Requiem Of Reunion Part 1
サブタイの意味は「再会の鎮魂歌 1」です。
サブタイからも判るように、今回から切り裂き男との再戦が予定されております。
では、どうぞ!
羽衣町六丁目、椿沢。
神部 翠子の家があるこの地域に向かって、寧子は走っていた。
「あ~っ、もう!遠い!遠い!何もかもが遠い!!若旦那との距離もおおおおお!!!」
制服姿で疾走する寧子の後ろに、一つの影。
寧子は、それに気付かない。
肩まで短くなった髪を鏡で見ながら、翠子は溜め息をついた。
お母さんにも心配された。
雛川先生にも。
・・・・リューヤ君にも・・・・。
三日前。
おかしいな、と思ったのは、足音だった。
学校からの帰り道、いつに無く曇天で、春の陽気とは言い難かった。
どんどん暗くなって、夕焼けなんてどこにも無い。
心細くなって、早足で歩き始めた。
そうしたら、私の足音とちょっとずれて、後ろから足音が聞こえて、また私に同調した。
おかしいな、って思って、また早く歩いた。
そしたらまた、ちょっとずれて、同調した。
怖くて怖くて、走った。
そしたら足音は、今度は同調せず、一気に大きくなって、私に近づいてきた。
髪の毛を掴まれて、足だけが先に行く。
と、思ったら、急に引っ張る力が弱まって、頭が軽くなった。
よろけて、地面に手をついた。
短くなった髪の毛が、耳にかかる。
誰かが、耳に顔を近づけて、言った。
「またね・・・・・」
怖い。怖い、怖い。
私、なんかしたかな。誰かに、恨まれる事したのかな。怖いよ。
「リューヤ君・・・・・・・・・」
月は、雲に隠れる。
「今日・・・・・・・・・?」
吉原雀の家のリューヤは、呆然と呟いた。
「そう。神部 翠子。あの子、髪、切ってたでしょ。あれさあ、切られたのよ、切り裂き男に」
スズメが耳をかきながら言う。
「なんで・・・なんで一番にその事を教えてくれなかったんだ!切り裂き男の情報云々より、大切だろ!翠子の元には寧子もいるし、危ない・・・・」
シモン、響を見る。
「っ、そうですぞ!スズメ殿!優先順位というものがあります!何故先にその事を教えてくれなかった!!!!!!!」
響が声を荒げる。
「―――――――――だって、あんた達が聞いたのは、切り裂き男の情報でしょ?」
スズメは事も無げに真っ直ぐリューヤ達を見た。
「え・・・・・」
「この情報はあくまでも、切り裂き男に狙われた神部 翠子の情報よ」
しらっと、まるで当たり前のように、スズメは言う。
「私は求められた情報しか売らない・・・・。当たり前でしょう?」
リューヤも響も、何も答えられなかった。
「リューヤ、無駄だぜ。それがプロってもんだ・・・。それはスズメ自身の契約でもあり、闇の世界の常識でもある・・・・・」
シモンが椅子から立ち上がり、リューヤの肩に手をかける。
「それより今やるべき事は、その神部って女と、馬鹿ネコを助けに行くことだろ」
拳を握り締める。
「ああ・・・・・・・!!」
御所車の車輪が浮く。
「・・・世話になったね、スズメ」
御所車に乗り込む際、リューヤがスズメに言った。
「思っても無い事言わなくていいわよお。料金は後払いで良いから」
ひらひらと手を振る。夜目に白く生える手だった。
「・・・・行くぞ・・・」
御所車の車輪が地面から離れ、車体が浮く。
紫雲と共に空を駆け抜ける。
「ゆるさねえぞ・・・・・・」
ザワザワと、リューヤの体から妖気が溢れ出す。
「護るって、決めたんだ・・・・・」
眼が、紅くなる。
「・・・・・誰・・よ、あんた・・・・っ!!!」
息が上がる。
体力を殺がれすぎた。
翠子の家の程近くに、寧子はいた。
「おんやあ・・・、忘れてしまうとはツレないですねぇ・・・。私ですよ、私」
黒と白の縞模様のコート。揃えた様な、同じ柄の帽子。真っ白な手袋の先に、柄も刃も真っ白な大きな斧。顔は、やつれた感じ。眼は、氷山の欠片のような、冷たい輝き。
対峙しているのは、そんな男。
「あんたみたいな気味悪い男に知り合いなんて居ないわ」
眼に入りそうになる汗をぬぐい、隣家の屋根の上に乗る。
「死出の山!!!!」
靴の先から無数の針を、男に向かって放つ。
「おお、怖い」
上空に飛ぶ。空と闇の境界線さえあやふやな、真っ黒な背景。
「へえ、制靴でもその機能はあるんですね。参考になりましたっと」
とん、と寧子の後ろに降り立つ。
「ふっ・・・・!!」
振り向きざまに一蹴。手応え無し。
「はい、残念」
寧子の肩の上に手が置かれる。
グン、と後ろに力をかけられ、屋根の上から落ちる。
「何をっ!」
くるん、と回転し、地面に降り立った瞬間、もう一度屋根の上にのぼる。
「はあああああああ!!」
靴の先から刃を出したまま、男の顔目掛けて蹴る。
「甘い」
その足を寸前で掴み、屋根の上に投げつける。
「けふっ・・・・!!」
うめき声を上げる。
「さあ・・・いつ会えるでしょうねえ・・・貴方のご主人に」
月は、まだ見えない。
如何でしたか。翠子の髪の毛が短くなったのにはこういう理由があったのでした。
次回から本格的なバトル突入。響きの出番はあるのか!
あと、シモンも活躍予定。
誤字・脱字・矛盾点・英語の間違い・感想などなど、首を長くしてお待ちしております!よろしくお願いします!