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80 光



魔力の濃度が高い。そう感じるのに、見た目は普通の森だった。


木々はそれまでの道のりと変化はない。

幹は湿っていて、葉は重なり合い、昼のはずなのに薄暗い。

それだけなら、昨日からずっと同じだ。


でも、この空間は違う。


空気が重い。肌に見えない膜が張り付いたみたいだ。

嫌な圧じゃない。……ただ、濃密だ。


「慎重に行こう」


俺が言うと、リナは短く頷いた。


「うん」


二人で歩き出す。


葉に触れてみる。ざらついた感触。冷たい水気。

幹に掌を当てても、変な熱も痛みもない。普通だ。


「……見た目は、ほんと普通だな」


「見た目はね」


何が起きてもいいように気を張って歩く。

その分だけ進む速度が落ちる。



太陽が見えない。空が見えない。

木々のせいで昼でも暗いのに、暗さが一定だから今が何時かが掴めない。


ぬかるみの湿地帯を抜けてから、かなり歩いた気がする。

でも、どれくらいかは分からない。

疲れと同じだけ、感覚が削られていく。


その時だった。


「うん?」


また、境界を抜ける感覚があった。

皮膚の表面を、すっと撫でられるような。

一歩踏み込んだだけで、空気が変わる。


魔力濃度は相変わらず高い。

なのに、さっきまでとは質が違う。


刺さるような圧が消えて、代わりに、ぬるい湯気みたいな柔らかさが混じる。


俺は足を止めた。


「……なぁ、なんなんだろうな、この感覚」


リナも立ち止まって、首を傾げる。


「さぁ」

「でも、悪い感じじゃないよね」


「そうなんだよな」


魔力の濃度が高まってからしばらくして変化があるのに気づいていた。


……生き物の気配がない。


ぬかるんだ湿地帯までは、鳥の鳴き声もあったし、枝が擦れる音もあった。

今は、それが無い。


「ねえ、ここ……静かすぎない?」

当然リナも気が付いている


「……静かだ」


静かすぎて、逆に鼓動が耳につく。


「ちょっと寝るか」


俺が言うと、リナが目を丸くした。


「もう寝るの?」


「ああ、いや」

「そろそろ寝る時間なのかと思って」


リナは口を尖らせて、すぐに笑った。


「確かに、分かんないよねぇ」

「太陽の昇る方角も、時間も」


「そうなんだよなぁ……」


言いながら、認めたくない現状が頭に浮かぶ。


現状を一言で言えば、ずっと遭難してる


口に出すと本当に遭難者になる気がして、言葉は口にしないようにする。


食糧は携行食を多めに持ってきている。

それでも、減っていくのは事実だ。


現地調達を考えたが、この空間には生き物の気配がない。

携行食として持ってきた香味がついた干し肉を日替わりで食べる。


リナが干し肉を噛みながら呟く。


「ねー、あとどれくらいかかるのかね」


「うーん……どうだろうな

 ギルドでも、情報はなかったし」


「だよねぇ」


簡易テントを張って、体を休めることにした。

寝床を作って潜り込むと、外の静けさが余計に際立つ。


リナに先に見張りをしてもらい、先に横になる。


(……寝れるときに寝る)


そう決めて、目を閉じた。


どれくらい眠ったか分からない。


ふと、外が明るい気がして目が覚めた。


横を見るとテントの外側でゆらゆらと光が漂っていたが、


目を擦ると光が消えた。まだ寝ぼけているのだろうか。


体を伸ばしてリナと見張りを交代する。


リナが寝始めると

テントの周りに再び光が漂う


青、緑、薄い金。

光の粒が、宙を泳ぐみたいに回っている。

風に流されているようで、流されていない。


「……なんだ、これ」


俺はゆっくりと手を差し出した。


一つが、ふわりと近づいて手のひらに止まった。


熱いわけじゃない。

でも、ほんのり暖かい。

春先の陽だまりみたいな温度が、皮膚に残る。


次の瞬間、その光はまたふわりと離れていった。

ゆらゆらと揺れて、仲間の光に混ざる。


嫌な感じはしない。


しばらくするふわふわと漂っていると光は消えた。




リナも目を覚ますと簡易テントから這い出てくる。


軽くストレッチをして、荷物をまとめると進み始めた。


歩いていると、また境界を二つほど通り過ぎた。

どちらも、あの包まれる感覚がある。

ただ、質は少しずつ違う。肌触りが別物だ。


二つ目の境界を抜けたあたりで、空気が少しだけ軽くなった。


その先に、水場があった。


木々の根元、岩の割れ目から、水が湧き出ている。

細い流れが、苔の上を滑って落ちていく。


「……水!」


リナが駆け寄る。


俺は手で掬って口に含んだ。

冷たい。痛いくらい冷たい。


「うま……生き返る……」


リナも手で掬って飲んで、目を見開いた。


「つめたっ!最高!」


たっぷり飲んで、水筒の水を入れ替える。

空っぽに近かった水筒が満タンになって、荷物がずっしり重くなった。


「……重い」


リナが肩を揺らす。


「重いけど鍛えられそうだね」


「いつでもポジティブで羨ましい」


俺は水筒の口をしっかり締めた。


「……よし。行くぞ」


リナが頷く。


「いこいこー」


声が少し弾んでいる。


静かな森の中で、それだけがやけに明るく響いた。



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