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Never give in ~俺たちは絶対に諦めない~  作者: 玄雅 幻
第二章 忍び寄る影 見えぬ先
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 斉藤を先に入らせ、辺りを見回しながら中に入る。一応、避難が完了済みと分かり、少しだけ安堵した。先生が、あの様になった以上、生徒の安全を守るのは、生徒会と執行部の役目となる。飯田にも、改めて迷惑を掛けてすまないと謝れば、何故か気不味い顔を見せ、斉藤を伴うとそのまま無言で立ち去ってしまった。


 飯田と入れ違いで、彰が玄関ホールへ入ってくるのが見えて、俺も歩き出す。

「全員、避難が済んだんだよな」

 本当にホッとして、素直な気持ちを口に出せば、彰の顔が強張り、視線を逸らされた。どうしたのかと問いかける前に、視線を俺に戻した彰が口を開く。

「簡潔に述べる。相沢は、襲われた時に負った傷が原因で亡くなった」

 相沢が亡くなった? 彰が発した言葉に、愕然(がくぜん)となる。ちゃんと帰ってきたんだろ? それって、無事に帰ってきたということじゃなかったのか?

「……そんなに酷い怪我、だったのか?」

「そうだな。酷くないとは、言えねえな」

「そんな……」

 上擦った声が上がる。相沢を殺した犯人が、先生を殺した犯人と同一人物なら、相沢が死んだ一因は、俺にもある。俺が、逃げずに役員寮へ戻っていれば、相沢は死ななくて済んだかもしれない。相沢とは、そこまで面識がなかったが、まだ1一年で、素直で、彰を慕って剣道部に入部したんだと自己紹介の時に話していた子で……。どうして、俺は逃げ出したりしたんだ!

「澪?」

 彰が項垂(うなだ)れた俺の顔を覗き込んでいたが、俺の目には映っていなかった。

 なんで、相沢が死んで、俺が生きてる?

「俺の……俺が、殺した? 俺が、俺の所為で……彼は死んだ、のか?」

「落ち着け! お前の判断は正しかった。一般生徒の避難が、最優先されて然るべき――」

「違うっ。違うんだ!」

 彰は、俺が逃げ出したことを知らない。だから、そんなことを言うんだ。もし、逃げ出したことを知られたら、きっと軽蔑される。泣き出したい気持ちを押し殺して、彰を見た。

「俺……。俺、逃げたんだ。国旗掲揚台に――」

「言わなくていい。俺も見たから。アレを見て、錯乱(さくらん)しない人間の方が少ない。だから、澪の所為じゃないんだ」

 腰を屈め、耳元で、俺だけに聞こえるように言う彰に瞠然(どうぜん)となった。彰は、俺が逃げ出したことを分かっていたのか? 顔を上げ、彰を見ると困ったような顔で笑った。

「お前、ああいうのが、大の苦手だろ。俺を追って役員寮を出たと飯田から聞いて、きっと、どこかに隠れてると思った。俺は、澪が捕まってさえいなければ、それでいい。それに、相沢を殺した奴と先生を殺した奴は別だ。理由は後から話すが、相沢の遺体は生徒の目に触れないようにしてある。見せられる状態じゃなねえしな。それから、無傷の一般生徒には会議室に避難してもらった。今から、全員で今後のことを話し合うつもりなんだが……。行けそうになければ、自室で休んでおくか? 顔色も優れないし、無理していたんだろ?」

 こんな時まで、俺の心配をするのか。嬉しい反面、申し訳なく思えた。俺より、彰の方が、ずっと生徒会会長に相応しい人間なんだと嫌でも思い知らされてしまう。

「俺も行くよ。じゃなきゃ、何のための生徒会会長なのか、解らなくなる」

 思わず自虐的な言葉を口にしてしまい、ハッとなった。

「殴る時間がなかったことを有り難く思え。事が片付いたら、思いっきり殴ってやる」

 凄絶(せいぜつ)な笑みを(たた)え、出来ることなら遠慮したい内容を言う彰に、苦笑いで答える。

「手加減してくれないから、遠慮したいんだけど」

 何度も殴られているが、本当に容赦がない。過保護なくせに、変なところでスパルタだ。

「そう思うなら、自分を卑下(ひげ)する言葉なんか使うな。今度、使ったら時間がなくても殴るからな」

 これ以上、話すつもりがないのか背を向けて歩き出す。その後を追うと会議室へ着いた。

「先に行っておく。役員寮に無傷で辿り着いた一般生徒は十六人中、四人だけだった。残りの十二人は、第一鑑賞ホールへ隔離してある。斉藤も念の為、飯田に言って第二鑑賞ホールへ隔離させた」

 背を向けられたまま話される内容に、足を止める。隔離って、どういうことだ? 怪我をしているなら医務室が先じゃないのか? 色々な疑問が湧くが、彰が理由もなく、そんなことをする筈がない。そうしなければならない、何らかの理由があるのだ。ひと呼吸おいて、足を進める。

「……隔離した理由、会議室で聞かせてもらうから」

「解っている」

 未だ、立ち止まり続ける彰を抜いて、会議室の扉を開けた。


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