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呼ぶ声  作者: 工藤るう子
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1回目

とくにR指定はしませんが、残酷描写や色っぽいシーンもあります。

両方とも生温い程度ではありますが、苦手な方もいらっしゃることと思いますので、その辺は自己責任でよろしくお願いします。







 国は災厄に覆われていた。


 長い長い災厄だった。


 つむった目からは涙が流れ、食いしばろうとする口からは悲鳴が迫りあがる。塞いだ耳には、ひとびとの苦鳴が絶え間なく届いた。


 空を閉ざす黒煙は、ひとの焼かれる独特の臭気をふりまく。


 大地を濡らすのは、ひとの血潮や涙に他ならない。


 災厄の源は、大理石と翡翠と黄金とで造られた王宮である。


 民もが踏み込むことのできる外殻では、無惨な光景が繰り広げられている。


 掘られた深い穴の底には焼けこげた人間の成れの果てが積み重なっている。鋭い杭にはひとが貫かれ、後ろ手に縛められたものの引き裂かれた腹からは腸が溢れとぐろを巻いている。


 振り下ろされる鞭、刃。


 馬の蹄鉄は横たえられたものたちのからだを害してゆく。


 鋭いガラス片の上を引きずられるもの。


 四肢を引き裂かれるもの。


 首をはねられるもの。


 泣き叫ぶ被害者たち。


 黙々と行為を繰り返す灰色の衣をまとった男たち。


 山と積まれた死人の山。


 拷問。


 処刑。


 酸鼻極める光景に、王宮を見る者はいない。


 芯から凝りつくかの心地で、目を逸らせるのだ。


 民の祈りも嘆きも、王宮の主には届かない。


 狂える神に誰が逆らうことができようか。


 ひとは怯え嘆き、身を縮こめる。


 恨みや呪詛は黒雲に混じり、大地から立ちのぼる臭気と合わさって、あまたの魔物が生まれ落ちた。


 王は、無情に眺めるばかりだ。


 楽しんでいるわけではない。


 血に酔っているわけでもない。


 酔っているのも楽しんでいるのも、王の隣にいる腹の大きな美姫だった。


 手を叩き、火に投げ込まれる子供の絶叫を楽しんでいる。


 魂消るような断末魔の痙攣を、恍惚と味わう。


 そんな女を、王以外の者たちは嫌悪に引きつった表情でそっと見る。


 誰ひとりとして、処刑を止めるものはいない。


 そんなことをしようものなら、次は自分たちに火の粉が降り掛かる。


 先ほど火にくべられた少年は、美姫をたしなめようとした重臣の長男だった。


 灰色の処刑人の服装をまとった男たちに新たに引きずり出されたまだ少年の面影を残す若者に、つややかな黒髪に金の飾りをつけた赤いくちびるの美姫が、舌なめずりせんばかりにその彩られた瞼を見開く。


 紅をさして血塗れたようなくちびるが、細い三日月めいた嗤いをかたどった。金の瞳に残酷な喜悦がともる。


 火にくべるか、槍で貫くか。


 それとも、ノコギリで挽くか、馬に引かせるか。


 幾通りもの残虐な殺害方法が、女の脳裏をいっぱいにしていた。


 ぞろりと赤い舌がくちびるを湿した。


 ちろりと隣をみやれば、何を考えているのか、王は眉間に皺を刻みつけたいつもの無表情のままである。


 くつくつと笑いをこぼす。


 膨らんだ腹を撫でさする。


 眼下に引き据えられた若者こそが、王の後嗣を産むはずであったのだ。


 見た目からはわからないが、若者は、双つの性を持つ者であり、誰よりも王の恋着を受けた者であった。




 王の恋着を厭い、宿った子を堕ろすまでは。



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