出会いと伝承
「陛下、件の鬼を連れてまいりました」
首の輪に繋がれた縄を引く者が部屋に入ると、すぐに目の前の玉座に向け頭を垂れた。
玉座には、短い金髪を持ち、胸まで届く髭を生やした、鬼の少女の倍はある身長の持ち主が座っていた。その左側には長い銀髪を地面にまで垂らしたおっとりした女性が、その反対側には、少女より頭一つ分程小さい、幼い少年が座っていた。
「その娘が鬼の娘か、角以外は人とあまり変わらんのだな」
「あら、でもここまで見事な紅い燃えるような髪は初めて見ますわよ」
玉座の主は髭を撫でながら観察するように、女性は口に手を当てながらアラアラと言いながら眺めていた。そして少年は……。
(なんだ、なんで冷や汗が出るんだ、なんであの餓鬼は目を輝かせて人の角見てるんだ)
悪寒を感じながらも少年の目を輝かせた視線から逃れる事が叶わぬため早急に逃げ出すことを決めた少女であった。
「首の縄をはずしてやれ」
「はっ!」
男の命を受けた者は即座に敬礼すると、少女の首の縄を外した。が、その直後。
ニヤッ、少女がすぐさまどす黒い笑みを浮かばせ。
「ありがとよ」
この言葉を聞いた者が止めようとした直後、少女は駆け出し、少年に襲い掛かった・・・・・・が。。。
あと少しで少女の拳が少年に届くところで少年の首に掛かっていた首飾りが光。
「ギャアアアアア!?」
四肢と首に嵌められた輪からすさまじい雷撃が放たれ、少女の身をこんがりと焼く事となった。
焼かれた少女はそのまま少年の目の前に落下した。
目の前でプスプスと焦げている少女の前に少年は椅子から下りてしゃがみこみ、少女にとって最悪な一言を言い放った。
「ごめんね、攻撃防止用にそれ放電装置ついてるんだ、あと特定範囲、って言うかこの城の城壁内だね、出ると爆h……これは後で実演するとして」
「ちょっと待て今なに言いかけやがった」
あまりにも物騒すぎる発言に少女は最後の気力を振り絞って尋ねるが。
「なんでもないよ?」
爽やかな笑顔でしらを切られてそのまま気を失った。
「アラアラ、可愛らしい寝顔ね」
「そうだな、この辺は本当に人と変わりないのだな」
「陛下、王妃様、殿下が襲われたと言うのにその反応でいいのですか?」
目の前で我が子が襲われたのにもかかわらずのほほんとしている主に傍にいた者が突っ込んだが、意味は無かった。
「それにしても、鬼は強靭な肉体を持っていたと言うがその通りだな」
「ですな」
「アベルト、第三魔具研究所に行きこれについて報告して来い、この少女が鬼だったから良かったものを普通の人間なら軽く死ねるぞ」
「承知しました」
アベルトと呼ばれたものは一礼すると退出していった。
「囚人の脱走防止用の枷が処刑道具になっては問題だからな」
ウムウム、と頷きながら王は心の中で予定表にこう書き加えた。
囚人用ないし奴隷用拘束枷の実験台に少女の存在を。
その王の傍では王子が自分の従者に少女を担がせ、部屋に戻っていく準備をしていた。
王子の笑みは新しい玩具を貰った少年のように輝いていた。
「鬼か、伝説の中の存在が現れると言うのは不思議なものだな」
鬼はかつてこの世界に存在した亜人種の一つであった。
エルフ、ドワーフ、魔族、獣人族など、多くの亜人種がいるが、鬼だけは何時の頃からかその存在が失われてしまっていた。
鬼が失われた頃からゴブリンやオーガと言った、知性低き獣鬼種と呼ばれる魔物が確認されるようになったので、鬼は何らかの理由でこれらに堕ちたのか、それとも滅びてしまったのか、今もまだ分かっていない。
そして、残されている鬼の伝承には、必ず同じ締めくくりが存在した。
“この世覆う災厄、それ全て武の神の眷属に封じられん、封じられし災厄は浄化され現世へと戻り輪廻へと入る、災厄が失われた時、神の眷属もまたこの世へと舞い戻らん”
王はこの伝承に疑問を抱いていた。
(災厄が失われて戻ってくるなら、災厄が甦っても戻ってくるのではないか?)
かつてこの世界には9の神がいた。
大地の神は大地を造り、ドワーフを生んだ。
水の神は海を造り、魚人を生んだ
火の神は熱を造り出し生き物が住みやすい場を作り、獣人を産んだ。
風の神は風を造り、精霊を生んだ
光の神は太陽を生み出し、天翼の民を生んだ。
闇の神は月を生み出し、魔族を生んだ。
慈愛の神は木々をこの世界に作り出し、エルフを生んだ。
知の神は生きるものに知恵を与え、人を生んだ。
武の神は狩り等の生きて身を守る術を教え、鬼を生んだ。
これらが一般的な神話である……が。
王族や各神を祭る大司祭や巫女達には記されざる神について口伝で継承されていた。
死の神は何も生み出せぬことを嘆き、他の神に嫉妬し、世界に生きるものに仇なす災厄を生んだ、と言う伝承を。
鬼の少女の存在が何を意味するのか、それはまだ、誰も知らない。
そして作者も分からない(汗)
ちなみに枷は本来強制労働刑に処され、鉱山送りになった者達の為に開発されたものです、威力が高すぎではありますが(笑)