That Girl Came!
ねえ、遊びましょうよ。
楽しいお遊戯の、始まりだよ。
「リューヤ様!花子さんです!!」
羽衣学園2年三組の教室で、梁間 寧子が吼える。
「いや、俺はリューヤだけど」
吼えられた相手、仙宮寺 リューヤは多少引きながら答える。
「違ーいます!花子さんが出るんですよ!この学校に!!!」
寧子はリューヤの机をバンバン叩き、危うくリューヤの筆箱が落ちそうになる。
リューヤはそれをキャッチしながら聞く。
「花子さんて、『トイレの花子さん』?そんな使い古された怪談なんて・・・」
「そうなんですけど違うんです!この学校の七百七十七,七不思議の一つ、『トイレの花子さん』は、本物なんです!災いを呼び起こし、時に人を喰らう、恐ろしい妖怪なんです!!」
寧子はえらい剣幕でまくし立て、リューヤはおろか周りの生徒まで圧倒させた。
「,七ってなんだよ。小数点以下切捨て!!」
リューヤは冷静に突っ込むが、想わぬ敵に邪魔された。
「あー、知ってるそれ。『トイレの花子さん』ね。三階女子トイレの右から三番目に住んでる花子さん。おままごとは人間で、綾取りは人の髪の毛、かくれんぼは神隠し・・・・。おっそろしい奴だぜ」 横からにゅっと、曽根崎 一平が話しに入る。
「知っているのですか」
先程から隣に居た響が聞き返す。
「おう、有名だぜ!時々、まことしやかに囁かれるんだよ、その噂。女子トイレが血まみれになっていた、でも次の瞬間には元に戻っていた、とかな」
一平は少し自慢げに話す。
「で、リューヤ様!」
「で、何でこーなるんだ」
午後11時50分。普通であれば人っ子一人居ないはずの真夜中の羽衣学園・第一校舎三階西側女子トイレの前に、二人の人影があった。
「こっちのセリフだ」
銀髪の少年、シモンが答える。
「だいたい、花子さんなんてよくある噂だろ?一体誰が言い出しやがったんだ」
竜夜が憮然として言う。二人は寧子に頼み込まれ、花子さん騒ぎの調査に来たのだった。正確に言えば、ごり押しされた竜夜がシモンを引きずり込んだに近いが。
「花子さんより、街中で跋扈している妖怪どもの方が怖いと想うがな」
竜夜がもっともな事をいう。
「『噂』という漢字はもともと人がたくさん集まって喋る事を表す字だからな。誰が、というわけでもなく出たんだろ」
シモンが言う。
「お前、ホントは日本人なんじゃねえの?」
そんな他愛のない会話が続くうちに、12時となった。
時計の針が12時を指した瞬間、急に辺りの空気が変わった。
学園のエンジンが切れたような、気味の悪い静寂が周りを包む。
「・・・・・・・・・・」
嫌な沈黙が続く。すると、
「きゃあアアああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
まだ若い女の声が響く。
声の出所は二人の後ろ、女子トイレだった。
「何だ!?」
「おい、竜夜!忘れてたけど、女子トイレに入るのって中々勇気がいるんじゃねえか!?」
シモンが叫ぶ。
「いや・・・そうだけど・・・・悲鳴だぞ、悲鳴。何かあったらまずいだろ」
「いやそうだけど。曲がりなりにも女子トイレだぞ。男子トイレじゃないんだぞ。そして忘れるな竜夜。俺達は、男だ」
「知ってるさ。だがな、今ここには俺とお前の二人だけだぞ?確かに気は引けるが・・・・。あ、そうだ。とりあえず声かけてみよう。まずは安否の確認だ」
二人がやいやい言い合っている。声の主がいい加減痺れを切らした。
「さっさと助けんかああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
と、モップが二人目掛けて飛んできた。
「!?」
二人は危うくそれを避ける。
「ったく、いつまでもうだうだうだうだ・・・・・。これが本物だったらどうするんだ馬鹿!!女子トイレくらいささっと入れんで男かそれでも!!!」
うら若き少女の声で口汚く罵る音が響く。二人は臨戦態勢を取った。
「お前らなんか嫌いだ!!!!!!!」
と、左手の方からガシャンとガラスが割れる音がした。
トイレの窓を割り、廊下を竜夜たちから反対方向に奔っていくその影は・・・・・・
紛れもなく、少女のものだった。
「なんだよ、本物かよ!!!」
竜夜は走り出した。全速力で学校の廊下を走るのは、遅刻常習犯である竜夜にとっては慣れたもので、しかし朝の焦りを思い出させた。
「ちっ!!しかし曽根崎の話じゃ時々しかその噂流れないんだろ!?地縛霊じゃあないのか?」
シモンも一歩遅れて奔る。
白シャツに赤の吊りスカート。その姿は昭和の小学生を思い出させた。後姿で見る限りは髪の毛は紫色。軽快な足取りで長い廊下を走るその少女は、なるほど幽霊の名の通り、非常階段のあの緑のランプに照らされても影がない。
「はん!いも臭いガキ共が!捕まえられるもんなら捕まえてみ!」
少女が階段を駆け下りながら言う。
「!まかれるぞ!急げ、シモン!」
「おう!」
少女は一気に階段を駆け下り、第一校舎から第二校舎へ続く渡り廊下に出た。
「逃げんな!」
竜夜が叫ぶ。
すると少女は肩越しに二人を見て、にっと口の端をあげた。
「!!竜夜、上―――――――」
シモンが警告するも空しく・・・・、竜夜は上空から落ちてくる植木鉢や金魚蜂をもろに頭で受けた。
竜夜は大の字でうつ伏せになり、植木鉢たちの下敷きとなった。
「・・・おい、大丈夫か?生きてるか?」
シモンが恐る恐る聞く。
「・・・・ふ、ふふふふふふ・・・・」
竜夜が不気味に笑う。シモンは先程の衝撃で竜夜の頭のネジが数本飛んでしまったのではないかと思った。
「ぜったい捕らえる!狩る!捕獲じゃあああああああ!!!」
竜夜はそう叫びながら少女の後を追う。
「護れ、全てを!月夜鴉!!!」
解の口上を言い、手にしていた月夜鴉を解放する。
「花子おおおおおおお!!覚悟しやがれ!!ほれ、シモンも!!!」
竜夜に促され、仕方なくシモンもアレスを解放する。
「翔れ、空の果てまで・アレス」
どこからかレイピア、アレスを取り出し、解の口上を告げた。
「げ、あいつら正気か?こんな所で武器の解放など・・・」
少女は後ろから感じる大きな力を恐れた。
「・・・されたら・・・、私が消えてしまうではないかっ」
体育館へと向かう。が、後ろから
「焔錬衝」
という声と共に、火炎放射が繰り出された。シモンの技である。
「うわああああああああっ!!!!!!」
慌てて脇へと逸れる。が、そこに待ってたのは――――――――、
「待ってたぜ、じゃじゃ馬娘」
竜夜である。
縄で縛られ、木に括りつけられている少女・花子は、不機嫌そうにふくれっ面をしていた。
「よくもあんな真似してくれたな。このおてんば娘!!」
竜夜が骨鳴らしをしながら言う。
「やかましいなあ!何が娘だ、このガキ!言っとくが、私はお前らの数倍は生きてるんだこの馬鹿!ちょっとは目上の者を敬え!」
「どこが目上だぁ!!!!!!」
竜夜は激昂する。
「ふん。しかしな、私はここの理事長に頼まれてここに来てたんだ。あまり私を邪険にしないほうがいいぞ」
「ああ?」
竜夜とシモンは二人そろって疑問の声を出す。
「この学園は昔、妖怪学園とか言われるほど怪奇現象が多いらしいからな。最近は落ち着いてたけど、また最近になって活発になってきた。昔は、ここでイタズラ半分に悪さする奴らとかおったからな。私が追い払う役目をしてたって訳だ。判ったか。判ったらさっさと縄を解け、この馬鹿共!」
相変わらず高飛車な態度でものをいう少女に、竜夜は意地悪を言う。
「それが人に物を頼む態度かよ、このガキンチョ!お願いしますだろ!ほれ、言ってみろ!お・ね・が・い・し・ま・す!ガンバレー、お前ならできるはずだ!」
「馬鹿にするな小僧!だれがお前なんぞに頼むか!!思い通りになると思ったら大間違いだぞ馬鹿!」
「あー残念!未来永劫そうやって焼き豚みたいに縛られてろ!!」
「なんじゃと!!!」
そんな二人を見ながら、シモンは思った。
「早い話、二人ともガキなんだよな」
数日後、同じく2年三組の教室。
「リューヤ様!花子さんの噂、なくなりましたね!さすがです!!・・・あとついでにご苦労様でした、シモン殿」
寧子がリューヤを褒め称える。
「ん?ああ・・・・・」
リューヤは上の空で答える。あの後、見かねたシモンが花子の縄を解き、逃がした。シモンの方がよっぽど大人である。
空中を浮遊しながら花子はこの間の無礼な子供を思い出していた。
「まったく、あんなん信じられん。ただのガキじゃ」
そしてしばし考え込む。
「なんで月夜鴉があいつを選んだかは判らんかったな。あーあ、今回の仕事の本来の目的は達成できんかった!」
空中で軽く伸びをする。
「まあ、なんとなくは判る気はするな、あのガキ。ここ数日観察して判ったけど。ただカチッとした答えは得られんかったなあ」
あくびをし、眼の端からでた涙を拭う。
「あれが本当に器のできてる奴か、またいろんな奴らが来るんだろうなあ。気張れよー」
少女の赤いスカートが、軽快に宙を舞う。
如何でしたか。花子さんです。あの有名な。
ようやく日常生活に戻ってまいりました。
しかし次回はシスターが登場予定。色々ややこしそうです。
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