エピローグ
エピローグ
『CCD‐30の反応、完全に消滅』
『よし、警戒レベルを引き下げろ。現地には今すぐ救護班と研究室チームを送るんだ』
『二人ともお疲れさーん。作戦は無事成功だよー。いやーほんと、よく頑張ったねー』
そんな指令室の声を聞きながら、俺は独り戦いの終わった虚脱感に包まれていた。
コックピットのハッチを開くと、何かが焼けるような〝戦いの臭い〟を乗せた風が汗をかいた体を冷やしていく。
日はすでに落ち、周囲は少しずつ暗闇の中へと落ちていった。
(……勝った、勝てたんだ、俺達が、あの化け物に――)
「古堅君、どうしたの」
突然横の方から掛けられた言葉によって思考が中断された。
真横を見るとそこにはわずか数メートルの距離に赤い人型装甲機、久藤さんの駆る《ギガンティス・カスタム》の姿があった。
今はコックピットのハッチが開かれ、久藤さんが俺の方を向いていた。
「いや、何でもない」
俺はそう返した。
久藤さんはコックピットから立ち上がると、そのまま器用に《ギガンティス》の方へと飛び移る。
そして俺の近くまでやってくると、コックピットの段差へと器用に腰かけ、話しかけてきた。
「古堅君、私には無茶するなって言ってた割には、自分では随分と無茶していたよね」
「……ごめん、弁明の余地もない」
「まあ今はそのことをどうこう言ったりはしないよ。結果として上手くいったわけだし。今日はいろいろとありがとね」
「俺だって久藤さんには感謝してるぜ。今回の作戦は、久藤さん抜きじゃ絶対に成功しなかった」
「それに関してはお互いさまよ。私一人でも決してできなかった。それに――」
そこまで言うと久藤さんは口をつぐんだ。
「……ううん、やっぱりいいや。あえて言うようなことでもないし」
「…………一体何なんだ? すごく気になるんだけど……」
「……別に大したことじゃないわ。それに、本当にそうなのかもまだわからないしね」
「? まあ、いいや。でも気になるからそのうち教えてくれよ」
「……わかった。そのうち、ね」
再び沈黙が訪れる。
俺には、久藤さんにいろいろと聞いてみたいことがあった。
今までどんな戦いをしてきたのか。
どんな思いで戦ってきたのか。
自分が本当に久藤さんにとっての〝信頼する仲間〟足り得るのか。
想像することしか出来ないそれらのことを、直接聞いてみたいと思ってはいた。でも、いざ訊くとなるとどう言えばいいかわからなかった。
俺は久藤さんの戦う理由と、その思いを聞いてしまった。あれ以上はおいそれと過去のことを聞いたりは出来なくなってしまった。過去の傷を抉って誰かを気付付けるようなことはしたくない。
「……古堅君、……その……」
「ん? なんだ、久藤さん」
「……古堅君のこと、……その、〝陸〟って呼んでもいいかな。いや、別に深い意味があるわけじゃなくて、なんていうか、こう、〝古堅君〟だと呼びづらいし、それに、なんか他人行儀な感じがするし……」
「……え!? いや、その、えーと……」
……割と唐突な提案だった。
「……ダメ、かな?」
「い、いえ、別にかまいませんよ、俺は」
「そう、ありがとう。……そのかわり、私のことも〝真理〟でいいわよ」
……なんだ、別にそこまで深く考えるほどのことでもないじゃねーか。
それが、その久藤さんの、いや、真理の言葉こそが、俺への信頼の証でだと、真理にとって心を許せる存在に成ったということを、そして何よりも、仲間として認めてもらえた証だと、少なくとも俺は感じ取った。
そのことを俺は心の底から喜んでいた。
「久藤さ……いや、真理」
「……なに、陸」
「これからもいろいろあると思うが、よろしく頼んだぜ」
「……こちらこそ、よろしくね」
――応えてやるさ、その期待に。
今日よりももっと、誰よりもずっと強くなって、あらゆる敵を斃し、全ての仲間を守れる、そんな存在に俺は必ずなってやる!
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