けられると家族が迷惑が掛かるんですか」
「そんなの決まっているじゃん。自分より優秀な人がいたら貴族なら嫌がらせをするに決まっている」
「そうなの」
「僕の聞いた話しだと、酷い場合、消されることもあるらしい。だから、僕は目立ちたくないんだ」
「消されるとは」
「殺されるってことだよ。その人物がいなければ自分よりも優秀な人間が消えるんだから。まして、僕は平民なんだから」
「殺す。わたしそんなことしないよ」
「もしかして、貴族様ですか。申し訳ありません。今のは冗談です。だから、自分はどうなっても構いません。だから、家族だけは許して下さい」
異世界だけど、ジャパニーズ土下座をした。
「許すから頭を上げて」
「本当ですか」
「許す代わりに、学園に入学が出来たら友達になってくれる?」
「平民の僕でいいのでしょうか?」
「いいよ。そしたら魔術のことも、さっきのことも許してあげる」
今の僕には断るって言葉は存在しなかった。
試験も終わり、家に早く帰るために林を抜けて近道をする。
試験の結果はすでに合格を貰っている。
あとはあの3人が何も言わなければ無事に入学できるはず。
林を歩いていると何か騒がしい。
大勢の人が走り回っているようだ。
鬼ごっこかと思ったが違うらしい。
12歳ぐらいの金髪の少女が走ってきた。
その後ろから複数の男が追いかけている。
女の子は可愛らしい少女だ。
もしかして襲われているのか?。
「逃げてー!!」
女の子は自分が襲われているのに他人も僕の心配をしてくれている。
男たちは僕を見るとナイフを取り出す。
女の子を犯そうとしている現場を見られて、その目撃者を殺そうとするってどこの犯罪者だよ。
僕は周りに魔力を展開し、木々に流す。
木々から蔓が伸びだして男達を縛りあげる。
その男たちはナイフで切ろうとするがナイフに蔓が絡み付き使い物にならなくなる。
「おじさんたちいくらこの子が可愛いからって襲ちゃだめですよ」
ロリコンは犯罪です。
僕は女の子に声をかけます
「大丈夫?」
「これあなたが」
「内緒ね。でも、これどうしようか」
捕まえたのはいいけどどうしたらいいんだ。
そのとき遠くから声が聴こえてくる。
「イリス様~」
「イリスって君のこと」
女の子は頷く
「それじゃ、僕は行くね。この事は黙っててね。それで助けた分のお礼ってことでお願いね」
僕は声が聞こえた方向とは反対の方へ走り出す。
「待って、名前」
名乗るか悩んだけど、こんな少女に今後関わることもないと思い答える。
「シンク。それじゃね。イリス」
それがイリス姫との出会いだった。