サラベール山脈 麓(街)
『ブレッド君、そこを5秒程押さえて下さい。サラちゃんは、下がりながらブレッド君の回復を。アキラは、〈緋火扇〉で援護をお願いします』
『ぐっ!!了解……です』
『お任せください。〈ウォータヒール〉』
『了解。〈緋火扇〉、もう1つオマケに〈緋炎扇〉』
〈緋炎扇〉?初めて聞くアーツだな。名前からすると〈緋火扇〉の上位系か、派生系だと思うけど、威力の方は段違いだな。なにしろ、あの一瞬で魔物が消し炭になっているからな。
『皆さん、離れて下さい。範囲魔法行きます。〈ボルト〉』
うん。ここはヒナタに任せていても大丈夫そうだな。全く頼りになる後輩だよ。
『続けて行きます。サラちゃん…………』
ヒナタの指示に従い、皆が連繋を取りながら動いていく。僕達が戦っているのは、スノーラビットの群れ。フィールドエリアで、こんなに湧くのは珍しいんじゃないのか?と言うくらい湧いている。まぁ、【ポルト】に向かう洞窟ダンジョンや森の奥にいるビー達程では無いのだけど。
このスノーラビットは、真っ白で羊の様に暖かそうなモコモコを身に纏っているにも関わらず、動きが早い。多分、雪面に特化した構造になっているから出るスピードなんだろうけど、相手にするには少し面倒だよな。
〔『主よ、主だけ単独行動で良いのかの?』〕
〔『おい、流石に単独行動は失礼だろ?これでも、1番強そうなのを皆の方に行かない様に押さえてるんだからな』〕
僕が皆と離れて1人で戦っているのは、スノーラビットの群れをまとめるリーダー的な存在。
何故、それが分かるのかと言うと《見ない感じ》で確認したからでは無くて、明らかにサイズが他のスノーラビットとは違うからだ。
普通のスノーラビットは体長約1m。対するリーダー的存在は、その約3倍。
ヒナタに、コイツの相手を1人でお願いしますと言われたので、なんとか頑張っているが…………こう言うのは本職の前衛の仕事だと思う。僕の評価が高過ぎませんか?
〔『…………今さら手遅れ』〕
それを言われると元も子もないのだけどな。
まぁ、スノーラビットの数が数だからな。向こうの4人も大変だとは思うけどな。
〔『主よ、そろそろ真面目に戦うのじゃ』〕
〔『シュン、ヒナタのMPがピンチなのだ』〕
真面目にと言う言葉は腑に落ちないが、黒の言う通りで、このデカブツをなんとかしないとダメだよな。まぁ、その前にヒナタとアキラのMPだけは回復しておくけどな。
僕は、一瞬ヒナタ達の方を振り向くが、その隙を突いてデカブツは、身体以上に大きな耳を振り回して近付いてくる。まぁ、遠距離攻撃の《氷魔法》は《相殺》しているので使いたくても使えないのだから、自らが近付いてくるしか方法が無いのだけど…………
それにしても、周りの木まで真っ二つにしているところを見ると、耳の攻撃は風属性を持っているか、相当の威力が有るんだよな。まぁ、切り倒した木材は、あとで美味しく回収するとして、まずは………
僕は、作戦を考えながら、ヒナタとアキラのMPを回復させる。
〔『…………主にブレなし』〕
牽制と行動制限を優先して、白の《吸収》と黒の《相殺》を上手く使って戦っているが、デカブツのHPが高いので効果が薄い。このままだと、負ける事だけは絶対に有り得ないが、時間は無駄に掛かりそうなんだよな。
ちなみに、普通に【ソル・ルナ】や【魔氷牙・魔氷希】を使わないのは、このデカブツが斬撃耐性と射撃耐性を持っているからだ。通常のスノーラビットが斬撃耐性しか持っていない事をみると、コイツはリーダー的存在なんだろうな。白の《吸収》も一応射撃属性なので、普段より効果が薄いからな。
はっきり言うと、射撃耐性を持っている段階で、僕との相性は最悪なんだよな。と言うか、どう考えても《銃士》に優しく無いし、場違いなんだよな。
まぁ、ヒナタは分からない事なんだけど。そろそろ、ブレッドの斬撃攻撃が通りにくい事には気付いてそうだな。向こうもブレッドを盾にアキラの属性アーツやヒナタとサラの範囲魔法で攻めてるからな。
〔『我を使うか?』〕
〔『う~ん…………それは、まだ大丈夫かな』〕
シヴァからの魅力的な提案に一瞬考え込む。制限が無ければ、それでも良いんだけどな。いや、むしろ率先して使っているのかも知れないが、この先に何が有るか分からないからな。切り札は、最後まで残しておくものだからな。
〔『では、どうするのじゃ。主よ』〕
〔『どうしようかな?白と黒は、何か良い案ない?』〕
〔『…………無計画』〕
『そっちには、行かせない。《曲射》』
まぁ、実際のところは、冗談を言い合っている場合でも無いんだよな。
〔『取り敢えず、黒は休憩だな。久し振りに《拳》で戦う』〕
白で牽制と《吸収》しながら、振り回している耳を掻い潜り、素手で横腹にパンチを繰り出していく。多少のダメージは覚悟の上だ。
『痛っ!!』
ダメージの方は竜の力で回復するが、痛みは別だからな。デカブツの耳に軽くかすっただけで、あの痛みを味わうなら、接近戦は本当に割に合わない気がするな。
『長らくお待たせしました。シュンさんは援護に回って下さい。魔法で倒します』
その声で、周りを確認してみると、あれだけいたスノーラビットの群れは他の皆によって殲滅されている。ヒナタは、本当に頼りになるようになったよな。最初の洞窟ダンジョンの頃が懐かしいよ。
『了解だ』
いくら、耐性に優れているスノーラビットのデカブツとは言え、2人の魔法と1人の属性アーツには敵わなかった。5人で戦いだして1・2分で消滅していたからな。これには、ちょっと悲しくなるのだが…………
『やったね!!毛皮系の新素材が、かなり手に入ってるよ。これだけ有ったら、新しい糸も作れるかも』
『私も毛皮系です。アキラ、この素材で防具の新調お願いしても良いですか?』
その素材なら、かなり暖かそうな装備が期待できるな。もしかしたら斬撃耐性が付けれたりするかも知れないしな。なにしろ耐性系は防御力が高い事よりも貴重だからな。
『任せて。でも、新素材だからテストも含めて、暫く時間が掛かるかも、だけどね』
『それは大丈夫ですよ。お願いします』
まぁ、あれだけのスノーラビットを狩れば、僕以外の皆には毛皮の量は安定するよな。僕はデカブツを相手にしていただけなので、ドロップに関しては全く美味しくは無いんだよな。
実際に、僕がドロップされたのも素材では無くて、食材アイテムのスノーラビットの兎肉だけだからな。勿論、新しい食材アイテムを獲得して嬉しくない訳では無いが、期待してた結果とは違うから微妙なんだよな。
まぁ、その代わりと言っては何だが、デカブツが切り倒した樹氷の木材や切り出した樹氷の木片は、美味しく頂戴しているけど…………これって、水晶系の素材に合うかも知れないな。新しい弓の素材になるかもな。
『僕も、食材アイテムが手に入ったから、今度ジビエ料理にでもチャレンジしてみるよ』
来月には、クリスマスも控えているからな。ちょっとした研究も必要だろうな。
『あの~、皆さん、すみません。そう言うのは、あの~……街の中でやった方が良いのでは?』
『…………正論』
僕達が、ドロップを確認しながら一喜一憂しているのは、【サラベール】の街が、目と鼻の先に見えている場所なので、サラに言われても仕方無いよな。黒に肯定されたのは意外だったけど…………まぁ、ツッコミを入れようとするだけ、キョロキョロしているブレッドよりもマシだけどな。2人共【noir】に、馴染んでは来ている様だけど、この辺の関してはまだまだだな。
ちなみに、この辺りになると寒さも大した事が無いので、何時もの装備に戻している。
『それもそうだよね…………やっぱり、いつまでもここに居る訳にもいかないから、そろそろ街に入ろうか』
まぁ、当然、こんな場所で現実逃避気味に、ゆっくりとドロップを確認していたのにも理由がある訳で…………
何故かは分からないが、【サラベール】の街は他の街に比べて雰囲気が不自然なくらい暗い気がするんだよな。僕と同様に、アキラとヒナタにも自然と伝わっている。2人共に現実逃避気味にドロップアイテムの確認を始めるくらいには…………
それに、外壁が所々破損しているのも気になるんだよな。具体的に言うなら、元からの仕様なのか、最近何かに壊されたものかが知りたいところだな。多分、後者の可能性が高いけどな。
まぁ、アキラの言う通りで、いつまでもここに居る訳にもいかないのと事実なんだけど。
【サラベール】の街は、【シュバルツランド】の街と同じで中世ヨーロッパを基調としているが、常に雪が舞っている分【シュバルツランド】よりも幻想的で美しく、なによりも寒い。季節が冬だと言う事も差し引いても十分にお釣りが来るくらいだ。ただ、現実の雪道とは違って、いくら歩いてもビチャビチャにならないのは素敵だ。
1番大きな特長としては、街の中にヨーロッパ各国別のシェルターと言う小さな町が集まっていて、1つの【サラベール】の街になっているところだろうな。街の各入口には、大きな地図が掲示されておりイギリス、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル、スイスの各シェルターが、何処に有るのかが一目瞭然で分かる様になっている。それに、シェルターは現在も絶賛増殖中の様だしな。
まぁ、言葉が通じる同士で冒険した方が一層楽しいからな。この配慮は素敵な仕様だな。
街の大きさ的にも、ヨーロッパのサーバータウンと言うだけ有って、【シュバルツランド】の街が軽く3つは入るサイズをしている。これくらいのサイズが有れば、【シュバルツランド】みたいに人数過多で、ホームを持つのにも苦労しないんだろうな。
『やっぱり、想像通りと言いますか………見た目通りと言いますか………どこか、ギスギスしてますね』
〔『主よ、ヒナタ嬢の言う通りで、普通の雰囲気では無いのじゃ』〕
〔『…………何かのイベント中?』〕
まぁ、その可能性は高いよな。でも、どちらかと言うと楽しくない系のイベント前の準備期間と言う感じだよな…………例えるなら、僕のハーフマラソンの前の雰囲気に似ている気がするからな。
〔『そうだな。皆、取り敢えずは、周りのプレイヤーに聞かれて不味い事も無いんだけどパーティーチャットで話そうか。あっ!!あと、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語の5つくらいは《バイリンガル》を取得しとこうか』〕
【サラベール】はヨーロッパのサーバータウンだから、色々な言葉が飛び交ってそうだからな。ここで、日本語が理解されるとは思っていないが、世の中には日本語と同じ発音で違う意味を持つ外国語も多く有るので、用心しておいた方が良いだろうな。こんな事で誤解されても嫌だからな。
〔『了解。それくらいの準備は、有った方が良いかもね』〕
〔『私も分かりました。このあとは、どうしますか?』〕
〔『まずは、いつもの様にゲート登録と本来の目的である書類配達からだな。そのあとは、自由行動でも良いけど………』〕
〔『それは、情報を集めてからの方が良いかもね。シュンは、王様の方を、お願い出来る?私達は、少し情報を集めておくよ』〕
〔『了解だ。終わったらコールする』〕
ここが、【サラベール】の城だよな。今まで見て来た城からすると、若干インパクトに欠ける気はするが、質素とか規模が小さいと言うよりも、趣が有ると言う感じだよな。普通ならいるだろうはずの場所に門番もいないし…………
〔『…………黒は好き』〕
まぁ、そうだろうな。落ち着いた雰囲気は黒に似合っているからな。
〔『取り敢えず、今から城に入るから、くれぐれも静かにしておいてくれよ』〕
“reception”
『レセプションか…………と言う事は、受付はここで良いんだよな?』
《バイリンガル》で英語を取得して無かったら、この場所すらも分からなかっただろうな…………と言うか、この能力を現実にも持ち込めたら良いのにな。確実に、英語のテストでは100点が取れるだろう。
いくら、辺りを見渡しても門番は居ない。見付かったのは…………アンケート用紙みたいな紙が1枚。ここに、名前と用件を書けば良いのか?と言うか、それ以外の方法が思い付かないからな。まぁ、ダメ元で試してみれば良いよな。
僕が、紙に名前と用件を書き終えた瞬間に、辺りの景色が一瞬で変わる。
『えっ!?』
〔『主よ、ここは、どうやら城の中じゃ』〕
〔『城の中なのか?あの一瞬で転送したのか?ゲートも無いのにか?』〕
何かのトラップなのか?もしかして、かなりヤバイ状況じゃないのか?
〔『シュン、落ち着くのだ。多分、目の前におるのが【サラベール】の王様なのだ』〕
全く落ち着ける状況ではない僕に、シヴァが止めを刺してくる。少しは白達みたいに空気を読んで欲しいんだよな。
………って言うか、今シヴァは王様って言ったのか?目の前を確認すると、そこには…………いかにも私が王様ですと言う人物が玉座らしき物に鎮座していた。
うん!?僕の遠近感が狂っているのか?やけに椅子だけが小さく見えるのだが…………
〔『主よ、大丈夫なのじゃ。主は、おかしくないのじゃ。あの王様が見た目以上に大きいだけなのじゃ』〕
それは、本当に大丈夫なのだろうか?僕の命的な意味でも…………と言うか、アレだけ身体が大きいなら、玉座も身体に合わせて大きく作れば良いだけだと思うんだがな。
あのイスが、僕が他の国々で見た事の有る物と同じだとすると、【サラベール】の王様は、僕の知っている人類のサイズには納まらないだろう。
『フォッフォフォ。何時までもそんなところにおらず、こっちに来たらどうじゃ?フォッフォフォ』
こうなったら、出たとこ勝負か。白達もいるから、最悪な事には、ならないだろうからな。
『失礼致します。僕は【シュバルツランド】から来ました。ギルド【noir】のギルドマスターをしているシュンと申します』
近付いてみると、そのサイズ感は顕著に現れる。王様らしい人物は、イスに座っていても僕よりも高い。推定3m以上だな。僕も背は高い方では無いが、流石に座っている相手を見上げるとは思わなかったからな。
『フォッフォフォ。儂は、この【サラベール】を統べる王、サララベール・フォッフォじゃ。フォッフォフォ』
この碌でもない身長以上に、ややこしく感じる名前だな。まぁ、名前以上にフォッフォフォ、フォッフォフォと言う口癖が五月蝿く感じるんだが…………名前がフォッフォで口癖がフォッフォフォとか、マジで勘弁して欲しい。
〔『…………同意』〕
〔『主よ、ワシもなのじゃ』〕
『用件は、紙にも書かせて貰いましたが、これを【シュバルツランド】の王から託されて参りました』
僕は、鞄から取り出した書類一式を王様に手渡す。
王は、軽く書類と手紙に目を通すと、暫く考え込み…………
『フォッフォフォ。確と頂戴したのじゃ。フォッフォフォ』
良し!!これで、4つ目が終了だな。あとは【チメリア】で終わりだな。あれ!?どう言う事だ?クエストの進行状況が3/5のままで変化が無いよな。
『フォッフォフォ。シュンよ、そちに頼みが有るのじゃ。フォッフォフォ』
〔『…………嫌な予感』〕
〔『我もなのだ』〕
〔『それは、僕もなんだが…………』〕
これを受けないとクエストが進まないんだろうな。やっぱり、何処の王族も似たようなものなのだろうか?取り敢えず、話しだけ聞いてみてから判断しようかな。
『それで、頼みとは何でしょうか?』
『フォッフォフォ。今、この【サラベール】では、ある大きな事件が起きておるのじゃ。それの解決をお願いしたいのじゃ。フォッフォフォ』
う~ん…………事件と言うのは、街で起きていると感じたクエストの事か?
『その、ある大きな事件と言うのを詳しく聞いても良いですか?』
『フォッフォフォ。儂にも、詳しくは分からんのじゃ。街全体の雰囲気が暗いのじゃ。なので、全ては街で聞けば分かるはずなのじゃ。フォッフォフォ』
アバウト。いくら何でもアバウト過ぎないか?頼みが有ると言うのに内容が詳しく分からないとか信じられないぞ。
僕が内容を間違えてたら無駄骨を折る可能性も有るからな。間違ったクエストをクリアしようものなら、疲労を倍に感んじるんだろうな。
〔『…………断る?』〕
〔『主よ、断った方が良いのじゃ』〕
〔『我も、それに1票なのだ』〕
3対0か…………
〔『アキラ達と合流してから判断するのは、ダメか?』〕
取り敢えず、この意見には3匹共に反対は無しか。じゃあ、決定だな。
『良い変事が出来るか分かりませんが、少し考える時間を下さい』
『フォッフォフォ。申し訳無いが、【サラベール】の未来を宜しく頼むのじゃ。フォッフォフォ』
重い………未来を託されるとか重いよな。明らかに僕みたいな1プレイヤーに載せていい負担では無いんだよな。
『…………と言う感じだったんだ。僕の方は以上かな。それで、皆の方は、どうだったんだ?』
僕達が集まっているのは、【サラベール】の神殿付近に有る喫茶店。南門のゲートからも近く、他にもプレイヤーらしき人物が何人か利用していたので、味の方も信用が出来そうなので僕達も寄らせて貰っている。
来店しているプレイヤー達の会話からして、ここもプレイヤーのホームになっているらしく、喫茶店の調理をしているのも当然と言うかプレイヤーらしい。たまたま、今日はマスターが不在の為、雇われのNPCが店番をしているらしいが、出てくる物はプレイヤー産の料理だ。確かに、プレイヤーが運営しているだけ有り、紅茶が上手い。あとで、お土産に茶葉を買って帰りたいところだな。
と言うか、僕も【シュバルツランド】で喫茶店を開きたくなったよな。紅茶の普及の為にも…………
既に、僕の方は王様とのやり取りを説明している。まぁ、話を聞いた瞬間4人共が一瞬だけ嫌な顔をしたのは見逃さなかった。
『私達の方は、私とブレッド君で西側を、ヒナタとサラちゃんで東側を回って情報を集めたよ。まずは、私達から説明するね。私達が集めた情報は…………多分、シュンの言っていた話と関係有る話だと思うんだけど、今【サラベール】では、とあるクエストが進行中みたいなんだよね』
確かに、王様の言う大きな事件と関係の有りそうな話だよな。
『それで、とあるクエストって?』
『うん。元々は2週間前に開催された公式イベントが、発端みたいなんだけど。その時に、誰が引いたかは分からないけど、キークエストのトリガーを引いちゃったみたいなんだ』
聞き覚えの無い言葉が出てきたな。キークエスト…………クエストの鍵か?
『私とサラちゃんが集めた情報も、それ系が殆んどですよ』
『すまない。そのキークエストって何なんだ?』
『シュン、キークエストと言うのは、連続して発生するクエストの1番最初の事だ』
連続して発生するクエストの1番最初か、そう言うのも有るんだな。まぁ、遭遇する確率は、かなり低そうだけど…………
『悪いな。ブレッド、助かった。僕は、OOO以外のゲームを殆んどやった事が無いからな。ゲーム用語に疎いんだよ』
『そうだったね。シュン、ゴメンね。忘れてたよ』
まぁ、このゲームは、それなりにやり込んでいるから、アキラが忘れていても仕方無いんだけどな。
『大丈夫。気にしないで、話を続けて』
『うん。そのクエストなんだけど、全部で4段階有るみたいで今は3段階目で詰んでる状態なんだって』
詰んでる?と言う事は、進まないのか、それとも進めないのか…………進まないのなら、首を突っ込まなくても何かの切っ掛けで進み出すから良いと思うけど、進めないのなら、碌でもない事に巻き込まれる可能性が高い。
僕だけなら巻き込まれても良いが、無理やり仲間や参加したくない白達を巻き込むのは、ダメな気がするよな。
アキラ達の説明では、最初のクエスト………つまり、この場合はキークエストになるのだが、ヨーロッパサーバー第4回公式イベント「魔物の大軍から街を守れ」と言う街を防衛するイベント中に、どのプレイヤーかは分からないが、その魔物の大軍の中にいた小さなドラゴンを倒した事が、トリガーとなり…………連続クエスト「ドラゴンの報復」が始まったらしい。
ドラゴンの報復
1/4 ベビードラゴンの討伐
2/4 スノードラゴンの討伐
3/4 レイドバトル・マザードラゴンの討伐
4/4 ???
クリア報酬
ドラゴン系の素材等
フィールドにドラゴン解禁
3/4のレイドバトル・マザードラゴンの討伐が条件を達成出来ずに詰んでいるのか。どうやら、街の外壁が所々破損していた理由は、この辺に有りそうだな。
このクエストは、1日1回1時間だけの限定で【サラベール】をマザードラゴンが襲いにくるらしい。1時間の制限時間付きに加えて、発生する時間が毎日ランダムに変わるので、タイミング良く強者を集められないらしい。それに、その1時間を過ぎれば何処かに逃げて次の日には全快した状態で再び現れるらしい。
仮に強者を含めて、それなりの人数を集める事が出来たとしても、現状では倒すのは難しい。その1番大きな理由は、マザードラゴンの攻撃力が高過ぎて1撃で倒されるプレイヤーが多いところにあるらしい。
1撃で倒される為、回復系のプレイヤーの出番が少ない。むしろ、真っ先に殺られてしまうのが、前衛を回復しなければならない回復系のプレイヤーなのだから、本末転倒なんだよな。
あと、ヨーロッパのプレイヤーの主流が前衛ソロ寄りに片寄っているのも大きな理由だろうな。レイドバトルには、出来る後衛の存在が欠かせないからな…………と言うか、出来る後衛の代表格であるジュネが居れば1人でどうにかしそうだなんだけどな。
そして、この状態が繰り返して2週間近くも続いているらしい。まぁ、2週間近くもクリア出来ない状況が続いたら、街の雰囲気が暗くなるのも納得出来るよな…………
4/4が???なのは、まだ3/4をクリアしてないからなんだろうけど…………と言うか、この場合はマザードラゴン以上の存在が、後続に控えていると考えた方が良いのか?ちょっと考えるのも怖いのだけど。誰がキー引いたかは知らないが少し恨むぞ。
まぁ、このクエストのキーを誰が引いたか分からないのは、吊し上げを喰らうのを避けて、キーを引いたプレイヤーが名乗り出ないからなんだろうな。
でも、魔物の大軍の中に標的になるベビードラゴンが紛れていたのだとしたら、クエストの回避は難しいのだろうな。まぁ、新しいクエストが発生するなら、例え結果を知っていたとしても回避すると言う選択肢は無いとは思うけど。特にアクアやレジーア等は喜び勤しんで引きに行くだろうからな。
それにしても、ドラゴン系の討伐クエストか…………
〔『主よ、ワシと黒の事なら気にする必要は無いのじゃ。ワシらは上位の竜種。下位の龍種でもドラゴン種でも無いのじゃ。ワシらとの格の違いを見せ付るのじゃ』〕
ドラゴンって、そんな多くの分類が有ったんだな………初めて知ったよ。
〔『…………黒も、殺る気満々』〕
標的がドラゴン系と知り、さっきまで反対していた白達が賛成派に変わっているが、白達で同士討ちをするのは嫌だからな。ますます気分が乗ってこないよな。報酬は魅力的なんだけど…………
〔『白達を使わなければ良い話なのだ。代わりに我を使えば良いのだ』〕
まぁ、それは有りかも知れないが、シヴァを目立つ場所で堂々と使うのは却下だ。仮に使ったとしても切り札だな。だが、確かにドラゴンを攻撃するのに【白竜】【黒竜】を使わなかったら良いだけと言うのは一理有るか。
使うとしても、サポートするポジションで回復等に使うなら問題無いかな。元々このクエストに参加しないと書類配達のクエストが進まないみたいだし、何よりも報酬の方が魅力的だからな。
余談だが、白達の言う上位の竜種とは、二足歩行が出来る種族らしい。その下位に相当する、龍種は脚を持っていない蛇の様な種族で、ドラゴン種は四足歩行しか出来無い種族らしい。共通して言えるのは、翼を持ち空を自由に飛べたり言葉を理解出来る個体は、各種族の中でも位が高くなる様だ。それを踏まえると、白と黒はかなりの上位種になるって事だよな。
『一応、確認しておきたいんだが、皆はどうするんだ?』
『シュンが来る前にも、話していたんだけど………私達は、時間さえ合えばクエストに参加しても良いかなって思ってるんだ。でも、白ちゃんと黒ちゃんの事を考えると…………ね』
ヒナタはともかく、知り合って間もないサラちゃん、ブレッドまでが頷いているところを見ると、かなり気を使わせてるのかも知れないな。
〔『その気遣いは、かなり嬉しいよな。なぁ、白、黒』〕
〔『主よ、虎猫の姉さん達の気持ちは、ワシらにでも分かるのじゃ』〕
『本当にすまないな。それと、気を使わせてるところ悪いんだが、当の本人………白と黒は、かなりやる気を見せてるみたいでな。正直に言うと僕が反対するだけでは止まりそうもない。それに、本人達が言うには、白達は上位の竜種で、下位にあたる龍種とドラゴン種は別種族らしくて、格の違いを見せたいらしい』
『『『『…………』』』』
4人が4人共に、疑惑の目で僕の銃を見ている。
『まぁ、僕も同じ気分だから、皆が言いたい事も分かるんだけど、【サラベール】の王様とヨーロッパのプレイヤー達を助けると思って、参加してみないかな?まぁ、クエストの開始時間は分からないから、参加出来るかどうかは分からないんだけどな』
まぁ、本心は1に素材、2に素材なんだがな。
『俺は、大丈夫』
『白ちゃん達が良いなら、私も大丈夫です』
『私もです』
『…………分かった。私も参加するよ。でも、こう言うのって大概は話してたら…………』
『マザードラゴンだ!!マザードラゴンが出たぞ。今回は西門だ!!参加出来るヤツは急いでくれ!!』
『フラグが立つって言いたかったんだけど、やっぱり立ったみたいだね』
アキラが話すのを遮る様に地元と思わしきプレイヤーが街中を走りながら連絡を回している。喫茶店にいた他のプレイヤーには、別ルートからメールも入っているようだ。何かを一生懸命確認しているのが伺われる。
『取り敢えず、西門に急ごうか。直接マザードラゴンを見てみないと判断がつかないからな』
僕達は、喫茶店を飛び出した。
装備
武器
【ソル・ルナ】攻撃力100/攻撃力80〈特殊効果:可変/2弾同時発射/音声認識〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉
【魔氷牙・魔氷希】攻撃力110/攻撃力110〈特殊効果:可変/氷属性/凍結/魔銃/音声認識〉
【空気銃】攻撃力0〈特殊効果:風属性・バースト噴射〉×2丁
【火縄銃・短銃】攻撃力400〈特殊効果:なし〉
【アルファガン】攻撃力=魔力〈特殊効果:光属性/レイザー〉
【虹鯨(魔双銃剣ver.)】攻撃力500〈特殊効果:7属性〉
【白竜Lv84】攻撃力0/回復力264〈特殊効果:身体回復/光属性〉
【黒竜Lv84】攻撃力0/回復力264〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉
防具
【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40
〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉
アクセサリー
【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉
【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉
天狐族Lv72
《錬想銃士》Lv15
《真魔銃》Lv19《操銃》Lv39《短剣技》Lv41《拳技》Lv6《緩急》Lv4《魔力支援》Lv4《付与術改》Lv23《付与練銃》Lv23《目で見るんじゃない感じるんだ》Lv47《家守護神》Lv63
サブ
《調合工匠》Lv33《上級鍛冶工匠》Lv8《上級革工匠》Lv7《木工工匠》Lv42《上級鞄工匠》Lv10《細工工匠》Lv46《錬金工匠》Lv45《銃工匠》Lv36《裁縫工匠》Lv16《機械工匠》Lv24《調理師》Lv26《造船工匠》Lv2《合成》Lv53《楽器製作》Lv5《バイリンガル》Lv12
SP 12
称号
〈もたざる者〉〈トラウマニア〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈摂理への反逆者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈やや飼い主〉〈工匠〉〈呪われし者〉〈主演男優賞?〉〈食物連鎖の最下層〉〈パラサイト・キャリアー〉




