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91 出会い


森の中を歩く。

葉の重なりが厚すぎて、昼間のはずなのに地面はずっと薄暗い。上を見上げても、空はほとんど見えない。


「またあの泥だらけのとこ通るのかなぁ」


リナがげんなりした声を出す。


「……できれば避けたい」


「本気で嫌なんだけど。絶対、靴買ってよね」


「分かった分かった。戻ったら買う」


精霊に示された方向へ進む。

木の幹に苔が張りつき、足元は湿っている。枝葉が光を吸って、森の奥ほど暗い。


なるべくまっすぐ。

ただ、道らしい道はない。木と木の隙間、藪の薄いところ、踏んでも沈まない地面。

それらを選びながら進むしかない。


歩きながら、ふと気になって口にした。


「そういえば、リナはノクスから……十分教わったか?」


「いやー、まだまだだねぇ。流石に奥が深いよ」


「そっか」


「でもまぁ、来てよかったかな」


「うん。観光とかできる場所はなかったけど」


「確かにね。でも、あの樹の上の家はすごかった」


「すごかったねぇ。教えてもらったこと、ちゃんと出来るようになってからまた行きたいねぇ」


「そうしよう」


雑談をしているうちに、ふっと空気が変わった。

境界を越えた、あの感覚だ。


リナの髪が、ふわっと浮く。俺の髪も、なんだか軽い。


「ユウト、髪なんかふわっとしてるよ」


リナがからかうように笑って、手を伸ばしてくる。


バチッ。


音と一緒に、指先に痛みが走った。


「いったぁ!」


反射で声が出た。予期しない痛みは反則だ。


「静電気だ。触るな」


「えー……」


文句を言いながらも、リナは目を輝かせる。嫌な予感がする。


「ね、もう一回」


「やめろ」


「だいじょぶだいじょぶ」


また伸びてくる手。


バチッ。


「いったぁ!」


「えへへ。結構クセになるよねぇ」


「1人でやっててくれ」


「1人だと出来ないじゃん」



リナが静電気にすっかりハマっている。餌食は俺だけだ。


「ほら見て、光った!」


薄暗い森だから、バチッと弾ける小さな光がよく見える。


「痛っ。もうやめろって……!」


うんざりしながら進もうとしたとき、視界の端に何かが映った。


(ん?)


木の影。枝の影。

その奥に手のひらサイズの竜みたいなものがいる。

小さくて、つるりとしていて、輪郭が淡く光っている。


じっとこちらを伺っている。


(……かわいいな)


俺が立ち止まると、それは少しだけ身を乗り出した。

逃げない。けど近づきすぎない。距離を測っているみたいな動きだ。


「何かいるの?」


リナが首を傾げる。


「ああ。小さな……ドラゴンみたいなのがいる」


「ええっ、いいなぁ! 見たい見たい!」


リナはきょろきょろ周囲を見回す。でも当然、見えていない。


小さな竜は、ゆっくり近づいてきた。

そしてなぜかリナの足元で、すりすりと体を擦りつける。


(……リナに寄るのかよ)


「……リナの足元で、すりすりしてる」


「えー! ずるい! 見たい!」


せっかくなら見せてやりたい。

俺の中で、フィルシアに教わったことを思い出した。

同調でフィルシアの領域内のものが見えた。

同じようにできるかもしれない。


「ちょっと動かないで」


「うん!」


リナは素直に止まった。


俺はリナの背中に、そっと手を置く。

肩甲骨のあたり。触れた瞬間、リナがぴくりと反応する。


「なに」


「今だけ我慢」


自分の領域を薄く張る。

それからリナの魔力を感じる。


透明感のある白い感触。リナ本人を表しているかのようだ。


リナと同一の存在になるように。溶け込んでいくように。


まだ完全には無理だ。けど、近づける。


「……リナ、見えるか?」


リナが目を見開いた。


「あっ……! 見えるっ!」


声が弾む。


「かわいーっ!」


リナがしゃがみ込む。小さな竜は驚いた様子もなく、尻尾みたいな部分を揺らしている。


俺が手を差し出すと、小さな竜は軽やかに乗ってきた。

重さはほとんどない。温かい……というより、ぬるい電気みたいな感触だ。


「ちゃんと見えてるか?」


「ちょっとぼんやりしてるけど、ちゃんと見えるよ」


なるほど。

俺には輪郭も細部もはっきり見える。

同調が完全ではない分、リナには焦点が合いきらない感じなんだろう。


「えへへ……」


リナが頬を寄せる。


「よちよち、かわいいでちゅねぇ」


赤ちゃん言葉だ。

やめろと言いたいが、リナが幸せそうすぎて言いづらい。


小さな竜も、まんざらでもないのか。

くるくると小さく鳴いて、されるがままになっている。


その場でずっと続けている

……長い。


リナはずっと撫でたり頬ずりしたりしている。


「なぁ、そろそろ行かないか?」


俺が声をかけると、リナは不満そうに口を尖らせた。


「えー、もうちょい……」


「俺がそろそろ限界かも」


「……限界?」


「今、見えてるのは俺がやってるから」


「……そっか」


リナは渋々、小さな竜を手のひらから離した。

竜はふわりと宙に浮いて、少しだけ俺たちの周りを回る。そして木の影へ戻っていった。


リナが名残惜しそうに見送る。


「いなくなっちゃった……」


俺は手を離し、領域をほどく。

同調を抜いた瞬間、リナがぱちぱちと瞬きをした。


「……あ、もう見えない」


「今の俺じゃ、長くは持たない」


「ふーん……じゃあ次はもっと長く、もっとはっきり見せてね」


「……できるようにする」


リナがにやりと笑う。


「約束ね。靴もね」


「分かったよ」


静電気のぴりぴりした感じはまだ残っている。

でもさっきより、少しだけ楽になった気がする。


俺たちは、精霊に示された方向へ、また歩き出した。



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