竜を見る 月に照らされ
今回はなんとゆかりの過去篇です。
・・・・・竜夜の修行はどうなったんでしょうか。
ではどうぞ!
竜を見た
闇夜に佇む
竜を見た
恐ろしくも儚い
竜を見た
・18年前・
「最近、アヤカシによる民間人への傷害殺人事件が増えています。皆さん、心して警備に当たってください」
18年前、姫小路 ゆかりは、だだっ広い部屋の一番前、階段一つ分程高い段の上で、目の前に広がる大勢の異能者たちの前でこう言った。
「発見したアヤカシは少しでも不審な動きがあれば即時排除。常時武器携帯を許可します」
ゆかりは表情一つ変えず、しかし微笑んだままそう言った。
朝礼が終わり、ゆかりは実行部隊第一級特別審査局・執務室に戻る。
机の上には山と積まれた書類があった。
「あての仕事の半分は、これらぁの書類にサインすることやね・・・・」
思わずゆかりは故郷の生まれ言葉でそう呟いた。
「ゆかり!!!!!!!」
と、執務室の窓から入ってきたのは、実行部隊第二級審査局局長・兎追 凛狼である。
中国風の服を着た小柄な彼女は、小さな窓からも易々と、軽業師のようにするりと入ってきた。
「凛狼。何してるの。」
机の上に飛び乗った凛狼に、ゆかりは下から見上げる形で問いかける。
「暇だからな。逃げてきた。暫くかくまえ」
横柄な態度でそういう彼女は、また飛び上がり、蝶のようにソファに飛び降りた。
「暇なわけないでしょう。先日の事件で、今実行部隊はどこもてんやわんやなのに。それも、第二級審査局の局長が、そんなことでは駄目でしょ。」
ゆかりは呆れたように言う。
目線は凛狼に、しかし手は尽きることのなさそうな書類に次々と判を押すため忙しく動き回っている。
「実行部隊といってもな、局長の座は時たまある実戦練習の指揮をとるだけ。後は全て執務室で紙と戯れることしかない。」
凛狼は、それが諸悪の根源であるかのように、前に広がる書類の山を睨みつける。
「こんなことならば局長になぞならなかったらよかった。下っ端のほうが迷わず力を振るえる。目の前の敵を倒すことに精一杯だ。」
「その精一杯の結果がその局長の座なのでしょう。」
凛狼は答えない。ソファに寝そべり、脚を組む。
「でも第二級はまだ実戦練習があるだけましじゃない。私達は実戦練習もないから。ただ警備とアヤカシの排除だけよ。」
「第一級が実戦練習のないのは、それは練習するまでもない粒ぞろいだからだろう。」
凛狼はむくりと上半身だけを起き上がらせる。
ゆかりはそんな凛狼を見る。
「まあ、入局試験の九割五分以上の点をとっていた者たちですからね。そりゃあ知識はあるわよ。だけど、知識はあっても実戦でその知識を披露できなきゃ意味はないでしょ。」
ゆかりは珍しく熱を込めて話す。
このことは前々から思っていたことだった。2年前に局長に就任したときから。
「頭でっかち。」
凛狼は両手の人差し指を立て、ゆかりに向ける。
「そう。ただ薀蓄を傾けるだけなのよ。」
「それは始末が悪いな。」
「なまじ頭が良いから馬鹿にも出来ないしね。」
ふう、と二人は同時にため息をついた。
「ああああああああああ!!!!!!!!!!!いたあああああああああああああああああ!!!!!!兎追局長!!!!!!!!!!!見つけましたよーーーーーーーーーお!!!!!!」
執務室の窓から、第二級審査局の局員がものすごい勢いで顔を出す。
「む。見つかってしまった。ではな、ゆかり」
と言った直後には、凛狼の姿は消えている。
「あああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!また逃げる!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
局員は涙目で逃げる兎を追う。
その日の午後10時48分。
ゆかりは残り一山となった書類と格闘していた。
ちょうど半分ほどになった時だった。
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
けたたましい警鐘の音が鳴った。
ゆかりは反射的に傍にかけてある錫杖をつかみ、気を張り巡らせる。
執務室の扉が開いた。
「ゆかり様!!!!!!!!!!!!!!!陰妖寮内にアヤカシが集団で侵入してきました!」
と、副局長の甲正が駆け込んできた。
「その通りです。」
と、甲正の横に居るのは顔を面で覆った男である。
「誰」
「星陵八部隊の使いです。実行部隊第一級から第五級まで出動し、アヤカシを鎮圧せよと。歯向かう連中は即時排除。以上です。」
というと、男は姿を消した。
「・・・・・・・・」
「ゆかり様、ご下命を」
ゆかりが外に出ると、もう防具を身にまとった部下が全員整列している。
「・・・・・アヤカシが集団で侵入してきました。我々には敵の即時排除許可が出ています。」
自分の器と世界を知らない連中は、自らの力を試せることに興奮を覚えている。
血気盛んに大声を上げる。
ゆかりはそんな部下達を穏やかでない心境で見ていた。
この連中をそのまま実戦に出せば、死者が出ることは必須。
しかし知識だけ無駄にあり、そのことに誇りを持つこの連中にそんなことを言っても無駄であるということをゆかりは知っていた。
いっそこのまま実戦に出して、手痛い目に合わせ自らの実力を身を持って知るのも良いかも知れぬ、とそんな意地悪なことも考えていた。
すると、そこに上から声が降ってきた。
「第一陣は第二級から出る!第一級はそこで待機せよ!」
凛狼である。
ゆかりは、凛狼が自分の話を鑑みて、あえて第一陣を買って出てくれたのだと悟った。
「ありがとう・・・・・」
小さな声で礼を言う。
「聞いたとおりです。私達は奥で、星陵八部隊をお守りしましょう。そのほうが重要なお役目と思いますがね。」
しかし、高まった気持ちを無理やり押さえつけられた若者達は不服である。
興を殺がれた、というか、祭りの準備を仕上げた途端に雨が降ってきたような雰囲気が蔓延していた。
ゆかりはどうしたものか、と頭を悩ませる。
局員の配備を終わらせると、ゆかりは第二級が戦う第一線へと向かった。
「ちょっとは手伝ってあげないと・・・・・」
森を抜け、合戦の音のするほうへ向かう。
月が煌々と差してきた。
「お前」
上から声が降ってきた、と思った瞬間にはゆかりはその方向へ護符を投げている。
「誰だ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「俺は」
「仙宮寺 竜吾」
如何でしたか。
兎追 凛狼とは、そうです。あれです。
凛狼のイラストも近々入れるので、ご注意を!
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