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第2話

草原は思っていたよりも穏やかだった。


街の城壁はまだ視界にあるが、すでにある程度歩いてきたようだ。

風に揺れる草の間を、細い獣道がいくつも走っていた。

真木の少し前をエクスが歩いている。


「この辺りね。……ほら、なんか静かでしょ?」


そう言って足を止めるが、それ以上の説明はない。

危険な気配も、特別な演出もなかった。


「ここを見回ることがクエストなんだよな……?」


エクスの言葉の意図がつかめず、辺りを見回す。

危険な気配はない。

少なくとも、今のところは。


腰には初期装備の剣が下がっている。

抜けばいいのか、構えればいいのか、それすら分からない。


「戦闘ってどうやればいいんだろう」


独り言が、風に溶けた。


草が揺れる音がして、少し離れた場所から何かが姿を現した。


犬に似た、小型の魔物。

牙はあるが、威圧感は薄い。


「あれ、か」


こちらに気づいた様子だが、飛びかかってはこない。

一定の距離を保ったまま、こちらの様子を窺っている。


(近づいて……いいのか?)


この世界をゲームとして認識しているからだろうか。

現実なら迷わず逃げていたはずだが、一歩踏み出す。


魔物は逃げない。

さらに一歩。

すると、魔物の方からほんの少し距離を詰めてきた。


「……え?」


攻撃される可能性があるため剣を抜く。

構え方は分からないが、とりあえず振るしかない。


腕を振った。

剣は軽く、思ったよりも考えた通りに素直に動いた。

確かな手応え。


魔物は苦痛の声を発しながら弾かれたように後ずさる。

だが反撃はない。牙を剥き、こちらに噛み付いてこようとするものの掠りもしない。


(思ったより分かりやすい?)


もう一度同じように剣を振る。

今度は魔物がその場に崩れ落ちた。

光の粒子となって、静かに消えていく。


――消える直前、魔物の口元がわずかに歪んだように見えた。


「もしかして笑った?」


そう思った瞬間には、もう何も残っていない。


(気のせいか)


剣を下ろし、息を吐く。

怖さよりも、妙な納得感が残っていた。


「こういう感じなんだな」


少し離れた場所で、エクスがじっと様子を見ていた。

心配しているというより、タイミングを測っているような視線だった。


「あ、意外と動けるじゃん。これなら討伐クエストでもよかったかも?」


ちょっとこちらを揶揄うようにエクスは笑っていた。


少し離れた場所に、同じ種類の魔物がいる。

近づくと、やはり逃げない。


同じ手順。

同じ結果。


三体目も、四体目も、大きな違いはなかった。


「戦闘、意外と分かりやすいな」


難しいというより、引っかかるところがない。

初めて触るゲームとしては、ちょうどいい。


剣を納め、周囲を見渡す。


少し離れた場所で、別のプレイヤーたちがこちらを見ている気配を感じた。

視線が合うと、すぐに逸らされる。

何か言いかけて、やめたような空気。


(……気のせいか)


戦闘が終了したためか、エクスが近寄ってくる。


「突然の戦闘だったけどどうだった?本当に見回るだけのつもりだったんだよ?」

「思ったより、危なくなかったです」


嘘ではなかった。

エクスは、ほんの一瞬だけ真木を見てから、頷く。


「そう。それならよかった!」


戦闘について、それ以上は聞いてこない。

説明も、忠告もない。


「じゃあ、次はこっちね」


迷いのない動きで歩き出す。


(一緒に歩いてると、不思議と迷わない)


真木はそう思いながら、後についていった。

世界は相変わらずよく出来ている。

それだけだった。



その日の夜。


街の掲示板には、短いスレッドが立っていた。


1 :名無しの冒険者:

このゲーム最初の一体目きつくね?


2 :名無しの冒険者:

きつい

普通に死んだ


3 :名無しの冒険者:

初狩り多すぎ


4 :名無しの冒険者:

草原でなんか変なの見たんだが


5 :名無しの冒険者:

>>4

またか


6 :名無しの冒険者:

初心者装備のやつ

被弾してなかった


7 :名無しの冒険者:

は?


8 :名無しの冒険者:

魔物が寄っていってた

順番待ちみたいに


9 :名無しの冒険者:

意味わからん


10 :名無しの冒険者:

2周目勢とか?


11 :名無しの冒険者:

そんなの公式にあるわけねーだろ


12 :名無しの冒険者:

βテスター説


13 :名無しの冒険者:

動画勢じゃね?


14 :名無しの冒険者:

知らん

気のせいだろ


15 :名無しの冒険者:

まあこのゲーム作り込み異常で全容もまだわからないし考察班があるくらいだしな


スレッドは、それ以上伸びることなく、流れていった。

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