気づき得ぬ実感
今回はつらつらと今まで伏線張ってたところが見えてきます。
ゆかりは段々腹黒くなっていってます。
癒しキャラだったのに・・・・・。
ではどうぞ!
他者の痛み
平和の実感
自己の無力
これらすべて
気づきにくきものなり
「貴方は弱い」
ゆかりは、哀れむような目で、もう一度ゆっくりと口を開いた。
「弱すぎて弱すぎて、自分の無力さが分からないくらいに」
竜夜は何も答えられない。
ゆかりの後ろでは、翠子が苦い顔をして立ちすくんでいる。
「どういう・・・・」
「言ったとおりの意味よ」
ゆかりは手にした錫杖を地面に一突きすると、厳しい顔でなおも続けた。
「・・・・この前、アナスタシアというシスターが来たでしょう。彼女が持っていた剣、カタリナ。彼女はそれを具現化し、その剣の意思と自らの意思を共有させて、より強い力を得ている。・・・・並大抵の精神力で出来る業じゃないわ」
竜夜は先日出会った金髪の少女を思い出していた。妖魔を共に退治した、シスター。
『扉の店』という場所でも、彼女のことを探ったが、確定した答えは得られなかった。
「あの場所で、シモン君と貴方、別れたでしょう?彼はその時にこのことを知らされたわ」
竜夜は驚愕した。
「シモンが!?あいつ、そんなことは一言も・・・・、ていうか、何で俺に言ってくれなかったんだ!?」
竜夜はシモンに裏切られた気分だった。
すぐ傍で、いまだ気を失っているシモンに目をやる。
「彼はあの店で適した取引をしたから、この情報を得られた。前々から吉原雀ちゃんの所の常連だった彼よ、何が取引をするのに最良かを見極める能力があったんでしょう」
ゆかりも、シモンを見やる。が、すぐに視線を竜夜に戻した。
「・・・俺は・・・、あの店で適した取引をしていない・・・・」
「その通りよ。言っておくけど、あの店の店主に出来ないことなんてないわ。ただ、こちら側も彼の行いに相当する行いをしなければならない。そういう決まりが、あの世界にはあるのよ」
竜夜は、頭の中で必死に状況を整理していた。
アナスタシアとカタリナ、二人のような能力を、俺も手に入れなければならないのか。
そして、それが出来るのか。
シモンはなぜ自分に黙っていたのか。
母は何を言わんとしているのか。
翠子はどうやって先ほどの力を手に入れたのか。
なんで、翠子はこんなに悲しそうな顔をしているのか。
「シモンは・・・なんで俺に黙っていたんだろう」
「たぶん、あの店で口止めされたんでしょう。これは、貴方が自分自身で気づかなければならなかったことなんだけど・・・・、そうも言ってられなくなってね。あの人達が動き出したのは分かっていたけど、まさか学校まで来るなんて」
竜夜がうつむく。
「貴方にも随分時間は与えてあげたはずよ。機会も与えた。だから、わざわざイタリアの知人まで連絡して、あの子を派遣してもらって、妖魔をおびき出したって言うのに」
「!!」
竜夜が反射的に顔を上げる。
「あの妖魔は、私が引きずり出したものよ」
「・・・・・・・・・・っ!!」
「あの妖魔のせいで、寧子ちゃんも響君も、あのシスターの子も危なくなった。だけど全ては貴方の無力さにあるのよ」
こういわれては、竜夜に言葉はない。
ただただ唇をかむしかないのである。
「俺も・・・アナスタシアのような力を手に入れることは出来るのか?」
竜夜は振り絞るような声で言った。
ゆかりは、上目がちに竜夜を見ると、目を閉じ、
「出来るわ」
と言った。
「ただし、修行をして、貴方にその素質があればだけど」
「やるさ」
間髪いれず竜夜は答えた。
「素質なんて、俺が作り出す」
しっかりとした、自信あふれる口調で。
「もっと強くなって見せる」
「・・・・頼もしいこと」
強くなって、
もっともっと強くなって、
もう翠子に、
あんな悲しい顔させない。
「竜夜君・・・・・・」
翠子が、おずおずと前に出る。
「わ・・・私の選んだことは・・・・、竜夜君の重荷になってないかな・・・・?」
今にも泣きだしそうな勢いである。
「いや、お前がその力を手にしてくれたから、さっき俺は助かった」
竜夜は軽く笑みを作って、翠子を見る。
「その通りよ、翠子ちゃん。初めは、竜夜の向上心と焦りを促進させるために貴方を利用させてもらうと言ったけど、それだけではないわ」
ゆかりが、翠子の肩に手を置く。
「貴方の力は、この先必要不可欠となってくる能力なのよ」