It Is Necessary To Strengthen
六話目でございます。サブタイはこれであっていれば『強くなければならない』だかなんだか。そういう意味合い。
今回の話は陰陽寮の偉い人達をチラッと見て、それからリューヤの過去。
なんだか今回も長くなってしまった。ごめんなさい。
では、どうぞ!
だから、決めたんだ。
誰も泣かせないくらいに、もう二度と泣かないくらいに強くなると。
そう、決めたんだ。
陰陽寮最高幹部団・星陵八部隊。会議所。
灯りといえば小さな行灯が5、6個見えるだけの暗い、大きな座敷。八人の黒い影が、言葉を交わす。
「反乱とは由々しき問題ですぞ」
「しかし、あの仙宮寺家の跡取りでしょう。あの男も我慢ならなかったのでは?」
「だからと言って許される問題なの?」
「しかし、あの玉栄とか言う者、そんなに力の有る者だったのか?」
「いえ・・・私の知る限りでは、確かに呪術には長けていましたが、これといって目立つところもなく・・・並程度の力でしたよ」
「じゃが、菊一の話では、彼奴は高等霊術も使っていたと言うじゃないか。並程度の者に使える技じゃあないぞ」
「そうだな・・・。俺の部下が尋問しているが、奴、頑として口を割らんというし」
「・・・まあ、誰かが力を与えたという事には、間違いありませんね」
八つの声が次々に聞こえる。一区切りついた後、誰かが大きな溜め息をついた。
「ともかくは、これ以上問題を起こさぬようにする事だ。誰かは知らんが、自分では手を下さず、他者に力を与えて邪魔なものを排除する者が居るという事だからな」
そうね、そうだなと言った同意の声が聞こえる。
「邪魔なもの・・・ね」
仙宮寺家、朝。
「何?羽衣町で最近通り魔が出没・・・女性の髪を切って逃走?おいおい、変な奴も居るもんだなあ」
ガサガサと新聞を読みながら、アヤカシ・雲助が言った。山賊のような格好にいかつい顔。柔道選手と言っても通じるくらいの体格である。
「ああっ!お前が新聞を盗っていたのか、雲助!貴様の蟻のフンみたいな脳みそで、そんな高等な書物が理解できるはずもない!」
喧嘩を売ってきたのは陰陽師・八条 伊江紋。黒い狩衣に、中の着物は白。一見すると、碁石かオセロのようである。長い黒髪を裾の方だけ緩く三つ編みにしている。
「フンて!蟻はまだしもフンて!てゆーかそんなに新聞が読みたきゃ、もう2,3部とっときゃいいじゃねえか!」
「馬鹿!一家庭になんで何部も同じ新聞を取ってるんだ!おかしいだろうが!しかも親方様はこの新聞でなきゃイヤだと言うし!」
ぎゃいぎゃい言いあいが続く。収集がつかない。リューヤはパチンと箸をおき、
「ごちそーさま・・・行って来る」
とだけ言って玄関を出た。
雲助と伊江紋は沈黙。何しろいつもなら『うるさいんだよ!ゆっくり朝飯も食べられないじゃんか!』というリューヤの怒号が響き渡るところである。
「どうしたのだろう・・・・」
伊江紋が汗を流しながら言う。
「あれだ・・・若旦那もお年頃と言うわけよ。おなごの事で悩んでおられるのだ。しかし、この俺・雲助が、若様のお悩みを解決しましょう!」
実際、大はずれである。
リューヤは溜め息をつきながら歩く。
傷つけてしまった。響と寧子を。
護るって、決めたのに。手出ししないなんてカッコつけたこと言うんじゃなかった。かっこ悪くてもいいから、護るべきだったのに。
「・・・・馬鹿だなあ、俺・・・」
上を見、そして目を細める。腹立たしいくらいに朝日が輝いていた。
「若様ああああああああ!」
「若旦那あああああああ!」
後ろから二人の声が聞こえる。
「もう、いつもなら皆に怒鳴り散らしてから行くから、何時に出たのか判るのに・・・今日は怒鳴らないんですから!」
響が息を切らしながら言う。リューヤはちらっと響を見て、
「ごめん・・・・。傷はもう大丈夫か?」
と言った。
「え?ええ、はい。もうすっかり大丈夫です」
頭を掻きながら響は言うが、リューヤのいつもと違う態度を気取り、すぐに真顔に戻る。
「・・・どうかされましたか」
リューヤは眉を寄せ、口を引き結ぶ。
「昨日の事ならば、全て私の力不足のせいです。リューヤ様のせいなどでは有りませぬ!!」
必死に言いかける。
「そんなんじゃ・・・」
リューヤがバッと振り向き、しかしまた力なく肩を落とし、
「そんなんじゃねえよ・・・」
と言った。
二人のやり取りを見ながら、寧子は
『まるであの時のリューヤ様だ・・・』
と思っていた。数年前の、あの時の。
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六年前。
リューヤ九歳。
羽衣市立小学校三年2組。
「リューヤ君、また遅刻だね」
同じく九歳、同じくクラスメイトの神部 翠子がリューヤに話しかけた。
「・・・俺の家の奴らがいっつも邪魔するの!俺の家は陰陽師で、でもアヤカシも居て、なんかいつも大変なんだよ!!」
机をバンバン叩きながら幼いリューヤが言う。周りの生徒がちらっとこっちを見るが、またすぐに視線を戻す。
「リューヤ君の家って、確かお茶のえらい所だよね。イエモト、かなんか・・・。何度か行った事有るけど、皆アヤカシとか陰陽師とかじゃなさそうだったよ?」
控えめに翠子が反論する。しかしリューヤはじろりと翠子を睨み、溜め息をつきながら言った。
「お前は一部しか見てないの!まったく・・・」
「仙宮寺君、今日も遅刻ね。い・け・な・い・ぞ!」
教師とは言い難い格好をした女が教室に入ってくる。
「なんだよ、お前、学校では話しかけんなって・・・」
指を指そうとするリューヤの右手をがっちり掴み、
「まああ、先生に向かってお前なんていけないわ。ちょっといらっしゃい」
と言って、無理やり引きずるようにしてリューヤを引っ張っていく。
「何だよ、轆轤首。悪かった、学校ではなんでかしらんけど、お前の事は内緒だったんだな」
けほけほ咳をしながら、リューヤは階段の踊り場にいた。
「まあ、それも有るんですが・・・。最近、子供達の間で妙な噂が流行ってましてね」
彼女の名前はアヤカシ・轆轤首。寧子と響はこのころ既に側近だったが、同級生と言うには成長しすぎ、教師と言うには幼すぎた。よって、彼女が潜入したと言うわけである。
「切り裂き男、といいまして。下校途中に後ろから切り付けられたり、女の子が髪を切られたり・・・皆怖がってしまって。まあ、集団で帰るから犯罪防止にもなるんですが、それを理由に寄り道したりする子が増えてまして・・・」
困ったように轆轤首がくちもとに手を当てる。
「・・・よし!じゃあ、俺がやってやるよ!」
自信満々にリューヤが自分を指差す。
「は?」
「俺がやるっていってんの」
「いえ、そうじゃなく、家のものをいくらかか動かしていただければ・・・」
やんわりと轆轤首が言う。
「俺じゃ不満なのかよ。俺が一人で退治してやるよ。任せとけ!俺は最強になる奴だぜ?」
ほとほと困り果てたように轆轤首が手を顔に当てる。
その日。夜七時半。
「ねえリューヤ君止めようよ。最近、変な男の人が出るんだよ?」
翠子がリューヤの服の袖を引っ張る。それを気にも留めず、リューヤは腕を組んだままだ。
「そうだぜ。これでなんにも出なかったら、お前の言ってる事全部うそな」
「そうだ。アヤカシとか陰陽師とか居るわけねえんだよ」
「そうだよ。そんなの信じてるほうがおかしいんだよ」
クラスメイトの男子が次々に言う。リューヤは冷ややかに見つめ、
「じゃ、どうしてその切り裂き男ってのは信じてんだ?」
と返した。皆、口をつぐむ。
「もし・・・子供達」
暗闇から、黒いコートに黒い帽子を被った男が急に現れた。皆、身構える。
その時リューヤはまだ力の有るモノと無い者の区別がつかなくて。
男が近づいてきたときも普通に接していて。
だから、気づかなかったんだ。
「いや、君達の話が聞こえてね。・・・アヤカシ、とか陰陽師、とか言っていたようだが」
足まである長いコートをゆらゆらさせながら、男が近づいてくる。
「っそうだよ!リューヤは陰陽師とアヤカシのリーダーになるんだ」
「最強になる男なんだぜ?」
「強いんだよ!」
「・・・リューヤ君は強いよ・・・」
翠子を含め、皆口々に言う。
クラスメイト達は感じていた。
男の放つ異様な気を。
リューヤは日常的に力の強いものを感じていて、それが普通だと思っていて。
だから、気づかなかったんだ。
「くっくっく・・・」
男が帽子に手を当てる。手には黒い手袋をはめていて、最早どれとどれがコートと帽子で、どれが手か判らなかった。
「~~~~~なんだよっ!」
その笑い声に耐え切れなくなって、リューヤは強気に尋ねる。
「いやいや、失礼。やっと、当たりに出会えたと言うわけだ・・・仙宮寺 リューヤ」
男が帽子を取る・・・・と、その下には包帯でぐるぐる巻きにされた顔。目と口だけがみえていて、それがまた怖い。
「きゃあああああああああっ!!」
翠子が悲鳴を上げる。
「仙、宮、寺、リュー、ヤああっ!!」
男が叫ぶ。リューヤはただただ立ち尽くすばかりであった。
だから、決めたんだ。
もう誰も傷つけないって。
もう誰も悲しませないって。
そう、決めたんだ。
いかがでしたか。偉い人達は腹に一物抱えてそうな人たちばっかり。
あと、切り裂き男については創作です。こんな都市伝説ありません。てか、包帯男て何気に怖い。恐らく次回当たりに翠子の髪の毛が・・・。
誤字脱字、矛盾、英語の間違い、感想お待ちしております。よろしくお願いします。