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第一話 『モノリス』

 俺は、安室 玲。

 読みはアムロ レイ。

 不登校の高校生だ。


 いじめが原因で引きこもって、もう一年になる。


 外に出るのは、今日みたいに小腹が空いて、深夜にコンビニへ行く時くらいだ。


 ……まあ、それも最近は控えていた。


 ここ最近、この辺りはやけに物騒なのだ。


 交通事故。

 殺人事件。

 自殺。


 ニュースやスマホの地域速報に、嫌になるほど流れてくる。特に交通事故は異様なほど多かった。


 こんな俺でも、死ねば両親は悲しむだろう。


 穀潰しでも、引きこもりでも。

 それでも、あの二人はきっと泣く。


 ――親の泣き顔は、見たくない。


 だから、外出は控えていた。


 ……なのに。


「ついてないな」


 思わず独り言が漏れる。


 一週間ぶりに外に出たと思ったら、一ヶ月ぶりの大雨だ。


 深夜。豪雨。住宅街。


 人とすれ違う気配はまったくない。雨音だけが、世界を埋め尽くしている。


 街灯の光も、雨粒ににじんでぼやけて見えた。


 その時だった。


「……ん?」


 視界の先。道路の中央に、何かが倒れている。


 人影だった。


 少年か少女か。

 老人か子供か。


 雨に打たれて輪郭がぼやけ、よく分からない。ただ、人が倒れているということだけは分かった。


 一瞬、立ち止まる。


 関わらない方がいい。

 そんな考えが頭をよぎる。


 でも。


「……お、おい。大丈夫……か?」


 久しぶりに声を出したせいか、喉がひどく震えた。自分でも驚くほど弱々しい声だった。


 返事はない。


 倒れている人物は、ぴくりとも動かなかった。


「こんなとこで寝てたら……轢かれるぞ」


 俺は傘を放り投げ、駆け寄った。


 雨が一気に体を叩く。ジャージが瞬く間に重くなった。


「風邪も引くって……俺もだけどな」


 苦笑まじりに呟きながら、うつ伏せの体に手を伸ばす。


 その時だった。


 視界の端が、不自然に明るくなる。


 横から迫る、二つの白い光。


 最初は、街灯が反射しただけだと思った。


 違った。


 それはヘッドライトだった。


 しかも、異様な速さでこちらへ向かってくる。


 反射的に顔を上げる。


 巨大なトラックが、雨煙を引き裂きながら突っ込んできていた。


「……っ!」


 声は出なかった。


 逃げる、という発想すら浮かばない。


 ただ、時間だけがゆっくりになった気がした。


 手に触れていた、倒れている誰かの体温だけがやけに現実的で。


 次の瞬間。


 世界が、衝撃に塗りつぶされた



──────────────────



 目が覚めると、視界いっぱいに光が広がっていた。


 眩しさに目を細めながら、ゆっくりと上体を起こす。


「……あ、れ。俺……生きてる?」


 確か、暴走トラックに――。


 そこまで思い出して、背筋がぞっとする。


 あれに轢かれて、無事なわけがない。普通なら即死か、よくて重傷だ。


 なのに。


 体を見下ろしても、血はない。痛みもない。どこにも傷が見当たらなかった。


「救急車……呼ばれたのか?」


 そう思って辺りを見渡し、すぐに否定する。


 ここは病院じゃない。


 壁も、天井も、機械音もない。ただ、どこまでも続いていそうな白。


 白。白。白。


 何もない空間に、俺は一人立っていた。


 天国、と言われたら。

 正直、それで納得してしまいそうな光景だった。


 現に、俺の中では――ここは暫定天国だ。


「夢……にしては、やけに意識がはっきりしてるけど……ん?」


 その時、白の中にぽつんと立つ“違和感”に気づいた。


 近づいてみる。


 歩き出してから気づいたが、俺は――真っ裸だった。


「……は?」


 慌てて下を見る。


 何も履いてない。何も着てない。


 足の裏に伝わる感触は、冷たくて硬い。大理石みたいだ。


 視線を戻す。


 違和感の正体は、黒い柱だった。


 腰ほどの高さの、四角い石碑のような形。上面はパネルになっているのか、文字が淡く光って浮かび上がっている。


 ――『待機中……』


「なんだよ、これ……」


 どこかで見たことがある気がする。


 確か、海外で有名な……正体不明のオブジェクト。


「――『モノリス』よ」


「うわぁっ!?」


 突然背後から声をかけられ、思わず飛び上がった。


 振り返ると、そこにいたのは一人の少女だった。


 白い髪。

 年は、俺と同じか、少し下くらい。


 反射的に股間を隠す。


「き、君は……!」


「私は白江奈々。あなた、初めてよね?」


 やけに落ち着いた口調だった。


 よく見ると、彼女は全身を黒いスーツで覆っている。機械的で、体にぴったり張り付くようなデザイン。


 ――ここの住人。


 そんな言葉が頭に浮かぶ。


 少なくとも、素っ裸の俺とは明らかに立場が違う。


「ここに来たってことは、あなたも死んだのね」


「……はい。あの、やっぱりここって、天国……的な場所なんですか?」


「ここは地獄よ」


「……え?」


 あまりに即答すぎて、理解が追いつかない。


 地獄。


 つまり、俺は死んでいて。

 しかも、行き先は天国じゃなかったということか。


 ……まあ、両親に迷惑ばかりかけてきた身だ。


 そう言われたら、妙に納得してしまう自分もいる。


 しかし、だとしたら彼女はここで何をしているのだろうか。

 白髪だし、死神なのだろうか。

 三途の川を渡らされたりするのだろうか。


「あの……あなたは一体?」


「そうね。君の先輩、ってところかしら。すぐに分かるわ」


 何一つ分からない。


 でも、妙に説得力のある言い方だった。


 その時だ。


「ほら。あなた以外にも、来たわよ。前回は、ほとんど消えちゃったから」


「消え……?」


 聞き返す間もなく、周囲に気配が増える。


 いつの間にか、モノリスを中心に人が集まり始めていた。


 男、女、老人、若者。


 全員、例外なく素っ裸だ。


 平然とする者や、恥じらって距離をとる者など。

 適当にかき集めたような人選だ。


「な、なんだここ……」


「じいさんに会えると思ったんじゃがのぉ……」


「マジで無理、恥ずかしすぎなんですけど……」


 困惑、動揺、混乱。


 それぞれが好き勝手に声を上げる中、白髪の少女――奈々が静かに言った。


「……そろそろよ」


 その言葉に呼応するように、モノリスが低い起動音を鳴らす。


 画面が切り替わった。


 ――『あなたには、命を賭けてもらいます』


「……は?」


 一瞬の静寂。


 次の瞬間、空間がざわめきに包まれた。


「命って……ドッキリかよ!」

「え、私まだ死んでないってこと?」

「また死ななきゃいけねぇのかよ……!?」


 騒ぎをよそに、画面は淡々と切り替わる。


 ――『今回戦ってもらうターゲットは、コイツです』


 表示されたのは、どこかで見たことのある存在だった。


 丸くて、水色で。


 ――スライム。


 ――『ターゲット:スライム 1pt』

 ――『場所:平原』

 ――『戦いに備えてください』


 画面が暗転し、数字が浮かび上がる。


 【準備時間:15:00】


「みんな、落ち着いて。私の話を聞いて」


 奈々が、モノリスの前に立ち、両手を上げた。


 その声は不思議と、よく通った。

最後までご愛読ありがとうございます!

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