第3回公式イベント 8
共闘を約束したエルフの2人組は、普段は2人もしくは+1人で狩りをしているらしく僕が思っていたよりも戦闘に、OOOと言うゲームに慣れていた。
特に《回復師》のサラは〈水魔法〉と〈土魔法〉の上位〈流水魔法〉と〈地土魔法〉、さらに複合スキルの〈泥魔法〉も取得しており、回復だけでなく小規模ながら範囲魔法もこなす。僕やブレッドが見付けた魔物が近付いてくる前に足元を変化させて行動を制限している。実際に使っているのを見てみるとかなり便利だと思う、簡易トラップってところだよな。
《準騎士》のブレッドの方は、普段はサラ達のパーティーで前衛をしているらしい。アクアに言わせれば筋は悪くないが、近接系のプレイヤーとの戦闘経験が少ないので、連携面で若干の遅れが有るらしいが、徐々に動ける様になってているので解決は時間の問題らしい。僕だけじゃなく、アクアの目から見ても優秀のようだな。
『皆、気付いてないフリをして聞いてくれ、約70m先………木の上と陰に2人ずつ隠れて狙ってる。うん!?これ…………って、多分さっき俺とサラを襲ってきた奴らだ』
『僕も、確認出来た。木の上に《盗賊》2、木の陰は|《盾騎士》《シールドナイト》《準騎士》だな。どのペアも僕らにとってもプラス得点みたいだな。僕は倒しても良いが、ブレッド達はどうだ?』
瀕死のプレイヤーに隠れて不意討ちや追い討ちを狙ってるハイエナプレイヤー達だ。逆に倒しても問題無いだろうな。アクアではないがリベンジは必要だろう。
『俺は、リベンジしたい』
チラッとサラを見て答えた。これで3票………決まりだな。
『私は………安全第一でいきたいんですけど』
『了解だ。サラは、合図と同時に木の陰の2人に〈泥魔法〉そのあとは回復優先で後衛待機。シュンは、木の上に牽制と遊撃。可能なら1人は倒してくれ。ブレッドと俺は、〈泥魔法〉で拘束された2人に追撃だ。1人で1人相手にするぞ』
アクアが作戦を立て、指示していくが…………何気無く僕の負担多い気がするよな。まぁ、サラの安全面に気を使えているし、然り気無く強い方を自分の相手に選んでるから良しとするかな。それにあのLvとスキル構成なら誰が誰を相手にしても問題なさそうだな。不意打ちでは無いかぎり………
相手は、木の上にいるのが《盗賊》でアーツ以外の遠距離攻撃方法を持っていないとか、問題外だと思う。僕は武器を【雷光風】に持ち変えてアクアの合図を待つ。
その間にも徐々に標的との距離がじわじわと縮まって行く………サラの方は〈泥魔法〉の詠唱を終えて待機状態にしている。このチームでの戦闘方法にも慣れてきたようだな。
『行くぞ。3………2………1………Go』
『〈マッドスペース〉お願いします』
木の陰に隠れていたプレイヤーはサラの〈マッドスペース〉で泥々になった地面に足をとられている。何度見ても、これはかなりの初見殺しだよな………発動したら最後、回避方法が思い付かない。僕の場合だと発動する前に回避するか《相殺》するかのどちらかになるだろうな………
能力が強い為、制限時間は短いらしいが相手を倒すには十分だと思う。これは、僕も負けてられないな………
『〈曲射〉〈必射〉〈速度上昇〉』
『おい、シュン、何で敵に…………あぁ』
足をとられて、その場から動けなくなっているプレイヤー達の攻撃を交わして反撃を繰り出しながらも、戦闘全体を把握してるのは流石リーダーって感じだが、少しだけ想像力が残念だな………
僕が狙った《盗賊》の片方は〈曲射〉と〈必射〉のコンボによって背後からの不意討ちの1撃を喰らう。完全に背後からの1撃は無警戒だったようでバランスを崩して木から落ちていく………そして〈速度上昇〉の《付与術》の効果で落下速度と威力も上昇していき………
ドスン!!
結果、自分で想像していた通りになったのだが1撃死とは…………ここまでは流石に想定してなかったぞ。追い討ち用にと準備していたアーツが無駄になったな。以前にも経験が有るがフィールドを絡めた攻撃って意外に威力が高いんだよな。
『しまった!!アクア、すまん。もう1人を見失った』
あまりの出来事に完全に見失った。《見ない感じ》の効果を避けるとは意外に油断できない相手だな。
〔『…………違う』〕
違うって、どう言う事だ?
〔『主よ、主は片方を倒したのじゃ。当然、もう1人は退場になったのじゃ』〕
あっ!!なるほど。ルールの事が頭から抜けてたな………と言う事はアクアとブレッドも1人で1人ずつ相手にしなくても良かったんだな。完全に作戦ミスだ。
相手も遠距離アーツ等で最後の抵抗を見せていたが、動けなくなったプレイヤーに負ける程、アクアもブレッドも弱くはない。最後は僕の《付与術》の援護も有り、ブレッドの方がアクアよりも先に倒す事に成功した。アクアは急に目の前から消えたプレイヤーに驚いていたが、冷静になってルールを思い出した様だった。まぁ、結局は圧勝でリベンジ達成だな。
『おい、シュン。ポイントが一気に増えてるぞ』
どうやら、プレイヤー同士でのポイント争いは、勝った方が総取りのようだな。これならプレイヤーを狙ってきたのも分かる気がするな。このポイントなら、こいつらに犠牲になったプレイヤーも多かったんだろうな…………御愁傷様です。仇は取ったからな。
『2人とも凄いな。それで本当に無所属なのか?良かったら俺達のギルド【双魔燈】に入らないか?歓迎するぞ』
こう言う小まめな勧誘活動がアクアのギルドを大きくしてるんだろうな。【noir】よりもあとで出来たのにも関わらず、既に人数の規模だけは4倍以上になっている。決して見習う気は無いが、好感は持てる。
『アクア、ごめん。俺達は入りたいギルドが有るんだよ』
即答で拒否されたな。そう言うのは自由だから仕方ないと思うが、打相変わらずち解けるの早いな。
『お誘いは本当に有り難いんですが、ブレッドの言う通りで…………私達がOOOを始めた時に親切にしてくれた人が所属しているギルドあるんですけどね。あっ!!その人とは今でも交流が有って一緒に狩りに言ったりもしてるんですよ』
『何でそのギルドに入らないんだ?あっ!!言いたく無かったら無理に言わなくて良いぞ』
確かにな、僕もアクアと同じで、今も交流が有るなら加入すれば良いと思うのだが…………。
『それが、そう簡単にいかないんだよな…………』
ブレッドとサラはアイコンタクトで何か話をしている。もしかしたら会話の陰でパーティーチャットを使ってるかも知れないな。
ブレッド達は僕達と共闘をしているが、パーティーを組んでいる訳では無い。一応イベントの制限でパーティーの制限が2人と決められているので、パーティーを組む事は出来ていない。その為、パーティーチャットを使い隠れて話をされたら僕達には分からないからな。
『そのギルドなんですが、現在はメンバーを募集してないんですよ。私達がOOO始めた時には募集が終わってました。それに加入条件も有るみたいですし………』
募集してなかったら仕方ないよな。募集開始まで待つしかないよな。
『へ~~そんなに厳しいギルドも有るんだな』
『はあ~っ!?アクアは良く知ってる有名ギルドの事だぞ』
うん!?何か、だんだんと雲行きが怪しくなって来た気がするよな。
〔『……………黒も』〕
黒も同じ意見の様だな………って言うか、凄くデジャブを感じるんだが………
『シュンさんと同じ《銃士》…………あの有名な黒の職人さんがギルドマスターをしている【noir】ってギルドです。そのギルドのケイトって言うプレイヤーが知り合いなんです。ご存知無いですか?そのケイトにアットホームなギルドって聞いて憧れてるんです』
やっぱりか…………それにしてもケイトの知り合いだったんだな。ケイトは、いつも人助けしてるから知り合いが多くても驚かないけど、そこまで情報が有って僕に気付かないのには驚きだ。でも、これでアクアの事を知っていた理由が分かったな。
『はっはっ、今言ってたの【noir】の事だったのか、それなら………』
〔『おい、アクア、絶対に喋るなよ』〕
〔『何でだ?隠す事でも無いだろ』〕
〔『この2人だけなら構わないが、イベントは広場のモニターで中継してるからな、正体がバレたくない。その為に姿を隠せる格好してるんだぞ』〕
〔『なるほど、色々と良く考えているな。いまだに、黒の職人の正体を探しているプレイヤーもいるからな。当然と言えば当然か。シュンが警戒するのも仕方ないよな。分かった、俺のギルド所属って事にするぞ』〕
〔『えっ!?ちょっと待て、今さらっと凄い事言わなかったか?』〕
〔『何だ、俺のギルド所属ってそんなに嫌か?』〕
〔『いや、その前の黒の職人の正体を探している………』〕
〔『あぁ、そっちな。たまにホームの前で張り込みしてるプレイヤーがいるぞ』〕
そんなプレイヤーいるんだな。流石に、それは知らなかったが嫌すぎる………普段からの警戒を強めた方が良いかもな。
『……それなら仕方ないな。友達の俺が言うのも何だが、あのギルドはギルマスが変わってるからな。紹介してやりたいが難しいな』
確かに、自分でも変わっていると言う自覚は有るが………俺は、アクアお前だけには言われたくないぞ。
『やっぱりそうなんですね。私が見た情報サイトにも《銃士》の変人ギルマスって書いて有りましたから………』
ブレッドとサラは、何でそんな人のギルドにケイトは所属しているだろうと真剣な討論を始めた。
〔『主よ、落ち込む必要は無いのじゃ。ワシらは主の良さを重々知っておるのじゃ』〕
白の言葉は有り難いのだが…………余計に凹むな。
おい、アクア、おかしいのを我慢しているのは分かるがこっちを見ながら笑いを堪えるな。あとで僕もサイトのチェックするか………不本意だけどな。
『休憩は終わりだ。そろそろ、残り1時間を切るからな、ラストスパートだ』
正直に言うと僕には、もう耐えるのは無理です。
『そうだな。プレイヤーもポイントになる魔物も減って来てるからな………ここからは休憩無しだな』
『分かった。俺も頑張るぞ』
『私もです』
ブレッドとサラも、さらなるヤル気を見せている。ここまでに手に入った素材やドロップだけでも十分にハーフマラソンに参加した意味が有るだろう。まぁ、最後まで生き残れなかったら無意味なんだけどな………
ズドォォオ~~~~~ン
ズドォォオ~~~ン
ズドォォオ~~ン
ズドォォオ~ン
空が一瞬光って、乾いた音が数回響き渡る。今度は、落雷をハッキリと確認出来た。今回も運良く休憩の為に洞穴にいて難を逃れたが…………確かに、アレを喰らったら一瞬で焦げてリタイアになるだろうな、それ程の威力を放つ雷属性の上位魔法〈ヴォルティモア〉
普段は便利なのだが、こう言う時に《見ない感じ》で能力が把握出来てしまうのが嫌だな。威力を知らない方が気楽に戦えそうだ。
そして、アレが落雷の魔物みたいだな、名前は………雷鳥、レイドバトル用のボスのようだな。
『アレです。私達が見たのは、あの魔物です』
〔残っている11パーティー22名の皆様、残り1時間を切りました。只今をもちまして制限時間の解除と全てのプレイヤー様を得点対象から解除させて頂きます。5分後に開始されます、現在エリアに現れているレイドボス雷鳥の討伐を以てハーフマラソンのゴールとさせて頂きます。皆様のご健闘を願っております〕
無情にも無人島全域に運営からのアナウンスが木霊していく。当然、あちこちで絶望にも似た悲鳴や戦闘狂達の歓喜が聞こえてくる。意外と皆近い場所にいたんだな。
それにしても22人でレイドボスと戦うのか………また運営の意地悪が始まったな。確かに、簡単には素材やドロップの持ち帰りは出来ないと思っていたが、ここまでキツいとは思って無かったな。
近くにいるプレイヤーで集るのが得策かも知れないが、今回は無理だろうな。さっきまでプレイヤー同士でも戦っていたのだろうし、もしかしたらレイドバトル自体に参加しない他力本願なプレイヤーもいるだろうからな。
『また、エグい内容だな。どうする?』
どうする?と言われてもな。イベントを終了させる為には誰かが雷鳥を倒さないとダメだからな。戦うのは決定しているが………
『私、あの落雷は耐えれないですよ』
確かに、《回復師》それも魔力に特化してHPや防御の低い種族のエルフが防具無しで耐えれる代物では無いよな。それを言うと………
『多分、俺も喰らえば即死だ』
当然、同じエルフのブレッドもだよな。まぁ、僕も防具が無いので即死だろうな。
『僕もだな。喰らえばリタイアだろうな。それに、あのルールが生きているなら片方が倒れれば、もう片方もリタイアになるだろうな』
『このルール、ここに来て益々ウザいな』
その意見には多いに賛同する。どのプレイヤーもパートナーがいる事で積極性が失われている気がするな。それとも………これも運営側の作戦なのだろう。
『取り敢えず、ここで共闘は終了になるかな』
『まぁ、そうなるか。ブレッド、サラ、ありがとな。何時でも【双魔燈】のホームに遊びに来てくれ』
『アクア達は行くのか?』
『一応、俺は戦闘系ギルドのギルマスだからな』
僕のギルドは生産・サポート系だけど………まぁ、ここはアクアの意見に乗るんだがな。勝つにしても負けるにしても後悔はしたくないからな。精一杯は戦おうと思う。
『大丈夫なんですか?倒せるんですか?』
『さぁな。そこまでは分からないが、大丈夫では無いだろうな。レイドバトルは強制じゃ無いから、無理に参加しなくても良いと思うぞ。それから、僕も街で有ったら声くらいは掛けてくれよな。じゃあ、またな』
僕は、既に駆け出しているアクアの背を追った。その場にブレッドとサラを残して………
『雷鳥、近くで見ると一段とデカイな』
流石はレイドボス。佇む雰囲気も半端無いな。
『そうだな。一応全種の《付与術》は掛けておいたが気休めだと思ってくれ。ハッキリ言うが対処方が思い付かない。回避・防御と攻撃を7:3、いや8:2くらいの感覚で行くぞ』
既に、移動の時間を使って《付与術》を2人共に掛けて有る。理由は、単純に時間が勿体無かったらに尽きるのだがな。
『おう、サンキュ。気休めでも十分だ。俺が壁と囮になるから攻撃は、シュンに任せるぞ』
攻撃力は低いが遠距離攻撃がアーツしかないアクアよりはマシだろうな。
『了解だ』
取り敢えずは、【ソル・ルナ】で〈リング・イン〉から〈零距離射撃〉を絡めた10連射で様子見だな。全てに〈零距離射撃〉は発動しないと思うが3・4発は狙えると思うしな。雷鳥は物理攻撃に耐性が有るみたいだが防御力はそんなに高く無いから、初手としては最高だと思う。
『アクア、行くぞ。〈リング・………〉あぶなっ!!』
僕の攻撃よりも先に雷鳥から電撃が飛んでくる。〈ヴォルティモア〉みたいに強力な魔法では無いが、速度と貫通力に勝っている〈スパーク〉の乱れ撃ち。喰らえば感電によるスリップダメージは覚悟した方が良さそうだな。
〔『…………黒が《相殺》する』〕
〔『なるほどな。任せる』〕
ホルスターから【黒竜】を取り出して《見ない感じ》で把握した場所に射撃して魔法を打ち消していく。見なくても感じる事が出来る為………
『〈リング・イン〉』
今度こそ〈リング・イン〉の射撃に集中出来る。タイミングを合わせなるべくランダム回転している銃が雷鳥に近付いた時に射撃する。
〔『主よ、ダメージの通りが悪いのじゃ』〕
今までは必殺級の1撃だった〈零距離射撃〉でダメージが思った程出ていない。ボスの物理耐性って反則だな。取り敢えず、マガジンが空になるまでは撃ちきるかな。
アクアが遠距離アーツで雷鳥の動きを制限してくれるのが助かるな。
〔『……………増援』〕
ハーフマラソンに参加していた他のプレイヤー達が遠距離アーツや雷属性に相性良い《土魔法》での援護が始まっている。
僕らの攻撃が、参戦に二の足を踏んでいたプレイヤーの心を動かした様だな。ダメージは出なかったが攻撃の見た目はハデだからな。勇気を奮い立たせるには十分だったようだ。これで少し余裕が生まれるかな。
〔『主よ、主が援護と回復に回った方が良さそうじゃ』〕
〈零距離射撃〉を絡めてもダメージが少ないからな、その方が良いかもな………
『アクア、僕が援護に回る。チェンジだ』
『了解だ。それと回復頼む』
装備を【白竜】と【黒竜】に変えて、アクアと消耗の激しいプレイヤーに射撃していく。ここでも白や黒が事前に消耗の激しいプレイヤーを教えてくれるので、僕は雷鳥の魔法を《相殺》する事に集中出来る。
『うぉ~~~~黒の職人さん。ありがとうございま~~す』
【白竜】と【黒竜】の能力を見ただけで気付くとは………まぁ、知り合いでは無いので今回は返事はしないがな。
それよりも〈スパーク〉の速度早くなってないか?時間が経つにつれて《相殺》出来る魔法の数が減っている気がするな。気のせいか?
〔『……………雷鳥の特殊スキル』〕
黒に教えられて、雷鳥のステータスを再度確認する。今度は注意深く、慎重に………
〔『これか………《霊鳥の心》』〕
《霊鳥の心》はHPの減少に伴って魔法の威力が3段階で上昇すると言う特殊スキルらしい。現在は2段階目、もう1段階強くなったら〈スパーク〉を捌ききれなくなりそうだな。
………って言う事は〈ヴォルティモア〉もか、開幕に放って以来使って来ないが………アレが強化されるとか考えたく無いぞ。まぁ、逆に言うとボスには相応しい能力かも知れないがな。
『皆、プレイヤー同士の距離を取れ。なるべく離れろ、魔法の威力が上昇しているし、いつ落雷を放ってくるか分からない。気を付けろ』
皆に注意を促しながら、皆には〈魔法防御力上昇〉を、雷鳥には〈魔法攻撃力減少〉を放っていくが、雷鳥に放った《付与術》はかき消された。やっぱり、減少系の《付与術》が効く程甘くは無かったか。
やっぱり強いな………戦闘には16人が参加していたが、既に4人リタイアになっている。僕の《相殺》と回復が間に合わず2人倒されてる。そしてルールによってパートナーの2人も消えていった。
最初に回復出来るプレイヤーのパートナーを倒された事が悪手だったよな。まぁ、突っ込んで行って返り討ちに有ったプレイヤーのフォロー迄は無理なんだけど。それなので、今は僕1人で回復を回している。普段なら竜の力の恩恵でHPもMPも常時回復状態なのだが、HPとMPの回復を11人分を1人でフルに行っている為に回復速度よりも消費の方が若干勝っておりMPの減少が止まらない。
〔『主よ、オーバーワークなのじゃ』〕
それも分かっているが、回復の手を止める訳にはいかない。止めた時点でイベント終了になるだろう。
『〈ウォータヒーリング〉』
僕の後方から回復魔法が放たれる。振り向かなくても誰かは分かったのだが、思わず振り向いてしまった。
『サラ、ありがとう。助かった。でも良いのか?』
それに、お礼は相手の顔を見て言いたい。
『はい。大丈夫です。私達も頑張ります』
『助かる。サラは右側のプレイヤーの回復を優先してくれ。ブレッドはサラのフォローと守備優先だ』
さっきの二の舞だけは避けなければならないからな。
『分かった。任せてくれ』
回復の出来る戦力が増えるのは正直助かる。
『シュン、このままでは無理だ。雷鳥を地面に落とす方法良い方法無いか?』
『一応、有るには有るんだがな………今は余裕が無い』
『有るのか!?どんな方法だ?』
『アクアのトラウマ………』
『ア、アレか…………』
急激にアクアのテンションが下がるのが分かった。これを理解するのに《見ない感じ》は必要ない。
『………で、どれくらい時間が有れば良いんだ?』
試した事が無いから分からないが、アレは発射までに時間が掛かる、さらにアレの後にもう1工程いるからな20秒くらいだな。それにMPの回復の事を入れても30秒は掛かるか?
『30秒だな。その間は回復も《相殺》も出来ない』
今、話ながらも僕は【白竜】での回復を続けている。どう考えても、今僕が30秒もの時間を戦線離脱は無理だろ…………
『黒の職人さん、は~~い。俺達が時間稼ぎま~~す。もし耐えれたら、お店でオマケして下さ~~い』
さっき、僕の正体に気付いたプレイヤーが犠牲を買って出てくれた。後ろに控えているプレイヤーも頷いている。パーティーの仲間かな?
『心得た。2人には最高の鞄を用意する。当然、お金は貰うがな。オマケはさせて貰う』
後ろの方でブレッドとサラが僕の正体に気付いて驚いているが、今は無視だ。
『サラ、今から僕が2連続でアーツを放つ。2度目のアーツ放ったら5秒数えて雷鳥の真下に広範囲で〈マッドスペース〉を頼めるか?』
『えっ!?はい。だ、大丈夫です』
『僕の正体の事は、今は気にするな。そんなに緊張もしなくて大丈夫だ。今まで通りで大丈夫だからな』
『皆、時間稼ぎ頼んだ。ここは任せます』
僕は皆に雷鳥を任せて、少し距離を取る。
〔『白、黒、しばらく任せる。回避が必要な時だけ指示してくれ』〕
白と黒に戦況の確認を託して、装備を念の為に持ち込んでいた、アクアのトラウマの元凶となる【アルファガン】と可変出来る魔銃【魔氷牙・魔氷希】に変える。ここまでおよそ8秒、問題はここからだ。まずは…………
『〈リング・イン〉』
【魔氷牙・魔氷希】で雷鳥の動き制限する為に射撃を繰り返していく。次の一手は発動までの時間が掛かる。MPの消費は激しいが僕の出番は雷鳥を落とすまでだろうからな。あとの事は皆に任せれば良い…………
雷鳥の動きを制限する事が雷鳥の攻撃を制限する事にも繋がっている、微妙だが皆の援護になっているかな。
『〈リング・イン〉サラ頼むぞ』
【アルファガン】で〈リング・イン〉を放ち連射していくが、一向に空中に浮かぶ【アルファガン】からは発射されない。残り10秒程か………
皆、【魔氷牙・魔氷希】でのアーツの発動を見ているだけに、雷鳥の周りを回って一向に変化の無い【アルファガン】を見て不安そうな感じを醸し出している…………勿論、僕とアクア以外だが…………
『いきます〈マッドスペース〉』
雷鳥の真下には広範囲に泥の沼地が広がっていく………が【アルファガン】からは、まだ発射されない。
アレ?失敗だったか?僕が皆に頼んだ30秒まで残り……3……2……1……0………
『皆、すまない。失敗し……
空中にいる雷鳥の周りをランダムで周回していた【アルファガン】からレーザーが発射されて、雷鳥を中心にレーザーブレードの様なものが一回転した。
ブッスン!!
………てなかったな。落ちてくるぞ』
レーザーブレードの様なものが一回転したと同時に雷鳥は斜めに真っ二つになっている。上手い具合に羽を挟んで2つに分かれた為に雷鳥は2度と飛ぶ事は出来ない状態になっている。現実の世界なら即死ものの状況だが、見た目に反してダメージの方は意外に低い。だったら行動出来るのかと聞かれれば、答えはNOだ。
アクアの時に経験しているので分かっているのだが、頭が付いている本体は動けるが、切り離された部分は動く事が出来ない。まぁ、いくらOOOがゲームと言っても、そんな状態で動けたらホラーなんだけど…………
って言うか、皆、ドン引きだな。初見なら分からなくは無いが…………
〔『主よ、落雷が来るのじゃ』〕
『戦闘中だ。気を抜くな。〈ヴォルティモア〉が来るぞ』
全く回復の追い付いていない、なけなしのMPを使って〈魔法防御力上昇〉の《付与術》を生存している数名に《付与銃》で射撃していく。時間稼ぎを買って出てくれたプレイヤー達も生存しているのが妙に嬉しかった。
ズドォォオ~~~~ン
『『『『『『『えっ~~!?』』』』』』』
雷鳥の放った1撃は皆を正気に戻すのに十分だった。そして正気に戻ったプレイヤー達は泥に填まって身動きの取れない半身の雷鳥に一斉にアーツを放っていく。
〔皆様、お疲れ様でした。たった今、レイドボス雷鳥の討伐を確認出来ましたので12時間魔裸存のゴールとさせて頂きます。順位の発表や報酬の譲渡は、集計等に時間が掛かる為に後日とさせて頂きます。最後まで残っている7パーティー14名様には特別報酬としてイベント中に入手したアイテムや素材は、お持ち帰り下さい。なお、雷鳥にはドロップは存在しませんのでご了承下さい〕
『順位発表は後日か………まぁ、僕にはケイヴキングのレアドロップが有るからな。何位でも良いけんだけどな』
『白、黒、お疲れ様。色々助かった、ありがとな』
それにしても、流石に12時間耐久は疲れたよな。打ち上げの準備しているらしいが……………メールだけしてログアウトさせて貰おうか、これ以上は持ちそうも無いからな。
おやすみなさい。送信っと………
装備
武器
【雷光風・魔双銃】攻撃力80〈特殊効果:風雷属性〉
【ソル・ルナ】攻撃力100/攻撃力80〈特殊効果:可変/2弾同時発射/音声認識〉〈製作ボーナス:強度上昇・中〉
【魔氷牙・魔氷希】攻撃力110/攻撃力110〈特殊効果:可変/氷属性/凍結/魔銃/音声認識〉
【白竜Lv50】攻撃力0/回復力200〈特殊効果:身体回復/光属性〉
【黒竜Lv50】攻撃力0/回復力200〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉
防具
【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40
〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉
アクセサリー
【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉
【ノワールホルスターズ】防御力20〈特殊効果:速度上昇・大〉〈製作ボーナス:武器修復・中〉
【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉
天狐族Lv54
《双銃士》Lv75
《魔銃》Lv74《操銃》Lv19《短剣技》Lv24《拳》Lv45《速度強化》Lv98《回避強化》Lv98《魔力回復補助》Lv99《付与術》Lv69《付与銃》Lv74《目で見るんじゃない感じるんだ》Lv16
サブ
《調合職人》Lv28《鍛冶職人》Lv44《上級革職人》Lv4《木工職人》Lv34《上級鞄職人》Lv5《細工職人》Lv33《錬金職人》Lv33《銃職人》Lv28《裁縫職人》Lv12《機械製作》Lv27《調理師》Lv3《造船》Lv15《家守護神》Lv33《合成》Lv31《楽器製作》Lv5
SP 46
称号
〈もたざる者〉〈トラウマプレゼンター〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈自然の摂理に逆らう者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈やや飼い主〉




