ウサギの手
サブタイは・・・どこかで聞いた事のある感じですよね。灰谷 健次郎さんのアレです。手って・・・。
今回は百合姫がどんどん色々やります。
ではどうぞ!
欲しいものは
血で真っ赤に染まった白バラの花束
欲しいものは
苦しみながら死んでいった貴方の骸
「何だこれ・・・」
シモンが眉をひそめる。
「私のお人形・・・。可愛いでしょ?」
百合姫と名乗る少女は、高みの見物を決め込んだのか、ロッカーの上に腰掛け、のんびりとしている。
「ふざけるな」
そう呟きざま、シモンはウサギ人形に向かって階段を駆け上がると、レイピアを構え、
「翔れ、空の果てまで! アレス!!」
とアレスを解放すると、ウサギ人形はどこからかナイフを取り出し、
「オオオオオオウ!ナイフ!」
と叫び、何倍も大きいアレスに対抗する。が、かなう訳もなく、あえなくナイフは弾き飛ばされた。
「何だ、あっけないな・・・」
と、シモンが思った瞬間である。
「バ、イバイ」
ウサギ人形が手を振る。百合姫がにっこり笑う。
途端、
ド オ オ ン ! ! !
という音と共に、ウサギ人形が爆発した。
「・・・くっ・・・」
「無事かシモン!」
百合姫の顔を見て、シモンがやりあっている中変化していた竜夜はシモンを手前に引き戻した。シモンがいた階段はえぐれ、無残な姿のウサギ人形が散らかっている。
「あーあ、外れちゃった」
百合姫が足をぶらぶらさせ、さもつまらなさそうに言う。ロッカーに下駄が当たり、ガンガンと不快な音がする。
「でも、ヒリヒリしたでしょ?どきどきしたでしょ?もっかいやりたいよねえ」
百合姫が右手を上げる。すると、ロッカーの中から、階段の下方から、階段の上方から、窓から、着物の袖から、同じようなウサギ人形がわっと出てきた。
「この子達も遊びたがってるの、お願い」
百合姫がそう言ったのを合図に、ウサギ人形が一斉に二人に向かって来る。
「ちくしょう・・・・・っ」
竜夜はまず手前にいるウサギたちを飛び越え、裏庭に面している窓へと向かう。
「シモン、こっち来い!!」
「ああ・・・!」
シモンも同様にウサギたちを飛び越え、竜夜のいる場所へ向かう。裏庭へと向かいながら走っていると、
「許さねえっ・・・!」
竜夜が鬼気迫る顔で言った。ぎゅう、と拳を握り締める。
「あいつら・・・学校の設備に何てことをっ!!!」
「お前、そー言うところだけは真面目だよな」
シモンが呆れ顔で呟くと、後ろから一体のウサギ人形がシモンの背中に飛び乗った。
「わああああっ!!何だこれ!近くで見るとものすっごく怖いんだけど!!!」
シモンが騒ぎ、肩から顔を覗かせるウサギ人形を竜夜のほうへ押し付ける。
「お前っ!何すんの!?こんなん俺だって怖いわ!投げ飛ばせ!!」
と、竜夜はそれを窓から裏庭へと投げつける。
ドンっ!という音と共に、煙が上がった。
「・・・こら、竜夜。何が投げ飛ばせだ。爆発なんてしたら一般人にばれるだろーか!」
シモンが竜夜の肩を揺さぶる。
「仕方ねーだろ!大丈夫だよ、何とかなる!」
「何とかなるって言って何とかなるの!?そんなレベルかこれ!!!」
なおも竜夜の肩を激しく揺さぶる。
「私の・・・お人形・・・・・」
百合姫が、煙の上がる先を見つめながらポツリと呟く。
「こ・・・壊した・・・・、許さない!」
そういうと、百合姫は袂から拳銃を取り出し、三発、連続で二人の背中向かって撃った。
皮一枚でそれを避けた二人は、柱の陰に隠れ、百合姫の連射が収まるのを待つ。
「おい、窓から投げて爆発しようが、そのまま爆発しようが、爆発するのに代わりねえだろ!!!」
竜夜が叫ぶ。
「貴方たちに血を流させるっていう使命を果たせずに死んでいっちゃったのよ!?そんなの、可哀想だわ!!このお人形たちは貴方たちを傷付けるために存在するのに!!」
半分涙ぐみながら、百合姫は弾を込め、再び連射する。
「くそっ」
このままでは埒が明かないと考えた竜夜は、一瞬攻撃がやんだ隙に百合姫の前に立ち、
「陰術・綴結界!」
と、目の前に円形の結界を数十枚張り、シモンと共に裏庭へと急いだ。
裏庭へと着いた二人は、木陰に身を隠した。竜夜は月夜鴉を取り出し、桜の木の枝の上に隠れる。シモンは、竜夜と真向かいの木の上である。
ずる・・・ずる・・・・と奇妙な音が響く。やがて、渡り廊下に鮮やかな着物の色が見えた。
「私は、自分で戦うのキライ。汗かいちゃうし、しんどいし、怪我したら痛いし、服汚れるし。だから、私の可愛い分身に戦ってもらうの」
にこにこと、屈託のない笑みを湛えながら、百合姫はゆっくりと裏庭に出る。
「んん?隠れちゃった?どこ?」
辺りを見回す百合姫を見つめながら、竜夜とシモンは次の攻撃を考えていた。
―――さあ、どう出る?―――
竜夜が、月夜鴉を構えながら考える。
―――銃の次はライフルか?―――
シモンも、同様に相手の出方を考える。
「んー、まあ、いいや。どこにいても同じだし」
百合姫が吹っ切れた顔で前を見据える。
「ねえ、ウサギさん?」
百合姫が右手を上げた先に見えたのは・・・・、
2メートルを越す巨大なウサギ人形。
―――・・・・え?―――
竜夜とシモンは同じ言葉を思った。
「ウサギさん、木をなぎ払え!!!」
百合姫が命じると、巨大なウサギ人形はのろのろと右腕を振り上げ、そのまま木々にぶつけ、次々となぎ倒していった。
「うわっ!」
シモンはその腕に直撃し、竜夜も、折られた木の上から地面にたたきつけられた。
「ちくしょ・・・、シモン!!!」
竜夜がシモンの名を呼ぶ。しかし、応答はない。
「ミーツケタ」
ウサギ人形が竜夜の背後をとった。手には、その巨躯には似合わない小さなナイフが握られている。
竜夜が振り向く。
ナイフが振り下ろされる。
しかし、次の瞬間竜夜の目の前は白一色になった。
「・・・え?」