王都へ
※この少女は生まれたときから山奥暮らしなので世間知らずです。
ありえないだろ普通ということをやらかしますのでそんなのは見たくないという方は回れ右をしてください。
(なんで俺がこんな目に合わにゃーならんのだ!)
木々の深い山の中襤褸を纏った少女が駆け抜けてゆく。
その額に角を生やした少女は、草を掻き分けて山奥へと逃げる。
「いたぞ~!」
後ろから聞こえる男達の声に顔を青くして足を速める。
しかし、大人の足にかなうはずも無く、少女はそう長くは掛からず捕まる事となった。
「たく、てこずらせやがって」
少女を捕まえ、縛り上げた男はそう言いながら、仲間達と共に少女を担ぎ、山を下っていった。
(何でこんな目に合うんだよ、俺が何したんだよ)
少女の身に降りかかった災い、それは3日前に遡る。
それは、とある王宮での事。
その日、玉座の間には、一人の商人が、王への献上品を持ち、謁見していた。
「ほう、ずいぶんと珍しいものだな、この真珠とやらは」
この国は大陸でも中心部に近い位置にあり、山や川、湖はあれども海は無く、真珠などの海の物は王族であっても容易く見る事はかなわぬ品であった。
王は珍しい物を好み、また他所の国の情報も欲していたので、商人に見てきた事を話すように命じた。
その多くは他愛も無い話ではあったが、その中のひとつが同席していた幼き王子の興味を引いた。
「そういえば、王都の南の山に鬼の娘が住んでいるとか、ただ滅多に顔を見せぬ上に、用心深いらしく捕まえようとしたものが何人も失敗したとか」
この話を聞いた王子が「鬼が欲しい」といい、若干親馬鹿の気がある王はそれを快諾、鬼の住む山を領地とする貴族に捕獲を命じた。
・・・・・・これが少女の身に降りかかった事の顛末である。
この話を下山した男達から貴族に引き渡され、檻に入れられた少女は命じられた貴族から聞かされることになり、その顔は真っ赤に染まっていた。
(つまりなんだ、俺はそんなことの為に追い回されたと? ざけんじゃねぇぞ)
怒りに身を震わせながらも、拘束されている身ではどうにもならず、とりあえず少女は機を待つ事にした。
数日後、国の中心を南北に貫く大河の中洲に立つ王城と両岸を挟み込むように築かれた王都がその姿を現した。
(やっと着いたか、長すぎて体中が痛くなってきたぞ)
ずっと縛られていたが故に体中の節々が痛みを訴え始めていた少女はようやく見えてきた目的地に安堵の息を着いた。
そして、王都を通り、橋を渡った先で待ち受けていた城の者に、少女は引き渡された。
少女は檻から出されると足の戒めを解かれ、変わりに両足首近くと首に金属の輪をはめられた。
首に付けられた輪に縄を結ばれ、玉座の間へと少女は引っ立てられていった。
玉座の間に着くと、手の戒めも解かれ、変わりにやはり金属の輪を両手首に嵌められる事になった。
戒めをはずされた事を、少女は顔に出すことなく喜んだ。
(ククク、まさかはずしてくれるとは思わなかった。これで要らん事を考えてくれた糞餓鬼をぶん殴って帰れる)
黒い事を考えている少女を尻目に、彼女を連れてきた者は入室を求め、そして許されると共に少女を連れて入室していった。
少女はこの国の民ではないので(人間でないため)国家反逆罪や礼儀なんて知りません、文字通りの怖いもの知らずです。