Princess A Lily
サブタイは「百合姫」です。お久しぶりです。
まあ・・・色々ありまして・・・。
今回は引っ張りに引っ張った新キャラがようやく登場!ではどうぞ!
ハートの女王
タルトつくった
ある夏の日
ハートのジャック
タルト盗んだ
そっくり持ってった
ハートの王様
タルト返せと
ジャックをぶった
ハートのジャック
タルト返した
もう 盗りませんって
パンッと、硝煙のにおいと共に、ピストルの音が聞こえてくる。
第一種目の、百メートルリレーが始まった。
第一種目だけあって、応援席の声援も熱が入っている。やれガンバレだの、負けたらジュースおごらせるだの、良くも悪くも力瘤の入った応援が聞こえる。
本来ならその輪の中に入って、一緒にクラスメートを応援していたはずの仙宮寺 リューヤは、何の因果か放送席で放送委員会の仕事を手伝っていた。
放送委員にタオルを手渡しながら、リューヤは走っている選手を見る。
見知った顔があった。
「シモン!!お前出てたのか!頑張れよ!!」
シモンはちらりとリューヤの方を見ると、すぐさま目線を前方へ戻す。アンカーのゼッケンをつけたシモンは、手にした緑色のバトンをぶんぶんと力いっぱい振っている。
「気合はいってんなー」
感心しながらゴールの方を見やる。
シモンはぶっちぎりで一位になる、
はずだった。
ドオオオオン!!!!!!!
ゴールの手前、シモンの右足の一歩前。
そこに、突然大穴が開いたのだ。
「わあああああっ!?」
放送委員が叫ぶ。観客は呆気にとられ、幼い子供などは泣き出している。
「これはどうした事でしょう!?突然道に大穴が開きました!シモン選手、どうするのか!?」
アナウンサー気取りの放送委員が慣れた口調で言う。シモンは我にかえったように、再び走り出す。
しかし、突然の事態に驚かず、むしろ好機と捉えた二年生の陸上部の男子生徒が一気に距離を縮め、シモンはタッチの差で二位になってしまった。
「・・・・・・・」
クラスメート達はシモンに駆け寄り、大丈夫か、怪我無いか、と労わりの声を出していたが、リューヤは違った。
大穴が開いた瞬間、一瞬だけ感じたとても強い邪気。
シモンも同じことを考えているのか、女子生徒が差し出したタオルには目もくれず、リューヤの方に向かって来ている。
「リューヤ!!」
「ああ・・・」
そして、仙宮寺家の応援団が来ているほうを見る。
白竜は、背が小さいのでここから見ることは出来ない。母・ゆかりは、どこかへ席を立っているようだ。
「畜生、肝心なときにいねーよ!」
リューヤが唇をかむ。
寧子と響も駆け寄ってきた。
「リューヤ様、今のは・・・」
「ああ、一瞬だが、大きな邪気を感じた」
「陰陽寮でしょうか」
パンッと、もう一度ピストルの音がする。
第二レースが始まった。
先程の事態は忘れられたように、再び大歓声が沸き起こる。
大穴には、申し訳程度に砂がかけられているだけである。
「響と寧子は、これから出る種目があるだろ。俺は最後の方だから、シモンと校内を調べてみるよ」
リューヤがシモンを指差し、自分も指差す。
寧子と響は不満そうだったが、一度に四人も居なくなるとさすがに不自然に思われるだろうと、最終的にはリューヤに従った。
「そうだ、翠子は居るか?」
「翠子様がどうかされたので?」
「これからちょっと抜けるってことを言いたかったんだけど・・・・、まあ、いいか」
シモンとリューヤは静まり返った校舎内に入った。
締められた教室内には男子の制服が脱ぎ散らかしてある。
「あの邪気の質、妙じゃなかったか?」
シモンが眉根に皺を寄せながら言った。
「ああ・・・、なんか・・・こう、いろんな層に分かれているみたいだった」
リューヤが言いながら、階段を一段飛ばしで駆け上がる。
と、
「みーっけ」
という声が聞こえた。
と、リューヤたちの目の前、階段の一番上の段に、人形が置いてある。
ウサギの人形だ。
が、およそ可愛くは見えない。
大きく開かれた口は口裂け女を思い出し、虚ろな眼は切り裂き男を思い出す。
チッと、知らず知らずのうちに舌打ちが出る。
「貴方の好きなお花は、なあに?」
涼やかな声が聞こえてくる。頭の中に直接響いてくるような、そんな声。
「・・・・誰だ」
リューヤが低い声で言う。
「答えて、好きなお花は?」
「ねえな」
シモンがぶっきらぼうに答える。
「そう・・・・残念」
頭の声がそう言うと、目の前のウサギ人形がゆっくり立ち上がった。
『 コ、ロス。コロスコロス。オレハテアシ。アノヒトノテアシ。オマエタチ、コロシテ、ホメテモラウ。サア、ジュンビハ、イイカ。タノシイゲームノハジマリダ』
ウサギ人形が言う。ぞっとする。
「私の可愛い人形と、遊んであげてね」
すると目の前に、少女が降りてきた。ふわり、と、この場にはそぐわないかもしれないが、まるで舞姫のように。
「私は百合姫。さあ、タルトあげる」