Why, Why,Why?
今回は前々から伏線張っていたところがちょろちょろと見え始めてきます。
サブタイはもう竜夜の心情を表してみた。
ではどうぞ!
世界の安寧を壊すほどの信念なんて
許されるわけはない
「・・・・・何だ・・・・?」
目の前は金色の壁、足には重くのしかかる木々。視界と足を封じられた竜夜にとって、状況を知る術は一つ、聴覚である。
金色の盾の向こうから聞こえてくるのは、百合姫と聞き覚えのある女の声。
すぐ後に、ドドドドドドドドッ!!!!と言う音がして、そのまたすぐ後には、先ほどの巨大ウサギ人形が倒れこんできたのが垣間見えた。
そして、また話し声。
百合姫が何度か叫び、そしてまた見知らぬ気配の者が何人か来た。
そいつらは、百合姫の気配と共に去っていった。
竜夜に分かったのは、それくらい。
「畜生・・・何がどうなってやがるんだ」
憎憎しげにそう呟く。
すると、その言葉に答えたように、目の前の金色の壁が消えていった。
段々薄くなって、そして換わりに見えたのは・・・・・
「・・・・・・・何でお前が・・・・・・」
竜夜は呆けた声を出した。
「・・・・・・」
目の前にいる翠子は、純白の衣装を百合姫の血で鮮血に染め、申し訳なさそうな表情で竜夜の前に立たずんでいる。
「・・・お前、怪我したのか!」
竜夜は翠子の服を見て慌てていった。
「ち・・・ちがうよ!これは、さっきの女の人の・・・・」
翠子が必死に否定すると、竜夜はちょっと安心し、それからまた
「何でお前がこんなところにいるんだ!!!!!!!!!!」
と叫んだ。
「・・・・・・・・」
翠子は、口をつぐむ。
「答えろ。何でお前がここにいる。俺は・・・お前らを傷付けたくないためにっ・・・・」
竜夜は悔しそうに言った。
怒っているのではない。ただ、いつも傍にいた者に裏切られていたのかもしれないという不安と悔しさで一杯なのである。さらに、翠子は切り裂き男に始まり、特に守らなければならない存在。
その者を守るために戦っていたのに、その者が突然戦場に現れた。
奇妙な力をもってして。
「何でお前がここにいる!!!」
竜夜が声を荒げたとき、
「私よ」
と、唯一冷静さを保った声が聞こえた。
「私が、彼女を引き込みました」
声の主は・・・・・・
「・・・・・母さん?」
竜夜の母・ゆかりであった。
「そう、私。翠子ちゃんをこの世界へ引き入れたのは」
ゆかりは先ほどとは異なり、紋付の黒装束を着ており、手には錫杖をもっている。
「どういう・・・ことだ」
竜夜は状況が理解できない。口がカラカラに渇く。目の前の景色がゆれる。頭でフラフープをしているようだ。
「どうもこうも、切り裂き男に二回目に襲われたときあったでしょ。その時、この子の魂の形を見てね、決めたの。利用させてもらおうって」
舞台女優のようにすらすらとゆかりはしゃべる。翠子はうつむいた。
「利用させてもらうって・・・・」
竜夜は困惑した顔でたずねた。
「そう、利用させてもらうの。貴方が成長するために」
「どういうことだっていってるんだ!!!」
竜夜が叫ぶ。
「・・・・・」
ゆかりは肩をすくめる。
「いつからだ」
「え?」
竜夜は憤怒の表情でゆかりを見据える。
「いつから貴方はこんなことを考えてた」
竜夜はゆかりを「母さん」と呼ばなかった。ゆかりは表情を変えない。
「・・・貴方たちが二回目に切り裂き男に襲われたとき、私はその場にいたわ。響君の記憶を消したのも私。前々から翠子ちゃんの魂の形には適性があると思っていたし、正直この子があの夜外出してくれたのは、幸いだった」
ゆかりが素気無くそう答えると、竜夜は木の下敷きになった手で握る月夜鴉に力を込めた。
「何のためにだ!!なんでわざわざ翠子を危ない目にあわせる必要がある!!!!!」
ゆかりは一度目を伏せ、そして厳しい目で竜夜をにらみつけた。
「貴方が弱いからよ」