十三
屋上へ上ると、満天の星空が広がっている。
昼間に比べると涼しいが、蒸し暑いのに変わりがなかった。執行部の部員たちは、其々、木刀を手に持ち四隅を警戒している。
「目が覚めたのか」
彰の声がすぐ近くで聞こえ、飛び上がりそうになるのを堪えると声のした方へ振り返った。開けた扉の先、壁に身体を預け、星空を見ている。
「無理やり思い出させて、悪かったな」
何故か、俺の方を向こうとしない? それに、なんで彰が謝るんだよ? 忘れたのは、俺自身が悪いんであって、彰が悪い訳じゃない。
「俺こそ、ごめん。勝手な行動をした俺が悪いんだ。だから、彰の所為じゃない。彰が謝る必要なんか無いんだ」
「……あの時、俺が駄目だと言ったら、澪は行かねえで部屋で大人しく待ってただろうが。結局は、俺が許可したのが悪いんだ。こんなことになるなら、お前を外に出すんじゃなかった」
彰は、壁に預けていた体を起こして、俺を見上げる。
「なあ……どれだけ心配したと思う? 何故、すぐに引き返して来なかった? 何故、一人で戦ったりした? 何故、俺を呼ばなかったっ!」
立ち上がった彰に胸倉を掴まれ、壁に押し付けられる。俺は、されるがままになっていた。
「俺の気持ちが、お前に解るか? 澪を殺さなきゃならねえと言われた時の気持ちがっ。 澪は、俺を殺せと言われて殺せんのかよ?」
「……ごめん。俺に、彰は殺せない」
「だったら、もっと自重しろ! この馬鹿野郎がっ」
殴られるのを覚悟して歯を食いしばっていたが、彰は怒鳴るだけ怒鳴ると俺の服から手を離し、そのまま座り込んだ。
「……彰。俺が、浅慮だったんだ。だから、彰は悪くない。記憶を戻そうとしたのも、俺が死なない為だろ? 嫌な役、させたよね、本当に、ごめん」
隣に座り、頭を下げると、髪を掴まれ無理やり頭を上げさせられた。
「俺がそうしたかった。ただ、それだけだ。お前が謝る必要はねえんだよ」
「それでも……。俺の自己満足かもしれないけど、ちゃんと謝りたかったんだ」
真っ直ぐと彰の目を見る。一瞬、彰の目が見開かれたが、すぐに細められた。
「勝手に言ってろ。俺は、寝る」
俺の髪から手を離し、そっぽを向いて目を閉じてしまった。部屋に帰らないのかと問いかけても返事がない。本当に屋上で寝るつもりなのだろう。
俺は、ソッとその場を離れ、自室に帰ることにした。