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第四話 『危機一髪』

 「クポポポ……」


 奈々さんはどこへ行ったのか。

 ケンイチは、どうやって死んだのか。


 ――考えている余裕はなかった。


 俺はまず、もう片方のスライムの群れを押し潰していた岩へマジックガンを向ける。


 トリガーを引く。


 衝撃とともに岩が砕け散り、巨大スライムへの追加吸収を防いだ。


 そして視線を戻す。


 目の前にいるのは、二十五体分が融合した怪物。


 名前を付けるなら――


 ベタだが、キングスライム。


 それが一番しっくりきた。


 転送が起きない以上、このハントはまだ終わっていない。


 勝利条件は、おそらく変更された。


 ――キングスライムの撃破。


 「……動きは遅いな」


 体積が増えた分、移動速度は落ちているように見える。

 距離を取って撃ち続ければ、いずれ削り切れる可能性はある。


 だが――


 「……時間がない」


 ここに来てからどれくらい経っただろう。

 奈々は制限時間を「約一時間」と言っていた。


 体感では、すでに四十五分以上は経過している。


 虚ろな男は論外。戦力として数えられない。


 残るのは――


 「し……死ぬ……」

 「ほぉ……こりゃまた、でかいのぉ」


 JKは腰を抜かして震えている。

 老婆は、むしろ楽しそうに敵を観察していた。


 ……頼れる状況ではない。


 なら、やるしかない。


 「効いてくれよ……!」


 ドムッ!


 俺はスライムの外縁を狙って撃つ。


 中心部は分厚すぎる。

 仮に撃ち抜いても、残骸をすぐ吸収されると判断したからだ。


 しかし――


 「浅い……!」


 空いた穴は瞬時に塞がれる。

 キングスライムはわずかに体を震わせ、そのまま攻撃態勢に移行した。


 「クソッ! 一旦下がるぞ!」


 俺たちは走り出す。


 「クポ……ピュッ」


 スライムが体表を大きく裂くように開いた。

 そこから、濁った泥水がビームのように射出される。


 狙いは――俺。


 スーツの補助か、視界が妙にクリアだった。

 反射的に横へ転がり、攻撃を回避する。


 「どんな威力だよ……!」


 着弾地点には、地面を抉り取った巨大な穴が空いていた。

 まるで溶岩でも落ちたかのような焼け跡。

 じゅう、と煙が立ち昇っている。


 ……胃酸か。


 ケンイチは、これをまともに浴びたのかもしれない。


 数十メートルほど離れたところで、俺たちはようやく足を止めた。

 キングスライムは追ってこない。


 ときおり泥水を飛ばしてくるが、すでに射程外だった。


 「……どうする?」


 誰に言うでもなく呟く。


 「奈々ちゃん……やられちゃったのかな……」


 JKの声は、今にも消えそうだった。


 「それなんじゃがのぉ……一瞬だけ見えた気がするんじゃ」


 老婆が顎を撫でながら続ける。


 「スライムの中に、人影のようなものがあった気がしてな」


 「……本当ですか?」


 奈々が飲み込まれている可能性。


 否定できない。


 岩の上に立っていた奈々を、スライムがそのまま覆い尽くした。

 そう考えれば辻褄は合う。


 「……でも、どうやって助けるんですか」

 「あんなのに近づいたら即死じゃろ」

 「……倒すしか、ないですね」


 俺たちは顔を見合わせた。


 初心者三人。


 本来なら、奈々が前線に立つ相手。


 それを――俺たちだけで倒す。


 「……奈々ちゃん、生きてるのかな」


 誰も答えなかった。


 あの消化能力を見てしまった以上、希望的観測は危険すぎる。


 しばらく沈黙が続いた。


 やがて俺は、ゆっくり口を開いた。


 「……奈々さんのためにも、生き残ろう」


 それが、俺の出せる答えだった。


 俺は思考を巡らせる。


 どうすれば倒せる。


 接近戦は不可能。

 遠距離戦も安全とは言えない。


 だが――


 まだ隙はある。


 スライムは攻撃の際、必ず体を大きく開く。


 つまり――内部が露出する。


 「……それだ」


 「え?」

 「どうしたんじゃ?」


 俺は二人を見る。


 「スライムが泥水を撃つ瞬間、口を大きく開きます」


 「……うむ」


 「そこに三人で同時攻撃を叩き込む。内部から破壊できれば、半壊させられるかもしれない」


 JKと老婆は一瞬だけ目を見合わせ――


 頷いた。


 「なるほど……やるしかないね」

 「若いの、案外肝が据わっとるのう」


 成功する保証はない。


 だが、他に手段もない。


 俺たちは武器を構え直し――


 再び、キングスライムへ向かって走り出した。



──────────────────



 俺たちは、スライムを囲むように配置についた。


 三人で固まれば、泥水攻撃を回避できない。

 攻撃モーションに入った瞬間、正面の二人が射撃。

 残る一人が背後から撃ち抜き、貫通させる。


 それが作戦だった。


 「それ以外の攻撃はなるべく外縁を狙ってください!」


 指示を飛ばしながら、俺たちは撃ち続ける。

 エネルギー残量を確認しつつ、少しずつ体積を削っていく。


 ――その時。


 「……来るぞ!」


 スライムが大きく震えた。

 空気が抜けるような不快音とともに、体表が裂ける。


 泥水攻撃の予備動作。


 狙いは――老婆。


 「来たのぅ」


 老婆は一歩も退かず、マジックガンを構えた。


 俺は老婆の横へ駆け寄る。

 同時にJKは、大きく弧を描いて背後へ回った。


 誰が狙われた場合、誰が背後に回るか。

 それは事前に決めてあった。


 「しっかり狙ってくださいよ」

 「それはこっちの台詞じゃ」


 俺はトリガーに指をかける。


 スライムの口が、限界まで開く。


 「――今です!」


 銃声が三つ、重なる。


 撃った直後、俺と老婆は左右へ飛び退いた。


 直後――


 泥水が着弾する。


 地面が爆ぜ、酸の煙が上がる。


 「……しまった、ギリギリを狙いすぎたか」


 足元を見る。


 スーツの表面に、酸が付着していた。


 ダメージはない。

 しかし、防御層を示す発光は――赤へ変色している。


 「……だが」


 俺はスライムを見上げ、口角を上げた。


 三発の魔弾を内部に叩き込まれたスライムは、ぶくぶくと膨張し――


 次の瞬間。


 爆ぜた。


 巨大な体が、轟音とともに二つに裂ける。

 内部に溜め込んでいた泥が噴き上がり、雨のように降り注いだ。


 「おっと」


 落下する泥を避けながら、俺は分裂した塊の片方へ銃口を向ける。


 トリガーを引く。


 撃ち抜かれた塊は、粉々に爆散し――再生しなかった。


 ならば。


 「……あっちが本体か」


 残った方のスライム。

 大きさは、推定十体分ほど。


 弱々しく蠢いている。


 ――その中心に。


 人影が見えた。


 「奈々さん!?」


 泥が薄れ、姿が露わになる。


 バトルスーツは濃い赤色に発光し、奈々は意識を失っていた。


 「奈々さんが中にいます! スーツは赤――まだ生きてる!」


 即座に情報共有する。


 だが――


 俺は歯を食いしばった。


 スライムの胃酸だけで、ここまで耐久が削られるとは考えにくい。


 なら。


 原因は――


 俺たちの攻撃。


 泥に紛れた奈々さんへ、魔弾が直撃している可能性が高い。


 奈々は言っていた。


 マジックガンは、人を殺せると。


 「……三発撃てば、間違いなく死ぬ」


 思わず呟く。


 「若いの、次はどうするんじゃ!」

 「わ、わたし何すればいい!?」


 二人の声が重なる。


 俺は一瞬だけ目を閉じ――決断した。


 「これ以上の集中攻撃は危険です!」


 息を吸い込み、叫ぶ。


 「奈々さんは僕が助け出します」


 スライムが動き出した。

 狙いは――分裂した破片だ。


 「二人は死骸を吸収されないようにしてください!」


 「わ、わかった!」

 「はいよ」


 二人は俺の指示に従い、死骸を細かく撃ち砕いていく。


 スライムの死骸は、吸収されない限り外側から蒸発するように溶けていく。

 細かく砕けば、その分だけ消滅も早まる。


 それを確認し、俺は正面のスライムへマジックガンを向けた。


 泥が減ったことで体積は著しく縮小している。

 もはや奈々さんにまとわりつく鎧のような状態だった。


 この状況でマジックガンを撃てば――

 奈々さんのスーツ耐久値は消え、スライムに消化されてしまう。


 「外側から削るにしても……少しでもブレれば体に当たる」


 俺は歯を噛み締めた。


 奈々さんを傷つけず、助け出す方法。


 ――ひとつだけ、ある。


 危険を犯せば、安全に助け出せる方法が。

 矛盾しているが、それしか思いつかなかった。


 スライムは死骸の吸収を諦めたのか、こちらを向き、怒りを露わに体を震わせる。


 「キュピピピ……」


 体内が泡立つ。

 消化力を高めているのだろう。


 ――コイツを溶かしてもいいんだぞ。


 そう脅しているかのようだった。


 「できるもんなら……やってみろよッ!」


 俺はスライムへ向かって走り出した。


 勝算はある。


 マジックガンを構え、ロックオン。

 スライムも僅かに口を開き、攻撃態勢へ移る。


 「来た」


 ――狙い通り。


 「うぉおおおおッ!」


 泥水が射出される。


 俺はそれを正面から受けた。

 それでも止まらない。突っ込む。


 マジックガンを放り投げ、スライムが口を閉じる前に――


 露出した奈々さんの腕を掴む。


 そして、全力で引き上げた。


 「クポポッ……」


 スライムは予想外の反応に、奈々を内側へ引き戻そうとする。


 ――綱引きだ。


 俺はさらに力を込めた。


 「離せ……コノヤロォォォ!!」


 その瞬間。


 スーツが異音を立てた。


 縄が締め上げられるような感触と共に、全身の筋肉が強制的に収縮する。


 「な、なんだこれ……」


 だが痛みはない。


 むしろ――力が溢れてくる。


 奈々さんの体が、みるみる引きずり出されていく。


 だが、あと少し。


 スライムは最後の抵抗を見せ、決して離そうとしない。


 奈々が最後の防堤だと、理解しているのだろう。

 これを離したら死ぬと。


 賢い。


 「二人とも! 外縁を少し削ってください!」


 「おっけー!」

 「了解じゃ!」


 奈々さんの体が露出した今、外周には僅かな余裕が生まれている。

 そこを削れば、拘束は弱まるはずだ。


 「キュプッ」


 その時――


 スライムが突然、奈々さんを離した。


 俺は反動で、奈々さんごと大きく後ろへ倒れ込む。


 「抜けたッ!」


 安堵した、その瞬間。


 視界の端で――

 スライムが再び泥水をチャージしているのが見えた。


 死を悟った、悪あがきか。


 「まずい――」


 老婆とJKは俺の指示に従い外縁を攻撃してしまった。

 間に合わない......


 マジックガンにはクールタイムがあるからだ。

 連射は不可能。


 しかも俺は、銃を放り投げてしまっている。

 スーツの発光も、とっくに消えていた。


 絶体絶命。


 「……死ぬ」


 俺は覚悟し、目を閉じた。




 ――ドムッ。




 衝撃音。


 しかし、痛みは来ない。

 恐る恐る、目を開ける。


 目の前で、スライムが蒸気を上げながら溶け崩れていた。



 「まったく……そんなんじゃ、先が思いやられるわ」



 傍らに立つ奈々が、俺を見下ろしながら微笑む。


 「……ありがと。助かった」

ここまで読んで頂きありがとうございます。

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