そして世界を決意に染める
多い・・・。今回は本当に多い・・・。文字数が。
サブタイは何かふって頭に浮かんだもの。特に意味はありません。まあ、少しは話の内容に関わってますけど。カッコつけたかっただけです。
ではどうぞ!!
六年前
「仙宮寺リューヤ・・・。君は謝るべきかも知れないね。君がなかなか姿を現さなかったせいで、大勢のお仲間達が死んでいったのだから」
黒服の男は僅かに垣間見える口をこれ以上ないくらいに吊り上げる。まるで、狐の面のようだ。
「っどういう事だよ!?」
リューヤは必死に声を張り上げる。あわよくば近隣の家に届け、と思うが、ここは右に田んぼ、左に大きな食料品店があり、生憎そこは今日、休店日だった。
「君がなかなか姿を現さないからねえ・・・私は君に出会えるまで暇つぶしにたくさんの子供で遊んでいたというわけだよ・・・全ては君のせいだ」
目が薄汚く光る。クラスメイト達はへたり、としゃがみ込み、翠子はリューヤの肩に体を隠している。
「なんで・・・俺を・・・」
振り絞るような声でリューヤは聞いた。手が震える。が、その手が翠子の手に触れ、震えがとまる。
「・・・もちろん、君が嫌いだからです」
その声が妙にあたりに響き渡る。
「私は、君が憎い。君は最高の両親と家柄を持つ。他にも、禁忌の子供はたくさん居るのに。君はその恵まれた環境のせいで、誰からも迫害を受けず、むしろ配下の者に慕われてさえ居る。・・・何故だ。私は人間とアヤカシの間に生まれた。境遇的には君と全く同じはずだ。全く!しかし、私は皆から忌み、嫌われ、人間にもアヤカシにもどちらにも受け入れられなかった。何故だ!何故君は受け入れられ、私は迫害される?!」
男はリューヤを指差し、血走った目でそう早口に罵った。
「ずるいんですよ。だからね、皆を平等に。皆を均していこうと思いまして。一人飛び出た君は、排除されなきゃならないんです。お分かりですか?」
そう言うと、男はコートの中から大きな斧を取りだした。本当に入っていたのかと疑いたくなるくらいに、大きな。
「大丈夫。痛くないですよ?さあ・・・」
男は斧を振り上げる。頭上に輝いた月の明かりで、大きな影がリューヤ達にかかる。
殺される。そう確信した。その時だった。
「ニャ――」
猫の声がした。見ると、どこから来たのか、黒猫がリューヤの足元に擦り寄ってきている。
「なんだ、猫ですか・・・。ま、安心してください。君たちは殺しても、罪の無いこの猫までは殺しませんよ」
翠子たちに罪があるのか、と言いたかったが、恐怖で声が出ない。
「ニャ――――ッ!」
猫が尻尾を立て、男に向かって鳴く。男はチッと舌打ちをし、「どけ」と言った。
「誰に向かって言ってるのよ」
猫が喋った。と思うと、ひらりと猫は体を宙に浮かせ、男の右腕に飛び乗った。
「な、なんだ!!?」
男が左手で払いのけようとすると、猫は男の頭に飛び乗り、その頭をけり、高く舞い上がったと思うと、その猫の姿は一瞬にして少女の姿に変わり、男に踵落としをくらわせた。
「ぐふっ!!」
男が呻く。少女は男のそばに舞い降り、男の頭に足を乗せた。
「大丈夫ですか、リューヤ様!?」
寧子である。リューヤは助かった、と思ったが、すぐに寧子を睨みつけ、
「なんで来たんだよ!!」
と叫んだ。
「ええっ、だってリューヤ様、ピンチっぽかったじゃないですか。まだ武器も持っていらっしゃらないのに、無茶ですよ、戦うなんて」
まだあどけない表情の寧子が手をわたわたさせる。
「うるっさい!俺は一人でもいけるって言ったの!なんで助けるかな!」
「りゅ、リューヤ君、もう、大丈夫・・・?」
目をつぶっていた翠子とクラスメイト達がそろそろと顔を上げる。
「ああ、だいじょう・・・」
「大丈夫ではないですよ」
男の低い声が聞こえた。
と、頭に載せた寧子の足は、男の手によって払いのけられ、寧子はバランスを崩し、バック転を2、3回しながら道に手をつき、体勢を整えた。
「しまった・・・」
言うや否や、寧子は地面をけり、男に向かう。
靴の先から彫刻刀程度の刀身を出し、男に切りつける。
と、男はそれをよけ、寧子の足を斧で切り落とそうとするが、寧子もそれを巧みに避け、その斧に手を置き、空中で逆立ちになる。手で勢いをつけ、男の後ろ、リューヤの目の前に降り立つ。
「はあっ!!」
振り向きざまに男に蹴りを食らわす。刀身を男の体に垂直に向け、深く刺さるように力を込める。
捕らえた、と思ったが、それは男の帽子であった。
「駄目ですね」
男はいつの間にか寧子の右横に立っており、斧を振りかざしている。
「あ・・・・・・・」
寧子が短く声を上げると、男は斧で寧子を斬り付けた。
血がリューヤの顔にしぶき付いた。寧子は膝からガクン、と倒れ落ち、前に倒れる。男は寧子の体を踏みつけ、
「弱い」
とだけ言った。
「きゃああああっ!」
途中から顔を上げていた翠子が泣き叫びながら言う。
「ね・・・」
リューヤは声を震わせる。
「寧子おおおおおおおっ!!?」
手を伸ばすが、遭えなく男に払いのけられる。
「陰術・破狂!!」
肉眼でも捉えられるほどの衝撃波が男に向かって浴びせられる。白い影がリューヤの目の前に降り立つ。
「すみませぬ。寧子しかすぐ近くでお見守り出来なかったものですから、遅くなりました」
響が男を見ながら言う。
「響・・・・・」
リューヤは今度こそ素直に安心した。
「いいんですかねえ、そんな事して」
男がくねくねと体をうねらせ、含み笑いで言った。
「これ・・・何でしょう?」
男のてには・・・・・満身創痍の寧子の姿。リューヤと響の顔が変わる。
「ふふ、そんなにこの娘が大事ですか?なら、あげますよ・・・」
響のほうに投げつける。それを受け止めようと、響が一歩前に出る。
「だから、弱いんですよ」
男は容赦なく響に斧を振り下ろす。
血が飛沫をあげ、響と寧子は共に崩れ落ちた。男はそれを飛び越え、
「さあ、終わりです。ふふ、好きなものは最後に退けておく性質でね・・・」
と言って、斧を振りかざした。
「永かった・・・・」
男は感動にあふれた声で言う。
今度こそ、殺される。
振りかざされた斧が、一筋の銀色の直線になって、真っ直ぐにリューヤに向かう。
もう、駄目だ・・・・。
「翠子・・・・ごめん」
死んだ、と思ったのに。
間違いなく、殺されたと思ったのに。
目の前にあったのは・・・・
「ろ・・・轆轤首?」
目の前にあったのは、血まみれの轆轤首の体。
「私の主に手を出すな!」
轆轤首の首が伸びる。体は地面に倒れこんでいるのに、首だけが男よりも高い位置にある。
「首が伸びるから、何です?」
男はためらわず、その首を斧で斬りつける。首は辛うじて胴体とつながっていたが、最早持ち上げる力はなく、伸びた首は元に戻った。
「ろ、ろく、轆轤首・・・・・」
リューヤは恐る恐る触れようとする。
「りゅ、リューヤ様・・・ごめんなさい・・・。私、何も出来ませんでした・・・」
口から血を流し、轆轤首はうつろな目で言う。
「な、何言って」
リューヤは半分泣きそうだ。翠子は手を震わせ、泣きながらリューヤの背に顔をうずめている。
「ごめんなさい・・・。助けられませんでした・・・・。貴方が居たから、私は居たのに」
轆轤首は手を伸ばし、リューヤの顔に触る。
「有難うございました・・・」
手がずり落ちる。リューヤの顔に手形に血のあとがのこった。
「浅薄。もっと考えれば、この貴方以外の者を助けられるかもしれなかったのに。主だけを護る、ですか・・・下らないですね」
男がせせら笑う。
「・・・・・・・・」
リューヤは何も答えない。何も喋らない。轆轤首の手を、ただ握っている。
「さあ、もうこれ以上待てませんよ。お遊びはお終いです。大人しく、死んでください」
再び男が斧を振り上げる。
「もう一度言ってみろ・・・・」
リューヤが轆轤首の手を離し、ゆらりと立ち上がる。翠子はそれにあわせ、やはりまだ目を瞑ったまま、リューヤの後ろに隠れる。
「下らないだと・・・?」
リューヤの髪が伸びる。眼は紅く光り、爪が2cmほど伸びた。
「てめえに言われたくねえんだよ!!」
男に向かって叫ぶ。その勢いに気圧され、男がひるむ。
「翠子、後ろでしゃがんでな」
竜夜がぼそり、と後ろの翠子に呟く。「・・・リューヤ君?」と言いつつ翠子は素直にそれに従う。
「切り裂き男、とか言ったか。陳腐な名前だな。・・・まあいい。俺は仙宮寺 竜夜。覚えなくていいぜ」
勝手に喋る。先ほどまでと打って変わったような竜夜の態度に、男はかなり困惑しているようだった。
「な、何ですか。急に、私と、戦うって言うのですか。笑わせないでください。そんな丸腰で、一体何が出来るんですか」
しどろもどろになりながら、男は言う。
「気づいてねえのか・・・?」
竜夜は静かに男に言った。
「もう、持ってるぜ。武器」
竜夜は静かに右手を上げる。手には、一振りの刀が握られていた。
「いつ・・・何で・・・」
男は目を見開き、その刀を見やる。
「手前にはわからねえよ。教えるもんか」
そう言うと、竜夜は刀を振り下ろした。
男も斧で応戦するが、何分斧のほうが重いため、構えに時間がかかった。
「お前、弱いよ」
竜夜はそう言い、そして男を斬り付けた。
「ぐうっ、く・・・そっ!!」
男は切りつけられた腹を手で押さえ、後ずさりする。
「畜生、仙宮寺 竜夜・・・!終わったと思うなよ!お前が生きている限り、お前とその仲間は、常に危険にさらされるんだ!」
そう言うと、男は黒いコートを翻し、闇に溶け込んで消えた。
「馬鹿いうな」
竜夜は血の滴る刀を握り締め、言った。
「ならば誰も傷つけさせない。誰も悲しませない。俺が護るべき者は、絶対に殺させはしない。俺が護りたいものは、必ず護る。・・・・・それだけだろう」
だから、決めたんだ。
もう誰も傷つけさせないって。
もう誰も悲しませないって。
もう誰も泣かせないって。
もう誰も殺させはしないって。
護るべき者は護るって。
そう、決めたんだ。
如何でしたか。今回出てきた術のおさらい。
【陰術・破狂】
相手に向かって衝撃波をくらわせる術。外傷ではなく、内部から破壊します。だから大抵、敵は口から血を吐く。
ごめんなさい。翠子の髪の毛はまだ短くなりません。おそらく次回には・・・!というか、響のやられ方がしょーもない気がします。また今度、活躍させてあげよう・・・。誤字・脱字・矛盾点・感想・批評、お待ちしております。次回の更新は未定。そろそろ文化祭と中間と立て続けに有るので。申し訳ありません。見捨てないで下さい。