トビラの店
憎むべし、かのライオン
それをば血みどろの口にくわえれば、
血痕いともなまなまし。
「お前は誰だ」
警戒心を露にしながら、竜夜は玉座に座る青年に向かって言った。
「随分なご挨拶だな。礼儀ってモノを知らないのか」
青年は表情一つ変えずに返事を返す。そしてまた一口、紅茶をすする。
「シモンをどこにやった!」
厳しい声で追及する。
すると、竜夜の傍らにいた、そっくりな二人の少女達がパタパタと青年の横に駆けて行き、
「連れて来た、連れて来た」
「ほめて、ほめて」
「白銀は彼の所へ」
「紅蓮はこちら側に」
と口々にいう。
「はいはい。ご苦労様」
青年は面倒くさそうに言うと、腰を上げ、紅茶のカップを傍の猫足テーブルの上に置いた。
「君がここに来たのは、それなりの理由があったからだ。ここは「扉」。生きとし生けるもの全ての、これからの行く末を決めるところだ」
青年は竜夜に近付くと、何を考えているかわからない眼でじっと竜夜を見据える。
「聞きたい事があるんだろう」
青年は静かな声で言う。
竜夜はその声が、青年の口から発せられたと気付くのに、一瞬気付かなかった。
頭の中に響いてくるような、不思議な声。
「・・・・・・あれは・・・・・」
竜夜は口ごもりながらも、続ける。
「あの・・・アナスタシアという尼僧が持っていたカタリナという刀・・・、力の波動こそは俺らの刀と同じだったが、その後出てきたあの女・・・・、あれは何だ」
竜夜は数日前に対峙した金髪のシスターを思い出していた。
「妖魔」と呼ばれる気味の悪いモノを共に祓ったが、その後、そのシスターが持つ刀から出てきた女性の事が、竜夜は引っかかっていた。誰に聞いても判る事が無いような存在。
その女性は、自分のことを「アナスタシアの魂のかけらが生み出したもの」と言っていた。
「あれは何だ」
竜夜はもう一度繰り返した。
青年は溜め息をつき、
「少しは予想できていると思ったんだがな」
と呟いた。
しかし、竜夜には聞こえない。
「君達が持っているその刀、それらは遥か昔から力のある者に現れる武器だ。現れ方も様々。君達のように普通の武器として現れる事もあるし、潜在能力として現れる事もある、体と一体化して現れる事もある」
青年は一息に喋ると、もう一度溜め息をつき、背を向けて再び玉座に座った。
「あのカタリナという女は、その武器の魂が具現化したもの。しかし、「具現化」するには「解放」の数倍の力が必要となる」
「ってことは・・・」
竜夜は祖父から預かった風呂敷包みを落とし、玉座に座る青年に近寄った。
「俺の月夜鴉も具現化できるってことか!」
「力さえあればな」
青年は冷たく言い放す。
「そうか・・・・・、あと・・・」
竜夜がさらに質問を続けようとした所、
「ここまでだ」
と青年が声で制した。
「!?どういうことだ」
竜夜が困惑していると、青年は立ち上がり、竜夜の落とした風呂敷包みを拾い上げた。
「おい!」
青年は気にせず、風呂敷包みをあけ、中から巻物を取り出した。
すると、二人の少女が
「これまで!」 「これまで!」
「ご主人様は未来を与える事はできるけど!」
「未来を選択する事はできない!」
「あるがものを!」
「あるがままに!」
「伝えるだけ!」
「教えるだけ!」
「は・・・・?」
竜夜は訳がわからず眉間に皺を寄せる。
「ま、この掛け軸だけなら教えられるのはここまでだな」
青年はべろんと掛け軸を広げると、壁にかけた。
そしてつん、と薄墨で描かれた鳥を触った。すると、その鳥はパタパタと羽を広げ、枠の外へ飛び立って消えてしまった。
「・・・・・!?」
あんぐりと竜夜が口を広げていると、青年が向かい側にある鏡を指差した。
竜夜がそちらを見やると、先程の薄墨の鳥が鏡の中に映りこんでいた。
「ほら、用が済んだなら帰ってくれ」
青年は邪険に竜夜を追っ払う。
「ちっ!何なんだよ!てか、シモンは!?」
「外に出れば会える。藍、連れて行ってあげな」
青年は髪の毛をお団子にしたほうの少女を竜夜に随伴させた。
「あ、おい」
去り際に青年が竜夜を呼び止める。
「その羽織、置いていく気はねえか?」
青年が竜夜の羽織を指差す。
「ねえよ」
ぶっきらぼうに竜夜が答えると、
「そうか・・・・・」
と、青年は呟いた。
竜夜が消えると、残ったもう一人の少女が、青年を見上げて
「ご主人様・・・・・」
と呟いた。
「・・・・それも、あいつの選択だ」
頬杖をつき、青年は呟く。
「気付かないのか・・・・、お前の傍の小さな人間の、大きな変化に・・・・・」
如何でしたか。伏線一杯。
次回は体育祭です。新キャラも登場!
ちなみに出てきた二人の女の子のもう一人の名は「藤」です。適当に決めた。
誤字、脱字、矛盾点、ご感想、お待ちしております。