The Crow Circles In The Moonlight Night Part 2
サブタイは「鴉は月夜に舞う 2」です。
今回は長い。
長いくせに何か半分くらい書いたら急にパソコンダウンしてデータ全部消えた。
泣きそうになりました。
では、どうぞ!
翼をもぎ取られた鳥は
地面にうずくまり
灼熱の太陽に照らされながら
泪と雨が降るのを待つ
卓上の湯飲みに竜夜が手を伸ばす。
この家は茶も出ねえのかよ、と熊ッ翁に文句を言った末出てきたものだ。
「飛燕って奴は月夜姫を殺しに行ったのかよ」
湯飲みから口を離し、竜夜が言う。
「左様。飛燕殿は月夜姫を殺すため差し向けられた暗殺者じゃった」
月夜鴉を研ぎ、額に浮き出た汗を拭いつつ、熊ッ翁が答えた。
「で、続きはどうなんだよ」
身を乗り出して聞くシモンの姿は、普段の落ち着き払った様子とは違い、与えられた玩具に嬉々とする子供のようであった。
「そうじゃのう。この先はお主等には刺激が強すぎるかも知れんのう」
と、意地の悪い顔で答える熊ッ翁は
「うるせえ!今度こそ髪の毛引っこ抜くぞ!」
という容赦無い竜夜の脅しが効いたのか、
「フン・・・、仕方ないのう」
と、再び口を開いた。
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月夜姫の屋敷に飛燕が忍び込んだ三日後の事であった。
「姫様、一昨日暇乞いをした佐吉の代わりに姫様付きの男衆となりました者です」
侍女からそう紹介を受けた男がいた。
無論、飛燕である。
「この度姫様の男衆と相成りました、竹彦と申します。どうぞ宜しくお頼申します」
慇懃にそう頭を畳につけると、目は伏せたまま軽く顔を上げた。
「・・・・・・・」
何を思ったか、月夜姫は中々返事を返さない。はい、どうぞ宜しく、と言う言葉こそ期待してはいないものの、うん、良くお励み、という言葉くらいは返してくれても良さそうなものだが。
「・・・判りました。竹彦殿、ですね」
ようやっとそう言葉を発したかと思うと、
「姫様、この者は使用人。殿、などつける必要はござりませぬ」
と、侍女に一喝された。月夜は悲しそうに頷いた。
この女、頭が足らぬのではないか。
飛燕の、月夜に対する印象がそれだった。
初めは美しいと思った。
しかし、殺しに来た自分をにがしたり、使用人に敬称をつけたりと、この女には理解できないところが多すぎる。
これは存外簡単やも知れぬぞ。
飛燕は内心ほくそ笑んだ。外からの攻撃が効かぬのなら、内から憑き物ごと殺してしまえば良い。
姫付きの男衆ともなれば、食事に毒を盛る事も容易い。
この仕事は早く終えれることが出来そうだ、と飛燕は高を括っていた。
甘かった。
「貴方はこの間私のところに来られた忍びの方ですね」
侍女が去り、二人っきりのときに、ふいに姫がそう口を利いた。
「!?」
飛燕はぎょっとした。
今回、飛燕は顔が割れているため、入念に変装したつもりだった。
この時代の変装はたかが知れているが、先日姫に会ったときは顔に藍布を巻いていた為そこまで顔はばれていないとはいえ念には念を入れて丹念に変装したのだ。
なのに、なぜなれた。
俺の腕が落ちたのか?
いや、そんな筈は無い。
俺の腕が落ちるなんてことは無い、絶対に。
この期に及んでも飛燕は自分の腕に絶対の自信を持っていた。
「いえ、違うのですよ。私が貴方の事に気付いたのは貴方のせいではありません」
慰めるように月夜は両手を出した。
なんだ、この女。
飛燕は思わず後ずさった。
「やはり、気味が悪うござりますよね。私はその、なんというか、幼い時から時折人の気持が読めるのです。ある時は耳に直接その人の声が聞こえ、ある時はその人の気持が眼に見え、読み方は様々ですが、とにかく、人の心が読めるのです」
飛燕は呆気に取られた。先程まで頭の足らぬただの箱入り娘と思っていた女が、訳の判らぬ事を急にまくし立ててきたのだ。
人の心が読める?そんな馬鹿な。確かに忍びの術にも読心術の類の様なものはある。しかし、そのままズバリと人の心を呼んでしまうと言う術なぞ無い。
「私が命の危機に瀕しているときなどは決まって読めます。・・・あなたは・・・、この間の方、でしょう?素顔をお見せください」
そっと、飛燕の手をとる。
その眼に気圧されて、飛燕は変装を解いた。
「・・・あなたの、名は?」
「・・・飛燕」
「ほう、お前が新しくついた男衆か」
どたどたと大きな音を立てながら、月夜の父、元原照葉が現れた。
「は」
さっと、月夜の脇にひれ伏す。
「うむ・・・・、面を上げよ」
じっと飛燕の顔を見る。
「ん、良く励めよ」
その日から、月夜は飛燕に対してのみ心を開くようになった。
「飛燕殿、障子を開けてください」
体の弱い月夜は、中々外に出る事が出来ず、時折外を見ることが精一杯だった。
「あ、ツバメ・・・」
飛んできた一筋の黒い線を指差し、月夜が小さく声を上げた。
「飛燕殿みたい。自由に、速く飛べる。羨ましいなあ・・・」
「お戯れを」
毒を盛る機会は何回もあった。ただ、まだやってはいない。
「判っているのですか。私は貴方を殺そうとしているものですよ」
そう言った事もあった。
しかし、月夜は
「飛燕殿に殺されるなら、いいです」
と、哀しそうに笑うだけだった。
なんなんだ、この女は。
「信じられないわ」
主への報告をしに忍びの里へ帰ったときだった。屋敷に仕えてから数ヶ月たっていた。
ある女に呼び止められた。
「何だ、海猫か」
この女、くの一の海猫という者である。
「対象者に思い入れしてどーすんのよ。あんた、屋敷仕えしながら他の暗殺の仕事もやってるんだって?そんなの、屋敷抱えの忍びのようなもんじゃない。何考えてんのよ」
早口にそうまくし立てると、傍の木をダン、と叩いた。
「うるっせえなあ。そんなんだから嫁の貰い手がねえんだよ」
と憎まれ口を叩く。
「おまけに本名は明かすし、あんた、あの女の事どう思ってんの!?」
海猫が力いっぱい地面を踏む。
「どうも思っちゃいねえよ。ただ、あの女に仕えていると銭が思ったより入ってくるんだ。何でも、あの女が何かに憑かれてるってのは、近所でも評判らしくてな。気味悪がって誰も志願してこねえんだと」
要らぬ講釈をたれながら飛燕はずんずんと歩いていく。
「だった早く始末しなさいよ!あんたらしくもない!」
飛燕の肩を海猫がぐいと掴む。
その手を容赦なく飛燕は振り払う。
「やかましい、お前には関係なかろうが」
そう言うと、くるりと前に向き直った。
「~~~~~~~っ!!!あんた、おかしいわよ!!!!!」
やはり、俺はおかしいのかな。
屋敷に向かう道中、そんな事を考えていた。
「竹彦、どこに行っておった」
屋敷に着くと、運悪く女中頭に見つかった。竹彦、と後ろから呼ばれて、少し気付くのが遅れた。
なにしろ、死んだ男の名だ。
「いえ、その」
「何か。言えないのか。はっきりせよ」
まずったな。殺そうかな。
そう考えていると、
「違うのです。私が、ひ・・・竹彦に使いを頼んだのです。これでよろしいか」
と、月夜が現れた。
「姫様、使いとは」
「そなたに知る義理はござりませぬ」
月夜はさっさと飛燕を連れ自室に帰って行った。後には呆けた女中頭だけが残った。
「飛燕殿」
自室に帰り、月夜の布団を敷いている飛燕に向かって、月夜が呼びかけた。
「あまり、人を簡単に殺めないで下さりませ」
寂しそうに見上げる。
「姫」
「判っております。貴方にとってはそれが仕事なのだと。しかし、あまりにも簡単ではありませぬか、人を殺める覚悟が」
真っ直ぐな瞳で見つめてくる。
「私には、それが哀しくてたまらない」
とたんに飛燕が殺気立った。
「なぜ、お前が」
ビクッと肩を震わせながらも、月夜は臆さず言った。
「だって、貴方が人を殺めて帰ってきたときは・・・とてもとても、哀しそうな心持でおりますではないですか」
その言葉に、今度は飛燕が肩を震わせた。
「やめろ、小娘」
「やめません」
そう言うと、飛燕にがばりと抱きついた。
「だって貴方には、私にはない、翼も、自由も、未来も、なんでもあるではないですか」
悲痛な声でそう叫ぶ。
飛燕はその声に押されたように、月夜を抱きしめた。
ああ、わかった。
始めてあったときに見せた、あの月夜の哀しげな笑顔に
俺は惹かれていたんだ。
悪い、海猫。
この女の事、何とも思ってないなんて
嘘だった。
如何でしたか。今回はいろんな人の意見をリサーチした結果こうなりました。
「抱きしめる」なんて単語とか打ってるこっちが照れてきますがね。
青二才なんです。
海猫はこんな髪の色にする気はなかったのに、あんな色になっちゃいました。
絶対目立つのに。
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