10 九九
掛け算の計算式、桁の位置がずれていたらすみません。
いろいろ修正したのですが、ずれていたらスルーしてください。
「う~ん、分からないのじゃ」
イリスが正面でペンを持って唸っている。
なにを唸っているのかと思えば算術の勉強をしている。
この世界の数字は形が違うだけでアラビア数字と変わらない。
初めは苦労はしたが文字と一緒で10種類の数字を覚えればいいだけなのですぐに覚えられた。
「どこが分からないですか?」
「3桁の計算なのじゃ。二桁までならできるのじゃが」
問題を見る。
槍3450Gを5つと剣2445Gとを8つナイフ890Gを4つを買いました。全部でいくらでしょうか。
うん、日本なら小学生の問題だ。
でも、この世界なら高等部で習う問題だ。
「3450Gの槍が5つだから、3450+3450+3450+3450+3450。剣が8つで2445+2445・・・・・」
そうなのだ。この世界に九九が存在しない。
掛け算は存在するが、みんな感覚で計算をしている。
10個の果物が10個あれば一瞬で100は出る。
でも先程の剣みたいに桁が多く、数字がバラけている場合みんな足そうとするのだ。
これが15000が4つなら60000と出来る。
簡単な掛け算は出来るが複雑な掛け算は出来ないのだ。
だから、お店に行ってもほとんどの商品は切りが良い数字で販売されていることが多い。
買う方も売る方も楽だからだ。
「イリス姫。初めは苦労するけど、覚えれば一生楽が出来る算術方法がありますけど、どうしますか」
「そんなものがあるのか!」
問題集を見ていたイリスの顔が僕の顔を見る。
そんなに真っ直ぐに見つめられると年下でも照れてしまう。
「はい、でも、それには81個の数字を覚えてもらわないと駄目です」
「81個覚えればこの問題も、あの問題も、その問題も、この先にずーとある問題も楽に出来るのか?」
「全てじゃないと思いますけど、ほとんど大丈夫だと思いますよ」
たしか、しばらくは同じような問題が続いたはず。
「早く、教えるのじゃ!」
イリスが椅子から立ち上がり、手を伸ばして僕の肩を掴む。
「分かりましたから、離れてください」
僕は紙に九九の一覧を書き込む。
「これはなんじゃ?」
「そうですね。1桁の物を1桁の個数分購入した場合の計算方式ですね」
「・・・・・・?」
「まず、縦の数字を見てください」
「上から12346789と並んでいるのじゃ」
「これが、剣の仮の値段と思ってください。そして、横の数字これを購入する数と思ってください」
「こんな値段で剣は買えないぞ」
「ですから仮ですよ。例えば、剣5Gを5個買います。いくらですか?」
「25じゃ」
「はい、これを縦と横に合わせます。どうなりますか」
「25じゃ」
「はい、同じように3と4だと12になります」
「ほんとじゃ」
「ですので、縦横の数字と重なりあう数字を全て覚えてください」
「分かったのじゃ」
数日後・・・・・
「シンク、覚えたのじゃ」
「早いですね。それじゃ、5×6=?」
「30じゃ」
「8×8=?」
「64」
「9×6=?」
「54」
「おお、凄いですね。それじゃ前回の問題ありますか?」
「あるのじゃ」
「それじゃ、この数字をこのように書きます」
3450
× 5
--------------
0
25
20
+ 15
---------------
17250
「このように桁をあわせて足します。これは桁が増えてもやり方は一緒です。今度は12個購入した場合をやってみましょう。気をつけるのは桁です。ここを間違えると全て間違えてしまいますので気をつけてください」
3450
× 12
---------------
0
10
8
6
0
5
4
+3
------------
41400
「出来たのじゃ!」
「それじゃ、他の問題もやってみてください」
イリスは次々と問題を解いていく。
「全部終わった!」
「なにが終わったんだい?」
クレアが部屋に入ってくる。
「シンクに算術を教わっていたのじゃ」
「ほう、それは興味深いね」
キラリンとクレアの目が光ったように見えた。
「うちにも教えてもらえるかな?」
「クレアは出来るから問題はないだろう。イリス姫は苦労していたから教えてあげたんだよ」
「イリス、どんな方法かうちにも教えてくれないか」
「断るのじゃ。この方法があればお主にも勝てるかも知れぬのじゃ」
「ほう、面白いことを言いますね。どんな方法か分かりませんけど、うちに勝つと」
「今やっている算術だったら、勝てるのじゃ」
「それじゃ勝負しましょうか」
「受けて立つのじゃ」
「ルールは時間内に10問の問題を解くこと。より正解数が多い方が勝ち、正解数が同じなら早く時間が短い方が勝ちでいいかな」
「分かったのじゃ。でも、問題はどうするのじゃ」
「そうだね。教科書に載っている問題でいいじゃない」
「よかろう」
二人は教科書の同じページを開く。
「それじゃいくよ」
「いつでもいいのじゃ」
二人にペンが同時に動き出す。
二人はどんどん計算を解いていく
そして、早くペンを置いたのはイリスだった。
「うそ。うち、まだ8問目。でも間違っていたら敗けですよ」
「大丈夫なのじゃ」
そして、イリスに少し遅れてクレアも終わる。
「それじゃ、答え会わせするよ。二人の答えを見せて」
見せてもらった解答は二人とも同じだった。
「そんな」
信じられないように答案用紙を見る。
「算術だけなら妾の勝ちなじゃ」
無い胸を突き出して鼻を高くする。
「シンク、イリスに何を教えたんだい?」
「算術だけど」
「この数日の勉強だけでウチが負けるなんてありえない」
「イリス姫は天才だと思いますよ」
「なんじゃ、いきなり」
いきなり、天才と言われてうろたえるイリス。
「イリス姫の良いところも悪いところも全て信じてやってくれることです。イリス姫は僕が教えたことを疑問に持たずにやってくれます。水のゴーレムのときも僕の言葉を信じてやってくれましたし。そして、今回も自分の言葉に信じて、勉強をしてくれました。個人的には嬉しいけど、人に騙されないか心配です」
「妾だって、誰もかもの言葉を信じるわけじゃないぞ。お主の言葉だから信じているのじゃ」
「ありがとございます」
「でも、それを信じたからと言ってすぐに身に付くものじゃありませんよ。ゴーレムも身体強化も、算術も」
「褒めすぎなのじゃ」
イリスは目をそらす。
「それでうちにも教えてくれるのかい」
「どうします?」
「妾はそんなに心は狭くないのじゃ。だから、べつに良いのじゃ」
さきほどと言っていることが違うが、算術勝負で勝てたから満足したらしい。
イリスの許可も出たのでクレアに九九をを教え、計算の仕方を教えてあげた。
でも、九九は一部の商人のなかでは常識だったらしい。
ただ、縦に計算する方法は知らなかったそうだ。
これがイリスとの時間に差が付いた理由だった。
「シンク、商人も知らない計算の仕方、どうして知っているだ。それに九九も知っているし。こんな算術を知っているのは商人とお金を管理する役人ぐらいだよ」
異世界の知識です。とは言えず。
「昔に商人の方に教わったんです」
と逃げることにした。
「商人が? 子供に教える商人なんていないと思うけど?」
「その商人は変な人だったから」
「その商人に会ってみたいな。紹介してくれない」
「旅商人だったらしく、この数年会っていないよ」
スラスラと嘘を並べていく。
人間、一度嘘を付くと嘘が上手くなる。
これも15年間、前世の記憶がばれそうになったときに嘘を付いてきたおかげだ。
「でも、この算術は他の人には教えないほうがいいよ。商人に恨まれるから」
「算術を教えたぐらいで」
「商人には駆け引きがあるからさ。自分より、馬鹿を相手にした方が儲かるからね。大量購入すればするほど、相手が馬鹿なら計算が出来ずに自分の儲けになる」
「酷い話だね」
「騙し、騙され、出し抜き、出し抜かれ、それが商人の世界さ」
「嫌な世界だね。僕はお城勤めをするから、良かったよ」
「うちと結婚すれば、この世界に入るだから、諦めたらどうだい」
「それはないのじゃ」
「ないな」
「ないです」
イリスを含め、どこから会話を聞いていたのか、エリナ、ナズナが返事をする。
本当はそろばんネタを書きたかったけど、そろばんが出来ないので書けなかった・・・・・です。
そもそも、異世界の算数、数学ってどこまで進んでいるものなのかな?
村人だと字も読めない作品は多いけど。
王都の学校なら、掛け算、割り算、分数ぐらいは出来るのかな?
とりえず、この王都では算術は商人の中で発達していると思ってください。