陰陽師とアヤカシ
はじめまして。スズメバチです。
和風妖怪ファンタジーを書いてみたくて、やっちゃいました。
至らぬ点も数え切れないほどありますが、読んでいただければ幸いです。
アヤカシ・・・【妖。闇に住まうもの。多く、人を喰らい、襲い、悪行をなすものを言う。】
陰陽師・・・・【占いや呪術を生業とするもの。悪しきものを退治するもの】
夜。闇が支配する世界。その夜の世界の住人、アヤカシ。
ネオンが瞬く繁華街の小さな路地裏、黒くうごめく影が、怪しげに徘徊する。女性が一人、その前を通り過ぎようとした。すると、すぐさまその黒い影が女性の手を捕まえ、路地裏に引っ張り込んだ。「きゃ・・・」小さく女性が声を上げた。黒い影はそのまま彼女に覆いかぶさり、大きな口を開けた。
ドス・・・・・
鈍い音が響く。黒い影のてっぺんに、一振りの刀が突き刺さっていた。黒い影がうめく。
「なん・・だ、てめえ・・・。その霊気・・・陰陽師か?だが、その気の中には、まるで、俺達の」
そこまで言うと、黒い影は真っ二つに割れた。女性は気を失っている。
「陰陽師じゃあ・・・ない」
先程の刀の使い手は、地面に降り立った。満月が、その頭上に輝いていた。
相反する二つのものが混ざったら、どうなんのかな。水と油が混ざったら、なんになんのかな。善と悪が混ざったら、どうなんのかな。
そんなことを考えながら、仙宮寺リューヤは学校へと急いでいた。赤みがかった茶髪が、耳の辺りにかかっている。
始業まであと5分。ぎりぎりか、もしくは・・・・
「遅刻だあっ!!」
羽衣学園中等部2年三組の教室の前に着いたリューヤは、後ろの扉をそっと開けた。
黒板の前には教師は居ない。
「よおし、セーフ・・・」
「ではないぞ」
という言葉が聞こえたと同時に、後ろから背中に強い衝撃が走った。
「ぎいやっひゃ!?」
軽く二、三回転して、リューヤは止まった。「ひ、雛川先生・・・」
「おはよう、仙宮寺君。新学年になって15日だ。そして君が遅刻した回数も15日だ。いいかね?」
雛川 霙教諭。おかっぱのような黒髪に、きつい眼をした2年三組担任の女性教師だ。先程の衝撃は、キックボクシングをたしなんでいる彼女の蹴りであり、威力はかなり強い。
「は、よく覚えておいでで・・・」
「まあ、一年生のころから君には世話になっているからなあ。毎日遅刻してくるし」
クラスメイトがくすくす笑う。リューヤは赤くなった。
「席に着け、仙宮寺。ホームルームだ」
はい・・・、と小声で呟き、椅子に座る。
「リューヤ君、また遅刻だね」
斜め前の神部翠子がぽそっと言う。長い黒髪をひとつくくりにしている彼女は、リューヤと小学校が同じだ。
「うるせえよ」
苦々しげにリューヤは答える。鞄を机の右側に掛け、頬杖をつく。
「でもリューヤ君て、小学校のときから遅刻魔だよね。そんなに朝弱いの?」
「・・・そーゆーわけじゃねえよ」
確かに、リューヤは朝が弱い訳ではない。むしろ、毎朝6時半にはきっちり目覚める、比較的寝起きの良い方だ。
「ただ、おれの・・・」
「そこ五月蝿い!」
雛川教師の怒号・・・ではなく、生徒名簿が飛んできた。
「げふっ!先生!訴えますよ?暴力反対!」
「大丈夫。人は滅多な事では死なん」
殺す気だったんかい、などといった言葉は、無視された。
「しっかしリューヤは強烈だよなあ。キャラが」
帰り道、方向が一緒である曽根崎一平が、リューヤに向かって感心したように言った。一平は、天然パーマの薄い茶髪、黄色いリュックを背負っている。
「はあ?」
リューヤは眉を寄せる。嬉しくない。
「遅刻は毎日。授業中は爆睡。一年生のときも同じクラスだったから、初めは驚いた」
「確かに、入学式にまで遅刻してくるからな」
と、一平の横にいる、黒縁めがねをかけた黒須太一が、含み笑いをしながら同意する。
「でも、何でそんなに遅刻するんだ?家の人、怒んねえの?」
一平が、リューヤの顔を覗き込む。リューヤはすこし、のけぞる。
「いや、むしろ家の人が・・・」
もごもごと口ごもり、リューヤは頭をかいた。
「へ?」
一平と太一が同時に声を上げる。
「なんでもねえっ!じゃあな!」
二股に分かれた別れ道を、ダッシュでリューヤは右方向に向かった。
羽衣町七丁目。そこにある大きな日本家屋が、リューヤの家だ。高い塀に囲まれていて、中の様子を窺い知る事は容易ではない。
「ただいま・・・」
「お帰りなさいませっ!若頭!」
門を開けると同時に、リューヤから見て左側から、大勢の声が鳴り渡る。
「やかましい。近所迷惑だろ・・・」
「お帰りなさいませっ!若旦那!」
すると今度は右側から、たくさんの声が響く。
「ああ!陰陽師のアホどもに若旦那の出迎え、さき越されちまった!」
「ハン!アヤカシの獣共が!お前らが若の出迎えをするなんて、無礼にも程があるわ!」
左右からお互いを罵倒する声が続く。リューヤはうんざりして、その間を縫って玄関に入ろうとした。
「あっ!若頭!今日は我らと夕飯をご一緒いたしませんか?ご馳走ですぞ!」
「何?若旦那!こんなアホどもと一緒に飯を食ったら、頭が悪くなりますぞ!ぜひ我らと一緒に!」
ぎゃいぎゃいと騒々しい言い争いが続く。リューヤはそれを止める為、大きな声で言った。
「じいじと母さんと一緒に食べる。お前らも、いい加減仲たがいはやめろ」
そう言うと、ぴしゃりと玄関のドアを閉め、家に入っていった。
「まあ、アヤカシと陰陽師は、決して相容れることのないモノ同士じゃからな」
沢庵を齧りながら、リューヤの祖父、白竜は言った。
「でも、私とお義父様のように、仲のいい陰陽師とアヤカシ同士もいますのに」
母、ゆかりはくすくす笑う。
「いい迷惑さ。あいつらのせいで、いつも学校遅刻しちゃうし・・・」
「まあ、あなたを大事に思ってのことですよ」
母が言う。リューヤにはそう思えなかった。
「リューヤ。日に一度は必ず言うほど、お前には心得ておかなければならぬことがある。」
ぱちん、と箸をおき、白竜は真剣なまなざしでリューヤを見た。
「お前は陰陽師とアヤカシの間に出来た子供!正反対のもの同士の血を受け継ぐものじゃ。陰陽師でもない、アヤカシでもない。お前はその壁を乗り越えなければならんぞ!」
リューヤは崩していた足を正座し戻し、拳を床につけていった。
「承知いたしました!」
こんな感じの話です。
次回は陰陽師とアヤカシ両家に突っ込んだ話を、と思っています。
あとリューヤが遅刻魔である理由も・・・。
誤字・脱字・感想お待ちしております。
よろしくお願いいたします。