悪魔の落とし子・・・悪魔の落とし子?
戦い突入。
今回は長い。いつも短くしようとしただけに今回は本当に長い。
サブタイからも悪意が感じられる。では、どうぞ!
陰陽寮。
未所属の陰陽師、呪術師、封魔師、魔術師、退治屋等が拠り所としている自治体であり、またそういった連中の総本山もやっているところ。
「その陰陽寮の奴が、何の用だ?」
依然として竜夜は刀を構えたままだ。
「おや、お聞き取れになれませんでしたか。―――――貴方を倒しに来た、と言ったのですよ」
気味の悪い笑みを浮かべる。その笑みは、虫が全身にまとわりついた様な・・・酷く嫌な感じがした。
「ふざけるな!」
響が声を荒げる。印を結び、構えた。
「憤れ、碧眼の白虎・白衣の天人・落ち来る雨氷・全てを喰い千切るがいい!四神呪法・神白!」
と叫ぶと同時に、印を結んだ手の先から、白い虎が現れた。毛は逆立ち、口からは威嚇の声が出ている。
「ゆけ!」
響が男向かって指差す。白い虎は後ろ足を大きく蹴り上げ、一瞬で間合いをつめた。しかし、男の薄ら笑いは消える事がない。
「四神呪法・・・。貴方の腕なら、まだ言霊を破棄して使う事は出来ませんか。ふふ・・・若いですね」
次に男の姿を認める事となったのは、虎・・・神白が前足に傷を負い、また響も太刀傷を負った後だった。疾い。
「私はあまり戦いを好みません。ですが、上からの命令です。仙宮寺竜夜と、それに関する者を抹殺せよ、と」
そして手を振り上げる。響に止めを刺す為に。
「はあああああああっ!!」
その手が何者かに払われた。寧子である。
「地獄落とし!」
と叫んで、蹴る。しかし、それは避けられた。
「甘いですね」
「甘いのはアナタの方よ!」
すると、ガクン、と男が地面に足をつく。何が起こったかわからない、と言う風に、寧子を見上げる。
見ると、寧子の下駄の下に履いている足袋の先が破れていた。そしてその穴から、長い爪が見える。
「私の毒爪からは逃がさないわ」
次々に蹴りを繰り出す。男が反撃しようと錫杖を構える。が、寧子はそれを踏み、男の後ろに降り立った。
「しっ!!」
鋭い蹴りが男に直撃した、と思われた。しかし、寧子が今までそれと思っていたものは、ボウンと白い煙とともに、紙切れとなってしまった。
「し、式神!?」
寧子が怯む。後ろから手が伸び、寧子の髪の毛を引っ張った。
「甘いと、言ったでしょう」
錫杖が寧子の胸に立てられる。刺される、と寧子が眼をつぶる。
が、その錫杖は払いのけられた。竜夜の刀、月夜鴉によって。
寧子と響を両脇に抱え、十数歩下がる。そして二人を壁にもたれさせた。
「りゅ、竜夜さま・・・」
寧子が掠れた声で言う。
「喋るな。響と一緒にそこで待ってろ」
振り向かずに竜夜は答える。隙を見せられない。
「ほう、助けるのですね。今まで何も手出ししなかったから、てっきり捨駒だと思っていましたよ」
男がせせら笑う。寧子が憎らしそうに男をにらみつける。
「こいつらは俺のモンだ。勝手に自分のものを壊されかけて、手出ししねえやつはいねえよ。もっとも、こいつらの戦いには、極力手出ししねえようにしてんだ。後で怒られるからな」
一息に言う。しかし、竜夜は悩んでいた。
こいつは一体いつ式神と入れ替わった?
それが判らない。竜夜は二人の戦いをずっと見ていた。眼を離してはいない。見失ったのは、響が倒される前の数秒。その間に、俺に気取られず式神を発動させられるのか?
「ふふ、判らないのでしょう。私がいつ式神と入れ替わったか」
にこりと男が笑う。その笑顔が癇に障る。
「お教えしましょうか?交換条件です。私がそれを教える代わりに・・・」
たっぷりためてから、男は顔を上げていった。
「お前が死ね!!!!!」
瞬間、男の姿が消えた。と、竜夜の背中に衝撃が走った。
「ぐふ・・・」
口から血が出る。金色の錫杖が、背中から斜めに斬り込まれる。
元来、錫杖にそれほど殺傷能力はない。しかしこの錫杖には先端にナイフほどの長さの刀があり、さらにそこに霊力を込めている。
張り付いたような男の笑顔が、さらに気味の悪いものへと変化する。
「怖いか、悪魔!なぜ、お前なのだ・・・・なぜお前なのだ!」
叫びながら追撃。紙一重で竜夜はそれをかわす。
場所が悪い。竜夜はそれを感じていた。
相手の錫杖は先端付近を利き手で持つと、狭いところで使うための刀、脇差のようになる。
対して竜夜の刀は普通と同じ位の刀身の長さだが、狭いこの路地、戦いにくい事この上ない。
場所を変えなければ、と竜夜は考えていた。なんとかして刀が威力を発揮する広い場所か、空中に。
「おい!」
竜夜は男に声をかける。意識をそらし、戦いに最適な場所へと誘う為だ。
「お前、俺を悪魔といったな。何の事だ!」
すると男は一瞬、攻撃の手を緩めた。そしてあの薄ら笑いで答える。
「はん・・・陰陽師とアヤカシの間に生まれた悪魔の落とし子が。本来ならそんな禁忌のガキ、生まれてすぐに殺されているはずだ!だが、幸運だなあ、貴様は。貴様の父と母は裏世界でも最上級の家に生まれたアヤカシと術者。さらにその間には貴様のほかに子はいない。貴様はたった一人の正統後継者の地位を手に入れたってわけだ」
男の左手が竜夜の藍色の羽織を掴む。顔を近づけ、血走った目で竜夜をじっと見る。
「貴様の父はもう死んでいる。貴様は大事にされている。貴様の祖父、母、側近、そして両家の家の者に。なぜ貴様だけ、なぜ貴様だけ!!」
竜夜は顔をただしかめていた。目をつぶる。そして、口を開けた。待っていたんだ、こいつが近づくこの時を。
「四神呪法・紅時雨」
印を結び、その先を男の顔に向ける。その指の先端が光り、そこから長く、鋭く尖った物が見えた。
「ぐあっ!!!」
男が片目を左手でおさえる。そこから血が滴り落ちる。
「す、朱雀か・・・」
炎を纏いながら、朱色の大きな鳥が姿を表す。
「紅、来い」
紅、とだけ竜夜が呼ぶと、その鳥は大人しく竜夜の肩に降り立った。
「さあ、飛ぶぜ」
竜夜は印を結んだ手に力を込め、唱える。
「陰術・白羽!」
すると、男の体がフワリ、と浮く。体の中心から上へ向かい、順に上半身、下半身と続く。
「白羽か!くそっ・・・」
男の体を掴み、紅時雨の跳躍力で一気にビル群の上まで行く。途中から男の体重が戻ったが、それでも掴み続けた。
「終わりだ」
竜夜は男の胸倉を自分のほうに引き寄せた。
「悪魔の落とし子か。確かにそうかも知れねえ。ただ、俺は負けるわけにはいかねえんだよ!特に、俺が禁忌の者ってことを理由に戦いを挑む奴らにはな!!」
ひい、と男が小さく声を漏らす。錫杖を向けようとするが、紅時雨の羽であえなく叩き落される。
「じゃあな。てめえの負けだ」
刀を構え、切っ先を男に向ける。力をこめ、貫こうとした瞬間だった。
「・・・奏でよ、死の音色・カナリア」
男の体が破裂した、様に見えた。
「裏切り者が。無様だな」
破裂したと思ったのは、異常なまでの出血により、そう勘違いしたのだった。竜夜の頭に黄信号が点滅する。警戒、警戒、警戒・・・・・
「お前は、誰だ」
その男は白い、燕尾服にも似たような服を着、白い帽子に黒いズボンをはき、手袋をしていた。
「はじめまして、仙宮寺 竜夜殿。私は本物の陰陽寮の者ですよ。その男は玉栄と言います。こいつは先日、陰陽寮を裏切った反逆者でして。ずうっと我々で行方を追っていたのですよ。まあ、今宵こんなにも大っぴらに霊力を放出してくれたおかげで、意外に早く見つかりましたけどね」
昔の公家の言葉の様なイントネーションで男は喋る。帽子をちょこっと上げて男は言った。にこっと微笑む。玉栄なる男のような気味の悪い感じはしなかったが、何やら背中がすうっとするような、自分が透けて見えているのではないかと思わせる不快感を感じた。
「ああ、こいつは連れ帰って尋問せねばならぬので殺さずにおりました。申し訳ありません。それから、貴方のおつきの者ですが・・・・」
男が目線を下に下ろす。それにつられ、竜夜も目を下に向ける。
「私の部下が手当てを施しています。ご心配なく」
見ると、この男と同じような白い服を着た人が二、三人、寧子と響の傍にいる。
「で、その男、引き渡してもらえませんか?」
男が手を差し出す。虫の息の玉栄は、ひゅうう、ごふうと言った呼吸を繰り返す。仕方なしに竜夜が玉栄を引き渡そうとすると、玉栄は燕尾服姿の男を見、顔を引き攣らせた。
「ひ・・・ひいいいっ!な・・・何で貴方様がここにいる!なんで、なんでっ!止めてくれ、もう俺に関わらないでくれ!」
血の混じった泡を飛ばしながら玉栄は叫ぶ。
「たす・・・助けてっ!仙宮寺 竜夜!悪かったから。謝るからっ!頼む、助けて・・・」
手を竜夜のほうに伸ばそうとしたが、その手は一瞬の後にありえない方向へ曲がっていた。
「あああああああああああああああああああああああああっ!?」
自分の右手を見て、玉栄は叫ぶ。燕尾服姿の男はいつの間にか玉栄の首を掴み、猫を捕らえた様にして自分のほうに引き寄せた。
「裏切り者風情が。仮にも殺そうと決意したもの相手に情けを請うなんてブザマな事しなや。みっともないで」
先ほどまでの丁寧な口調とは打って変わり、刃向かう事を許さない、冷たい響きで男は言った。
「ほな、私はこれで。仙宮寺の御当主と、姫小路家の御当主、お二人によろしゅうお頼申します」
そう言うと、男はフッと消えた、と気づくのに二、三秒かかった。 下を見ると、寧子と響の治療をしていた者達も消えていた。
「竜夜様・・・・・」
帰路につく。寧子が後ろから力なく声をかけた。
「あの者達・・・何だったのですかね・・・」
着物についた血を見ながら寧子が言う。竜夜は背負った響に目を向ける。
「・・・・傷、大丈夫か」
竜夜がぽつりと言う。
「あ、はい。あの白い人たちが、治してくれましたから・・・・・」
寧子がきゅっと右手で自分の左腕を掴む。
「そうか・・・・」
竜夜は振り向かない。空を見上げると、月が輝いていた。
「強くならなくちゃ・・・・」
如何でしたか。今回出てきた術のおさらい。
『四神呪法・神白』
四神の一つ、白虎を召喚する術。乗る事も出来ます。基本的に攻撃方法は【噛み付く】【突進する】など。なんかの力が使えるわけではない。響は「びゃっくん」と呼び、竜夜は「白」と呼びます。
『四神呪法・紅時雨』
四神の一つ、朱雀を召喚する術。こいつの羽ばたきで飛ぶ事が出来る。口から炎を吐いたり、羽に纏った炎を撒き散らす事で攻撃。今回竜夜はかなり無理して詠唱を破棄しました。この鳥を竜夜は「紅」と名付けていますが、響は「スーちゃん」。術者によって呼び名は様々です。
『白羽』
相手の体重を少しの間無くす働きがある。まるで風船みたいになります。竜夜の母・ゆかりは、学生時代、身体測定の時軽くこの術を使って体重を誤魔化していました。
次回はリューヤのちっさいころの話とかに触れられればと思っています。でも予定なので全然違う話になるかも。あと、近々翠子ちゃんの髪の毛が短くなる予定です。誤字脱字感想お待ちしております。そろそろ感想ほしい!