11回目
それなのに。
今いる場所さえも束の間忘れかけて、グレンは我に返った。
失われてしまった無上のもの。
それを、奪い去った者たちの末が、自分を見ている。
ふつりと胸の奥底深く、こみあげそうになる感情を、グレンはいつものように圧し殺した。
あれもまた、ある種の愛故であったのだと、理性が告げる。
神であり王である自分に対する愛故に、ひとは間違いを犯したのだ。
後悔が代わりにこみあげてくる。
絶対者であるはずの自分が、なぜ、愛する存在を守れなかったのか。
それは、彼らが自分のためにという認識を持っていたからに他ならない。
彼らはグレンのために、グレンを誑かす異形の者を殺すことを決意したのだ。
異形と彼らの呼ぶ存在が何であるのかを、彼らはもはや知りもしなかった。知ろうとさえしなかったのだ。
神のために。
その題目は、グレンを縛る。
内容が正しかろうと不正だろうと、人々の思いは、グレンを縛り付ける鎖となってしまった。
だから、グレンは、動けなかったのだ。
その姿形をほぼひとのものへと変貌させてそこに存在するウルウを、ひとは殺したのだ。
殺されるその刹那にまでも、ウルウはただ笑んでいた。
それは、死ぬことができる悦びだったのか。
それとも、彼に対する思いやりであったのか。
今となってもグレンには判らないままである。
ひとであった頃のグレンの最後の記憶と同様に、殺されたウルウのからだからあふれだしたのは、血ではなかった。
彼の同胞たちからあふれだしたのと同じ闇が、ウルウからあふれだす。
ウルウの中からあふれだした、闇に、ひとは恐慌をきたして逃げ惑った。
その光景を、ただ、グレンは見やっていた。
流れる涙にかすむ視界に、おろかな人々の犯した罪を映していたのである。
それからの幾年かを、ひとは、暗黒の時代と呼び嘆いた。
ウルウからあふれだした闇が、世界を閉ざしたからである。
グレンの流した涙が、彼らに己の犯した過ちを気づかせたからである。
しかし、それは、既に遅きに過ぎた。
グレンは、その宮の奥深くに自らを閉ざしていた。
神不在の時代の到来である。
ひとはただ、遅きに過ぎる罪の意識に苦しみ悶えた。
そうしていつしか、神が愛し、自分たちが醜い嫉妬故に殺した、古い異界の神の名は、禁忌と化してしまったのである。
あれ?
久しぶりの更新ですが、斜めに話が走っているような気がします。主題がずれてますね。自覚は在るのですがxx
判りにくい文章だったら申し訳在りません。いつにもまして、説明的かも。
少しでも楽しんで頂けると嬉しいですが。