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OOO ~Original Objective Online~ 称号に振りまわされる者  作者: 1048
第1部 第6章
65/65

サラベール山脈 頂上3 ※重大報告有

ご忠告頂いた改訂版のURLを記載致します。


OOO ~Original Objective Online~ 改訂版

http://ncode.syosetu.com/n1502db/




お待ちになられていた皆様へ


お待たせ致しました。


ブックマークの登録をしておられる皆様には誠に申し訳ございませんが、本日より改訂版の方でまた連載を再開させて頂きます。こちらにも新しい話を載せておりますが、次話以降は改訂版のみの更新にさせて頂きます。


しばらくは隔週の更新になるかとは思いますが、今後とよろしくお願い致します。


1048

僕は、黒達の居る場所を目指して一目散に走り続けていた。


………あと十五メートル、もう少しだ。頼むから無事でいてくれ。何故、あの時の僕は白達だけで行かせたんだ。こう言う可能性も十分に考えられたはずなのに………


あそこに浮かんでいる白、黒、それにシヴァは無事そうだな。一緒にいるのが、僕達を見ていた目の正体か?


九メートル、八メートル………もう、既にかなりの距離まで近付いているはずだけど、何故《見ない感じ》に全く反応が無いんだ?僕の視界は確実にNPCらしき人物を捉えている。全くステータスが視え(・・)ないはずは無い。


『おい、皆は大丈夫なのか?』


『主よ、ワシらは大丈夫なのじゃ。だが、この方は気を失って虫の息なのじゃ』

この方?この人物は………プレイヤーだったのか?見た目は僕達よりも年下だな。まぁ、サラとブレッドの例が有るので中の人こ年齢までは分からないけどな。


だが、種族の方は………全く見た事が無いよな。ヨーロッパサーバーの限定種族とか?かな。僕は知らないけど、そう言うのも存在すると言う噂程は聞いた事が有るので、アクアなら分かるかも知れないよな。


………と言うか、いつ気を失ったんだ?さっきは、絶対にこっちを見て僕達の様子を探っていたよな。こんな状態でも気配を出来るだけ消して、慎重に………もしかして、気絶の演技か?もし、気を失ったのが演技だとするなら、この人物に〈主演男優賞?〉の称号を譲りたいものだ。


まぁ、そんな事を考えるよりも、まずは回復だよな。すぐに死ぬ事は無いだろうけど、この人の残りHPには全く余裕が無いからな。


僕は、空飛ぶ白を手に取り、目の前にいる人物に、二回、三回と射撃をした。


HPが全快するまでに三回か、かなりHPの高い種族みたいだな。前衛系のトッププレイヤーであるアクアでも、今の【白竜】で二回も射撃すれば全快になる。それだけでも、三回目が必要だったこの人のHPはかなり高い事の証明になるからな。


『………うん!?』

そう言えば、何故僕は名前も分からないこのプレイヤーの残りHPが分かったんだ?


《見ない感じ》の能力か?いや、違うな。何故かは分からないけど、《見ない感じ》は全く反応してない………いや、正確にはそれも違うのか?《見ない感じ》は反応しているけど、分かるのはHPとMPだけって言う方が正しいのかな?多分、このプレイヤーのスキルに関係しているのだろうな。それか、例の如くスキルレベル不足だな。


『や、やっと、追いついたぞ。シュン、お前………は、速すぎだぞ。少しは、追い付く俺の身にも、ハァハァ、なって欲しい。ハァハァ』

息も切れ切れで、僕のあとを必死に追い付いてきたアクアを尻目に、僕はこの名も知れぬプレイヤー?の観察を続けている。


『おい、シュン、俺にも分かるように説明を………何だ?こいつは?』


『僕達を見ていた目の正体だな。今にも死にそうなくらいのダメージを受けていたから回復だけは施したけど、意識の方は戻らないな』

自分で言っておいてあれだけど、この人物がプレイヤーだとするなら、意識が無いと言うのも変な感じだよな。


〔『………主も湖で気を失った』〕

………あぁ、そんな事も有ったよな。そう言えば、あの時も僕の隣にはアクアがいたよな。もしかして、アクアが僕の疫病神なのか?


『いや、そうじゃない。ダメージの方は防具の損傷を見れば大体想像出来る。俺が知りたいのは、こいつはプレイヤーなのか?それともNPCか?そもそも、こいつの種族は何なんだ?って事だ』

それは、僕も気になっているところだけど、アクアでも知らない事を僕が知っている訳は無いよな。でも………と言う事は、ヨーロッパサーバー限定種族でも無いのか?


う~ん、困ったよな。全く手掛かりが無い。今のところ分かっているのは、非常に高いHPと防具と呼ぶのも気が引けるような薄い服(ただし、服の原型は留めていない………まぁ、形状から推測すると武道着?かな)の二点くらいだからな。


『残念ながら、全て判別不能だな。取り敢えず、この人の意識が戻るのをここで待つか、無視して先へと進むか、お薦めは出来ないがその両方の三択と言ったところだな』

最低限の回復は施したから、放置プレイも有りかもな。


『そうか………ちなみに、その両方って言うのは?』


『それは簡単なのじゃ。どちらかの背中に背負って先へ進むと言う事じゃ』


『まぁ、大体は白の言う通りだな。背負う役も、この場合は近接向きじゃない僕になるんだろけどな』

この場合、戦闘面の事を大事に考えるなら、僕がこの人を背負いながら《付与術》でアクアを援護するしか策は無いだろう。


『いや、それは避けた方が良いだろう。こいつのやられようは尋常じゃないぞ。動くのは情報を得てからの方が良いだろう』

珍しくまともな意見が出たな。普段なら二つ返事で登山の選択肢を選んでいるところだよな。もしかして、ようやくアクアも成長したのか?


『………この方の意識が戻りそう』


『う、うぅん………うっ、こ、ここは?』


『えっと、ここは【サラベール】の街から山を数時間登ったところです』


『さ、【サラベール】………はっ!?皆は?郷の皆は無事なのですか?化け物達(・・・・)は?』

不穏なワードがいくつか交じっていた気がするな。でも、何を言いたいのかが、全く分からないな。


『主よ、まずは落ち着かせるのじゃ』

まぁ、普通はそうなるか。


『少し落ち着いて下さい。大丈夫です。ここには僕達以外には誰もいません。近くには魔物も………』


『主よ、近くには魔物もいないのじゃ』


『………だそうです。あっ、そうだ。温かい紅茶でも飲みますか?』

僕は、鞄からティーセットを取り出して温かい紅茶を一杯淹れる。疲れが取れるように少し砂糖を多目に入れて手渡した。


意識を取り戻した人物はティーカップを受け取り、自分自身を落ち着かせるようにゆっくりと口をつけた。


余談だが、このティーセットのティーポットは鞄の中に入れていても、中身が溢れず冷めないように製作段階で状態維持の製作ボーナスを選んでいる。さらに特殊効果で容量拡大も付けれているので、滅多な事では中身はなくならいだろう。他の製作ボーナスや特殊効果は完全に無視して、この二種類の効果だけを限界まで高めた完全に趣味にメタった物を複数個作り上げている。


ちなみに、どこでも紅茶を飲みたいの一心だけで、このティーポットを作り上げている事を、当のシュン本人はギルドメンバーやファミリア達にも秘密にしているのだが、サラとブレッド以外にはダンジョン内でティーポットを見せた瞬間に即行でバレている。その事を皆は優しさで気付かないふりをしているのは、ここだけの話だ。


『相変わらずと言うか、シュンらしいと言うか………お前はいつもそんな物を持ち歩いてるのか?』


『主にとっては当たり前の事なのじゃ。今や、ワシらにとっても紅茶は当たり前()なのじゃ』


『………黒にも一杯』


『今は却下だ………と言うか、さっきから白と黒は普通に話してないか?』

シヴァは全く絡んでこないけど、白も黒も《心話》を使ってない気がするよな。


『主よ、ワシらは《心話》を使って無いのじゃ。普通に聞こえるのは当然なのじゃ』

いや、そんなに自信満々で答えられても困るのだけとな。目の前に他のプレイヤーがいる時は、《心話》を使う約束はどこへ行ったんだ?


『………この方は、プレイヤーじゃない』


『えっ、じゃあ、NPCか?』


『主よ、その判断は難しいのじゃ』


『はいっ?』

言っている事が全く分からないんだけどな。


えっと、プレイヤーでは無いけど、NPCとも言い切れないって事か?そうなると、ウルちゃんみたいに分類としては魔物か?いや、でも普通に会話出来ているのなら、僕が《バイリンガル》で取得した言語の中に有る言葉だよな。主要な言語は取得しているけど、魔物の言葉はケンタウルスしか取得してないからな。まさか………こんな見た目でもケンタウルス種なのか?


『シュン、残念なのだが、それらの考えも全てが的外れなのだ。この方は………』


『そこからは、私が話します。飲み物ありがとうございました。温かくて、甘くて、とても美味しかったです』

やっと、口を開いたシヴァを、話題の中心人物が引き止めた。


『そうですか。良かったら、もう一杯いかがですか?』

もはや、僕にとっては、この人物がプレイヤーでもNPCでも魔物でも関係無い。そこに紅茶普及のチャンスが有るのなら、それに全力投球だからな。差し詰め今は、もう一杯美味しい紅茶を飲んで貰いたいよな。白達に白い目で見られていても、お構い無しだ。


だが、僕の薦めは、四本指の掌一つで遮られた。


『落ち着いたのは結構だが、かなり焦ってたんじゃないのか?えっ~と………』


『すみません。申し遅れました。私はラーダ、こう見えても【飛竜の(さと)】を管理する一族の者です。お願いします。どうか、私達を助けて下さい』


『はっ!?どう言う事ですか?』

展開が早過ぎて全く理解が追い付かない。【飛竜の郷】


『これを見て頂ければ、分かるはずです』

手渡された紙には………


連続クエスト・ドラゴンの報復EX(エクストラ)【飛竜の郷の救出】

※なお、このクエストは世界で一回しか発動しません。このクエストの結果次第で今後の世界が変わります。


………とだけ、書いて有った。


『マジか!?』

こんなクエストの発動方法も有るのか?それに、連続クエスト・ドラゴンの報復………確か、マザードラゴンやドラゴンゾンビと戦った一連のクエストの事だよな。あれは、僕がドラゴンゾンビを倒した事で終了したはずだよな。


しかも、EX(エクストラ)って………僕の善意が仇になって帰ってきた感じがするよな。クエストの結果次第で今後の世界が変わるとか、僕には荷が重過ぎるよな。


『シュン、どうした?その紙に何が書いて有るんだ?』

僕は、アクアにも紙を見せた。


『おいおい、これはマジか!?シュン、やったな。世界で一回の超レアクエストをGETだぞ』

いや、何も知らないアクアなら、そうなるのかも知れないけど、ドラゴンゾンビの強さを知っている僕としては、アクア(お前)みたいに素直に喜べないんだけどな。


『ラーダって言ったか、俺()は………』


『おい、アクア、ま………』


『参加するぞ。いや、俺達が【飛竜の郷】を助ける』


『ありがとうございます。詳しい説明は、走りながらでも宜しいですか?私は、すぐに【飛竜の郷】に戻らねば………』

既に、ラーダを追ってアクアは走り出している。一度走り出したアクアは止められない。


〔連続クエスト・ドラゴンの報復EX(エクストラ)【飛竜の郷の救出】がアクア様、シュン様の二名によって受諾されました。クエストの終了まで、コールやメール(通信機能)ならびにゲートの使用は出来ません〕

これは、僕とアクア(僕達)だけに聞こえているのか?それだけは救いだけど………


少し遅かった。あと一歩間に合わなかった。それよりも、僕を巻き込まないで欲しかった。アクアは全く成長していない。今の僕に瀕死のダメージが出ても良いから、過去に戻って数分前のアクアが成長したと少しでも思った僕を数発殴らせて欲しいものだな。


『主よ、手遅れなのじゃ。もう、クエストを頑張るしかないのじゃ。これ以上、バカ(アクア)を放って置くと、次は何をしでかすか分からないのじゃ』


『………ラーダとバカ(アクア)を追う』

今、白も黒もバカと言う言葉の読みにアクアを使っていた気がするけど、気のせいだろうか………まぁ、僕も白達同様に使いたいけどな。


このクエストの郷の救出と言う部分が、いまいち把握出来ないよな。救出と言う表現が曖昧すぎるよな。化け物達の討伐やラーダの同胞の救出なら、分かりやすいのだけど。


ファミリアのスキルである《心話》は使えるみたいだけど、クエストの説明通りコールは使えない。これだと、本当にクエストを終了するまではゲートも使えないのだろう。仲間達に連絡が出来ないから増援も見込めないし、ゲートが使えないなら死に戻りを繰り返して攻略する事(確か、アクアがゾンビプレイって言ってたかな)も不可能だよな。こうなると全てを諦めて、クエストに全力を注ぐしかないよな。


アクアがどうなろうと知った事ではないけど、ラーダは僕の紅茶を気に入ってくれたからな。紅茶を普及した相手が困っているのなら、助けたい。それについては、ラーダがプレイヤーでもNPCでも魔物でも関係は無いからな。


『………理由が主らしい』





僕は、すぐに前を走っていたアクアとラーダに追い付いた。そこで聞いた説明を要約すると、ラーダが私用で【飛竜の郷】を留守にしている間に、【飛竜の郷】は幾度となく化け物達に襲われたらしい。郷に住む飛竜達は他の管理者の手によって、間一髪のところで外界へと逃がす事には成功したようだが、郷に住む他の管理者達とは音信不通になっているらしい。その時に逃げた飛竜の羽根に括り付けられていた手紙によってラーダは【飛竜の郷】の現状を知り、サラベール山脈の山頂付近に有る【飛竜の郷】へ戻るところを大きなドラゴン(・・・・・・・)に襲われて、あの僕達と出会った木下で倒れていたようだ。


ただ、ラーダが言うには【飛竜の郷】は普段から強固な《結界》に覆われており、外から発見する事は勿論、中に入る事も難しいと言う話なんだけどな。そうなると………化け物達は、どうやって【飛竜の郷】を見付けて中へと入れたんだ?


ちなみに、その飛竜の羽根に括り付けられていた手紙と言うのが、僕達の見せられたクエストの依頼書()でも有るのだけど、僕達には手紙としての内容は全く見えなかったんだよな。見えるのはクエストについてだけだ。これは、ある種の演出なんだろうな。


まぁ、結果として僕の登山の目的でも有ったサラベール山脈の頂上付近に行けるのだから、一石二鳥なのかも知れないけどな。


それとは別に、クエストを請けた事でラーダのステータスが《見ない感じ》で視えるようにもなっていて、白達が言いたかった事が理解出来ている。まぁ、僕としては、ラーダのステータスが分かった事で逆に不安になった部分も有るんだけどな。



ラーダ


竜人族Lv60(ユニーク)※上限

育成師(いくせいし)》Lv20《武芸者(ぶげいしゃ)》Lv20


称号

〈飛竜の管理者〉〈変身〉〈タブルジョブ〉〈ファミリア〉〈飼い主〉



白達が言っていた僕に似た感じの温かさと言うのは、多分ラーダの称号に有る〈飼い主〉の事だろう。僕の〈やや飼い主〉よりも成長した称号なので、その効果を及ぼす範囲が広くても当然だろうな。


それに、ジョブを二種類持つ事の出来る〈タブルジョブ〉やユニーク種族らしい竜人族………しかも、レベルが上限に達しているからな。クエストを受諾してないと一生詳細を知る事は無かっただろうな。まぁ、どうやっても、今の僕にはラーダが所持しているスキルだけは分からないみたいだけどな。


ラーダのステータスには驚かされてばかりいる僕だけど、一番驚いたのは、ラーダ自身がファミリアでも有ると同時にファミリアの主でも有る事だよな。シヴァがNPCと言い切れなかったのも理解出来るよ。普通のNPCがジョブを持てない事を考えると、ラーダはプレイヤーとNPCとファミリアの三つを足して二で割ったようなハイブリッドな扱いになるんだろうな。


それに、【飛竜の郷】にいる管理者達がラーダと同じ竜人族とするなら、それを壊滅させた化け物達と言うのは、僕達二人だけの手に負えない事は確実だろう。


『あの小高い崖を越えれば、【飛竜の郷】に着きます。気を付けて下さい。事前の打合せ通り、シュンさんは生存者に回復をお願いします。アクアさんは私と共に周囲の警戒をしつつ、生存者を探して下さい』

あれから一時間、出会った魔物を全て無視して、ほぼ一直線(最短距離)で【飛竜の郷】を目指して山道を走ってきている。


周囲の景色も、森林限界を越えたからか、樹氷は存在せずゴツゴツした岩やそれを覆うような分厚い氷塊と所々にぽっかりと空いているクレパス、何年にも渡って降り積もったであろう雪の地面。当然、その雪の地面も凍り付いているので、歩みを進める度に足を取られる事は無いけどな。まぁ、何回か滑って転びそうにはなっているのだけど………


多分、現実の八千メートル(エベレスト)級の山々を想定したエリアなんだろう。ここがトリプルオー(ゲーム)の補正が無い状態だったら、こんなところまでは絶対に来れてはいないだろう。まぁ、救われたのは全く吹雪いていないので視界が良好な事と事前に防寒対策を施していた点だろうな。湖に降り立った(あの)時の僕達の行動には感謝しかない。


………と言うか、ラーダを発見した時、数百メートルの距離で息を切らしていたアクアが、この一時間は全く息を切らさず、若干楽しそうな笑顔でこの険しい山道を走っているところをみると、気分次第で体力(やる気)が変わるみたいだな。


『主よ、バカ(アクア)の体力が凄いのじゃ。主も見習うのじゃ』

それは、アクアをバカにしているのか、本当に尊敬しているのかが分かりにくいよな。それに、見習うと言われても、僕は本当に疲れてはいないんだよな。まぁ、それは白と黒(竜の力)のお陰でも有るのだけど………


『………バカ(アクア)らしい』


『なぁ、シュン。白と黒が俺の事をバカと書いてアクアと読んだ気がするけど、俺の気のせいか?』

相変わらず、こう言う時の勘だけは鋭いよな。ゲームバカだけど………


『白と黒に限って、そんな事は無い。多分、ゲームバカ(アクア)の気のせいだ。それよりも、そろそろ崖を越えるぞ』

この険しい雪の世界とも、あと少しでお別れかと思うと、それだけで幸せに感じるな。


『そ、そんな………【飛竜の郷】の《結界》が………』


『うっ………』


『これは………・・・(ひでぇ)。ラーダ、さっさと生存者を探すぞ。どこかに生きている者もいるかも知れない』

ラーダを気遣かって、聞こえないように喋ったのかも知れないが、はっきりと僕にはアクアの『ひでぇ』と言う言葉が聞こえていた。


僕達の目の前に現れた【飛竜の郷】だった(・・・)場所からは、息吹(いのち)と言うものが全く感じられない。何者かが生きていたであろう痕跡………肉が焼けた臭いや肉の腐った臭いな、ところかしこから漂っている。


様々な建物だったであろう物も基礎部分から崩壊していたり、ここだけ赤い雪が降っていたかのような真っ赤に染まった雪に押し潰されて埋もれている場所も有る。五感の内、嗅覚と視覚で感じられるリアルな死。ラーダの言う通り、ここが襲われた事は間違い無いんだろうな。


アクアの言葉を借りる訳ではないけど、酷い(・・)惨状だよな。ゲームの中の一つのイベントと言えど、決して許せるものでは無い。ある意味、運営側が一回しか発動しないイベントと決めたのも納得出来るな。仮に、これが何回も起きるイベントだったとしても、僕が二度目を請ける事は無いだろう。


反吐が出そうなくらい気分が悪い光景なんだけど、目の前の惨劇が現実離れしているせいか、逆に頭の中だけは平静でいられるのは有り難い。


だが………臭いはしても、死体は見える範囲では見当たらない。ラーダの同胞(味方)の分も、襲ってきた化け物達()の分もな。


それに、明らかに建物は………


『主よ、そんな事よりも、今は生存者を探すのじゃ。ただし、その気持ち(怒り)は鎮めるのじゃ』


『………急ぐ。冷静に』

まぁ、平静でいられるのは頭の中だけみたいで、身体から溢れ出る怒りを抑え込む事は出来て無いみたいだけど………付き合いの長い白と黒には分かるんだろうな。


『分かっている。白と黒は、《探索》を頼む。シヴァはアクア達に付いていってフォローしてやってくれ。いざとなったら、アクア達を助けてやってくれ。それと生存者を見付けたら、すぐに連絡をくれ』

死体が無い………つまり、少しでも可能性が有るのなら、それが最優先だからな。


『分かったのだ。全て我に任せておくのだ』





『誰か、いませんか?いたら返事をして下さい。誰かいませんか?』

何度も繰り返し呼んでいるが、全く反応が無いな。


『白、黒、そっちはどうだ?』


『主よ、こちらも全く反応は無いのじゃ』


『………黒の方も何も見付からない』

ラーダ達と別れて、しばらく捜索しているが、敵味方を含めて誰も見付かっていない。勿論、死体も………まぁ、死体の方は既に消えて無く(光の塵と)なっているかも知れないけどな。この鼻に残る臭いだけを強烈に残して。


シヴァからの連絡も無いところを見ると、向こうも同じような結果なんだろう。まぁ、喜ばしい結果では無いのだけど………


ただ、捜索中に全く何も分かってない訳ではない。【飛竜の郷】に雪が降っていなかったからか、僕達が訪れる寸前まで《結界》が作用していたのかは分からないけど、足跡や痕跡が多く残されている。四本指(・・・)の………


『主よ、その四本指(・・・)の足跡は、まさか………』


『………多分違う?』


『僕も黒と同意見だな。大きさ的にも指や爪痕の形状的にもラーダのものでは無いと思うな。ラーダの手足は僕達の手足を四本指にしただけだからな。これは、親指と言うのか、一番太い指が他の三本に対して反対側を向いているからな』

これは、どちらかと言うと、【サラベール】を襲ったマザードラゴン達の足跡とそっくりな気が………


もし、そうだとすると、このクエストの真の目的は………


〔『シュン、こっちに生存者がいたのだ。急ぐのだ。時間が無いのだ。この者が言うには唯一の生存者らしいのだ』〕

唯一か………いや、この場合は一人でも生きていた事を喜ぶべきかも知れないな。


〔『シヴァ、場所は?』〕


〔『【飛竜の郷】の外なのだ。我が別れた場所から北西の方向なのだ』〕

僕は場所を聞くと同時に走り出す。走りだすと同時に二丁の【空気銃】()を手に取り一気に噴射させて宙を舞う。


〔『すぐに行く。それまでなんとかして………』〕

限界高度を越えているせいか、いつもみたいな高さで飛ぶ事は出来ないみたいだけど、シヴァ達がいるのが【飛竜の郷】の外なら、少しでも上から探す方が早いだろう。


『主よ、最初からこうすれば良かったのじゃ』

まぁ、そうなんだけど………頭の中も平静を保てているようで、少なからず動揺はしていたみたいだな。


『………あれで動揺しない主は、黒達の好きな主では無い』

ヤバイな。こう言う状況じゃなかったら、涙くらいは出ていただろうな。


でも、何で【飛竜の郷】の外なんだ?どうして、アクア達にはそれが分かったんだ?


『いたのじゃ。主よ、あそこなのじゃ』

僕の前を飛ぶ白が、いち早くアクア達を見付けた。僕のいる上空からは、はっきりと見る事が出来る。【飛竜の郷】から延びる三つの足跡と赤色の点々と共に………


なるほどな。あれが有ったから、生存者を発見出来たんだな。でも、それにしてはテンションが変じゃないか?


〔『シヴァ、どうした?』〕


〔『シュンよ、我らは一足遅かったのだ。今しがた息を引き取られたのだ』〕


『何?』

僕がシヴァから連絡を受けて、まだ二分も経って無い。二分前までは確実に生きていた………それなら、まだ間に合うのか?僕は、アクア達の目の前に向かって一気に急降下していく。


『………主』


『分かっている。黒は僕の鞄からカゲロウポーションEXを取り出してくれ』

カゲロウポーションEXはHPとMPが回復する万能系ポーションの試作品………名前は凄く不本意な事だけど、カゲロウが仮で付けた名前が、そのままアイテムに定着してしまったからな。今さら変更は出来ない。


僕は黒から受け取ったカゲロウポーションEXを一気に飲みほして、地面へと降り立った。


『アクア、ラーダ、そこを退()くんだ』

そして、降り立つと同時に二丁の【空気銃】を【白竜】と【黒竜】に持ち変えてもいる。


『えっ!?』


『シュン、やっと来たか。だが、少しばかり遅い。残念だが………もう手遅れだ』

その判断は、まだ早い。これから僕がやることを身内であるアクアにだけは見られたくなかったけど、そんな事をいっていられる状況では無いからな。


『そうです。そのお気持ちだけで十分です。最後に同胞とも会う事が出来、最後の声も聞けました。アクアさんとシュンさんのお陰ですよ。本当にありがとうございました』

涙を堪えながら必死で笑顔を作ろうとしているラーダ。その気持ちだけは頂戴しておくからな。


『大丈夫だ。僕を………いや、白を信じろ。だから、そこを退けろ~!!』

僕の気迫が勝ったのか、僕達の気持ちが伝わったのかは分からないけど、二人と一匹が同時に左右へと散った。


〔『主よ、ワシも全力を尽くすのじゃ』〕


〔『………命懸け』〕


『ここからは、他言無用だからな。白頼む!!《蘇生》』

僕は、さっきまでラーダ達が固まっていた場所に向けて【白竜】のトリガーを引いた。僕が《蘇生》は放った場所は白く輝く閃光を飛散させている。


『うぐっ!!』

二度目だと言うのに、前回よりも持っていかれるHPやMP()が多い気が………


『なっ!!《蘇………』

僕の体に意識が有ったのはここまでだった。





〔『主よ、気付いたかの?』〕


〔『白か、ここは?何が、どうなったんだ?』〕

意識は有る………と言うか、意識しかないと言った方が正しいのか?何も知らない見えないし、感じない。身体の感覚が全く無いからな。


〔『主よ、大丈夫じゃ。全て上手くいっておるのじゃ。すでにラーダの同胞の《蘇生》は成功しておるのじゃ』〕


〔『そうか。それなら良かったよ。それでここは?』〕

【飛竜の郷】では無いみたいだし、神殿でも無いよな。


〔『………ここは主の心の中』〕


〔『僕の心?』〕


〔『そうなのじゃ。主は力を使い過ぎたのじゃ』〕

まぁ、確かに持っていかれる力は半端無かったからな。


〔『じゃあ、これは死に戻りとは違うのか?』〕


〔『安心しても良いじゃ。死と言うよりも身体が仮死状態と言った方が近いのじゃ。すぐに戻れるのじゃ。その前に、《蘇生》スキルについて説明しておく事ができたのじゃ』〕

ラーダの同胞が無事で、僕自身もすぐに戻れるのなら問題は無いな。身体の感覚は全く無いけど、僕は頷いた。そして、それは白達にも伝わったようだ。


〔『以前に《蘇生》スキルは慣れれば消費が減ると、ワシは言ったのじゃが、例外も有るようなのじゃ』〕


〔『例外?』〕


〔『………基本的に《蘇生》スキルは主達みたいな人間に対してだけのもの』〕

僕達みたいな人間………プレイヤーの事かな?


………なるほどな。だから、プレイヤー以外に使ったので消費が大きくて僕が仮死状態になっているのか。


〔『その通りなのじゃ。それに、たまたまラーダの同胞が普通のNPCでは無かった事とたまたま早い段階で処置出来た事で、今回の《蘇生》は成功したのじゃ。普通なら、まず成功はしてないのじゃ。成功させる前に主の方が絶対に死ぬのじゃ。だから………もう無茶は止めて欲しいのじゃ。《蘇生(自分のスキル)》の事をほぼ把握出来ていないワシが言うのも可笑しな話になるのじゃが………』〕


〔『………奇蹟』〕

奇蹟か………そうなんだろうな。まぁ、今回のような事はそうそう有るものじゃないだろうけど………僕の事だから、また遭遇すれば使ってしまうんだろうな。


〔『………主らしい』〕


〔『主よ、それはワシも主らしいと思うのじゃ。だから、ワシらは心配なのじゃ』〕


『………ュン、シ………、起き………』

アクアの声が聞こえてくる。


あの場で白と黒に一言謝りたかったけど、時間切れみたいだな。まぁ、僕の気持ちは伝わっているだろう。それに、もし伝わってなかったのなら、あとで謝れば良いだけだからな。


『アクア、うるさい。僕の方は大丈夫だ。少し疲れて寝むっていただけだ。それと、今回は一切説明に応じる気は無いからな』


『うっ………』

やっぱり、僕の心配よりも《蘇生》スキルの方が気になっていたのか。幼馴染みじゃなかったら、とっくの昔に友達は止めているだろうな。


それよりも、ラーダの同胞を助けてもクエストが終了しないと言う事は………まだ、生存者がいるか、僕が密かに思っている第三の答えになるのかも知れないな。


『アクア、クエストを終わらせるぞ』


『はっ!?何を言っているんだ?クエストはお前が終わらせたんだろ』


『ラーダの同胞を助けたのは、クエストと無関係と言う事は無いだろうけど、オプションみたいなものだと思うぞ。あくまでも、このクエストは【飛竜の郷の救出】だからな。多分、あのボロボロになった【飛竜の郷】を復興させる事が最終目標だな』


『だったら、ここを壊した化け物達を倒す方が先じゃないのか?』

まぁ、それもそうなんだけど。その必要は無いと言うか………


『えっと、ラーダの同胞さん。会話は大丈夫?』

その答えは、多分ラーダの同胞に聞けば………


『あっ、はい。大丈夫です。私を助けて頂いたみたいで、本当にありがとうございます。申し遅れました。私はナーガと申します』

ナーガか、ラーダよりも少し年下って感じだな。


『まず、確認させてくれるか?ナーガが唯一の生き残りで間違いは無いんだよな?』

黙って頷くラーダを確認して、僕は話を進める。もし、他にも生き残りがいるのなら、先に治療や回復を優先したかっただけで、一人だけ生き延びたナーガを責めたりナーガに辛い事を思い出させたい訳では無いからな。


『【飛竜の郷(この場所)】を襲ったのはマザードラゴン(大きな緑色のドラゴン)じゃなかったかな?』

もし、僕の想像通り、【飛竜の郷】を襲ったのがマザードラゴンだったとするのなら、僕の疑問は一気に解決する。【飛竜の郷】の《結界》が破られた件だけを残して………


一つ目は、一日一時間の制限付きマザードラゴンが、それ以外の時間を過ごしていた場所。幾度となく襲われていたと手紙を読んだラーダも言っていたからな。


二つ目は、あれだけの能力を持つラーダの同胞達が倒された理由も、相手が無限にベビーを産むマザードラゴンなら仕方が無いだろう。ラーダの同胞達には僕達みたいな死に戻りは無いのだからな。まぁ、僕としては、このイベントでは大きな戦闘が無さそうな事が救いなんだけどな。


三つ目は、【飛竜の郷】の破壊具合の差。最大二週間(トリプルオーの中なら六週間になるのかな)の差が有れば、破壊具合に差が有っても不思議では無いだろう。それに、雪の積もり方の差も納得出来るからな。


四つ目は、あまり考えたくないのだけど、漂っていた臭いの違いだな。詳しい説明は省略形したいけど………簡単に説明するなら、焼けた肉と腐った肉の臭いの違いだな。


そして、最後は………これが連続クエスト ドラゴンの報復EX(・・・)になった理由だ。一連のクエストが一つに繋がっていると考えれば、【飛竜の郷】が崩壊したのはマザードラゴンを倒すのに時間が掛かったペナルティーなんだろうな。


『えっ?』

アクアは、何がなんだか分からないと一気に表情を見せているが、僕の知った事ではない。


『ご存じなんですか?はい。貴方の仰る通りで郷を襲ったのは緑色の大きなドラゴンでした。様々な色の小さなドラゴン達を率いて、ここ数週間毎日毎日………』


『それなら、決まりだな。そして、そのドラゴンは既に倒されているから、もう襲われる心配しなくても良いぞ』


『ええ~~!!本当ですか?本当にあのドラゴンが倒されたんですか?』


『あぁ、【サラベール】の街の人達が一生懸命頑張ったからな。時間は掛かったけど討伐に成功しているな』

ここで真実を伝える必要は無いな。仮に僕が真実を伝えたとしても、失った過去は戻らない。


『おい、シュン、俺にも詳しく………』


『僕は説明に応じる気は無いと言ったはずだぞ。知りたかったら、自分で調べろ。【サラベール】で聞けば分かるからな』


『………分かった』


『じゃあ、さっさとここを片付けようか。他の同胞達の墓や最低限の居住スペースを建てるくらいは、僕達も手伝うからな』

《木工》と《造船》スキルが有れば、ちょっとした建物くらいは建てれるだろう。ヒナタみたいに完璧なのは無理だけど………今後の為にも予行演習が出来ると思えば良いだけだからな。





装備

武器

【ソル・ルナ】攻撃力100/攻撃力80〈特殊効果:可変/二弾同時発射/音声認識〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉

【魔氷牙・魔氷希】攻撃力110/攻撃力110〈特殊効果:可変/氷属性/凍結/魔銃/音声認識〉

【空気銃】攻撃力0〈特殊効果:風属性・バースト噴射〉×2丁

【火縄銃・短銃】攻撃力400〈特殊効果:なし〉

【アルファガン】攻撃力=魔力〈特殊効果:光属性/レイザー〉

【虹鯨(魔双銃剣ver.)】攻撃力500〈特殊効果:七属性〉

【白竜Lv93】攻撃力0/回復力283〈特殊効果:身体回復/光属性〉

【黒竜Lv92】攻撃力0/回復力282〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉

防具

【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40

〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉

アクセサリー

【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉

【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉



天狐族Lv80

《錬想銃士》Lv24

《真魔銃》Lv23《操銃》Lv43《短剣技》Lv48《拳技》Lv15《緩急》Lv12《魔力支援》Lv12《付与術改》Lv31《付与練銃》Lv32《目で見るんじゃない感じるんだ》Lv51《家守護神》Lv68


サブ

《調合工匠》Lv33《上級鍛冶工匠》Lv8《上級革工匠》Lv7《木工工匠》Lv42《上級鞄工匠》Lv10《細工工匠》Lv46《錬金工匠》Lv45《銃工匠》Lv13《裁縫工匠》Lv16《機械工匠》Lv24《調理師》Lv27《造船工匠》Lv2《合成》Lv53《楽器製作》Lv5《バイリンガル》Lv15


SP 41


称号

〈もたざる者〉〈トラウマニア〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈摂理への反逆者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈やや飼い主〉〈工匠〉〈呪われし者〉〈主演男優賞?〉〈食物連鎖の最下層〉〈パラサイト・キャリアー〉

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