1人旅 4
タイムアウトになり、徒歩で【ペンタグラス】に戻った僕らは広場へと足を進めている。取り敢えず、結果の確認をする為だ。あれだけの苦労と手間を皆にお願いしたからには、最低条件の遠征権だけは達成していて欲しいよな。
それにしても、この格好は街中では目立つな。すれ違う度に振り向かれたり、2度見されたりするからな。モニターでさっきのレース見ていたプレイヤーもいるんだろな。まぁ、今は目立つ方が僕の目的達成には丁度良いんだけどな。
時間的に、ログインしているプレイヤーは少ないはずなんだが、本当に人が多いな。それだけアメリカサーバーのプレイヤー人口が多いって事なんだよな。
『シュン、結果が出てるみたいだよ。え~と、ゼニスは………』
さて、ゼニスはどうなったかな?タイミング的には新記録も狙えるてる思うんだけどな。
英語表記は探しにくくて、すぐには見付からない。隣にいるアキラも同じみたいだけど………
『2人とも何処を見ている?1番上だ、ランキング1位だぞ』
ドームが、いち早く発見してくれる。
『『おぉ~~!!』』
確かに、ゼニスと僕の名前と時間共に〔New record !!〕って書いて有るな。見逃していたな。って言うか、タイムアウトになった僕の名前も載るんだな。ペア競技なので当たり前と言われれば、そうなのだが………完全に失念してたな。こうなってくると、グレタフに名前を隠した事が逆に恥ずかしくなるよな。
現時点で2位以下と3分以上の差が有る。イベント終了までに数日残っているが、この記録だと上位にも入賞出来るかもな。ゼニスも喜んでいるだろうな。
まぁ、ゼニスには最後の一仕事が残っているんだけどな。
『俺とレナは、そろそろログアウトさせて貰うが良いか?』
『今日は急に誘ったのに協力してくれて助かったよ。ドーム、レナ、ありがとうな。逆に困った事が有ったら何時でも呼んでくれ。絶対に駆けつけるからな』
『そんなに、気にしないで下さい。私たちも十分楽しみましたから。それでは、また』
本当に2人がいてくれて助かったからな。2人とも本当に良いヤツだよな。この恩は必ず返さなければならない。取り敢えず、報酬も兼ねて自家製茶葉の完成品第1号はレナとドームだな。
『よぉ!!シュン、かなり遅かったな』
お前に比べれば、誰でも遅くなるだろうな。誰も瞬間移動の速度は勝てないからな。
『アクア、さっきは悪かったな』
『あぁ、気にするな。そうだな、1週間ポテトサラダの刑で許してやるぞ』
『えっ!!それだけで良いのか?』
説教を含めて、その程度なら安い物だな。ポテサラは、僕も好きだから作るのも苦にならないからな。
『あぁ、渓谷での件は、それで十分だぞ。説教は別腹だからな』
やはり、そんなに甘くは無かったな。一応、覚悟しておくかな。
『シュン兄ちゃん、お帰り。本当に、ありがとう。見て、これが遠征権』
シュンと呼べって言ったはずなのだが………カゲロウと同じで言う事を聞かない系か?
アクアと一緒だったのかな?まぁ、ゴールしてから結構な時間も経っているし不思議では無いか。ただ、嬉しそうに見せてくれている遠征権が………
『その紙切れがか?』
僕は、パスポートの様な物を想像していたからな。見せられた物が、ただの紙1枚と言うのは拍子抜けしてしまう。英語で色々書いて有る様だが、半分くらいしか理解出来ないしな。
『そのリアクション何?レアアイテムだよ』
幾らレアアイテムと言われても、納得出来ないものは出来ないからな。
『悪かったな。僕への報酬は明日にしてもらえるか?このあとだと、流石に疲れるからな』
『???アタシは、明日でも大丈夫だよ』
〔『アクア、アキラ、フレイ、カゲロウ、聞こえてる?僕は、これからゼニスとPVPをやるから、手を出さないで欲しい』〕
〔『シュン、どうしたの急に?』〕
〔『何か有ったのか?』〕
〔『主よ、本当にやるのかのう?』〕
〔『うん。ここまでやる事が、最初から僕の計画通りだからな。今のままだと、ゼニスの評価は大きく変わらないと思うんだ。グレタフを圧倒した僕を倒して、初めてゼニスが英雄になる。ここは、アメリカだから1人くらい英雄が居ないと締まらないだろ?蜘蛛の人やコウモリの人、鉄の人、超人みたいに………』〕
〔『シュンらしいね。了解。私は、手を出さないよ』〕
〔『なるほどな。最初からの計画だったか………幾ら怒っていても、グレタフを挑発してケンカを売るのは、シュンらしくは無いと思ってたんだよな。これで、納得出来たわ』〕
〔『ウチも、了解や。見させて貰うわ』〕
〔『ギルマスは、相変わらずお人好しが過ぎるな』〕
これに関しては、自分でも自覚が有るからな。否定出来ないんだよな。まぁ、実際は、ここで倒される事で僕にも少なくないメリットが有るんだけど、皆には秘密だがな。
〔『ありがとう。皆も、適当なところで観戦を切り上げて船で待っていてくれ』〕
あとは、アクアに個人的なお願いをメールしておくかな。
『ゼニス、今からが真の最終対決だ。僕とPVPで戦って真の勝者を決めようぜ』
『えっ!!どういう事?アタシはイヤだぞ。そんな必要は無いだろ?』
まぁ、これだけでは、普通伝わらないだろな。勿論、聞かれても話す気は無いけどな。
『問答無用だ。やりたくも無いイベントを手伝ったんだ。本気で相手をして貰うからな』
僕はゼニス相手にPVPの申請をだす。当然、観戦可能、録画可能にして有る。
PVPに関する細かい設定は、申請を出した方に決定権が有る。以前に、この機能を知っていれば、黒の職人さんがあんなに目立つ事は無かったのだがな。
『イヤだ。アタシは絶対にイヤだ』
『ゼニス、拒否権は無いと思うぞ。拒否したとしても、戦って負けたとしても、遠征権を永久に消滅させるからな』
『そんなの、で、出来る訳が無い』
勿論、他人のレアアイテムにそんな事は出来ない。しかし、ゼニスやモニターでイベントを見ていた人達は、僕が魔法を消滅させているのを目の当たりにしているからな。完全に否定出来ないはずだ。少しの疑惑が有れば、疑うのには十分だからな。それに、
『き、消えた。アタシの遠征権が消えた』
《朧》を使えば、手に持っているアイテムを消えた様に見せる事だけは可能だからな。消えて見えるだけなので、アイテム欄を確認すればバレバレなのだが、表情を見る限りそんな余裕は無さそうだな。
『もう、遠征権を手に入れるには、僕と戦って勝つしか無いぞ。返して欲しければ全力で来い』
最初は拒否していたゼニスも、僕が引かない事やアイテムが消失した事で観念したのか、僕とゼニスを残し隔離された空間が辺りを包んでいく。
久しぶりのPVP………今日は、もう弾の出ないグレタフ殺しの【火縄銃】を右手に。左手に攻撃力の低い【水鉄砲】を持つ。《朧》を使って見た目を【アルファガン】に見せれば、僕の狙う効果は倍増するはずだからな。
当然、【白竜】と【黒竜】は鞄の中に入れておくので竜の力での超回復も無い。
始めから完全な負けが決まっている八百長試合。あとは………僕の演技力だけだな。まぁ、それが1番の問題だがな。
PVP Go fight!!
『シュン、教えて。何で………こんな事をするんだ?』
まだ、納得出来て無い様だな。それとも何かしら疑っているのか?僕は演技でも、ゼニスが演技じゃ困るんだよな………
〔『…………大根役者』〕
言われるまでも無い、僕が1番理解しているからな。って言うか、良く大根役者って言葉を知ってたな。
『まだ、分からないのか?人間のどんな表情が1番美しいか知ってるか?喜びから絶望に叩き落とされた表情。つまり、今のゼニスの表情だ』
ダメ押しとして、これくらいは言っておけば良いんだろうけど、自分で言って自分で自己嫌悪するよな。
かなり凹む……………
〔『主よ、自業自得なのじゃ。しかし、本当に演技しているのかの?思わず疑うくらい表情が上手いのじゃ』〕
えっ!?それって褒められてる?微妙に貶されてないかな?
〔『…………褒めてる』〕
黒に至っては、かなり嘘くさいが…………一応は褒め言葉として信じておくかな。それと、話は変わるが、鞄に入れていても心話が出来るのは便利だな。
『ゆ、許さない。絶対に許さない。アタシは、信じてたのに…………』
おっ!!やっと、やる気になったみたいだな。
『簡単に人を信じると痛い目に遭うって事だな』
〔『白、黒、序盤2分だけは《探索》でサポート頼む。それ以降は何もしなくて良いからな』〕
さて、死へのカウントダウン…………スタートだな。
『〈ランド〉〈イグル〉〈ジロン〉お願い。行け!!A連携』
へ~!!使役魔物3体同時も可能なのか。やっぱり、どう考えてもアメリカサーバーでの|《訓練士》《ゼニス》の評価が低過ぎるよな。
〔『主よ、あまり考えている余裕が無さそうじゃ。右・右・左・上じゃ』〕
みたいだな。〈ランド〉と〈アルマジロン〉と自分の鞭で、僕の気を地上にとらせておいて〈イグル〉での上空からの攻撃か、流石にソロ戦闘に慣れているな。
〔『………ハズレ』〕
〔『すまんのじゃ。主よ、上のあとで左からの体当りが、本命の様じゃ』〕
〈ジロン〉の動きは、見た事が無いからな。演技を本物に見せ続ける為には観察させて貰わなければな。
白の指示を受けて、余裕を持ってゼニスの攻撃を回避していく。勿論、弾の出ない【火縄銃】での攻撃も忘れない。時折、マガジンを入れ替えているので、外で見ている人にも弾が出て無い事は分からないだろうな。
『ちっ!!それなら、これはどうだ〈ダンシングウィップ〉』
鞭のアーツでの連続攻撃だ。直線的な攻撃では無いので回避しにくいな。近距離、中距離と範囲も広いからな。遊撃向きで本当に良い武器だな。
さぁ、モニターを見ているプレイヤー達、良く見ろよ。これが、ゼニスだ。お前達がイジメていたゼニスの力だぞ。
僕は、白達の協力を得て2分間ゼニスの攻撃を紙一重で完封した。その間にも、ゼニスはバリエーションに富んだ攻撃を繰り出してきている。白達の協力が無かったら回避するのは無理だったよな。
『ちっ!!次は、これだ。〈奥義魔物大行進〉〈奥義スターウィップ〉』
《調教》と《鞭》の連続奥義か………これを回避して、他の攻撃を喰らうと不自然になるよな。時間は、開始から3分少々か…………動画を再生する時間的にも丁度良いかな。
まぁ、本音を言うと、白達抜きで連続奥義を避出来る気がしないだけなのだが。
『がはっ!!…………ぐふっ!!…………ごほっ!!…………』
左足に〈ランド〉が噛み付き、右腕を〈イグル〉が脚の爪で握り潰し、鳩尾には〈ジロン〉が体当たりしてくる。これが連続で繰り返される。そこに………
『がぁぁぁっ!!』
トドメの一撃と言わんばかりの鞭での攻撃だな。ゼニスから鞭は威力が低いと聞いていたが、全然痛いよな。こんなの喰らうなら、その前の攻撃を喰らえば良か…………
僕の意識は消えていく。気付いた時は、目の前に「You lost!!」の文字が浮かび上がっていた。
さっきのは、めっちゃ痛かったよな。2度と喰らうのはゴメンだな。それにPVP前よりも周りからの視線が痛いな。反対にゼニスへの視線が暖かい物に変わっている。
〔『主よ、成功の様じゃ』〕
〔『そうみたいだな。次が最後の演出だ』〕
昨日、念の為に練習しておいたからな。少しだけ自信が有る。
『アタシの勝ち。さっさと遠征権返して』
本当に自業自得なのだが、ゼニスからの視線が痛いのは辛いよな。まぁ、これからは1人でも大丈夫だろうな。周りの雰囲気を見ると1人じゃ無くなるかも知れないが。ゼニス、頑張れよ。
ゼニスの手の中に、徐々に遠征権が現れてくる。反対に、僕の身体の方は、光の屑になって足下から徐々に消えていく。《朧》を使った最後の演出だ。英雄の前では悪役は消え去るべきだからな。
………その間、僅か10秒。
練習通りに出来て良かったかな。最後の思い出に、ゼニスの驚く顔も見れたからな。
周囲には、既に仲間達の姿は無い。このまま船まで戻ろうかな。
『お疲れさま。迫真の演技だったよね。私も、知らなかったら騙されてたと思うよ。それと、ゼニスの事………辛かったよね。大丈夫?』
『シュン、あんまり無茶し過ぎたらアカンで。アレは友達無くすから程々にしときよ。それと、分かってたんやけど、自分が消えた瞬間は少し焦ったんやで。ほんまに身体は大丈夫なんか?』
『ありがとな。僕は、大丈夫だ。まぁ、これから、ゼニスがOOOを楽しめて頑張れるなら、それで良いんじゃないか?』
気持ちだけ残せれば良いからな。
『おっ!!ギルマス、帰ってたのか?アレは最高だったぞ。ヒナタにも見せてやりたかったぞ』
『確かにな。アカデミー賞ものじゃないか。俺は、笑いを堪えるのに必死だったが。あんな面白いモノは、なかなか見る機会が無いからな。説教の件はもう良いぞ。カゲロウ、それの辺りは大丈夫だ。動画を撮らして貰ってるからな。あとでアップしとく』
この2人は、言いたい放題だな。アレでも、かなり考えた結果なんだぞ。万が一誰も動画を撮らなかった場合を考えて、アクアだけに撮影を頼んだのは失敗だったか?
こっちは、新しい称号も得て凹み気味なんたぞ。少しは、フレイやアキラみたいに優しさを見せて欲しいものだな。
new称号
〈主演男優賞?〉
多くの人を欺いた者への称号
取得条件/多くの人を欺く※アメリカサーバー限定
『それは、ちょっと酷くないかな?ゼニスのこれからの為に、仲良くなったゼニスに嫌われたんだよ』
『そうは言うがな。動画の撮影指示はシュンからだぞ』
『『えっ!?』』
アキラとフレイが驚いている。アキラ達には言って無かったから仕方ないけどな。この場合は、全く動じずに笑っているカゲロウの方を褒めるべきなのかも知れないな。
『まぁ、念の為に保険をかけてただけなんだけどな』
『保険?まだ、何か悪巧みしとるんか?』
『フレイ、悪巧みは人聞きが悪いぞ。ゼニスの活躍を見てたプレイヤーが動画を撮って無かったら、アクアに動画をアップして貰う予定だっただけだ。こう言う動画の編集センスだけは、信頼出来るからな』
格闘ゲームの世界ランカーだけあって、動画のコマ割りとかカメラワークには煩いからな。
『シュン、ほんまにそれだけか?自分の事やから、もう1つか2つくらいは悪巧みが有りそうなんやが』
やっぱり、フレイは鋭いな。黙っているのも限界だろうな。まぁ、アレだけ協力して貰ったから、話せと言われれば話すんだがな。
『参ったな。降参だ。多分、グレタフと戦った動画はイベントだからアップされてると思うだよな。アレだけだと、また僕の存在が悪目立ちするだろ?だから、あの動画で相殺出来たらなって思ったんだ…………あわよくば、黒の職人さん動画の人気低減を狙ったんだ』
『そう言う事だったんだ。最初に全部教えてくれてたら良かったのに』
『今日は、色々と時間が無かったからな』
それに、ゼニスを欺くのは味方からって言うからな。リアリティーは必要だろう。
『シュン、今日の報酬として、明日はイベントの途中で通った崖と山道の採掘付き合って貰うで。ケイトには、ウチから連絡しくとくわ』
あの場所は、僕も気になっていたからな。反対する必要は無いな。
『了解だ。ただ、先に城に寄って用事を済ませてからになるぞ。終わったら連絡する』
翌日は、ログイン早々に城での用事を済ませている。城の周りの堀は《朧》を使って姿を隠しながら、堂々と空中を歩いて渡った。装備もローブマントや銃を外しているので、街中で歩いていても僕が黒の職人だと気付くプレイヤーも居なかったな。まぁ、見た目が全く違うからな。
城の中では、特にイベントが起きる事も無く、手短に書類の受け渡しが終わっている。このクエストの達成率が5分の1と表示されたのを見た時は、若干先が思いやられる気分になったけどな。
次の目的地は、南アメリカ的な【アクアパレス】。地図的な位置からすると、ここから南東だな。距離は近く無いし、海に直接面しては無いが、この陸地沿いに南下して【アクアパレス】近くの川を船で行けそうな感じだな。
まぁ、その川に橋が架かっていて船で通れ無かったら、その時に考えるしかない、行き当たりばったりな計画なのだがな。直接行くまでは詳しい地形が分からないから仕方ないよな。
【ペンタグラス】が、塀に囲まれた五角形の街だったので、【アクアパレス】にも期待してしまうよな。初めて聞いた時は、思わず水の都ヴェネチアを想像してしまったからな。まぁ、ヴェネチアはヨーロッパに有る街なので、流石にそっくりって事は無いと思うけど、楽しみで仕方ない。
それと、来月1日からの公式イベント、ハロウィンは参加しないにしても、今月末に開催するカゲロウのクエストまでに、せめてアクアパレスまでは行っておきたいんだよな。
時間の猶予が少ないので急ぎ旅では有るが、今日だけは採掘を楽しむ予定だ。旅先では、ちょっとした楽しみが無いとテンションも上がらないからな。
フレイとケイトと待ち合わせをした時間までには、少し時間が有る。城の方が順調に進んだのでフレイ達に連絡してみると、まだ準備が出来てなかったからだ。
『…………街の散策』
【ペンタグラス】に着いてから、ゆっくり街の中を見て回れていないからな。時間に余裕も有るし…………
『そうするか。ただし、会話は心話で頼むぞ』
【ペンタグラス】を、2日間歩いてみて分かっている事も有る。この街には、全くファミリアを持つプレイヤーがいない。まだ、ファミリア系のイベントが実装されて無いだけか、持っていても隠しているだけだと思うけど…………そんな街の中でファミリアを連れていたら目立ち過ぎるからな。
まぁ、【シュバルツランド】でも、ファミリアを持つプレイヤーは多くないし、まして、竜のファミリアは、僕以外に見た事が無いから、余計な。
〔『了解なのじゃ。ワシらも雪へのおみやげを買うのじゃ』〕
そのお金は何処から出るのだろうか?まぁ、僕も雪ちゃんへのおみやげも買う予定だったから良いんだけどな。珍しい食べ物系とか喜びそうだし。
大きめの露店を見て回ったが、売られている物が【シュバルツランド】と【ペンタグラス】では全然違った。売っている物の性能的には、あまり差が無い様だが、形状と名前が大きく違っている。かなり興味深いよな。
ただ、プレイヤーメイドのアイテムや装備品を売る露店が一向に見当たらない。各工房には、作業をしている人がそれなりにいるので、ギルドホーム等で売ってるのか?それとも、オーダーメイドオンリーなのか?そんなところだと思うけど、見てみたかったよな。もっと時間が有る時に細かく探してみるかな。
今後の製作活動の参考に、珍しい形の物と食料、お菓子、銃関係の物は買って帰る事にする。こうなって来ると採掘の方も期待が持てるの嬉しいな。
『アカン。また、ハズレや』
『こっちも、ダメでしたです』
ケイトが採掘した銅を見せてくる。
『僕もだな。場所変えるか?』
今、採掘している場所は崖の下で、イベント中ずっと気になっていたポイントだ。
岩の感じ的には、もっと良さそうな鉱石が出そうな感じだが………たまに、採掘に成功しても鉄や銅と言った今では存在価値の低い鉱石しか出てこない。
まぁ、鉄や銅が出るだけマシかも知れないがな。採掘した殆んどが、小石や石ころ等の価値の無いアイテムだからな。
『何処に変えますか?です』
『崖の上か中腹かな?』
僕は、上を見上げながら答える。
『あほぅ。崖の上はともかく、中腹で採掘は自殺行為や。ロープ持ちながら採掘出来る訳無いやろ』
『ここに、試作品だが、浮遊装置付きのマントが有る。浮くだけなら問題無く作用するぞ。まぁ、あくまでも試作品だから崖登りには使えないけどな』
こんなところで試作品が役に立つとは思っても見なかったがな。
『あの時、使ってたヤツやな』
フレイの言うあの時とは、渓谷を空中に浮かんで渡った時の事だろうな。【空気銃】を、使った崖登りはゼニスにしか見せて無いからな。
『使ってみるか?崖から落ちる心配が無くなるから一石二鳥だぞ』
フレイとケイトに、マントを渡す。ケイトの方は何の事か分かって無かったが、フレイの練習を見て理解した様だな。
『マスター、浮くのは、感覚が変になりますです』
『大丈夫。すぐに慣れるぞ。難しかったら、マントを装備中に固定と言えば音声認識でその場に停止出来るぞ。でも解除の一声で停止が解除するから気を付けろよ』
試作品として作った物だから、難しい設定を付けて無いからな。まぁ、今回は丁度良かったかな。
『なんや、そんな機能も付けとったんかいな。全然、試作品やあらへんやん。使い様によっては十分売れるで。ほな、ウチは先に登って採掘してくるわ』
僕のローブマントの機能は、マントを上回ってるから、試作品なんだけど………まぁ、どっちかと言うと試作品ってよりも実験台って感じの品だがな。あの時は、自分の装備にいきなり《合成》して失敗するのが怖かったからな。
フレイは、1人でさっさと登って行く。落ちる心配が無いからか、かなりの速度で登ってるな。僕も行きたいが、ケイト1人を残す訳にはいかないからな。
『マスター、私も、大丈夫になりましたです』
下の方で十分に練習を積んだケイトも、フレイに続いて崖の中腹を目指してロープを登っていく。
僕も、ロープで登るのは初めてだからな。始めだけ、若干怖かったが2人以上に落ちる心配が無いので普通に登る事が出来た。
『シュン、まだ、下か?ウチは崖の上におるけど、上まで来ると結構宝石類が出るで』
コールがくる。後ろから採掘している音も聞こえてくるので、なかなか良いポイントを発見したらしいな。
『僕とケイトは、登り始めたところだ。フレイが上で掘ってるなら僕らは中腹掘ってみる』
『了解や。面白い鉱石出たら連絡してな』
『あぁ……』
僕の返事を待たずにコールが切れたな。この感じだと新しい宝石が出たかも知れないな。
『マスター、大変な物を掘りましたです』
先に中腹に着いて掘り始めていたケイトが、上から掘り終わった鉱石を見せてくる。手に持っているのは、未鑑定の鉱石だな、未鑑定と言う事はスキルLv不足か?それよりも………
今、思った事だが………これって完全に落石注意だよな。ケイトと同じロープを登っていたら、確実に掘った時に出る残骸の石が頭の上に落ちてたはずだ。想像するだけで、体温が1℃・2℃は下がったのが分かったな。
『僕には、分からないな。ケイトは、それが何か分かるのか?』
『私も、名前は分かりませんです。もしかしたらもしかするです』
まぁ、僕とケイトのスキルLvは似たような感じだからな。やっぱり、ここはフレイ頼みか?
『ケイト、鞄の共有部分にその鉱石を入れて、フレイにコールしてくれる?僕も採掘始めるから』
今のがレア物だったら、皆で掘った方が良いからな。
まぁ、もしレア物だとするとフレイが一瞬でこっちに…………
『固定。ケイト、これ、何処で出たんや?』
『き、来たぁぁぁ!!』
正確には、飛び降りて来たのだけど、幾らマントで空中に停止出来ると言っても飛び降りて来なくても良いと思うな。
今ので僕の寿命は確実に縮まったぞ。ケイトは隣で固まってるし…………まぁ、見ようによっては自殺行為だから、仕方ないけど。それにしても、来るのが早かったな。よっぽど凄い素材なのか?
『フレイ、少し落ち着け。あと、そんな使い方するならマントは回収するぞ』
崖の中腹で無かったら、落ち着かせる為に紅茶の1杯は出したいくらいだからな。
『あっ!!すまん、すまん。この鉱石に興奮してもてな。居ても立っても居られんかったや』
この慌て様は、オリハルコンの時みたいだな。アレは、現時点で加工出来なかったから倉庫で寝てるけど…………
『そんなにか?』
『そんなにや。これは、ダマスカスって言う金属や。この木目調の感じが特徴なんや。シュンは、知らんかも知れんが貴重で効果的な金属なんやで、勿論、レア物や』
確かに、木目調が綺麗だな。あの時のケイトのリアクションからして、ダマスカスを知ってたのかも知れないな。
ケイトが回復したのを見計らって、僕らは中腹で採掘を再開した。2個目のダマスカスが出るまで、それなりの時間を使ったが、最終的には十数個のダマスカスを採掘出来た。
言わ無くても僕の採掘数が1番少ないのは、伝わっているだろけどな。まぁ、フレイのやる気が尋常では無かったからな。
街に戻って、ログアウトする為に3人で停泊中の船を目指していると、船の前にゼニスが立っていた。幸いな事に向こうは気付いていない様だな。
〔『主よ、どうするのじゃ?』〕
どうするって言われてもな。今更、会うのは無理だからな。
『《朧》』
これしか無いだろうな。
〔『…………ヘタレ』〕
黒の言葉のバリエーションが、どんどん増えている様な気がするんだけど、気のせいか?
『フレイさん?だったか、兄ちゃ………シュンを知らないか?』
こちらに気付いて一気に駆け寄って来る。間一髪だったが、セーフだったな。
〔『フレイ、内緒で頼むぞ』〕
『シュンに、何か用なんか?』
『昨日の事を謝りたくて………アレは、全部演技だったんだろ?冷静に考えたら不自然なところが有ったのに………』
何故だ!?何故、バレた?称号まで得た、僕の渾身の演技だったんだぞ。
『言ってる事が、良く分からないんやが?』
『…………あのあとで、称号が増えているのに気付いたんだ。〈主演女優賞?〉って名前の………それで、称号の内容から、考えられるのが…………』
『もうアカンわ。シュン出てき』
いや、ここにいるのをバラさなくても良くないですか?確かに潮時だったかも知れないが…………僕も、称号の名前の時点で気付けば良かったな。
普通は〈主演男優賞?〉が有れば、〈主演女優賞?〉も有るよな。
『………よう。ゼニス、昨日は酷い事をして悪かったな』
《朧》を解除して姿を現す。
『に、兄ちゃん。それは、もう良いんだ。アタシこそ、気付かずに、ごめんなさい。あとから考えれば考える程、不自然な事だらけで………』
『僕は、大丈夫だ。アレは自業自得だからな。少しは周りの環境はマシになったのか?』
僕は、ゼニスの立場が改善されてさえすれば良いからな。
『ありがとう。グレタフが完敗した動画の影響で【ハウンド】の人数も減ったみたい。【ハウンド】に抵抗するプレイヤーも現れた。それに、アタシをパーティーやギルドに誘ってくれる人もいたよ』
それなら良かったな。ひとまず、僕の目的は達成だな。
『そっか、良かったな』
『うん。本当に、ありがとう。それで、厚かましいお願いなんだけど………もし、良かったら、アタシを兄ちゃんのギルドに入れてくれないか?』
『それはダメだな。僕のギルドは、ちょっと特殊でな。加入するには、近々開催予定のギルド【noir】からの加入クエストをクリアする必要が有る。幾ら友達でも特別扱いはしない』
僕が、即答で断った事で、かなり残念がっているのは伝わってくるが、友達発言でテンションが戻った様だな。
だけど、こればかりはキッチリしとかないと周りに示しがつかないからな。それに、頑張っているサラとブレッドにも悪いからな。
『だ、だったら、アタシがクエストをクリアしたら?』
『拒む理由は無いな。ただし、前回の加入率は0.2%だぞ』
ケイトも、カゲロウも、ヒナタも、乗り越えて来た事だからな。
『絶対にクリアする』
どうなるかは分からないが、頑張って欲しいところだな。
『あの~、お話のところ、すみませんです。もしかするとですが、ゼスちゃんですか?です』
『『『…………えっ!?』』』
装備
武器
【雷光風・魔双銃】攻撃力80〈特殊効果:風雷属性〉
【ソル・ルナ】攻撃力100/攻撃力80〈特殊効果:可変/2弾同時発射/音声認識〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉
【魔氷牙・魔氷希】攻撃力110/攻撃力110〈特殊効果:可変/氷属性/凍結/魔銃/音声認識〉
【空気銃】攻撃力0〈特殊効果:風属性・バースト噴射〉×2丁
【火縄銃・短銃】攻撃力400〈特殊効果:なし〉
【アルファガン】攻撃力=魔力〈特殊効果:光属性/レイザー〉
【白竜Lv65】攻撃力0/回復力215〈特殊効果:身体回復/光属性〉
【黒竜Lv65】攻撃力0/回復力215〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉
防具
【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40
〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉
アクセサリー
【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉
【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉
天狐族Lv62
《双銃士》Lv80※上限
《真魔銃》Lv6《操銃》Lv27《短剣技》Lv30《拳》Lv53《速度強化》Lv100※上限《回避強化》Lv100※上限《魔力回復補助》Lv100※上限《付与術改》Lv6《付与練銃》Lv7《目で見るんじゃない感じるんだ》Lv32
サブ
《調合工匠》Lv28《上級鍛冶工匠》Lv4《上級革工匠》Lv6《木工工匠》Lv34《上級鞄工匠》Lv8《細工工匠》Lv44《錬金工匠》Lv42《銃工匠》Lv36《裁縫工匠》Lv15《機械工匠》Lv19《調理師》Lv20《造船》Lv17《家守護神》Lv53《合成》Lv48《楽器製作》Lv5《バイリンガル》Lv7
SP 16
称号
〈もたざる者〉〈トラウマニア〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈摂理への反逆者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈やや飼い主〉〈工匠〉〈呪われし者〉〈主演男優賞?〉




