王の依頼 2
『一体、どうしてこんな事に…………』
『うはっ!!ザックザックやわ』
笑いが止まらないとでも言いたげにフレイは、前線で二刀の刀を振いながら、ビーから得たアイテムを確認している様だ。流石は、イベント用のドロップアイテムと言ったところか、ビーを倒せば確実に1個ドロップしている。鞄が倉庫に直接繋がっているので全員の合計数を確認も楽になっているのは便利だよな。。
『フレイ、油断するなよ。もう少しでクィーンが出てくるぞ』
僕も【雷光風】や《付与術》で援護している。以前に手痛い思いをしているだけに、そこだけは注意したいからな。
『そうなんだがな………今なら、これ、どう考えても楽勝やろ』
喋りながらもどんどんビーの数を減らすフレイ。確かに、それも事実なんだけどな。今回は前回と違って3人いるし武器や防具もリニューアルされている。合体クィーンが出て来たとしても、ちょっとの事ではピンチにならないだろう………
『フレイ、マスター、そろそろ100個になりますです。逃げますか?です』
ケイトには、後衛からの回復兼監視役をお願いしている。やっぱり、不意打ちはゴメンだからな。戦うにしても万全の状態が望ましい。
『この際や、久しぶりにボスも狩ろうや』
クィーンと戦うのは船の素材集め以来だよな。若干、嫌な予感もするが…………まぁ、大丈夫かな。
『了解だ。《付与術》掛け直すから少し待ってくれ』
フレイとケイトにステータス上昇の《付与術》をかける。MPを気にしなくて良いのって本当に有り難いな。
『ほな、最後の1匹狩るで』
僕が魔法をかけ終わったのを確認してフレイが最後の1匹を切り裂く。
その瞬間、例の如く魔力が2点に集中しだす。今までと違うのは属性が水と土って事だな。やっぱり、そうなるか………そんな予感だけは良く当たるんだ。
『ありゃ~、新しいの出たみたいやな。これもしかして不味いんか?』
『いや、う~ん………大丈夫そうだな。ステータス的には、氷と炎と変わらないぞ。おっと、今までと違って攻撃は単発の様だから、回避はしやすいぞ。1発1発の威力はデカイけどな』
土のクィーンから土属性の巨大な針攻撃を飛ばしてくる。この針って、ビークィーン並のサイズが有るよな。もう一方の水のクィーンの方は《水魔法》での攻撃を仕掛けてくる。
まぁ、どちらも単発なので回避するのは問題無い。それにしても、僕はビークィーンと何か不思議な縁でも有るのか?稀少種?亜種に出会う確率が異常だと思うな。
フレイと2人で〈朧〉を使いながら相手の攻撃で同士討ちを狙っていく。攻撃が単発な事も有り、フレイは防御をせずに攻撃に集中出来ている。水のクィーンが土のクィーンを回復しているが、その回復量もダメージに比べれば微々たるものだ。
その行動を無視して土のクィーンに集中している。そのお陰で土のクィーンのHPはどんどん削れていく。まぁ、フレイが突っ込んだ事による多少のダメージとMPの消費は、僕達が回復させているから出来るん事なんだけどな。
しかし、僕らの顔に余裕が有ったのは、ここまでだった。程なくして土のクィーンを倒したのだが、水土のビークィーンに合体した途端に厄介になったのだ。
『アカン。これはダメや、一瞬で回復しよるわ』
さっきまで有効だった〈朧〉が効かなくなったのに加えて、常時水魔法での回復状態に、まるで竜の力を相手にしたような感じたな。唯一の救いは、合体した水土のビークィーンのHPが土と水単体のビークィーンよりも低い事だよな。
まぁ、一瞬で回復するから与えなければならないトータルダメージは上がると思うけど…………
『皆一撃だ。一撃にかけるぞ。さフレイ、ケイト準備してくれ』
僕も武器を【雷光風】に変えて、2丁共に〈チャージ〉を始める。
『了解や、ウチらはケイトの魔法に合わせるで』
魔法の詠唱に時間が掛かるのでケイトの魔法からコンボを繋ぐ事に。
『行きますです〈ウインドバースト〉×2』
『〈トライアングル〉〈サザンクロス〉』
『最後は、ウチや〈抜刀酒咲き〉〈蛇腹斬〉』
それは、一瞬の出来事だった………
風が爆発して、7発の銃弾の軌跡が水土のビークィーンに突き刺さり、フレイの斬撃が乱舞する。〈抜刀酒咲き〉は以前に見た事も喰らった事も有ったが、〈蛇腹斬〉は初見だった。ギザギザに斬られていく水土のビークィーンを見ていると何だが可哀想に見えたし。僕が、あの時受けたのが〈抜刀酒咲き〉で良かったと思える程に…………
『最後の一撃が来るぞ。防御…………』
僕らが、各々で最後の一撃に耐える準備に入った時だった。
流星のような矢の一撃が水土のビークィーンに突き刺さり、ビークィーンは光の泡の様に消えていく。
『一体、今のは何なんや!?』
僕らは、一斉に矢が来た方に目を向ける。そこに居たのは……
『主よ、人馬一体なのじゃ』
それは、分かっているのだが………でも何でなんだ?僕らは身構えたまま視線だけをケンタウルスに向けている。
『πφλθρυψδηλ』
う~ん………何か喋っているようだが全く理解出来ないな。
『主よ、どうやら有り難うと言っておるようじゃ』
一応相手は、レアと言っても魔物なんだけどな………会話する事も出来るのか?
『白、分かるのか?もしかして話せたりも出来るのか?』
出来るのじゃと答えて、何やらケンタウルスと話を始める白。
一気に僕らは蚊帳の外って感じになり戦意も削がれてしまう。ケイトに至っては、白とケンタウルスの会話を真面目に聞いているしな、意味は分からないのだろうけど…………こうなるとケンタウルスと戦闘するのは無理そうだな。今の内に素材でも回収させて貰おうかな。
それにしても最後の一撃に、あんな防ぎ方も有るんだな。かなり勉強になったな…………と同時に今までって結構無駄な事してたんだなと感じてしまう。
暫くして白が、
『主よ、この辺りに生息しているビーは、あのケン殿の娘の仇だそうじゃ。それとケン殿は畑あらしの犯人では無いそうじゃ』
色々と大事な部分が省かれている気がするよな。でも先ずは………
『ケン殿と言うのは、あのケンタウルスの名前で良いのか?』
『そうなのじゃ』
『そうか、あっ!!畑あらしの犯人で無いのは分かってたぞ。見た感じ足の大きさが違うからな。それに、ほら足跡も現場に有るのとは違っているしな』
『流石は、主なのじゃ。じゃが、まだまだなのじゃ。ケン殿は、なんと犯人を見ているそうじゃ』
はい?今、白さんは何て言った。犯人を見ている?
『それマジなんか!?一体、何が犯人なんや?』
僕よりも早くフレイが反応した。実際、フレイはツッコミに対する反射神経が良いよな。関西人って皆そうなのか?少し羨ましいよな。
『…………主と同じで、天孤族の男なんだそうじゃ。髪の色とかは色々と違う様じゃがな』
それで、あの時このケンタウル………ケンさんは滝の上から僕を見てたのか、納得したよ。
『犯人はプレイヤーさん何ですか?です』
『ウチらと同じ天孤族なら〈朧〉使った認識阻害やろ?それなら見付からないのも分かるわ』
ここまで情報が揃うと、それしか無いだろうな………これは、また対処が難しそうだな。まぁ、戻ってから対策を考えるしかないな。
『白、ケンさんに有り難うと伝えてくれ………』
欲しい情報も貰えたので、この場を去ろうとした時だった。水土のビークィーンが光となった場所が、また光だしたのだ。
『………おいおい、今度は何だ?』
まさか!?回復だけじゃ無くて蘇生までするのか?それは、シャレにならないぞ。それだけは、本当に許して欲しい。
僕らは一斉に身構えた。
だが、そこに現れたのはメスのケンタウルスだった。ケンさんと比べて2周り位は小さいのだが、ケンさんは現れたメスのケンタウロスを見るや否や、一気に駆け寄って行き泣きながら抱き締めている。何かのイベントが進行したか?
『κθβΩλδαρ』
『おぉ~それは凄くめでたいのじゃ。主よ、ケン殿の娘さんが生きておったのじゃ』
『Oh!!それは幸せな事なのです。とっても素敵な結果に成りましたです』
うん。僕も娘さんが生きていて良かったと思う。フレイも感動して泣いているしな。
ただ気になるのは………これは、どのイベントが進行した結果なんだろうな?《機械製作》のクエスト?王の依頼系?それとも全く違う新しいイベント?僕には、全てが複雑に混ざっている気がしてならないんだが………
『マスター、こう言う時は讃美歌を演奏しましょうです』
ケイトはギターを取り出して讃美歌を演奏し歌い始める。
僕は讃美歌なら普通ピアノとかじゃ無いのか?と思いつつもギターをケイトの演奏に合わせていく………と言っても僕にはメロディー位しか分からないのだがな。
僕達の演奏中は、清浄な空気が辺りを包み込んでいる様に感じた。
白が、訳してくれたケンさんとその娘のウルちゃんの言葉によれば、時間の流れが止まった狭間?みたいな感じの場所に監禁されていたらしい。そこでは時間は経過しているが、自分の時間は進まないみたいな…………正直、僕には理解は出来なかったのだが、ウルちゃんが殺されていたと言う時から成長してないらしいので、そう言う事なんだろうなと思うことにした。
今回、過程はどうでも良いだろう………あの2匹の笑顔が全てだと思うからな。
『主よ、ケン殿がお礼をしたいそうなのじゃ』
『いや、遠慮するよ。今回はクエストの結果たまたまだからな。それに………』
『ウチらも助けられたし貴重な情報も貰ったからやな。シュン』
僕の言いたかった言葉を上手く取られちゃったな。実際にケイトの持ってきたクエストをクリアしたら、オマケでウルちゃんを助けただけだ。僕らは、お礼を貰うような事は殆どしていないだろう。
『そう言う事だ。そう伝えて欲しい』
白に伝えて貰ったのだが、ケンさんは全然譲らないそうだ。僕らには良く分からないのだが、ケンタウロス種特有の暗黙の掟みたいな物が有るらしい。これは、困ったよな………
『う~ん、そやな………そや、お礼は、おっちゃん達の気持ちに任せるわ。ウチらは急いでへんから、おっちゃん達が考えてや』
稀少種の魔物を軽くおっちゃん扱いするのはどうかと思うが………それで、この場を切り抜けられるならフレイに乗っかってみるのも良いかもな。
僕らは、ケンさん達親娘と別れて【ヴェール】から【ポルト】に転送し、クエスト〔灯台に灯を灯せ〕をクリアする為に街の端に有る灯台まで来ている。
『ケイト、アカンわ。これは、【蜜油】を差すだけじゃ直りそうも無いで』
ケイトがクエストの依頼主から聞いた話によると、灯りを灯す為に灯台の内部に有る機械仕掛けの歯車が止まっているので、油を入手して差して欲しいと言う物だったらしい…………のだが、根本的にこんなに汚れていては、それ以前の問題だよな。クラーゴンの影響で何年も灯台を使って無かったの分かるのだが………掃除はしておこうよ。何度も言うが綺麗は正義なんだよ。せ・い・ぎ
『こうなったら、先ずは掃除からだな。修理は後回しだ』
『分かりましたです』
ケイトは鞄から掃除道具を取り出して、清掃を始める。《水魔法》の攻撃魔法〈ウォータ〉を上手に使い一気に汚れやゴミを流して拭いていく。
こんな時にも《家事》スキル取得が役に立つんだよな。【noir】のメンバーは全員取得しているが《家守護神》に進化しているのは僕とケイトだけだ。《家事》系のスキルは、進化しても出来る事に差は全くないのだが作業速度が断然早い。掃除で言うなら汚れの落ちるスピードが段違いである。
2時間を費やして建物自体の清掃は終わった。
『ここからは、〈家事〉スキル使え無いみたいやで。多分《機械製作》スキルでのメンテナンス扱いになるんやろな』
僕とケイトの《家守護神》でも無理だから、フレイの言う通りなんだろうな。
僕らは歯車等を1つ1つ丁寧に研き、ハケ等を使ってゴミを掻き出す。機械自体は、あまり大きく無いとは言っても、スキルLv1しかいない状態では効率良く進む訳も無く、メンテナンスが完全に終わるまでには2日掛かった。まぁ、ログイン時間の都合も有ったんだけどな。
『最後は、ケイトに任せるよ』
誰が何と言っても【蜜油】を差す大役はクエストを見付けて来たケイトの物だろう。
『分かりましたです。行きますです』
ケイトが【蜜油】を差した瞬間、歯車がギーと低い音をたてて動き出し………やがて、音が滑らかになり、灯台に灯りが灯っていく。
僕らは、外に出て海を遠くまで照らす灯りを、眺めているとクエスト達成のアラームが鳴る、それと同時に《機械製作》のリストが解禁される。
どうやら《機械製作》は《銃製作》と同じでリストからしか作れない仕様だな。違っている点は形の自由度とリストのシステムだろうな。《銃製作》のリストは製作後に開放だったが、どうやら《機械製作》はLvで開放される様だ。リストで低Lvでも製作狩野な物と名前は分かるが、製作出来ない物は選択出来ない様になっている。更に上位にもなると、《銃製作》同様に伏せ字になっているからな。
本来のクエストは【蜜油】を差せば終わりだったんだろうな………と思うと、時間は掛かったが感慨深い物が有るよな。
灯台のメンテナンス作業を通して《機械製作》スキルもLv5まで上昇しているので、今の段階でも幾つかは製作可能になっている。気になるのは、Lv15で作れる音声認識装置とLv25の浮遊装置だな。時間が出来たらLv上げでもしようかな。また楽しみが増えて良かったかもな。
おっ!!新しくアーツを習得しているな。まぁ、今回は編み出すと言うよりも、合体させた感じだよな。それと称号も成長しているんだが………これって前の方が絶対にマシだよな。
newアーツ
〈オール上昇〉
上昇系の《付与魔法》を纏めて使用
習得条件/上昇系の《付与魔法》を1分以内に同一人物に全部使用
〈奥義セブンスター・7点バースト〉攻撃力×7/消費MP 100
7点同時撃ち/連射不可
習得条件/〈トライアングル〉〈サザンクロス〉同時使用
称号成長
〈やや飼い主〉
魔獣器Lv30まで成長させた者への称号/成長称号
取得条件/Lv30の魔獣器を飼う
『主のお陰で、ワシと黒も成長しておるのじゃ』
まぁ、白と黒も成長してるんだろうけど、〈やや飼い主〉って何?僕としては、かなり不本意なんだけど…………
『主よ、ワシは新しく《吸収》スキルも覚えたのじゃ、これで一緒に戦えるのじゃ』
また主の力になれて嬉しいのじゃと言っているが、僕にはそれよりも………
『………白ちょっと待て、今《吸収》スキルって言ったのか?』
『そうじゃ。主のMPを使って相手のHPを吸い取って蓄える事が出来るのじゃ、勿論蓄えたHPを回復に回す事も可能なのじゃ』
と言う事は、今までは僕のMPを使って直接仲間を回復していたところを、同じMPを使うにしても魔物から《吸収》と言う1手間挟んで回復する事も可能って事になるのか。
これって【白竜】装備中でも攻撃可能になったって事だよな。確かに1手間は増えるが、僕にしてみればメリットが大き過ぎるよな。普通ならMPは有限なので連発出来る能力ではないが、竜の力の恩恵で僕のMPは簡易的では有るが無限なのだから。黒もLv30で《吸収》スキル取得するのかな?これを取得出来るなら魔法攻撃も恐く無くなるよな。
ちなみに、回復と《吸収》の切り替えだが白の意志らしいが、僕が言葉に出せば従ってくれる様なので問題ないだろ。まぁ、実際は慣れるまでは練習が必要だろうな。まったく、白も黒も末恐ろしい存在だよな。
翌日からは【ヴェール】で天孤族の男の捜索を続けている。髪色が赤と言うケンさんからの目撃情報も有るので、かなり捜索は捗りそうだよな。捜索に加わってくれている仲間にも情報は提供済みだ。ちなみに、今日の助っ人はガイア達で僕を含めて6人でパーティーを組んでいる。
『主よ、今日こそは犯人捕獲なのじゃ』
明後日にはバージョンアップ、その後には公式イベントも待ってるからな。僕としても出来るならそれまでにはケリを着けたいと思っている。
『おう、頑張るぞ』
犯人が〈朧〉を使用していると推測しいるので、僕も今日は〈朧〉を使って張り込んでいる。犯人さえ見付ける事が出来れば《見破》でステータスを丸裸にする予定だ。
白は、大袈裟に捕獲と言っているが基本的には注意をして軽い罰を与えるだけだ。僕は犯人が魔物ではなく人と分かった時点で王様と相談して罰を決めている。もしも、その注意で聞かなければ王による指名手配や様々な施設の利用禁止、最悪で国外追放が待っている。賢明なプレイヤーなら2度畑荒らし等の犯罪行為はしないだろう。
『シュン、今はD地点の畑周辺にいますよね?犯人らしき天孤族の男がC地点の畑の方に向かいました。私達は、逃げ道を塞ぎますので追跡をお願いします』
ガイアからの指示で、僕は静かに急いでCの畑を目指す。ガイア達が自ら追跡しないのは、僕や犯人とは種族が違うので尾行等には向いていないからだ。
畑を7エリアに分けてAからGのアルファベットで任意に仕訳している。これは、最初に助っ人に来たアクアの案で、すぐに場所を把握して集合出来る様にする為らしいが、見事に作戦的中だったな。かなり良い案だったと思う。アクア感謝するぞ。
Cの畑に着くと犯人を肉眼で確認する事は出来無いが、街の人が育てている薬草や素材等が抜かれて、どんどん数を減らしているのは分かった。
〔『白、《探索》で気配とか分かる?』〕
〔『大丈夫なのじゃ。ちゃんと気配をとらえているのじゃ』〕
更に、犯人は何かのアイテムで畑に馬の様な足跡を残している。足跡が急に浮かび上がってくるので、アレを知らず知らずに見てしまったらホラーだと思うな。
だが、これで犯人は確定だな。このまま尾行続けて〈朧〉を解除したところで確保だな。パーティーチャットを使いガイア達にも実況で伝えていく。
『はい、そこまでです』
街の端、人気の無い場所で〈朧〉を解除した犯人の後ろから声をかける。
『うぇぇぇぇ~』
僕が〈朧〉を使った犯人が見えてなかった様に、当然犯人も〈朧〉を使っている僕が見えていない。急に何も無い場所から声がした為、犯人は、驚いて悲鳴をあげてコケてしまった。
僕達も〈朧〉を解除して姿を現す。姿を現した時には…………既に犯人は僕達6人に包囲されていた。僕だけで無くガイア達まで認識出来ていなかったのは、尾行途中で合流した仲間に次々と〈朧〉をかけていたからだ。
『急にすいませんね。あなたの犯行は確認させて貰いました。えっと、オキツネさん天孤族Lv30の《準騎士》Lv25ですか………』
《見破》でステータスを確認して読み上げていく。種族Lvが高いので、それなりにOOOに時間を割いているはずだと思うのだが………
『な、何で?名前やステータスが…………』
オキツネさんは顔を青くして後退る。以前にも試した方法だが、相手の心を砕くには効果的な様だ。それに、今回はOOOでは有名な【ワールド】の面目に囲まれているのだ。無理も無いのだけども………
『それは、今は置いときましょうか。一体、どうしてこんな事を………されたんですか?』
『…………こ、こんな事って、な、何を言ってるんだ』
どうにかして平静を取り繕いたいのは分かるが、バレバレだよな。はっきり言って演技の才能も度胸も無いのだろうな。
『最初に、全て確認させて貰いましたと伝えたはずですが、念の為にスクリーンショットも撮らせて頂いております』
僕は、事前に撮影しておいたスクリーンショットをオキツネさんに見せ付ける。
これは本当に意外だったのだが、スクリーンショットは〈朧〉を使っていてもはっきりと写る。犯行を確認している時に黒の案でスクリーンショットを撮影してみたのだが、はっきりと犯人を捉えていた。文明の力にはアーツも勝てないと言ったところか………雪ちゃんも気を付けなければならないよな。
『す、すまなかった。本当に悪いとは思っていたんだけど…………お金が必要だったんだ』
『それは一体どういう事ですか?』
僕よりも早くガイアが食い付いた。
『実は…………』
オキツネさんが言うには、レアアイテムと偽ってクズアイテムを法外な値段で売り付ける天孤族のプレイヤーがいるらしい。
このプレイヤー同様に〈朧〉を使って犯行に及んでいるらしく、その場では見分けが付かないらしい。オキツネさんは転売して儲けようと装備や財産を殆どを売って大量に購入したが、実際はクズアイテムなので売っても二束三文にしかならずにゴミと化しているらしい。フィールドに出て魔物を狩ろうにも装備を新しく買うにもお金がなく、そこで同じ様に〈朧〉を使った犯行を思いついたようだ。
お金が無いなら《拳》を取得して素手での狩りや採取、採掘で稼げば良いものを…………犯罪までするなんてな。許す価値無しだな。
それにしても、この件は情報サイトに書き込みしといた方が良さそうだな。これ以上被害が出るのは阻止したい。幸いな事に、購入前にスクリーンショットで撮影すると言う対処法も有るからな。この点はガイア達とも意見が一致した。
意見が一致しなかったのは犯人への対処だ。ガイア達は運営に絶対に連絡すると聞かなかったのだが、今回は僕に借りが有ると言う事もあり対処は譲って貰った。
僕と王様の考えていた罰は被害額の倍額を弁償で、被害額の倍額に達するまでNPCの畑での無償奉仕。当然《農業》スキルを取得して限界まで働いて貰う。これには、オキツネさんも納得したようだ。
ちなみに、奉仕作業をサボった場合や注意を聞かなかった場合の対処法も脅しとして伝えている。次が無い事を祈りたいな…………何にしても、これで依頼の1つは終わりだな。
ケイト達の街のクエストの方も順調そうだからな、残すは《造船》かな。しかし、こればかりはトウリョウ達が参加していても時間が掛かるだろうな………まぁ、果報は寝て待てって言うしな、気長にいこうか。
翌日、僕はログインしてすぐに、神殿に寄って明日から始まる公式イベントの出場種目の登録を済ませている。今回のイベントは王の依頼を優先させて見学や応援でも良かったのだが、アキラが言い出して1人1種目は参加する事に決まった為、僕は射撃競技を選んでいる。
他の競技よりは勝ち目が有りそうだし、何よりも参加プレイヤーが少ないだろうと思ったからだ。何しろ参加出来るプレイヤーは銃系か弓系に限定されているからな。それに、射撃競技は週末とは言っても開催時間が朝方だからな。本当は、採取や採掘系の種目にも出たかったのだが、時間が合わなかったのも有るし、ギルドのメンバーが参加したがっていた為、今回は遠慮させて貰った。
『さて、今日は…………《機械製作》でもしてみるかな』
色々と頭に浮かんだのだが、せっかくクエストをクリアして《機械製作》が可能になったんだから、試してみたくなるのは当然だろう。
『えっ~と………』
先ずは、作れる物からだよな。作れるのはバッテリー、ギア小・中・大、それにモーターだな。必要素材は鉱石類で、鉱石の種類で性能が変わるのか………それで高位の製作物は低Lvで製作した物を素材にする様だな。今すぐにでもミニカーくらいは作れそうなラインナップだよな、これは面白そうなスキルだな。
色々な素材で数パターン試してみるとギア等の固さが必要な物には硬石系、バッテリーやモーター等の精密な物には軟石系を使う方が性能が高かった。
『主よ、ガラクタが増えているのじゃ』
『…………白、いずれ使い道が有るはず………黒は信じる?』
失敬な………と言いたいところだが、僕にもギアの山はガラクタに見えるので仕方ないかもな。黒に至っては、いつもよりも長く喋ったと思ったのに微妙に貶されてるしな。まぁ、今はLvを上げて作れる物を増やすしかないだがな。
『おいシュン、土曜の夜中って空いてるか?』
僕が《機械製作》を切り上げた途端にアクアからコールが来る。タイミングが良すぎだよな。何処かで見てるんじゃ無いのかと疑うぞ………
『土曜の夜中なら大丈夫だが………どうかしたか?』
『今回のイベント、ペア競技も有るんだよ。一緒に参加してくれ』
確か障害物競争にペア部門が有ったような………気がするな。
『ギルドメンバーに頼め』
そっちのギルドにも優秀なメンバーはいるだろうと思う。わざわざ僕を必要としなくても良いはずだ。
『もう2種目登録済か?』
『いや、1種目しか出ない予定だが………』
『なら頼む。予定していた仲間はダメになってな、他のギルメンは空いてなくて…………頼む』
かなり必死だよな。そんなに出たかったのか?それとも報酬が魅力的なのか?
『………分かった。だが、運動会の僕に期待はするなよ』
『それなら大丈夫だ。登録は俺がしておくから当日はヨロシクな。じゃあな』
嵐の様にコールが終わる。現実の体育祭での僕の失態を忘れたのか?と思ってしまうが…………やけに、自信が有りそうだったのが気になるよな。
『シュンいる?本当にアレに出るの?』
僕が《銃職人》に進化した事で製作可能になった武器を作っているとアキラが慌てて工房に入って来た。
『???』
『あれ?私の見間違いだったかな………』
『何か有ったのか?』
『私、さっき広場にいたんだけど、最終競技の出場者にシュンの名前が有ったんだよね』
最終競技?最終競技ってPVPだったような気がするが………
『さっき、アクアが誘ってきたんでOK したんだけど………それの事?ちなみにその最終競技って何?』
『12時間魔裸存』
『…………それ、普通のハーフマラソンって事は無いよな』
ちょっと待て、なんか嫌な予感がヒシヒシとしてきたんだが、名前だけ聞くと普通なのだがアキラの顔が普通じゃ無いのが妙に気になる。
『ハーフって言うのは1日の半分の12時間、マラソンのマは魔物狩りの魔、ラは裸一貫の裸、ソンは存在するの存で魔裸存。簡単に言うと、12時間防具無しで魔物狩りながら生存する競技』
運営さん、流石に、その競技はカオス過ぎませんか?アクアなら参加しそうだが………アクアが誘ってきたのはペア競技だったから違うだろう。違うよな?頼む違ってくれ………
『報酬は、12時間生存した場合にのみイベントで得たアイテム全部、参加資格は2人パーティーの競技みたいだよ。あっ!!そうそう言い忘れてたよ、これって制限ばかりが多くて人気がなくてさ、参加するプレイヤーも多くないみたい。それで、今はキャンセル不可になってたかな』
アキラから放たれる無情の宣告。これは、ほぼ確定だよな。
『………そっか、ありがとうアキラ』
アイツ絶対に報酬に釣られてるな。本日は、取り敢えず、晩御飯抜きに決定だな。それにしても………
『一体、どうしてこんな事に…………』
かなり来週末が憂鬱になったな。これは、1回自分の目でルールを確かめた方が良さそうだな。
装備
武器
【雷光風・魔双銃】攻撃力80〈特殊効果:風雷属性〉
【白竜Lv30】攻撃力0/回復力160〈特殊効果:身体回復/光属性〉
【黒竜Lv28】攻撃力0/回復力148〈特殊効果:魔力回復/闇属性〉
防具
【ノワールシリーズ】防御力105/魔法防御力40
〈特殊効果+製作ボーナス:超耐火/耐水/回避上昇・大/速度上昇・極大/重量軽減・中/命中+10%/跳躍力+20%/着心地向上〉
アクセサリー
【ダテ眼鏡】防御力5〈特殊効果:なし〉
【ノワールホルスター】防御力10〈特殊効果:速度上昇・小〉〈製作ボーナス:リロード短縮・中〉
【ノワールの証】〈特殊効果:なし〉
天狐族Lv38
《双銃士》Lv61
《魔銃》Lv61《双銃》Lv56《拳》Lv35《速度強化》Lv87《回避強化》Lv88《旋風魔法》Lv33《魔力回復補助》Lv88《付与術》Lv56《付与銃》Lv64《見破》Lv92
サブ
《調合職人》Lv24《鍛冶職人》Lv27《上級革職人》Lv4《木工職人》Lv30《上級鞄職人》Lv5《細工職人》Lv24《錬金職人》Lv24《銃職人》Lv1《裁縫職人》Lv12《機械製作》Lv8《料理》Lv40※上限《造船》Lv15《家守護神》Lv18《合成》Lv18《楽器製作》Lv5
SP 32
称号
〈もたざる者〉〈トラウマ王〉〈略奪愛?〉〈大商人〉〈大富豪〉〈自然の摂理に逆らう者〉〈初代MVP〉〈黒の職人さん〉〈創造主〉〈やや飼い主〉




