表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰妖師  作者: スズメバチ
33/51

リューヤの休日

春ですね。

今回は趣向を変えてのほほんとした話です。

では、どうぞ!

「ふむうううううううううう・・・・」

 日曜、朝8時半。

 仙宮寺(せんぐうじ) リューヤは、心地よい眠りから眼を覚ました。


「あああ、今日は日曜。安息日だ。今日は何を言われようが、俺は休む!」

知らず知らずにこぼれて来る笑みをたたえながら、リューヤは床の中で大きく伸びをした。

「宿題は無いし、予定も無いし、今日は一日ぐーたら出来るぞお!」

布団の中でごろごろと寝転がっていたリューヤは、嬉しくてたまらないと言う風に更に回転速度を増した。

 

 しかし、次の瞬間にリューヤは絶望した。


「リューヤ様あああああ!!!!!海坊主様です!!!!!!!」

 (ひびき)が全速力で駆けて来たのだ。


「・・・・・・は?」



「仙宮寺 リューヤ様ですね」

「そーだけど」


 仙宮寺家、客間。

 私服に着替えたリューヤ、リューヤの向かい側に袴を履いた小さな子供、そして・・・・。


「・・・・・・・・」

リューヤは訝しげな表情で目の前にあるそれを凝視した。


「何なんだよコレええええええええええ!!!!!!!!!!!」


 リューヤが指差した先にあるもの、それは、ブヨブヨと水の塊のような物がどんぐり眼をカッと見開き、ブヨブヨと揺れる小さな手で湯飲みを持っている、異様な光景だった。


「コレとは失礼ですね、我が主に」

 子供が厳しい表情で言う。頭にヒトデのようなものをつけ、何の感情も読み取れない眼でリューヤを見つめる。

「いや、コレをコレ以外にどう形容しろっての!!何!?ぶよぶよの水の塊とでも言えばいいの!?」

リューヤが発狂しそうな声でそう叫んだ。指を差したまま腕をぶんぶんと振る。


「こちらは海神様であらせられまするぞ」

子供が手を水の塊の方に向ける。

「海神様は、人間界を観光される事を望んでいらっしゃいます。どうか、古くからヒトならざる者と人間を繋げてきた仙宮寺家の次期当主、お力をお貸しください」

 子供が手を畳につけ、頼む。海神は横で静かに茶をすすっている。

  挿絵(By みてみん)


「~~~~~~~~~~~」

「案内して差し上げなさい、リューヤ」

 リューヤの祖父、白竜(はくりゅう)が襖を開けて出てきた。


「じい様」

「これも次期当主となる試練じゃよ」

にいい、と白竜が笑う。



「なーんか上手く丸め込まれた気がする・・・・・」

リューヤは海神と子供をつれて町に出た。

「で、海神様はどこに行きたいんだ?」

今、海神たちは人の眼に見られないように術を使っている。つまり、リューヤは周りの一般人から見れば、何も無い空中に向かって話しかける危ない人、と言うわけだ。


「そうですねえ!!和菓子屋さんに行きましょう!!」

明るい、屈託の無い声が響く。

「・・・オイ」

リューヤは眉根に皺を寄せた。

「なんでお前らが居るんだ!!」

 リューヤは、明るく笑う寧子(ねこ)、響、仏頂面のシモンを順繰りに指差した。

「だって、リューヤ様をお一人には出来ません」

「リューヤ様のお傍にいるのが我らの務めです」

と、寧子と響が慇懃に答える中、

「リューヤ一人じゃ危ないからな、いろんな意味で」

と、シモンが答えた。


「俺は箱入り娘!?てかシモン、お前この間のアナスタシア戦では居なかったくせに、こんな時だけくんじゃねえ!!」

「仕方ねえだろ!!俺だって忙しいの!!」

二人が言い争う中、海神がのそりと口を動かした。


「ぱ・・・・・・」


 全員がいっせいに眼を向ける。

凪丸(なぎまる)、ぱふぇが食べたい」

全員がきょとんとする。


「パフェえええ!?何そんなフェミニンな物食ってんの!?」

「海神様は西洋好みなのです」

「海神なのに!?毎日海草とか食ってそうなのに!?」

子供――――凪丸は、少しむっとした顔で、

「海神様をなめないでください。世の中の変化に伴い、海神様もお勉強なさっているのです」

と言った。


「・・・判ったよ。でも海神様がパフェ食うってことは、一般人から見たらスプーンが勝手にパフェをどっかに運ぶってことで・・・・」

リューヤはその光景を想像し、周りのパニックを考え、ぞっとした。


「・・・仕方ねえな」



 リューヤは町の大通りにある、洒落たカフェの裏口に向かった。

 ガチャ、と薄汚れたドアを開け、厨房を覗き込む。


「おーい、三平蛇(さんぺいた)!!!」

すると、奥から蛇のようなきつい顔をした、コック姿の若い男が出てきた。

「あれ、リューヤ君!その節はお世話になりました!」

「あのさ、この店のパフェって、お持ち帰りできるか?」

唐突に出された頼みに、事情が良く飲み込み無いような顔で、三平蛇は首をかしげた。

「お持ち帰り?んー、まあ店長に頼んでみるけど。あれ、そちらのブヨブヨした方は?」

「海神様だっ!!」

凪丸が答える。

「へえ。じゃ、ちょっと待っといて」


 三平蛇が戻ってきたのは二、三分後だった。

「はい。店長が、リューヤ君の頼みだったら断れないって。器を返すのは何時でもいいからって」


「サンキュ」



 リューヤは家路に着きながら、海神に話しかけた。


「なあ、食べるのは俺のお気に入りの場所でどうだ?」





 羽衣(はごろも)町七丁目・狂櫻(くるざくら)神社。

 年中花が咲く年もあれば、四月になっても咲かない年もある桜がご神木のこの神社を、リューヤと海神、凪丸は訪れた。


「おい、狂い桜。まだ七分咲きくらいか。頼む、大事なお客なんだ。満開にしてくれねえかな」


 リューヤが桜の大木に向かって話しかける。

 すると、まだ物足りなかった桜の枝枝が、みるみる内に花開き、あっという間に満開となった。

「ありがとな」


 リューヤは桜の枝に飛び乗り、凪丸と海神を引っ張りあげた。

「どうだよ。きれーだろ」


 桜の枝に乗ってみる花は、見上げると薄桃色の花々の間に青い空が見え、美しい光景を生み出していた。

 海神はパフェをほお張りながら、ぼそりと喋った。


「仙宮寺 リューヤ」

「ん?」


 海神はパフェの最後の一口を食べ終わると、げっふと満足の音を出し、


「気張りなさい」


 と言って、


「凪丸、帰るぞ」

 というと、ゴウっと音を上げてどこかに消えて行った。


「・・・・・え?」




 翌日、月曜日。

「あー、結局昨日は疲れただけだった。最悪だ・・・」

 起床したリューヤは寝ぼけ眼をこすりながら起き上がった。


「リューヤ様あああ!!大変です!!」


 玄関には、大量のワカメ、昆布、ホタテ、蟹など、海の幸がコレでもかと言う位に積まれていた。

「海神様のご加護でしょうか」

「パフェ一つでえらく大層だな」

 

 リューヤはぴくぴくと動いている蟹を持ち上げながら、

 あんな休日も好いかな、と少し思った。


「まあ、睡眠時間は欲しいけど」



如何でしたか。海神様、口数少なっ!!

挿絵は櫻シリーズ第一弾(となって欲しい)です。

最近翠子の出番が少ないので、せめて挿絵だけでもと思いまして。

挿絵(By みてみん)

誤字、脱字、矛盾点、ご感想、お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ